転生先の学友の顔が強すぎる件   作:流水麺と豪州侍

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第22話 貴公子

 

【挿絵表示】

 

 

 完全に出遅れた。

 私は、高村の陣容を見て焦燥を募らせていた。

 箕作城は落とし、日野の蒲生家は城こそ落とさなかったものの、野戦でその兵力を削いだ。

 承禎と高村の連絡を断ち、横槍を排した上で万全の状態で連戦後の高村と戦い、討つ。

 その甘い目論見は音を立てて崩れていった。

 

「流石は六角高村ですね。釣り出して囲み、討つ。この戦運びをこのような明らかな守勢有利の地で成すとは……」

 

 高虎もまた伝え聞いた高村の戦ぶりを知って身震いをしていた。

 

「さて、お二方。敵を褒めるのはよろしいですが、どう相対するか決めねば、始まりますまい。軍議を、お願い致しまする」

 

 直経に促されて、冷静に考える。

 そうだ、次に高村のその機略は私たちに向けられるのだ。

 浅井は一万、高村は六千。歴然とした兵力差があるが、高村相手にその程度では優位に立てないことは明らかだ。

 策では勝てない、ならばやはり勇で挑むしかないのだろう。

 

「直経、軍議は不要だ。一気呵成に高村を攻める。堅陣が完成する前に崩す。相手は連戦で疲れているし、日野からの援軍はない。今こそが我らの好機なのだ」

 

 直経にすぐに出陣の準備をさせ、敵陣を視界に収める。

 ……卑怯かもしれないが、許せ新十郎。それが、私たちの選んだ道だ。

 胸に微かに残る罪悪感。

 私はそれを踏みしだいて、馬を駆けさせた。

 

 *

 

 長政の攻勢は苛烈を極めていた。

 義治が残した陣地を活かして守ってはいるが、その勢いは凄まじいものがある。こっちが作っている陣が完成すれば多少はマシになりそうだが、流石にそれは長政は許さなかった。

 

「やっぱり長政の突破力は狂ってやがるな……」

 

 櫓の上から軍勢の先頭を駆ける長政を見下ろす。

 武勇に優れてはいるが、俺には及ばない。しかし、兵の鼓舞となると話が違う。

 

「こうやって遠くから見てもあれが長政だとわかる。近くにいる兵には言うに及ばず。その存在感は俺が持ち得ないものだ」

 

 長政は元が絶世の美少女だが、幼少期を俺以外には男として通せる中性さがある。それは今も健在で胸さえなんとか誤魔化せれば、絶世の美少年に化ける。

 そんな美少年が最前線で敵を討つその姿は将兵にとってはさぞ鮮烈に、頼もしく見えるだろう。先頭でのあまりに見事すぎる武者ぶりでいつしか長政は『江北の貴公子』と渾名されるようになっていた。

 

「山岡殿、前線の状態はどうなってる?」

 

「浅井軍が圧してはいますが、完全には圧し切るほどではないですね」

 

「直ちに崩壊するほどではない。かといって被害は多いってことか。……嫌な流れだ。押し止めなくてはならないか」

 

 呟いて手元の地図に目を落とす。

 長政は川を背にして日野側の盆地を攻め立てているような形だ。

 その川を遡っていくと日野側の盆地の東部から流れ出でているのがわかる。盆地ほど広くはないが、ある程度開けていて回廊になっていた。

 

「敵の勢いを落とすならば、やはり力の集中を妨げるのが楽だ。ここは中入りだな」

 

「しかし、義治の時は不発に終わりました。あまり得策とはいえないのでは?」

 

「あれは半端な奴を使った俺が悪い。あと山越えだから騎馬を使わなかったこともある。だから、今回は俺自身が騎馬で往く」

 

 最精鋭を楔にして崩す。それで乱して時間を稼ぎ、陣を完成させる。そうなれば、ややこちら側に有利な持久戦に戦況を変えられるだろう。

 

「あと、山岡殿。長政の後方の国人たちの調略も準備しておいてくれ。日野の兵が蹴散らされている以上、どうにもこの近辺だけでは決め手に欠くからな」

 

 言うと、俺はすぐに隊の準備を始める。

 策単体としては平凡なものだからいずれ長政なら気づくだろう。ならば、少しでも先んじた方がいいような気がした。

 

 *

 

「……来たな……!」

 

 第六感と言うべきなのだろうか。

 微かに東方から地鳴りのような音が近づいているのが聞き取れた。

 おそらく高村が動き出したのだろう。

 あいつはこのまま私の優勢を座して見ている人間ではない。なんらかの方法で手を入れてくるのは予想できたことだった。

 

「磯野隊と宮部隊を左方に回せ。敵の横撃を許してはならない」

 

 対応として磯野員昌と宮部継潤を起用し守らせる。

 彼らもかなりの勇将だ。隙を突かれたならばともかく、あらかじめ告知されている相手に不覚を取るほど安い武将ではない。

 

(……それでも、不安なのはあいつだからかな)

 

 野良田では私が名を上げたが、その後の畿内での戦い……特に石山崩れは高村の名声を確固たるものにした。

 今の高村は多少の劣勢ならば力ずくでひっくり返して来そうな、そんな怖さを感じる。

 

「やれやれ、いささか水を空けられてしまったようだが、私とてこのままでいるつもりはないさ」

 

 意識を戦に戻して指揮を取る。

 ともあれ高村が手を入れるほど戦況はこちらに傾いている。速戦即決を志した方が良いだろう。

 

(近江の南北を代表する若き将が再度激突する。……まるで東国の武田と上杉のようだ。かつては同じ学び舎で過ごした幼なじみだというのにな……)

 

 運命の意地悪を思わずにはいられない。もし、どちらかが妥協していれば、近江は統一され、三好にも負けない天下取りの有力候補となれただろうに。

 しかし、夢想は夢想でしかなく、現実を乗り越えられるものではない。

 仕方なく、私は左方の雄敵を睨みつけた。

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