転生先の学友の顔が強すぎる件   作:流水麺と豪州侍

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最近、話を短くまとめることができなくなってる気がする……。(今回も三千字超)


第28話 亀山合戦

 

 滝川一益の進軍は順調だった。

 はじめに木曽三川の川幅や長島のにゃんこう一揆の都合上、陸路を使えず津島から舟運で伊勢に上陸するというハプニングがあったものの、入国したのちは北伊勢に蟠踞する豪族たちを順調に降している。

 その結果、上陸時には三千だった兵力が五千にまで膨れ上がっていた。

 

「あとは関盛信の亀山城を落とすだけじゃな、ここさえ落とせば北伊勢の平定は成る。そこまでいったら、少しばかり休むのじゃ」

 

 亀山城を包囲しながら、一益は呟く。

 肩口で切り揃えられた艶やかな黒髪に、小柄な体躯。年はかなり幼く、本来の元服の年すら迎えていない。

 しかし、そんな童女が北伊勢を切り従えていったのである。

 北伊勢の諸将はその頭ひとつ抜け出た才幹に震えつつも、どこか信じられない思いでいた。

 

「我らほど関盛信は甘くはありませぬぞ、蒲生家を通じて近江の六角高村に通じておりまする。かの者は畿内の勇将、尾張の弱兵では瞬く間に蹴散らされてしまうでしょうな」

 

 北伊勢の諸将の一人が一益に注進する。

 関盛信。

 各々のめいめいに割拠するほとんどの北伊勢の諸将と異なり、父祖の代から六角側の豪族としての立場を鮮明にしている。

 所領の亀山は伊賀と近江へと繋がる東海道を抑える位置にあり、北伊勢どころか伊勢の要といえた。

 

「高村は来ぬ。そうのぶなちゃんは言っておったのう。だから、高村が観音寺騒動の後処理をしているうちに北伊勢を亀山まで切り取るつもりだったのじゃ」

 

 不安がる北伊勢の諸将に一益は言い聞かせる。

 現状、自前の諜報網でも近江伊賀方面で軍が動いたという話は聞いてはいなかった。

 

「まあ、大丈夫じゃろう。とはいえ、備えは忘れてはならぬ。念のためじゃ、西方に柵と逆茂木を建てておくのじゃぞ」

 

 そう言って一益は諸将を帰らせ、昼寝の体勢に入る。

 なんだかんだで北伊勢戦線は堅調だった。ただ、一益が午睡を楽しめるだけの暇はなかったのだが。

 

 *

 

「なんじゃ、うるさいのう……」

 

 一益が午睡から目覚めたのは、おやつ時だった。

 耳を澄ませる。すると、馬蹄の音が西方から微かに聴こえてきているのがわかった、

 

「高村は思ったよりもきっちり防諜を徹底していたようじゃのう、これだから甲賀はあまり好きじゃないのじゃ、やりづらくて困るのう」

 

 ひとりごちる一益。

 尾張に来るまでは甲賀で生きていた一益には、その実力の高さを知悉している。

 

「甲賀の追い忍びはしつこかったのう……。今、思い出しても背筋が凍るのじゃ。まぁ、備えはしてあるしなんとかなるじゃろうな。さて、六角高村とやらの手腕を見せてもらうとするかの」

 

 一益は北伊勢の諸将に使者を出し、西方を備えさせる。

 甲賀を出たとはいえ、一益には忍びの技がしっかりと刻まれている。午睡をしてもなお、気はゆるんではいなかった。

 逆に今回は高村の方が愕然とすることになる。

 

「げえっ、がっちり備えをしてあるじゃねえか。これじゃあ、迂闊には攻められねえな」

 

 亀山城に着いた高村を出迎えたのは、城攻めの陣を守るようにずらりと配置された馬防柵と逆茂木。これでは、騎兵による駆け戦は到底望めそうにない。完全に一益は野戦築城を組み上げていたのである。

 

「とりあえず出来ることをやって、それから考えるか」

 

 気を取り直して高村はひとまず亀山城にとりついていた兵を蹴散らし、亀山城南の平地に陣を構えることにした。

 

「さしもの高村も堅陣の前にはなす術もないといった形じゃな」

 

 案外な手応えに一益は首をひねる。一益自身は精強さを誇って攻めかけてくるものと考えていたが、違った。

 こうなると考えられるのは被害を抑えた長期戦による兵糧切れを待つ作戦だろうか。

 

(仮にそれが目的であったとしてもじゃ。くっきーが後方から兵糧を送ってくれておるからの、制海権がない六角では糧道は断てぬから無駄じゃな)

 

 九鬼嘉隆には今回は桑名で補給に従事してもらっている。この水軍力は六角や浅井、斎藤にもない。洛東では織田が有する特技であった。

 

 *

 

「さてさて、どうするかな……」

 

 日が落ちて両軍が休息に入る中、俺は一益の陣容を観察していた。

 

「馬防柵が三段構えで空堀も柵の前にちょっと浅いけど掘っている。鉄砲の数は分からんが、少なく見積もってみても百はあるだろうな。端的に言えば、すごいめんどくさいやつだぞこれ……」

 

 空堀に水が引き入れられてないだけまだマシってところだろう。それでもやはり滝川一益。鉄砲の運用の理解については深いものがある。

 

(鉄砲に限らず、飛び道具ってのは一方的に相手を攻撃できるから強いんだ。つまりは敵に近づけさせないことが戦法の前提にある)

 

 長篠の戦いが脳裏を過ぎる。

 俺も知ってる鉄砲が強かった戦だ。あの戦いでは馬防柵で足を止め、三段撃ちで武田騎馬隊を退けている。

 考えなしに攻めるとこっちも武田と同じ轍を踏むだろう。

 

(野戦築城を妨害するのが最善だったが、そこまでは間に合わなかった。向こうの方が兵力が少なく、遠征してきてる身だから長期戦ならこちらが若干有利か? いや、それも場合によりけりだな)

 

 一見すると長期戦が良さそうだが、懸念事項もある。

 中伊勢の長野工藤氏と南伊勢の北畠の動向だ。戦線が膠着している間に織田側に付くようなことがあれば、南北から挟み撃ちを受けてしまう。それだけは避けたい。

 

「となると、目の前の野戦築城をどうにかしないといけないわけか」

 

 魔法でも使えればメラ○ーマとかで一撃なんだろうが、ここはあくまで現実。あれだけの陣を崩すには相当の労力がかかるに違いない。

 

「よし決めた。焼こうか、あれ」

 

 今回は巧遅より拙速を重んずることにする。

 俺はすぐに義定と一氏を呼び出し、作戦の概要を説明し向かわせた。

 

「時間との勝負だよな、あと滝川がどう出るかか……」

 

 本気でやりあう訳ではないにしろ、将二人を突出させる策ではある。危なかったら退くようには伝えているが、それでもいささかリスクは残る。

 

「馬防柵と空堀を埋め立て、明日に総攻撃をかける。……殿の考えはこれで間違いないでしょうか?」

 

 二人を見送ったあと、嘉明が声をかけてくる。

 

「ああ。とりあえず騎兵を縦横無尽に動けるようにするよ。鉄砲隊は制圧力は高いが、斉射運用するときは足を止めなくてはならず、脆い。だったら騎兵で弾幕外から攻撃して隊を乱せばいいだけだ」

 

「そうですな。殿の考えは正しい。しかし、相手もそのことは分かっておりましょう。必ずや阻止に動くはず」

 

「だろうな、滝川一益は正しく鉄砲を用いる将だ。そのことは知ってるはず。……ああ、なるほどな」

 

 ここで嘉明の言わんとすることはなんとなく分かった。俺も考えはしたが、別にそこまではいいや、と採用しなかったことではある。

 

「やるのはいいが、せいぜい助攻ぐらいにしておけ。二兎を追う者は一兎をも得ずって言葉があるからな。まあ、やる気のあるのはいいことか」

 

 ついでに嘉明に千の兵を託し、見送る。

 嘉明は三河でにゃんこう一揆に属し、松平家と対立したのち近江に流れてきたところを拾った。

 その後は一揆に加わる前にやっていた馬屋で培った馬術で軍功を立て、今や侍大将扱いで馬奉行を務めるほどの出世を果たすまでに至る。

 だから、あんまり嘉明のことは心配していない。しれっと軍功を挙げて帰ってくるような気がした。

 

 *

 

 織田陣営は浮かれていた。

 かの六角高村の力量が前評判ほどではない。昼間に城攻めの陣を攻めずに避けたことから、口さがない者がそう言いふらしていたことと、北伊勢平定の終わりが見えて兵に里心が芽生え始めていたこと。この二つが軍紀をやや緩ませていた。

 だが、そんな緩んだ空気は長くは続かなかった。

 

「なんてこった、柵が燃えてやがるっ!」

 

 見張りの一人が一益に慌てて注進する。すると一益は口の端を吊り上げて笑った。

 

「そうか、そこから攻めるのかの。地味に手堅いのう、高村は」

 

 すぐに隊を出し、消火にあたらせる。

 今回の戦において柵は騎馬から鉄砲隊を守るにあたっての生命線である。座して見ている訳にはいかなかった。

 

「じゃが、それだけではないじゃろうて。陣の守りも固めるのじゃ!」

 

 抜け目なく夜襲も想定している辺り、一益は有能ではある。

 だが、結果として攻勢に出た六角軍の動きが上回った。

 

「消火に向かわせた隊が、六角義定の伏兵に襲われております!」

 

「北側守備隊、加藤嘉明に乗り崩されました!」

 

 劣勢の報告が次々と一益に伝えられていく。

 一益はそれでも態勢を立て直そうとしたが中村一氏に弾薬庫を接収されたと知った時、抵抗を諦めた。

 

「こうなってはどうにもならぬの。疾く逃げるのじゃ」

 

 完全に大勢を見切った一益は尾張から連れてきた兵を優先的に集め、退却を開始する。

 

(亀山は、北伊勢の西端。尾張までとなるとかなり骨が折れるの)

 

 姫にこんな長い軍旅をさせるべきではないのじゃ、そう口を尖らせつつ滝川一益は亀山を後にした。

 残された北伊勢の諸将はこれより討たれるか、六角に恭順するかを迫られることになる。

 明朝、中村一氏と加藤嘉明から報告を聞いた高村は「お前ら、えげつねえな……」と軽く引きながらも三人の功を賞したのだった。

 




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