過酷な世界で生き抜くために   作:フドル

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長くなりました(二回目)

21話です、どうぞ〜


21話

 ガタゴトと竜車が走る。デコボコとした悪路のせいで振動が尻にくるのを顔を顰めながらも我慢して武器の点検を行う。

 

「また武器の点検をしてるの?昨日もやってなかったっけ?」

 

「またとは何だよ、こういう点検をこまめにする事で早めにガタがきているかどうかが分かるって訓練所でも言ってただろ?」

 

 振動で痛めたのか尻をさすりながら幼馴染で同じチームの女性ハンターであるサラヤが呆れながらこちらに話しかけてくる。いつものように返答をすると分かっていたかのように溜息を吐いた。

 

「こんな投げ売りされてた武器なんて点検しても変わらないでしょ。私達みたいな駆け出しはもっとランクを上げて、自分の武器を作ってからした方がいいんじゃない?」

 

「確かにそうだろうけど、ランクが上がらないからこうやって少しでも長く使えるように点検してるんだろ?」

 

 普通ならハンターになったばかりの駆け出しは狩場に赴き、最初に簡単なクエストを行いながら草食竜を狩ったり、鉱石を採取したりして素材と金を貯め、武器と防具を造る、又は強化する。

 それと草食竜を狩る事によって効率的な狩り方や自分にも出来ると自信を身につけ、次は肉食の小型モンスターに挑戦する。そこで狩る事が出来たのなら、狩人の駆け出しは終了だ。

 そして再び武器と防具を強化するのだがこの頃は大半が金銭に余裕がない。なので推奨はされてないが小型肉食竜から剥ぎ取った牙や爪を自身の武器に巻き付けたりして少しでも強化をし、今度は小型肉食竜のリーダーに挑戦する。

 そこでも無事に狩れたのなら街ならまだ初心者と言われるが、村なら一人前のハンターとして名乗れるだろう。

 ここまでが駆け出しから初心者までの道のりだ。なら自分達は何処にいるかというと一応、初心者にはなっているがそこから先に進めないと言った感じだ。

 僕達はずっとチームで行動しており、そのお陰か他のハンター達よりか楽をできている。しかし他のハンター達が手に入れる報酬は分けなければならない。そうなれば必然的に何もかもが足りなくなる。

 折角、肉食竜のリーダーを狩猟出来たのに武器や防具を強化するお金がない。貯めようとも狩りとは常に危険と隣り合わせ、ちょっとしたことで怪我をして、それを治すために購入する回復薬で少ないお金が更に少なくなる。その結果、誕生したのがいつまで経ってもボロボロの装備を使っている僕達という訳だ。

 

「はぁ、夢見たハンター生活がこんなに貧乏になるなんて思ってもいなかったわ。」

 

「それ言うの何回目?それを打破するためにこの儲け話に飛びついたんだろ?」

 

「だってそろそろ村のみんなの目もキツくなってきたんだもん!しょうがないじゃん!」

 

「あー、うるさい声で叫ぶな。目が覚めたじゃん。」

 

「お、ザフくん遅いお目覚めだね。悠長に寝やがってこの野郎!」

 

 サラヤが騒ぐことで僕達の最後のメンバーのザフが起きる。寝起きということもあり、まだボケーとしているザフにサラヤが飛びつく。

 後ろで二人が騒がしくなるのを尻目に先程のサラヤの言った村のみんなのことを思い出す。今までは仲良く出来ていたのだがここ最近になって急に厳しい視線を向けてくるようになったのだ。

 その原因である人物に目を移す。竜車で見えないがこの列の一番前に座っていることだろう。

 

「なぁ、実際今回の儲け話って本当だと思うか?」

 

「お前いい加減に……!あ?そうだな、俺はあんまり信用してない。態々別のクエストを受けてから合流しろとか言ってきたしな。分ける必要なんてないだろって思う。」

 

「良いではないかぁ〜。ん?私も信用して無いかなぁ、こんなに竜車を用意してっていうのも変だし、狩猟エリアからとっくに離れてるよ?」

 

 それだ、この竜車の数は四人だけなのに八台も使用している。更に狩猟エリアから離れており、許可もない狩猟などは禁止されているはずだ。

 村へとやってきた彼は自身を上位ハンターでギルドの信頼も厚いと語っていたが、それが本当でもエリア外での狩猟は犯罪になる。

 頭に密猟という文字がよぎる。僕達は知らない間に犯罪の片棒を担がされてるのではないか?そんな不安が湧き上がり、今すぐにでも引き返したいがそれは出来ない。

 

「上位ハンターのお誘いを蹴ったボロボロ駆け出しハンターなんて村のみんなに思われたら僕達は村に居られなくなるからなぁ……」

 

 村のみんなは変わった。それも仕方ないことだと思う。立派な防具と武器を持ったハンターとボロボロな防具と有り合わせの素材を武器に括り付けているハンターなら誰もが前者を選ぶだろう。

 そんなハンターが上位のハンターの機嫌を損ねようとしていたら例え長年一緒に住んでいたとしても村から放り出すぐらいはしてもおかしくない。

 いっそのこと村から出て町に行くか?村にいても今のままだとずっとこのままな気がする。この考えを二人に話そうとするが前の方から聞こえてきた声に遮られる。

 

「お前らー!そろそろ目的地だぞ!」

 

「……!!、そろそろ僕らも覚悟を決めないとな。危険じゃなければ良いけど。」

 

「藪をつついてガララアジャラが出るってこと?」

 

「本当に出て来たらあの人は兎も角、俺らは全滅だな。」

 

 前の竜車がゆっくりと止まっていく、僕達の竜車が止まるのを確認してから降りて、先に準備していた彼の元へ向かう。

 

「それでボルペオさん。僕達は何をしたらいいんですか?」

 

「それを今から説明するからついて来てくれ。」

 

 そう言って彼が近くにある洞窟の中に入っていく。お互いに顔を見合わせ、ここまで来たら行くしかないなと頷き合い、追うように洞窟に入る。

 洞窟の中は思ってた以上に広く、明るい。辺りを見渡しながら奥へと進んでいくと、次第に奥にあるものが見えてくる。それが何かを理解すると僕達は知らずに走り寄っていた。

 

「これは……凄い。こんな山盛りの鉱石なんて初めて見た。」

 

 そこにあったのは煌びやかに光る鉱石の山だった。山の大半は緑色に光っており、ここら一帯の鉱脈から採れる物だとしたら恐らくドラグライト鉱石だろう。他にも紅蓮石やマカライト鉱石などの鉱石も顔を覗かせている。

 

「そうだ!ボルペオさんは?何処に行ったの?」

 

「ボルペオさんならあっちにいるよ?」

 

 サラヤが指差す方を辿ると確かにいた。何やら大きな岩の前で首を傾げている。

 

「ボルペオさーん!説明が欲しいんですけど〜!?」

 

こんな岩あったか?いや、持ち込んだのか?……分かってる!ちょっと待ってろ、すぐに行くから!」

 

 彼に声をかけると返事をしてすぐにこちらへと寄ってくる。

 

「まぁ、見てわかるだろうが、クエストの帰りにこの鉱石の山を偶然見つけてなぁ。持ち帰りたいが人手が足りねぇ、だからお前らを呼んだってわけだ。」

 

「と、いうことはこの山を竜車に積み込めばいいんですね?」

 

「そういうことだ。俺の竜車に積み込んで、余ったのをお前らにやる。どうだ?やるか?」

 

「分かりました、それでいいです。」

 

「手だけじゃぁ、やり辛いだろうからこれを使え、だいぶ楽になる。」

 

 ほれっと渡された大きな袋を受け取る。それを二人に渡してから鉱石を次々に詰め込み始めた。

 

 

 詰め込み初めて数十分。詰め込んで、竜車で出す。これを繰り返す。鉱石の山は少し減って来た具合か?そんな時にある物を見つけた。

 

「なんの鉱石だろう?綺麗だな。」

 

 手に持った白い鉱石を見つめる。角度を変えて見てみるが透き通っておりとても綺麗だ。

 もっと見ていたかったが、横から伸びて来た手に中断される。手を辿ってみるとボルペオさんがジッとその鉱石を見つめていた。

 

「ボルペオさん?」

 

「……次からこの鉱石を見つけたら優先的に回収しろ、いいな?お前らもだぞ!!」

 

 彼が大声で僕等に注文をつける。そこまで言うということはかなり価値のある物だと思うが、彼の様子を見る限り掠め取ることは出来ないだろう。すっぱりと諦めて次の鉱石を袋に詰め込んだ。

 

 

 

 

 

 

 あれから数時間、特に話すこともなく黙々と作業を進め、鉱石の山がかなり少なくなって来たあたりで竜車が満タンになった。

 もう積め込めなくなったので洞窟から出る。彼もこの成果に満足そうにしている。

 

「これだけあればかなりの大金になるな。残りは約束通り、お前らにくれてやる。この後は何か予定でもあるのか?」

 

「これから貴方に言われて受けた別のクエストに行きます。簡単な物なので数時間もかからないでしょう。」

 

「おぉう、確かに言ってたな。ならもう一つ、そのクエストが終わっても数日は村に帰って来ないでくれ。」

 

「それはどうしてですか?何か不都合な事でも?」

 

「こんなにも鉱石を持ち込むんだ。暫くは村もてんやわんやするだろう。それに更にお前らの鉱石を持ち込んだら鉱石の価値が下がるかも知れねぇ。それはお互いにとっても都合が悪いだろう?」

 

 彼の言い分に確かに一理ある。なので頷くと彼は笑顔で竜車に乗り込む。きっとこの鉱石で得られる金額を想像しているのだろう。

 そのまま彼を見送ろうとするが途中で止まりこちらに振り返る。

 

「分かってると思うが今回のことはギルドには言うなよ?バレたらお互いタダじゃ済まないし済まさないからな?」

 

 こちらに凄んでから再び竜車が出発する。七台の竜車が完全に見えなくなってから張り詰めていた息を吐く。

 

「どう思う?」

 

「やっぱり何か胡散臭いよね、別のことを企んでそう。」

 

「本当に村に帰っていいのか不安になるな、説明があったけど数日空ける意味がよく分からん。取ってつけたような理由にしか聞こえないな。」

 

 二人に意見を聞くと二人とも彼に不信感を持っているようだ、なら考えていた町に行く話をしてもいいかも知れない。だが、その前に。

 

「僕にも考えがあるけど先にクエストを終わらせてしまおう。その後にまたここで話そう。」

 

「確かにそうね、意義なし!」「同じく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クエストが終わり、再び僕等は洞窟まで戻ってきた。中を慎重に見て回るが生物の気配はなく、静かなままだった。

 

「それで?考えっていうのは何だ?」

 

「あぁ、二人とも彼に不信感があって村に帰るのは嫌だろ?なら村に帰らずにそのまま町に向かおうと思ったんだ。ちょうど向こうで活動できる資金も手に入ったし。」

 

「それは良い考えだと思うが、こんな駆け出し用のボロボロ装備を着たハンター達が持ってきた鉱石をギルドが素直に買い取るか?普通に何処かの村から盗ってきた物だと怪しまれないか?」

 

「ドラグライト鉱石とか混ざってるから確かに怪しまれそうだな。けど売るのはギルドにじゃない。町のすぐそばにある屋敷の主人に売るんだ。サラヤも知ってるだろ?」

 

「確かに鉱石に目が無いのは知ってるけど、それと同じくらいあの人、私の胸にも視線を向けてくるんだよねぇ……」

 

 そう言いながら防具越しに自分の胸を隠す仕草をするサラヤに苦笑いをしてしまう。

 

「売る時は僕が行くから安心して、サラヤが居れば売値が上げるって言われてもそんなことのために嫌な思いをさせたく無いからね。」

 

「おーう、ここぞとばかりに好感度を稼ぎに来たぞ。私の好感度を稼いでも添い寝ぐらいしか出来ないよ?」

 

「それはいいけどその動きをやめろ、普通にキメェ。」

 

「何だとー、貴様ー!」「うわ、何するやめろ」

 

 こちらの発言に頬を押さえてクネクネするサラヤにそれを引いた目で見つめるザフが苦言を漏らすとサラヤが怒りながらザフに飛び掛かる。

 縺れ合いながら地面を転がっているがお互いに口角が上がっていることからいつものじゃれあいみたいなものだろう。

 暫く見つめてから手を叩き、注目を集める。二人がこちらを向いたので今回の纏めを行う。

 

「それじゃあ、僕達はこの鉱石を竜車に積んだら、町外れの屋敷に売却に行く。それからそのお金を使って町の生活基盤を作りながらハンターとして活動しよう。二人ともそれでいいね?」

 

「意義なし。」「私も無いよ〜。」

 

「よし、それじゃあ、早速この鉱石達を積んでいこう。目ぼしいものは少ないけどしっかりとお金にはなるからね。」

 

 今後の行動を纏めてから鉱石の方へと向かう僕達をサラヤが追い抜き、こちらに振り返る。

 

「サラヤ?どうしたの?」

 

「ふっふっふ、目ぼしいものがないと言いましたね?ファクシ君?」

 

「そうだけど、どうしたの?急に変な言い方して?」

 

「そんな貴方に!これが目に入らぬ……あれ?取れない……」

 

 急に自身の胸に手を突っ込んだサラヤが何かを探しているようだが、こちらとしては目の毒だからやめて欲しい。

 チラッとザフの方を見ると彼は手を頭の後ろに組んで上を見上げていた。

 

「むむっ、全っ然!取れない!もういいや!見てるの君達だけだし!」

 

 サラヤが叫んだと思ったらいきなり胴部分の防具を脱ぎ出した。突然の暴挙に止める暇すらない。

 

「ちょっ!?サラヤ!?何やってるの!!」

 

「別にインナー姿だからいいじゃん、それよりこれを見てよ!」

 

 こちらの抗議を無視してサラヤが手に持っている物を突き出す。それはあの時、ボルペオさんが優先的に回収するように言っていた白い鉱石だった。

 

「これって……よくバレなかったね。」

 

「竜車に積み込む時にこっそりと胸に隠しといたの!あのボルペオって人も私の胸しか見ない奴だからバレるかも知れないってずっとヒヤヒヤしたわ。」

 

「確かにサラヤの無駄にデカいそれなら隠せるかもな、だからと言って実際にやるのは馬鹿だけど。」

 

「馬鹿とは何よ!馬鹿とは!!」

 

 ザフの呟きにサラヤが詰め寄る。ニヤニヤと笑ってることから先程のじゃれあいの続きでもと思っているのだろう。

 

(サラヤ、気付くんだ。ザフは必死に目を逸らしてるんだぞ。)

 

 二人を見ているから分かるがザフは今のサラヤを視界に入れまいとしていた。それをサラヤも理解したのか満面の笑みを浮かべている。

 もう少し二人のじゃれあいを見たいが、不必要にここに滞在するのは良くないので止めようとするが分かっていたかのようにサラヤが距離を取る。

 

「まぁ、私が言いたいのはあの変態男が優先的に狙ってたこの鉱石さえあれば、私達の資金にも余裕が出るってことよ!」

 

「きっとこれが私達の再スタートになるの!手に入れた場所は良くないけれど、きっとこれは今までボロボロ装備で頑張っていた私達に対するご褒美よ!」

 

 そう言って彼女は白い鉱石に頬擦りをする。確かに僕達に足りない物は金だった。ならそれが満たされれば次のステージに行けるのは確定したようなものだろう。でも早く防具を着て欲しい。

 ザフをチラッと見ると彼も同じ思いなのかこちらを見た。その偶然に思わず二人して苦笑いをしてしまう。

 

 そんな時だった。それが起きたのは。

 

 

 

 

 

 

 

「あ?」

 

「え……?」

 

「は?」

 

 ポシュ!と何か軽いものが撃ち出されたような音がしたとほぼ同時に左肩に衝撃が来た。飛び出る鮮血と左肩に突き刺さった石の針みたいな物を視認すると同時に激痛が来る。

 あまりの激痛と動かなくなった左肩に混乱するが何とか状況を把握しようと辺りを見渡す。

 サラヤには何も無い、しかし何かを呆然として見つめている。ザフは僕と同じように石の針が右脚に刺さっている。膝をついていることからいつものように歩けないかも知れない。

 まずはサラヤにザフの回復を任せて、そのうちに僕はこの襲撃の相手をしなければ、そこまで思考した時だった。

 

パキッ……と音がした。

 

 痛みで浮かぶ汗を拭いながら何とか音の方へと向く。そこには大きな岩と思っていたものが立ち上がろうとしていた。

 

「うぅ……っ、サラヤ!ザフの回復を!急いで!!」

 

「え?あっ、うん!分かった!」

 

 針を抜かずに回復薬だけを飲んで血を止める。痛みが引いたので僕は動けるがザフは針を抜かないと動きに支障が出るだろう。

 その間に岩が姿を変え終え、こちらを見る。その姿は図鑑や訓練所の授業でも見たことがなく。分かることはこの竜は大型モンスターに分類されるということだ。

 

 大型、いつかは挑むと思っていたが今になるとは思ってもいなかった。しかも見たことがない種、授業や図鑑で覚えてたこのモンスターは〇〇が得意とするという情報が一切分からない。

 

「こやし玉があれば……!」

 

 こやし玉は一つ前のクエストで使い切っており、今は手持ちにない。僕はこの竜を片腕だけで足止めをしなければならない。

 竜はこちらを見つめて動かない。しかし竜からはギリギリ、ギリギリ、と歯軋りのような音を上げている。

 覚悟を決め、竜を睨む。大丈夫、足止めなら僕でも出来る!根拠もない自信だけを持って竜に駆け寄ろうとした。

 

「グルゥオオオオオオオ!!!!」

 

 竜が吼える。それと同時にそれぞれの四つ脚の一部分が開き白い粒子を噴出する。胸が開き、涎がその中で糸を引いている。こちらを食らわんと牙がギラリと光った気がした。

 あまりの変貌に足が止まる、必死に進もうとするが足が怯えで震えているのか進めない。

 

(違う!僕は怯えてなんていない!これは咆哮の衝撃で止まっただけだ!)

 

 自分に言い聞かせる。片腕で脚を殴り、何とか震えを抑える。

 

(よし、これならいける!戦える!)

 

 震えが収まったので竜を睨み、一歩踏み出そうとした。しかしそれは余りにも遅すぎた。

 

「グルゥオオ!!」

 

「!?チィ!退け!サラヤ!!」

 

「え?きゃあ!」

 

 竜が治療しているザフ達に飛び掛かる。直前でザフが気付き、サラヤを突き飛ばしたがザフは間に合わなかった。

 竜がザフを押さえつける。ザフも必死に逃げようとしているが膂力が違いすぎるため逃げれない。

 

「クソォ!間に合ってくれ!」

 

 全力でザフに駆け寄る、しかしそれよりも竜が脚を振り下ろす方が早かった。

 

「ザフ!!」

 

 辺りに振動が走り、膝をつく、ザフの無事を信じ、砂埃が晴れるのを見つめる。やがて砂埃が晴れると見えてきたのは竜の脚とその下から漏れる赤い液体だった。

 

「ザ……フ……?」

 

 思わず呟く、しかし竜は止まらない。

 

 脚を上げ、また振り下ろす。また上げ、下ろす。何度も何度も何度も何度も振り下ろす。もう死んでいるのに、何が気に入らないのか念入りに潰そうとする。

 

「グルゥオオオオオオオ!!!」

 

 竜が吼え、先程のより更に力を込めた一撃を振り下ろす。その一撃は洞窟中を揺らし亀裂を入れた。

 

「あ……あ、ザフが……ザフ……が」

 

「ファクシ!逃げるよ!あの竜がザフに気を取られてる間に!!」

 

 こちらに走り寄ってきたサラヤが僕の肩を掴み出口に向かう。聞き方によってはザフを見捨てたように聞こえるが、サラヤの顔を見ると涙で濡れていることからサラヤも辛いはずだ。

 出口が近づいてきてこのまま逃げれると思ったが竜が追いつき先回りされる。先程と同じような姿で、しかし前脚だけはザフの血で真っ赤に染めている。

 

「うぅ、何か、何か無いの!?」

 

 サラヤが必死にポーチを漁る。竜がゆっくりと近づいており、いつ飛び込んでくるか分からない。竜が体勢を低くし、飛び掛かろうとしている。

 

「あった!これなら!ファクシ、目を閉じて!」

 

 ポーチの中から閃光玉を取り出し、地面に叩き付ける。辺りに閃光が走り、竜が怯む。

 

(閃光玉が効いた?ということは視力がある?)

 

 再びサラヤと一緒に出口に向かう。竜の隣を通り抜け、あと少しというところでサラヤの手が肩から離れる。

 

「え?きゃぁああああ!!」

 

「!!?、サラヤ!!」

 

 振り返ると竜の尻尾に脚を貫かれ、持ち上げられているサラヤがいた。竜に滅茶苦茶に振り回されて、なすがままになっている。

 

「待ってて!今助ける!グゥっ」

 

 サラヤを助けようと竜に駆け寄るがサラヤが突き刺さったままの尻尾で殴打され、吹き飛ぶ。地面を転がり、壁にぶつかって漸く止まる。壁にぶつかった時に肩の針が動き、再び出血する。衝撃で咳き込むが何とか息を整えようとする。

 

「やめて!離してよ!」

 

 自身の脚を貫いている尻尾を何とか抜こうとしているサラヤだが上手くいっていない。竜はそんなサラヤの姿を見てから口から地面に先端が鋭利な細長い石を撃ち込む。

 それで何をするつもりだと思う間も無くサラヤをそれに突き刺した。

 

「ギィ!?オゲェ、……い……や……」

 

「サラヤ!クソ!そこを退けぇ!」

 

 サラヤを助けようとするが尻尾をサラヤから引き抜いた竜が立ち塞がる。武器で斬りかかっても、こちらを突き飛ばすだけで何もしない。

 

「ふぅ……、ふぅ……、抜け……ない……」

 

 サラヤが必死に自身の胴体から背中を串刺しにしている石から抜けようとしているが自身の血で滑って上手く掴めていない。それどころか自重で更に深く刺さっていっている。

 

「サラヤ!サラヤァ!」

 

「ごめ……ん……、ファ……クシ……逃……げ、て」

 

 最期にそう言い、サラヤは力尽きた。最期の抵抗なのか自身のポーチからありったけの閃光玉を落として。辺りを光が満たし、竜の叫び声が聞こえる。光から目を庇い、サラヤを見ると腕がダラリと垂れ下がり、ピクリとも動かない。全体重がかかったせいか刺さるスピードが上がり、針の下の部分まで下がっていった。

 

「う、うぅ……逃げなきゃ……」

 

 前がボヤけて見辛い。それが涙だとは分かっているが、拭う時間すら惜しい。洞窟の出口に向かって走る。僕の後ろから竜の足音がする。きっと僕を追いかけているのだろう。

 

「後、少し……もう、少し!」

 

 洞窟の出口が近づき、光に目を細める。ここから出たらすぐに竜車に乗って逃げないといけない。急げ、急げ、急げ。

 洞窟から出て竜車に走る、そして竜車に飛び乗ろうとした時、あんなに日差しが眩しかったのに急に影が差した。

 

「えっ……?グゥ!」

 

頭上から衝撃が来たと思う間も無く、地面に叩きつけられる。竜が僕に追いついて脚で押さえつけているのだろう。叩きつけられた時の衝撃で竜車をひいていたアプトノスが驚き、逃げ出した。

 最後の逃亡手段が無くなった。僕も動けない。完全に詰みだ、もうどうすることもできない。

 それでも諦めるわけにはいかない。全身に力を込め、竜の脚を退けようとするがびくともしない。

 竜の顔がこちらに近づく。僕を食べるつもりなのか?反射的に目を閉じてしまう。

 しかし竜は僕では無く、僕の肩を刺し貫いている石の針に噛み付いた。何故それを?と疑問が頭に浮かび、至近距離まで近づいた竜の顔を見て、後悔した。

 

 目が合った。石で出来た外殻の奥に見える竜の眼と。そして目が合ったことにより感じる凄まじい怒りの感情。

 

「ヒィ!?な、何で……、グゥアアアアア!!」

 

 何故そんなに怒っていると疑問が出る前に肩から激痛がくる。竜が僕に刺さっている石の針をゆっくりと抉るように引き抜いているからだ。

 暴れ回りたいが竜の脚でがっしりと押さえつけられているので動けない。嫌な音を出しながら針が抜けていく。

 やがて針が抜けてそれは竜の口に収まる。バリバリと咀嚼音が響いた後、竜の顔が再びこちらに向いた。

 

「はぁ、はぁ、次は何?何をするつもり?」

 

 この竜はわざと僕らを痛みつける行動を取っている。なら次に僕を殺す攻撃をしてくる可能性は低い。

 また石の針か?腕を噛みちぎるか?と竜の行動を予測しようとする。竜は僕の全身を押さえつけるように脚を移動させ、力を入れてくる。

 全身からミシミシと音がする。かかる力は徐々に強くなる。この竜は僕を踏み潰すつもりらしい。

 

「う、うぅ。誰か!!誰かいませんか!助けて下さい!お願いします!」

 

 近くに誰か来ている可能性に賭けて大声をだす。しかしここはエリア外であり、他にハンターがいるわけがない。

 竜の力が強くなる。鎧はひしゃげていき、変形に耐えきれなくなった留め具が弾け飛ぶ。

 

「ひゃれか……ひゃれかお願いしひゃす!ひゃれか!」

 

 変形した鎧に顔を潰されていき、まともに声も出せない。それでも僕は声を出すしか無かった。

 

(何で、何でこうなった?これがギルドの掟を破ってエリア外で活動した罰とでもいうのか?それなら確かに僕らが悪い。だけどこれは……これはいくら何でも酷すぎだ。)

 

メキメキメキメキメキメキメキメキメキメキメキ

 

 

 

 

グチャ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーいつか失明しそう。いや本当に。何でどいつもこいつも閃光玉を投げるの?パッと見たら自分って目があるように見えないはずなんだけど何でだろうな?

 

 最後の一人を踏み潰し、洞窟の鉱石を置いてあるところまで戻る。道中に倒れている女性ハンターを踏み潰し、地面のシミにしておく。

 

ーーあーあ、残ってた鉱石はこれだけかぁ、本当にやってくれたなアイツら。

 

 少なくなった鉱石を食べていく。その美味しさで少し怒りがマシになる。

 

ーーこの洞窟は放棄だな、ハンターも殺っちゃったし捜索来るかなぁ?けどあんな貧乏なハンターの為に捜索出すかな?

 

 今回やったハンターは全員の装備がボロボロだった。試しに飛びかかった時も反応が鈍かったし、逃げる時なんてこちらに目を向けようともしなかったことから恐らくハンターに成り立ての可能性が高い。

 

ーーだからゆっくりと殺せたのだけどな。ご馳走様。

 

 鉱石を食べ終えてから洞窟を出る。その道中でヒビが入る程度の力を込めて壁を叩いていく。

 外へと出てから尻尾の鉱石を変形。巨大なハンマーの様にしてから洞窟の入り口目掛けて思いっきり薙ぎ払う。

 入り口に大きなヒビが入る。そこから中のヒビを入れていた部分が繋がっていき、振動と共に洞窟が崩れ落ちた。

 

ーーこれで良し、流石にギルドも危険と隣り合わせのところで捜索する為にこんなところを掘り返したりしないだろ。

 

 この崩落は自然現象として処理されるだろう。もしモンスターの行いと判断しても中を探ることはしないはず。

 

ーーさて、次は何処を寝床にしようかなぁ、って……ん?

 

 ふと道に残っていた竜車の轍に視線が向く。さっきの竜車かと思ったがそれにしては数が多い。

 少し考えた後にその轍を追ってみる。暫く追うと轍の横に鉱石が落ちているのを見つけた。

 

ーーこれってもしかして、自分の鉱石を持っていったやつか?自分が寝てから起きるまで数時間、その間に持っていったとしたら……よし、追うか。

 

 追いつけるかもと思い轍を辿り始める。本当は走って追いかけたいところだが、この竜車は人のいるところに向かっている可能性が高いため、出来る限り隠密をしながら追いかける。

 所々で落ちている鉱石を食べながら見つからないように追いかける。やがてその竜車を見つけたのは丁度竜車が村に入った所だった。

 

ーー間に合わなかったか。ここからじゃ中の様子が見にくいからちょっと移動するか。

 

 その場から静かに後退し、移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

ーーここからならよく見えるな。さて、自分の鉱石を持っていったやつは……あいつか。

 

 村を見渡せて尚、見つかりづらい好都合な場所を見つけたのでそこに陣取り、村を見つめる。村では丁度広場の方で人だかりが出来ていた。

 広場で自分の集めた鉱石の山を背にしてその男は何やら演説らしいものをしていた。声は聞こえないが手振りからするに強大なモンスターを激戦の末に倒してこの鉱石の山を手に入れたらしい。

 そんな彼の動きに村の大人達は感心するような態度をとり、子ども達は興奮気味に動き回っている。

 

ーーへぇー、凄い大激戦だったんだなぁ。へぇー、ふーん、ほーん?なら……実演しよっか。

 

 本当なら侵入に気付かなかった自分が悪いと落ち着いた今ならそう思い、見逃しても良かった。だけどあんな演説を見せられてはこちらも黙っていられない。

 

ーーニ、三日は観察だな。それで不都合が無かったら、夜に襲撃する。相手は強大なモンスターを倒したハンター様だ、苦戦は必須だからしっかり観察しないとね。

 

 そう思いハンターを見つめる。無意識にまた、四つ脚の口から白い粒子が噴出していた。




自分のものを他人が掠め取って更に他人に自慢げに見せつけてるのを見つけたら怒るよなぁ
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