転生先の学友の顔が強すぎる件   作:流水麺と豪州侍

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第3話 お市

 12歳になった。

 この頃になると、男女の性差が見た目にも明らかになってくる。いわゆる第二次性徴ってやつだ。

 ざっくり言うと男子は筋肉質に、女子は丸みを帯びた身体になっていく。

 栄養状態が現代とは違うとはいえ、戦国時代でもそれは例外ではない。

 

「ぐっ、やはり打ち合いで新十郎に勝るのは苦しいか……っ!」

 

 二人きりの道場で猿夜叉丸が腹を押さえてうずくまっている。

 講義が終わった後、俺たちは自主練として立ち合いを何度かくり返していた。

 

「これで4戦3勝か。得物が互いに木刀なら、俺が勝る。それは昔から変わらないだろう」

 

「単純な技量で勝てないのは知っているさ。だが、最近は膂力で押し負けてばかりだ」

 

 悔しがる猿夜叉丸。だが、俺はそんな彼女を直視できないでいる。けして何度も打ちのめして申し訳なくなったからではない。

 

(悔しがるのもいいけどさ、まずはその胸元を直してくれない? ばっちり見えてるんだよなぁ……)

 

 意外にも猿夜叉丸の発育はかなり早熟な方で、同年代の女子の中では一番大きかった。だから、稽古だとかで激しく動くと着物がはだけて双丘が見えてしまうことがある。

 前世分上乗せで精神が歳を食ってるせいか、激しく興奮することはないけど目と下半身に悪すぎる。

 普通、男の娘枠って貧乳から普乳が相場なのでは? 

 俺は訝しんだ。

 

「何をほうけている、新十郎。構えろ! 5戦目だ!」

 

 気づけば、猿夜叉丸が木刀を握り直して構えをとっている。

 勇猛果敢なところは変わっていない。

 

「5戦目をするのは吝かではないが、少し身なりを整えろ。そうした方がそっちもやりやすいだろう」

 

 遠回しに「お前、社会の窓が空いてるぞ」と忠告してやる。それでようやく猿夜叉丸も気づいたのか、すぐさま俺に背を向けた。

 

「新十郎……、お前気付いていたならば、早く言えこの助平が」

 

「言ったところで、どうせ怒るだろお前。自分で気付けよ」

 

 顔を赤くして猿夜叉丸が言うが、ぶっちゃけ自業自得だろう。

 ちなみに5戦目も俺は猿夜叉丸をこてんぱんに打ちのめし、5戦4勝で立ち合いは打ち止めになった。

 

 *

 

 自主練が終わった俺たちは観音寺の城下を散歩していた。

 俺は別の服に着替えただけだが、猿夜叉丸は男装を解いて髪を下ろし、小袖に着替えている。

 こうなると、傍目にはただカップルがデートをしているだけに見えるだろう。実際は猿夜叉丸のストレス解消に付き合っているだけなのだが。

 

「仕方ないとはいえ、やはり男装は気が詰まる。……そういう立ち居振る舞いをしなくてはならないとはいえ、私は女だからな」

 

 猿夜叉丸の足取りも心なしかのびやかなものになっている。

 あの日俺が猿夜叉丸が女だと知って以来、猿夜叉丸は二人で屋敷内で過ごすか、身分を隠して城下を散歩する時だけ俺の前では女として振る舞うようになった。やはり性別を偽るのは、かなりの負荷がかかっていたらしい。

 

「んで、今日は何を食べに行くんだ? たこ焼きか? 八つ橋か?」

 

 観音寺の城下は大叔父にして前当主の定頼様が楽市楽座を始めて以来、発展を続けている。教科書に載っているせいか信長が始めたものだと思われがちだが、本当は楽市楽座の創始者は定頼様なのだ。

 この楽市楽座の効果は大きく、もともと東山道と北陸道、東海道が交わる交通の要所だった南近江に全国の商人が集まるようになった。

 一番多いのは堺商人で、彼らのおかげで大阪の粉物文化はすでに南近江に浸透している。

 

「そうだな、八つ橋にしようか」

 

 言うと、猿夜叉丸は茶店に足を向ける。

 冷静沈着な貴公子を気取ってこそはいるが、甘いものに目がないのだ。

 

「わかったよ、猿夜叉丸」

 

「おい、新十郎」

 

 返事をしたところ、猿夜叉丸は不機嫌になる。

 ……ああ、忘れてたな。

 

「そうだな、女として振る舞っている時は猿夜叉丸は禁句だった。悪かったな、お市」

 

「それでいい。私はお市、しがない武家の一人娘だ」

 

 少し前から、二人きりでいる時に猿夜叉丸は猿夜叉丸呼びを嫌がるようになった。

 理由を聞いたところ、猿夜叉丸は男として振る舞うためにつけられた名前で、響きが女子的に気に食わなかったらしい。

 ならば、と俺が名付けたのがお市という名前だ。

 浅井家絡みの女性ってだけの理由でつけたが、お市はかなり喜んでくれた。

 

「……なぁ新十郎。私は女らしく振る舞えているだろうか?」

 

 八つ橋を食べている時、不意にお市に問われた。

 

「どうした、急に」

 

「少し自信がなくてな。今までが今までだったからな……」

 

「大丈夫だ。可愛い女の子に見えているよ」

 

「可愛いは余計だ、馬鹿」

 

 満足気に八つ橋を食べるお市の姿は疑うべくもなく、一人の女の子にしか見えない。

 この世界では、姫武将という慣習がある。

 お市に関してはやや事情が異なるが、前世とは違って女の子が戦場に出るのはそこまで不思議なことはない。ならば、いつか俺がこんな愛らしい彼女達を討ち果たすことだってあるのだろう。

 そのことを思うと最近憂鬱になる。

 

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