転生先の学友の顔が強すぎる件   作:流水麺と豪州侍

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第23話 暴れ馬

 

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 どうやら俺の中入りは戦況を加速させたらしい。

 浅井軍の横腹を突き、勢いを抑えようとする俺と、勢いを削り落とされる前に日野側の盆地に入ろうと激しい攻勢を加える長政とそれを受け止める高村軍。

 

(ちっ、被害は明らかに増えてるな。長政め、勝つにしろ負けるにしろ六角の勢力を徹底的に削るつもりだな)

 

 悪態をつきながら、磯野員昌の首を刎ねる。宮部継潤はすでに敗退し、戦場の北側に逃亡していた。

 

「どうやら、あの2人では止められなかったようですね……!」

 

 そのまま浅井に横撃を加えようとしたところ、新手がその行手を遮る。

 隊列の先頭に立つ姫武将の姿には見覚えがあった。

 

「野良田での餅の恩。忘れたわけではございません。しかし、今は戦さ場なれば。六角高村殿、その首頂戴致す」

 

 すらりとした長身に腰まで伸びる栗毛と黒が混じった長い髪。

 その冠絶した美貌と存在感はなかなか忘れられるものじゃない。

 

「あの夜の姫武将か……!」

 

 俺は囚われている彼女しか知らなかった。しかし、現在目の前に立ちはだかる彼女はあまりに勇壮だった。

 

「私の名は藤堂与右衛門高虎! 敵に囚われた哀れな姫武将としてではなく、貴方を破った将としてその名を刻ませて頂く!」

 

 その名を聞いて俺は目を見開いた。

 藤堂高虎といえば、主君を変え続けて最後は伊勢伊賀二ヶ国の大名にまで成り上がった武将だ。その経歴をざっと見るに槍働きに築城、謀でもなんでもござれの万能武将であることがわかる。

 

 いざ相手するとなると、ここまで恐ろしい存在は珍しいかもしれない。

 

「すでに知ってはいるだろうが、もう一度名乗る。六角高村! 江南の暴れ馬とは俺のことよッ!」

 

 名乗りを上げると同時に馳違う。

 一合、二合、三合。何合か馳違いが続いたのち、俺たちは距離を取った。

 ……姫武将にしては膂力がある方だな。やはり性差よりかは体格がものを言うのだろうか。長政よりは上だ。

 手応えを反芻しながら、高虎の方を見やる。

 相手の方は多少肩で息をしているが、まだ余裕はありそうだ。

 

(これは厄介な相手だな。速く沈めるか)

 

 腹を決めた俺は猛然と高虎に向かい、一太刀を繰り出す。それは受け止められたが、これで決められるとは思っていない。

 ガラ空きになった高虎の腹に二本目の……定頼様の太刀を抜き放って斬り付ける。

 

「うっ……」

 

 これにはたまらず高虎もよろけ、槍を握る力が緩んだ。

 その隙を見逃すほど、甘くない。

 返す刀でもう一度、腹を斬る。

 フリーになった一本目の太刀で袈裟懸けに斬り下ろし、二本目を納刀。息を吐かせぬ間に空いた左手で高虎に掴みかかり、馬上から落とした。

 

「なっ……!」

 

「卑怯で悪いな。だが、お前ほどの剛の者と長く遊んでいられる時間はないんだ。討ち取るところまでいくのは手間だからまた捕らえさせてもらう」

 

 そのまま押さえつける。じたばたと高虎は暴れたが、それも太腿に太刀を突き刺して無力化させた。

 一口に捕らえるといっても、こいつ相手には中々の難事だ。正直、野良田の時は何で捕まったんだろう、と思うぐらいには手強い。

 だから、俺は執拗に搦手を使わざるを得なかった。

 

「くっ、二度も縄目の恥など受けたくはない……! 殺せ……!」

 

「嫌だよ。手間だし、それに助けた奴を殺すなんて、まるで俺が馬鹿みたいじゃねえか」

 

 屈辱に震える高虎を完全に制圧し、縄でぐるぐる巻きにして幕営に放り込む。死なれたら困るから治療を命じておいた。

 

 

 ともあれ、ようやく浅井の側面までたどり着いた。

 長政が苛烈な攻勢を仕掛けている分、脇の警戒は緩い。

 少し突っ込んで乗り崩したら、瞬く間に隊列は意味を為さなくなった。

 

「ぎゃあ、六角高村だ! 逃げろーッ!」

 

 一部の兵は逃げようとしたが、あいにく背後は川に阻まれており次々と溺死するか討たれてゆく。

 

「これで浅井軍は崩れましたな。……それで、どうされるので?」

 

「ここで勝敗をつけれたら一番楽だが、八百しか率いてないから深追いは厳禁だ。帰るぞ」

 

 適度に浅井軍を崩し、俺たちは本陣に帰還した。

 完全に大勢を決するとまではいかないが、さすがに浅井側も事態の収拾を図る必要はあるだろう。

 少なくとも、もう初めのようにがむしゃらには攻めてこれないはずだ。

 

 *

 

 高村の読み通り、中入り後の浅井の動きは穏やかになった。

 これは藤堂高虎というブレーンが敵の手に落ちたこと。横腹を見せたら、三軍をもっても防げない高村による強襲が行われるのではないかという危惧が生じたことが理由に挙げられる。

 また、高村軍も陣を完成させたため、浅井軍をより能率的に退けられるようになっていた。

 要するに、戦況は完全に膠着状況に陥ったのである。

 そうなると、不利になるのは浅井方だった。

 

「目賀田殿はどうやら、高村方に走ったようです。三雲殿も同様でした」

 

「そうか……」

 

 国人の寝返りに長政は頭を抱える。

 

(義治と義賢には人望がなかった。だから、他国の私にも付く豪族や国人は一定数いた。だが、流石に高村相手には分が悪いか……)

 

 いくら勢力が増したとはいえ、南近江の国人や豪族にとって長政は他国の人間でしかない。さらにいえば、武名においても畿内全体に名が売れている高村に劣る。

 時間が経つにつれて、当初寝返ってきた国人や豪族が高村方に鞍替えをし始めていた。

 

「このままですと、退路を塞がれかねない勢いですぞ。……御決断を」

 

 神妙な顔で直経が進言する。

 北近江から駆けてきて数週間。駆けている間はまぎれていた疲労が膠着した間に噴出し始めていた。

 

(そろそろ、引き際かもしれないな……)

 

 高虎が囚われたと聞いた時、嫌な予感はしていた。

 その後、隊列を崩されて統制が乱れた。その再編に時間がかかり、今に至る。

 

(おそらく、高村はこの絵図を初めから描いていたのかもしれない)

 

 力付くで覆すだけの兵力はまだある。まだ完全に負けたとは言い難い。

 しかし、それをやっては浅井も六角ももう立ち直れなくなるだろう。そのことを長政は理解していた。

 感情と利害、その二つが長政の中でせめぎ合う。

 そして、苦渋の果てに長政は決断する。

 

「高村に和議を申し込む。……戦はもう終わりだ」

 

 すぐに長政から乞う形で和睦の使者が高村に送られる。

 その使者が持ってきた書状を見て高村は「やっぱり、長政はわかってるな」と破顔した。

 

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