転生先の学友の顔が強すぎる件   作:流水麺と豪州侍

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第17話 観音寺騒動

 京から帰った六角の家中は荒れていた。

 理由としては三好への対応と高村の処遇を巡って家臣団が論争を繰り広げているからだ。

 俎上に載せられている2つの議論はどちらとも重大事でかつ密接に関わり合っている。親三好を選ぶならともかく、反三好を採る場合は高村を復権させないと軍事的に対抗できないことを重臣一同は理解していたからだ。

 

「最早、天下の大勢は三好に決した。今や中央で覇権を狙う時は終わったのだ。これよりは三好の力を借りて浅井を呑み、近江を統一するべし。 その時、浅井に好を通じていた高村は後難の基になるゆえ始末した方が良い」

 

 現当主の義治は親三好、反高村派で六角家は三好政権の一翼として天下に参与すべきだと主張している。

 

「ならぬわ、義治。此度こそ三好が勝ったが、すでに政権を担うべき2人の弟妹がおらぬのだぞ? 長慶本人もそう長くはないと聞く。……畿内は再び荒れるぞ。その時、高村の武力なくしてどうするつもりだ?」

 

 一方、隠居の承禎は反三好で、高村に関しては帰参を認める方針に転じていた。

 もともと承禎は高村の力を買っている。権限を削ぐつもりではいるが、始末するまでの敵意はない。義定の口添えや領国に帰る際に高村がきっちり護衛を務め上げたことも、承禎の態度を軟化させるのに作用した。

 

「そもそもお前が高村を廃する根拠にしていた浅井と内通している、というのも怪しいものだ。やつと猿夜叉丸は親しかったとはいえ、野良田では共に打ち合ったと聞く。それに、奴がいる瀬田は浅井領からは遠い。内通は現実的ではなかろう」

 

「むむむ……」

 

 承禎に正論をぶつけられて、義治は押し黙る。

 だが、理屈的には納得していても、感情的には納得できていない。

 義治にとって高村は家督争いの最大の敵である。どうにもこれから先、自分と高村が共存する未来を思い浮かべられないのだ。

 

(たとえ家督を俺が掌握しても、高村に軍権を奪われる。……俺はそんな傀儡みたいな当主にはなりたくない)

 

 今現在において現実的に隠居の承禎が最高権力者であると分かってていても、軍の第一人者が高村だということを理解していても、義治は「当主である以上、俺に主権がなくてはならない」と信じている。

 

(だが、どうやらその現状も今のままでは変わらないらしい。……一手、打たねばならないな)

 

 評定が終わると、義治は静かに退室する。

 その表情はひどく張り詰めていた。

 

 *

 

 六角義治が後藤賢豊を討ち、六角承禎を追放した。

 その報を聞いた俺は、思わず知らせを持ってきた山岡景隆の肩を揺さぶっていた。

 

「山岡殿ッ! それは本当なのか!? 義治様が後藤賢豊殿を討ち、承禎様を観音寺城から追放したというのは!」

 

「信じ難きことなれど、事実です」

 

「そうか、そうか……」

 

 あまりの事態の急転ぶりに頭の整理が追いつかず、頭を抱える。

 聞いたところによると三好と俺の対応について揉めたことが原因らしい。

 

「追放された承禎様は、蒲生定秀殿を頼り日野城へ向かったそうです。我々の去就はどう為されますか?」

 

「……流石に考える時間をくれ。ちと即断できる内容じゃない」

 

「されば、黄昏時に評定を開きまする。それまでに素案をお考えください」

 

 言うと、山岡殿が部屋から退室する。

 それを完全に見送ってから、俺は大きくため息をついた。

 

「いや、義治様。何してんだよ」

 

 こみ上げてくる怒り。

 今は三好長慶が天下を獲る最終局面に入っている。六角家の生き残りを考えると間違えてはならない大事な局面だ。

 

「だというのに、なんで親子で喧嘩するんだよ。あいつらは阿呆かよ」

 

 これで状況は最悪になったと言っていい。

 西には戦意剥き出しの三好、東は内乱。

 援軍もなく、敵軍の前に立たされている形となる。

 

『私が思いますに、六角は貴方が仕えるに値しない家ではないかと。莫逆の友に刃を向けてまで尽くす価値はあるのでしょうか?』

 

 不意に松永久秀の言葉が頭に過ぎる。

 ああ、確かに。今ならば六角を捨てて三好に奔るにはいいかもしれない。

 しかし、それでは話が違う。

 俺は定頼様に六角の命運を託されたのだ。長政と歩む未来を切り捨ててまで、六角に残る決断をしたのだ。

 我が身が怖くて他家に逃げてはあの日々の苦悩が無為になる。

 それは、許せなかった。

 

「腹を括るしかないな……」

 

 刀掛けに飾られている定頼様の刀を佩く。

 貴重な刀だったから、普段使いはしてこなかった。惑いまくっていた俺には勿体なかったから敬遠していたということもある。

 

「俺は、家中を乱した義治を許さない。さりとて、承禎様が返り咲くのも紀之介たちのことを考えると気が引ける。……となると、俺が立つしかない」

 

 俺が六角家の当主になる。

 今まで考えたことはなかった。あくまで俺は一門の一人で支える立場である。そう認識していた。

 けれども、この定頼様の刀を佩くからには覚悟を決めなくてはならない。

 俺が六角を守る、と。

 

 *

 

「そうか、六角承禎が追放されたか。いい気味だな」

 

 北近江の小谷城にも、観音寺の変事は伝わっている。

 報告を聞いた長政はまず六角承禎の凋落を鼻で笑った。

 

「殿はどうなされます?」

 

 側に侍る藤堂高虎が問う。

 野良田の時は一介の侍大将に過ぎなかったが、以後はその武勇と怜悧さで頭角を現して遠藤直経に次ぐ長政の側近にまで栄達を重ねていた。

 

「幸いなことに厄介な高村は西の端の瀬田にいる。この隙に六角領に侵攻し攻め滅ぼす。今の情勢ならば六角家中からの内通者も出てこよう。高虎は三好への取り次ぎを任せる」

 

 力強く長政は宣言する。

 直経も高虎も異議を唱えることはない。

 浅井家にとっては最大の好機が訪れていた。

 

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