「ごめんね明日香ちゃん、ビックリさせちゃって・・・」
「いいよ気にしなくて。それよりありがとう。御台場でもこんな風に祝ってくれる人いなくて」
寮の部屋に戻ってからの会話。
「そうなの?」
「御台場って実力優先主義っていうか・・・そこまで気が回る人いなくてさ・・・だから本当にうれしかった」
たまたま私の周りにそういうリリィがいなかっただけかもしれないが。でも本音だ。
「そっか・・・あ。そうだ!」
「え、なに?」」
「はいこれ。私からのプレゼントだよ」
「・・・」
私は黙り込んでしまう。
「どしたの?受け取らないの?」
「あ、いや。ごめん・・・ちょっと思考が・・・ありがとう円ちゃん」
と言って受け取った。
「開けてみて?」
包みを開けると、そこには少々不格好ながらもカエルの置き物が入っていた。そういえば、昨日もだが、ここ1週間ばかり天上の間に行っても、早上がりして『用事があるから・・・』と足早に出て行っていたが、もしかして・・・。
「あのね・・・今までいろいろと教えてもらってばっかりで、私にも何かできないかなぁって思ってて・・・そういえばもうすぐ誕生日だって思って・・・そうさく倶楽部の汐里さんのとこで作ってたんだ。こういうの初めて作ったからちょっと不格好だけど・・・」
六角汐里───
「これ作ってくれたの?すごい!ありがとう!」
もらった置き物を早速自分の机の上に置き、円ちゃんのほうを向こうとしたときだ。
「ちょっと・・・!?」
突然円ちゃんが背中に抱きついてきた。
「ありがとう、はこっちのセリフだよ・・・」
「え・・・何言って・・・」
円ちゃんの力がさらに入る。
「ホントはね・・・京夏様に誕生日のこと教えたの・・・私なんだ・・・」
やっぱり・・・。
「けど・・・ペンダントの話はホントだよ?」
「どうしたの急に?」
「私・・・百合ヶ丘に入る前はね・・・すっごい優柔不断だったの・・・だからここに入るときも自分から入ろう!ってきめたわけじゃなくて・・・友達から面白半分に勧められたのが断れなくて・・・」
確かに百合ヶ丘の高等部一般セレクションは誰でも受験できる門徒とはなっているが、リリィのリの字も知らなかった円ちゃんがどうしてここに?と疑問には思ってはいたが、そういうことだったのか・・・。
「周りはみんなすごい人達ばかりで、怖い人達ばっかりだったらどうしよう?とか、仲良くなれなかったらどうしよう?とかそんなことばっかり考えてた・・・だから・・・入学式のときに明日香ちゃんに会ってなかったら私・・・リリィにならずにやめてたかも・・・」
え、そこまで?
「今ここにいるのは明日香ちゃんのおかげ・・・だからお礼を言うのは私のほうだよ・・・」
「そんな・・・大げさだって・・・」
「大げさなんかじゃない!」
「・・・」
「だから・・・私にとって明日香ちゃん・・・はリリィの師匠でもあるんだよ?」
「円・・・」
気が付いたらちゃん付けではなく、呼び捨てにしていた。
「うれしいけど・・・師匠はやめて・・・」
「えー、なんで?」
「なんでも。だってそんなガラじゃないし・・・」
「あ、そうだ。聞きたいことがあったんだった!今日の講義で分からないことがあってさー・・・」
「え、どこ?」
「今日こそノインヴェルト戦術の訓練をしましょうか」
やってきたのは百合ヶ丘から少し離れた山深いところだ。
少し高めの岩肌に左右囲まれている、所謂切通しと呼ばれるところだ。
「へぇ・・・こんなところあるんですね」
「人が行き交うために山だったり丘だったりを切り開いて通れるようにしたところよ。今でこそトンネルとか簡単に作れるけど、昔はそんなことできなかったからね」
とは京夏お姉様。
「え、でも・・・こんな狭いところでパス回しの練習になるんでしょうか・・・?」
「ここだからいいのよ。一昨日はいきなりやってみようと思ったけど、それどころじゃなくなっちゃったしね」
あー・・・確かに。
「それに、いきなり長距離のパスで連携取れるとは思わないわ。だからここにしたの」
「なるほど・・・確かにここなら撃ち漏らすこともなさそうですね。けど、外したときがちょっと・・・」
外した際に切り通しが崩れてくるというリスクはある。
「大丈夫。そのときはみどりちゃん頼るから」
「え?あたし?」
「あんたしか縮地使えないでしょうに・・・それに、私と京夏お姉様のゼノンパラドキサは縮地とこの世の
そう。一昨日京夏お姉様に助けてもらえたのは同じレアスキル────ゼノンパラドキサ持ちだからなのだが、反応速度はお姉様のほうが上だ。もしかして・・・とは思うけど、実はSランク?
「だからそのときはお願いねみどり」
「えー・・・めんどくさい」
「めんどくさい、じゃあありませんわみどりさん。下手をすれば訓練どころではなくなりますわ」
「・・・そうだよみどり。もし外れて・・・切通しが崩れて・・・誰かが生き埋めになったら・・・どうするの?」
「う・・・それは、そうなんだけどさ・・・」
「何?他に文句あるの?」
「わかったよ!やればいいんだろやれば!」
「素直じゃないなぁみどりちゃん」
といつもの琴乃様。
「フィニッシュショットは・・・明日香、お願いね」
「え・・・私?」
もっと適任がいると思うけど・・・。
「それはそうですよ。だってあれだけ正確に撃てるなら」
咲良ちゃんそれは・・・。
「いや、円だと思うな。ここは然るべきレアスキルを持ったリリィが・・・」
京夏お姉様がどうパス回しのプランを考えてるか分からないが、私に撃て、ということはヒュージにより近い位置で叩き込め、ということだ。同じ
「始めるわよ。準備して」
結局まとまらないまま始めるらしい。フィニッシュショットは私か・・・。
各自CHARMを構える。
「一昨日も話したけど訓練弾とはいえかなりマギを消費するわ。気をつけて」
「はい!」
「まずは・・・咲良ちゃん!」
訓練弾を装填し、50mも離れてない咲良ちゃんに向かって、
バンッ!
訓練弾独特の乾いた音。ノインヴェルトのときはそれに別な音が加わる。
「は、はいっ!」
咲良ちゃんのCHARM───ナグルファール───のブレードに弾が当たる。
「お、重い・・・」
咲良ちゃんも中等部時代にノインヴェルトはやっているはずだが、重いと感じるってことは、そのときよりも京夏お姉様のマギの威力があるということだ。
で、京夏お姉様は赤みがかった青いマギか・・・マギの色はリリィによって違いが出てくる。
「えっと・・・誰にパスすれば・・・」
「パス回しはヒュージを撹乱させる目的も兼ねているわ。中等部でも習ったでしょ?」
「はい・・・じゃあ・・・琴乃様!」
シュバッ!
咲良ちゃん上手い!
ブレードからブレードへ。琴乃様のフリングホルニにマギスフィア(訓練弾)が渡る。琴乃様は黄色っぽい青か。
「咲良ちゃん上手ね。何かスポーツとかやってたの?」
「まさか!一部のリリィはスポーツやりながらの子もいましたけど・・・私・・・そんな器用じゃ・・・」
「そう。じゃあ・・・灯音ちゃん!」
シュバッ!
長身のCHARMを振り灯音様に回す。
「・・・受け取ったよ」
相変わらずカワイイものがあるとき以外は淡々と喋る灯音様である。灯音様のCHARM───ブリューナクはケルティックデール製だが、ユグドラシルのグングニルの後継とも言われ、百合ヶ丘ではグングニルの次に使用者の多いCHARMだ。灯音様のマギは真っ赤らしい。
「次・・・エリザベスさん」
「おまかせあれ」
シュバッ!
やはり回し慣れているのか、灯音様も琴乃様もうまい、パス回しのルートも的確だ。
グンッ!
「訓練とはいえ、実戦模擬弾のマギスフィアは重いですわ・・・」
ベスも実戦経験は豊富のはずで、そのベスが珍しく文句(?)を言っている。グランギニョルのCHARMはブレードの機能性もだが、デザインにかなり拘りがある。ゆえにLGメンバー中ブラダマンテ持ちのベスが一番目立つのだが・・・。にしてもベスのマギの色が濃いピンクとは。笑ってはいけないのだが、吹き出しそうになる。
「次っ!円さんにパスですわ!」
シュバッ!
「ああっ!」
ベスの放ったマギスフィアが関係ない方向へ飛んでいく。まずい。このままでは切通しに当たる・・・のか?
「べス・・・もしかして、ノーコン?」
「なっ!?し、失礼なっ!今のはたまたまですわ」
「よっと・・・」
グンッ!
みどりナイス!マギスフィアが壁に当たる寸前のところでうまく受け取った。
「うわっ・・・重っ!こんななの?」
「そうだよ。実際のはもっと重いからね」
「え・・・マジか・・・」
と文句ばかりのみどりだが、運動神経はバツグンなので、そこは問題ない。そこに縮地持ちとあればなおのことだ。
「みどりは特に問題なさそうね」
とは京夏お姉様。
「やったあ!」
マギの色は非常に分かりやすい。
「じゃ・・・円、パース!」
見よう見真似にしてはコツを掴んでいるようで、キレイに回してる。
シュバッ!
「えっと・・・」
「ブレードを起こして盾にするように受け取って!」
「は、はい!」
グンッ!
「ひゃあ!」
受け取ったものの、一瞬よろける円。LG今後の課題が見えてきたかもしれない。京夏お姉様も同じことを思っているはず。
「大丈夫?」
「な、なんとか・・・これが・・・マギスフィア・・・」
「さっきも言ったけど実際はもっと重いわ。倍以上あると思って」
倍以上、か。フィニッシュショットで受ける(訓練弾の)マギスフィアはフンフヴェルト相当、ということ。そして円のマギの色は黄色らしい。
「えっと・・・パスってどうやれば・・・」
「ボールとかを打つ要領と同じ。集中しながらマギをコントロールすれば行けるわ」
「わかりました。えっと・・・」
シュバッ!
「あ。できた!初花様おねがいします!」
「わかったわ」
グンッ!
「っつ・・・確かに訓練弾にしてはちょっと重いわね・・・」
初花様のCHARM───グルヴェイグ───は私のタングズニルの原型とも言えるCHARMだ。グングニルの取り回しの良さと同じユグドラシルのヒルドルのシューティングモードの良さをあわせたようなCHARMだ。だが、欠点もある。モード切替に時間がかかること。そのため一部のリリィに愛用者はいるが、数はそれほど多くない。初花様のマギの色は薄い紫だ。
「明日香!最後、頼んだわ!」
シュバッ!
「はい!初花様!京夏お姉様!最後はどこに?」
「そうね・・・切通し正面が小高い丘みたいになってるから、そこ狙って!」
「わかりました!」
グンッ!
「くっ・・・」
ブレードで受け止める。確かに重い・・・。けど、この程度ならまだ余裕で受けられる。
これが実戦なら、ヒュージの攻撃を避けつつ・・・になるわけだが、予備隊時代にフンフヴェルトで慣れているとはいえ、不安しかない。
ガチャン!
シューティングモードに切り替える。
ノインヴェルトのフィニッシュショットの場合、マギスフィアは変形時に装填されるため、特に何かする必要はない。そして───
「行きます!」
照準を睨む。狙いは・・・切通し先にある丘の上にある木の根本!
スガン!
「うっ・・・!」
手の衝撃が重い。
「さすが明日香ちゃんすごーい!」
確かに正確には撃てている。この後円とみどりは驚くことになると思うが。
ドーン!!
「うっ・・・」
衝撃がすさまじい。吹き飛ばされるのではというぐらいの勢い。つい手とCHARMで覆いたくなってしまう。
ようやくノインヴェルトの衝撃が収まり、狙った先を見に行くことになるが、
「うわあ・・・」
「すごい・・・」
直径200mほどが衝撃でぽっかり丸く穴となり、もちろん元あった丘は跡形もなく消えている。
「これでも訓練弾だからね。実弾で使うとしたらラージ級以上のヒュージになるけど・・・その前にいろいろ課題が見えてきたわね」
「まずはエリザベスさん。一応・・・念の為に聞くけど本当にたまたまなのね?」
「う・・・」
言葉に詰まるベス。
「も、申し訳ありません京夏様・・・実はわたくし・・・こと球技に関しては苦手でして・・・」
「じー・・・」
「な、何か文句でも?」
「あったりまえでしょ・・・たまたま・・とか言っといて実際ホントにダメとか・・・っていうかリリィにとって致命傷・・・」
「聞こえない・・・なーんにも聞こえない・・・わたくしはなにも・・・・聞いてもいませんわ・・・」
しゃがみ込んでぶつぶつと耳を塞ぎながら呟くベス。
「聞こえない、じゃないでしょ?まずはその球技の運動音痴を直すことからね」
「はい・・・ですわ・・・」
これは相当効いたな・・・ベスにも弱点があったとは。
「後は・・・円ちゃんね」
「あ。はい・・・」
円は冷静に自分を見ているようで、
「私は・・・体力・・・ですよね。割と普通だと思ってたんですけど・・・」
「体力・・・というかコツ、かな」
「コツ?」
「そう。手合わせでCHARMを受け流すのと同じように、マギスフィアも受け流すように受け取ればある程度は衝撃を抑えられるわ。これは1年生みんなにも言えることだけど、受け取る時にブレードを抑え込むように押してると思うけど逆。次からは引いて受け取るように意識してみて」
引いて受ける、か。今までフンフヴェルトでやるときは逆だと思っていた。
「引いて・・・受ける・・・」
「それと───」
初花様が付け加える。
「円みたいに押して受けると手首にも負担がかかるし、マギを込める前に余計に消費してしまうわ」
「私・・・御台場では逆に教わってました・・・そっか・・・受けて流す・・・」
さすがはノインヴェルト戦術の名門百合ヶ丘である。学ぶことが非常に多い。
「それから、フィニッシュショットは基本明日香に任せることが多いと思うけど、エリザベスさんにも練習してもらうわ」
「わかりましたわ・・・あの・・・京夏様、琴乃様でなくてなぜわたくしに?」
「それは自分から説明するわ」
琴乃様が口を開く。
「フリングホルニはね・・・シューティングモードがないの」
え?ない?
「あの・・・それってCHARMとして成り立つんですか?」
「私も不思議に思って一度ユグドラシルの人に聞いてみたの。そうしたら『シューティングモードはあるにはあるが、モード切替えに時間がかかる』という解答だったわ。だから私はないものとして見てるの」
琴乃様が一度モード切り替えをしたところ、起動に2秒ほどかかるそう・・・確かに実用的ではない。
「さ、みんな。戻ったらお茶しながら今後の特訓メニューについて考えましょ」
作中に切通しが出てきますが、実際アニメの1話のモデルになっているであろう朝夷奈(あさいな)切通を見てきました。規模としてはもう少し大きいのかと思っていたのですが、当時の技術を考えるとあの規模でも大変だったのだろうなと関心してしまいました。