転生先の学友の顔が強すぎる件   作:流水麺と豪州侍

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たまに衝動的に戦国モノを書きたくなる人です。


第1章 Childhood
第1話 友


 

 俺には父親はいない。

 かつては二人いたが、二人とも失った。

 一人目は前世の父。令和に入ってすぐの頃に俺はこの世界に存在を移された、いわゆる転生者という奴になってしまったからだ。転生したということは向こうの俺は死んだのだろう。記憶がないから死因は定かではない。

 二人目の父はこの世界の父。血を分けた肉親だったが、俺が5歳の頃に老衰で死んでいった。

 

「新十郎? 何を呆けておるのですか? 和尚の授業が始まってしまいますよ?」

 

「……ああ、そうだな」

 

 隣の少年が呼びかけるも、いまいちしっくりこない。

 新十郎。こんな名前の令和の高校生なんてまずいないし、俺は佐々木高広という人間であるという意識が頭からこびりついて離れない。

 転生してから十年経ってもなお、俺はこの戦国の世に馴染めないでいる。

 

「それにしても、だ。和尚の話は無駄に長いからなあ。暇で暇で仕方ない」

 

「だからといってサボるのは良くないだろう、新十郎。仮にも貴方は六角の支族で、将来は家を支えなくてはならない」

 

 転生した先は南近江を領する六角家。当代ではかなりの名門なのだが、メジャーどころしか戦国大名を知らない高校生だった俺にはあまり有り難みはない。

 むしろ、それよりも。

 

「へいへい、北近江の大名様の嫡子に言われたら仕方ないな、猿夜叉丸さんよ」

 

 目の前にいるこの少年こそが、浅井家の嫡子。つまりは浅井長政だということの方が重要だった。

 

 *

 

 なぜ、浅井家の嫡子が他家の一門の子と勉学を共にしているのか? 

 この問いに答えるためには、ここ数年の近江の情勢について説明しなくてはならない。

 まず、近江にはざっくり北の浅井、南の六角と2つの大名が割拠していた。

 南の俺が血を引く六角家は古くから続く名門で佐々木源氏の棟梁格である。一方、北の浅井家は猿夜叉丸の祖父である浅井亮政の代に四職の一つ、京極家を下克上で打ち倒して、北近江の支配者にのし上がった新興勢力だ。

 パッと見で浅井家の方が強そうに見えるが、それは新興勢力という響きが美しいだけだ。

 浅井亮政は下克上を果たしたはいいが、北の越前と南の六角の挟撃を受け、小谷城を占拠されてしまう。

 それ以降は浅井家と六角家の力関係はやや六角優位に転じ、なおかつ浅井家は国内の支配強化、六角家は中央への介入が最優先のため小康状態となっている。

 だから、俺が浅井家への人質として向こうの居城の小谷城にいるわけではない。猿夜叉丸が人質として、こっちの観音寺城に来ているのだ。

 

(流石は後世にイケメン武将扱いされるだけはあるよなぁ)

 

 だが、人質といっても猿夜叉丸にはなんかオーラみたいなのがある。

 男のくせにまつげが長くて、髪もさらさら。割と同じ物を食ってるはずなのにこうも違うとは。どう取り繕ってもモブ感が否めない俺とは雲泥の差である。

 

「どうした? 新十郎。まじまじと私の顔なんか見て」

 

「相変わらず可愛らしい顔してるなって思っただけだ。将来、男色家に食われないように気を付けろよ?」

 

「……む。そうか、ご忠告傷みいる。大人になったらきをつけるよ」

 

 顔を赤くした猿夜叉丸がそっぽを向いて言う。

 

「ははっ、相変わらずその手のことに弱いんだな。あと数年したら、俺らも祝言とか挙げる身だというのによ」

 

 この世界の結婚はやたらと早い、前世で言う大学生頃には大抵1度は結婚している。ちなみに男子もだいたい中学生頃にはケツを掘られる。

 特に六角家の場合は当主の義賢様が女狂い、嫡子の義治様はホモだから、その辺りの風紀は乱れまくり。あれ? まともなのは義治様の妹の義定と俺しかおらんじゃん。

 これは六角家、滅びますわ。

 ともあれ、猿夜叉丸と俺は仲良く友達をやっているわけだ。将来敵になるのが悲しいところではあるが。

 いや、それよりも悲しいのは家中で猿夜叉丸以外に心を明かせるのが、義定を含め、ごく少数しかいないというところなのかもしれない。

 

 *

 

「ただいま〜……って言っても誰もいないよな」

 

 屋敷に主人が帰って来たとしても返事などない。

 そんな生活が4年続いていた。

 俺の父が死んでからたった1年で母も跡を追うように亡くなり、わずかばかりの領地と遺産が俺にあるだけだ。使用人を雇う余裕はあるが、屋敷に帰ってやることが洗濯と寝ることぐらいなら必要ない。

 六角の一門だと言っても当主の一族からやや外れるため、こんなもんだ。

 

「猿夜叉丸が人質なら、俺はペットだよ。死なないように面倒を見られて、家のために使われて、いずれは死ぬのだろう」

 

 ひとりごちて眠るべく布団を被る。

 ただ、どうも寒くて完全に寝付くにはしばらくかかった。




読んでくださりありがとうございます。
一応、短編で収めるつもりです。
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