第9話です、どうぞ!
ーー取り敢えず、あいつを空から落とさないとダメだな。
死にかけとは思えない動きで空を飛ぶリオレウスを睨みつけながら思考を回す。相手からすれば攻撃し放題な空からわざわざ降りる理由もないのでそのまま火球を撃ってくるだけだろう。回避し続ければそのうち近接戦に切り替えてくるかも知れないがそれはこちらの希望的観測。
しかし可能性は高いと思う。相手は死にかけでありこちらが回避に徹していれば、勝手にくたばってくれるだろう。
ーーそうなればこっちの作戦は攻撃しながら逃げ回って相手に消耗を強いる。それで相手が近接戦に切り替えたら迎え撃つ形でいこう。
方針が決まったので真逆を向き、走り出す。後頭部の眼で後ろから相手がこちらを追いかけてくるのを確認しながら顔口に鉱石槍の準備をしておく。
相手が火球を吐き出したのを確認したので左右に回避しながら右前脚を地面に叩きつけ急停止、反転し空を飛ぶ相手に鉱石槍を発射。しかし相手は身体を翻しそれを回避すると同時に火球を撃ち出す。
それをこちらも後ろにジャンプし回避する。再び走り出し相手の様子を伺うが特に変わった様子はなく。また火球を吐き出してくる。
さっきと同じ動きで回避と反撃をすると相手も埒が開かないと判断したのか少し高度が下がった。少し溜めの動作をした後に火球を吐き出し、そのまま急降下しこちらへ向かってくる。こちらとしてはそれを待っていたので急停止し迎え撃つ体勢に入る。
相手の火球を受け止め、次に来る本体にカウンターするべく前脚を上げる。相手も左脚をこちらへ向け急降下してくるが右脚を動かす様子はない。
ーー相手側が先に届くが問題ない。攻撃は受け止めてそのまま顔面にカウンターしてやる。
そう思考しつつ相手の蹴りを受け止めるがそこで想定外が起きる。想像以上に重いのだ。
その威力に持ち上げていた上半身は耐えきれずにひっくり返る。こちらの上を取った相手はそのまま右翼を叩きつけてくるがその威力にまた驚愕する。一撃で鎧にヒビが入った。
二撃、三撃と加えられる攻撃と同時に広がっていくヒビ割れに洒落にならんとこちらも尻尾で相手を突き刺しに動くが刺さる直前で回避される。しかし回避のためにこちらから離れたので体勢を立て直す。
ーー威力が強すぎる。死にかけてるからリミッターが狂ってるのか?
桁外れの威力の代償なのか翼から血を流す相手を見てふとディノバルドの最期の攻撃が頭を過ぎる。あの時もだいぶ無茶な動きと威力があったが奴は全然気にした素振りを見せなかった。もしかしたらこの世界のモンスター達は死にかけると力が強くなるのかもしれない。だとしたら近接戦も危ないかもしれない。
これは出し惜しみしている場合じゃないと鉱玉を活性化させる。鎧が明るい白色に変色したのを見て相手が少し考えた様子を見せたがこちらに遠距離攻撃は効果が無いと思ったのか再び強襲してくる。それに合わせこちらは空気を吸引。大咆哮で迎え撃つ。
「「「「「「「◼️◼️◾️▪️▪️◾️◼️◼️◼️◼️!!!!!」」」」」」」
「!!◼️◾️▪️▪️◾️◼️◼️◼️!!!!」
こちらの大咆哮に反応し衝撃波が届く前に相手も咆哮で迎え撃つが少し威力減衰が出来ただけで無力化は無理だったらしい。
よろめいた相手目掛け飛びかかりそのまま地面に叩きつける。追撃に前脚を叩きつけようとしたが相手の蹴りに今度はこちらがよろめく。
その隙に相手がこちらの拘束から脱出、そのまま上空に飛び上がった。
ーーヒビは活性化により強化で入らなかったにしても、あの体勢の蹴りでこちらがよろめく威力って本当にどうなってんだ?
上空を旋回する相手に鉱石槍で狙い撃ちしながらも思考を回す。相手はさっきの蹴りで左脚も負傷したのか血を流している。所々よろめいているところからあと僅かな命だろう。
相手もそれを自覚したのか知らないが胸の辺りが発光し始める。通常のリオレウスにそんな能力は無かったはずだと警戒ランクを更に上げる。
相手が火球を撃ち出してくるがさっきまでのよりか桁が違う。これをくらうのは不味いと全力で回避する。
地面に着弾した火球は大爆発し、辺りに炎を撒き散らす。
ーー嘘でしょ、何この威力。リミッター外しただけでどれもこれも強化されすぎじゃない?て、まっず!
上空を見上げるとさっきの火球が更に数発こちらに向かって落ちてきている。
急いで回避行動をとり、火球の直撃を避ける。辺りの地面が火球による爆風などで巻き上がり砂埃が発生する。
ーーあの火球連発可能か……気をつけないと。砂埃で相手の姿は見えないし、相手も同じだろうから今のうちに少し情報をまとmグゥ!?
少しでも情報を纏めようとした時に横から感じる衝撃、横に転ばされ慌てて衝撃のあった方を見ると相手がこちらにのしかかっていた。
見えていないのにどうやって場所がわかった?などの疑問が沸くが相手からしたら火球が着弾するまでの自分の位置を十分に確認出来ているのだから砂埃で隠れても最後に自分がいた場所に攻撃したらいいだけなのだ。
急いで空気を吸引、大咆哮で相手を追い払おうとするが二発相手はこちらに攻撃をし、自発的に離れると同時にこちらに火球をぶつけてくる。
大咆哮をしようとするが火球の衝撃により中断する。その隙に相手は再び上空へと飛び上がった。
ーー学習されてる。どうにか決定打を入れたいけど近づいてこないとどうしようもない。それにしても弱ってきてるはずなのに全然倒れないな?
相手は常に血を流しており、そろそろ倒れてもいいと思うのだがその気配が全然しない。今も飛行中でよろめいてはいるのだがそれだけである。
ーーこれは衰弱死の可能性を省いた方がいいかもしれない。
そうなるとこちらがだいぶ不利になる。どうしようかと考えた時にふと自分の今いる場所が洞窟の近くだと気づく。
ーーもしかしたらあいつに届くかもしれない。
洞窟の方目掛け走り出す。相手もそれを追ってこちらへと向かってくるが予定通り。暫く火球を回避しながら走り続け、洞窟へと辿り着くが用があるのは中ではない。
そのままジャンプし三角跳びの要領でこちらを追いかけていた相手目掛け飛び掛かる。相手もこちらが飛び掛かって来るとは思ってなかったようで再び地面に叩きつけることに成功する。
ーー今度は逃がさん。このまま殺す。
相手の両翼をこちらの両前脚で押さえつけ、尻尾で相手の尻尾を突き刺してはりつける。
「「「「「「「◼️◼️◾️▪️▪️◾️◼️◼️◼️!!!」」」」」」」
「!!?」
相手に大咆哮を浴びせ動きが硬直した頭目掛け胸口を開け飛び掛かる。
ーー相手は大咆哮を至近距離で受けたのだから暫く動けないはず。流石に頭を噛み切られたら死ぬだろう。
確実に殺すと飛び掛かる途中で相手を見ると何故か目があった。相手の口から炎が漏れる。
ーー!!不味い!!
急いで胸口を閉じようとするが相手の方が少し速く、胸口の中に火球を撃ち込まれる。
ーー!!??コフゥ!!
胸口の中は鉱石で覆われていて無事だが火球は鉱石袋を通り胃へ到達。逆流し各口へとその猛威を振るう。
各口から黒煙と胃を傷つけられた事による吐血。あまりのダメージに倒れてしまう。相手の追撃が来ると警戒するが相手も大咆哮のダメージが大きくすぐに立つことは出来ないようだ。
暫く悶え、ようやく立てるようになった時には相手も回復したようだが空に飛ぶ様子は見られない。恐らく飛ぶ余裕も無いのだろう。ならばこちらが有利と言いたいがさっきのダメージが大きくこちらも走り回ることがまだ出来ない。
相手は口から炎を漏らしながらこちらを見ているが中に撃ち込まれない限りダメージにはならないとさっきの威力で確信したのでこちらは相手が接近して来るのだけを警戒する。
相手も飛べない今、勝負はこちらの脚が回復すればこちらの勝ち、その前に相手がこちらを仕留めれば相手の勝ちということだろう。相手もそれがわかっているのか急に走り出しこちらに向かってきた。
相手の翼の攻撃にこちらの前脚の振り下ろしを合わせる。本来なら骨格などからこちらが有利な攻撃は相手の死に際のリミッター解除による威力上昇で均衡にまで持っていかれる。
数発繰り返した時に相手が反転、尻尾がこちらの顔に打ちつけられるが逆に噛みつきそのまま噛みちぎる。千切れかけた尻尾を気にする様子を見せずに再び相手は翼を振るうがこちらが噛みつこうとするとすぐさま引っ込め代わりにと至近距離で火球を撃ち出してくる。
こちらもそれは予想出来ていたので口を閉じ火球を耐える。その隙に尻尾を動かし相手の左脚に突き刺し、相手を動けなくするが相手は無理矢理動きこちらに噛みついてくる。それを後ろにジャンプしてかわし、それと同時にこちらの勝利を確信する。
脚を動かし問題なく動くことを確認し、相手に視線を戻す。相手はこちらが動けることに気づいているのか唸り声をあげこちらを見るだけだ。このまま鉱石砲などの遠距離技で仕留めたいがカウンターで火球を撃ち込まれるのも怖いのでそれはやめ、代わりに頭部に鉱石の角を生やす。
圧縮しある程度の硬度で止め、相手に向けて突進する。相手も諦めていないのか胸を限界まで輝かせ火球を放つが、こちらの鎧にヒビが入るだけで止めるには至らない。
そのまま突進し、一か八かで空を飛ぼうとした相手の胸に角を突き刺した。
思い出せない懐かしい何かの気配を感じ向かった場所で出会った竜に胸を貫かれ、今までの記憶を思い出せた。
自分は飛竜の中では体格が小柄で周りの同族達に比べると手際は悪かった。それでも自分のことを好きだと言ってくれる竜がいた。
『貴方がどれだけ手際が悪くても私は気にしないわ。だってその分私が動けばいいもの!』
『それだと俺の罪悪感が凄いんだけど』
『同じ小柄夫婦なんだからそんなこと気にしたら負けよ!』
『小柄夫婦とか関係なく無い?』
その竜は……妻は同じ小柄という理由だけで自分を好んでくれており、それ以外は特にいらないと言う。理由を聞いても
『私はずっとこの体格を気にしてたの、周りより力があっても体格で決める竜が多すぎるのよねぇ……そんな時に貴方に出会ったわけ!これは同じ小柄同士仲良くするしかないって思ったのよ!それだけで貴方のショボイデメリットなんて気にならないわ!』
自分の気にしてることをショボイと笑い飛ばす妻にいつのまにか絆されていたのだろう。月日は流れお互いにあーだこーだ言い合いながら巣の場所を決めて、共に巣の材料を集め、卵を産み、やがて五匹の雛が孵る。
その雛達を見ながら『この子達の成長が楽しみね』と笑う妻に『そうだな』と返した時は幸せだったのだ。
ある日妻はいつもの時間に帰って来なかった。その日は何もなく妻がいつも通りに食料をとりに行っただけだ。朝に縄張りを見回った時は脅威になるものもいなく、他の小型の竜も妻ならば問題なく殺せるものだったはずだ。
何かあったのかもしれないと探しにいくべきだと考えたが雛から目を離すわけにはいかない。もしかしたら何処かに寄り道しているだけでそのうち帰ってくるかもしれないと雛に残っていた食料を与えながら考えていた。
結局その日、妻は帰って来なかった。次の日も、その次の日も妻が帰ってくることは無かった。
数日経ったある日妻の気配を感じ、それがある程度巣より近い位置に来たので迎えに行ったらそこには小さきものがいてその者が持つ剣というものから妻の気配を感じた。訳がわからなかった。何故妻の気配がするのに妻がいない。どういうことだ?結局答えは出ずにその日は巣に戻った。
更に日は流れ、妻はもう帰って来ないと理解してしまった。胸の辺りが苦しく、辺りに当たり散らしたいと考えてしまうが視界の端にいる雛の姿を見てそれを押さえつける。
『そうだ……雛を育てないと……』
妻の残したものだと。この子たちが育ってから妻を探しに行けばいいと。きっと何処かで生きていて何かが原因でこちらに帰って来れないだけだと、ならこちらから迎えに行ってやればいい。きっとまたあの笑顔を見せてくれるだろう。
その日から雛の育成に力を入れた。外敵があまり動かない時間帯に食料を確保しに行き、それ以外は巣に引きこもった。前みたいな見回りはその間に巣の中に不埒者が入って来ないとも限らないので雛を育てきる覚悟を決めてからやっていない。
あれから暫く日が経ち、新たな悩みが来た。嵐が近づいてきている。自然の嵐なら良かったが中に何か巨大な気配があり、威圧感を感じる。
すぐに逃げるべきだ。分かっているのに妻と過ごしたこの巣から離れたくなくてギリギリまで嵐が進路を変えてくれないかと願っていた。
しかし現実は無情で嵐は進路を変えずこちらに近づいてきた。今すぐ逃げなければ間に合わないだろう。雛も逃さなければならない。
気持ちを整理し、逃げるために雛も元へ歩く。雛を掴もうとした時に感じる振動。嵐が来るには少し速い。辺りに視線をやると地面からそれは現れた。
暗緑色の鱗に異様に太く強靭に発達した後脚と尻尾。そして喉元まで裂けた口に棘に覆われた顎。突如現れたその竜は涎を垂らしながら雛を見ていた。初めて食われる側の立場に立った雛達は怯えていたが心配することはない。雛達の前に立ち、その不埒者に咆哮をあげる。雛を食いたければ自分を殺してから行けと。不埒者もこちらに目を向け、激突した。
あれから何時間過ぎただろうか?お互いに傷を負い、しかし倒れることはない。巣の外壁はボロボロになりここからでも外が見える。そんなことを考えていると不埒者が弱々しい咆哮をあげて自身の千切れた尻尾を咥え地面に潜航する。暫く警戒していたが戻ってくる様子が見れないため割に合わないと逃げたようだ。そう考えると身体から力が抜けて倒れ込む。なんとか立とうとするが立つことが出来ない。暫くは無理だなと思っているとかなり強い風が吹いている。そこで何が迫ってきているのかを思い出し、血の気がひく。慌てて外に視線をやると嵐がすぐそこまで来ていた。どうにかして身体を立たせようとするがいうことを聞かない。
嵐が来た
雛に大声で何かに捕まるように叫ぶ、それと同時に身体を引き摺りなんとか雛を庇おうと近づく。
一匹が反応に遅れ、そのまま巻き上げられた。
一匹が地面に倒れ込み巣の枝に捕まる。諸共巻き上げられる。
二匹がお互いにしがみつき、何とか耐えようとする。二匹とも巻き上げられた。
最後の一匹はすぐ横にあった木の枝にしがみついている。それは妻と一緒に運んだ木だった。
『頼む、何とか耐えてくれ。』
何かに祈りながら必死に身体を引き摺る。後もう少しというところまで近づいたが現実はどこまでも非情だ。
パキッと何かが折れる音がする。それと同時に最後の雛の身体が浮き上がる
「ぴぃぃいい!??」
「ぐるぉぉおおお!!!」
何とか首を伸ばし雛を咥えようとするがギリギリ届かない。遠のいていく雛の姿を追いかけて上を見上げた時にそれを見た。
山吹色の模様が入った白い皮膜に黒い甲殻、そして頭部にある巨大な二本の角。そこまで見たところで頭部に衝撃がきて、そのまま意識を失った。
『ぅう、ここは、!?雛は!?』
意識が戻り、嵐が去り空は晴天なのに止まらない雨を疑問に思いつつ、ボヤけた視界で真っ先に雛の姿を探すが巣の中には見当たらない。急いで飛び上がり辺りを探し、巣の下にそれを見つけた。
首が変な方向に曲がったり、身体に石の破片が突き刺さったり、身体の一部がなかったり、頭部が陥没している雛だったもの。
『あっ、あぁ……』
声が出ない。顔でつついても冷たくなった雛は反応することは無かった。
『いや、まだ一匹いない。きっと生きているはずだ。そうだ、そうに違いない。』
冷たくなった雛達を食らい、飛び上がる。縄張りを探し回るが見つからない。
『きっと何処かに隠れているんだな、外は危ないと伝えていたからな。』
それから数日雛を探すが見つからず、もしかしたら何処か遠くに飛ばされたのかも知れないと思い、雛がいそうなところを片っ端から探すことにした。
『なんだよお前!いきなり来て!俺達の雛に手を出すんじゃねぇ!』
うるさい、黙れ
『やめて!この雛は私達の雛なの!手を出さないで』
喋るな
足元で喚く二匹の同族の首を踏みつける。何かが折れる音がした後、静かになった。
『……違う、雛じゃない』
自分の雛に似た偽物に苛立ちが募り、踏み潰す。雛はどこに行ったのだろうか?
ここじゃない
ここにもいない
何処にいる?
隠されたのか?
思いつくところを見て行ってもそこにいるのは偽物だけで自分の雛が見つからない。また一つ偽物を潰したところでふと思い出した。
『そうだ、雨が降っていたら身を隠すようにいったんだった』
なら出て来ないはずだと自分で納得し、まずは降り続ける雨を止ませる方法を探そう。そう結論を出し飛び立った。
雨が止まない…… そこの竜、雨の止ませ方を知らないか?雲より高く空を飛んでも、どこまで遠くに走っても、この雨は止まないんだ。
知らない?そうか、すまないな
雨が止まない……そこの竜、雨の止ませ方を知ってるか?洞窟の中に入っても、空を爆炎で覆おうと、この雨は止まないんだ。
知らないか?そうか……
雨が止まぬ……そこの龍、雨の止ませ方を知らぬか?何、嵐を操る貴様なら雨の止め方ぐらい分かるだろう?
何故止まん……そこの竜、雨の止ませ方を知らぬか?かつての仇を殺しても、この雨は止まぬのだ……俺が初めて見る貴様なら何か知ってるのではないか?
雨は止んだ。この晴れた視界ならきっと雛も見つけられるだろう……
随分と待たせた。まだ待ってくれてるだろうか?迎えにいく前に父は少し疲れた。だから少しだけ眠らせてくれ。
竜よ、感謝する。
流石に同種族間は会話可能にしています。