転生先の学友の顔が強すぎる件   作:流水麺と豪州侍

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新章開幕です。なお、やってることは前章の延長戦でしかないというジレンマ。


第5章 Hot war is decided
第38話 熱い戦争


 

 日ノ本を揺るがした応仁の乱から早百年。

 麻のように乱れた戦国の世もそれほどの月日が流れれば、ある程度は群雄も淘汰されてくる。

 九州では西国の雄でかつて上洛まで果たした大内が滅んだ後は、大友宗麟が六か国の女王として君臨。南の薩摩・大隅・日向の三州では島津が台頭し始めた。

 中国は大内の後は毛利がその遺領を奪い、ついに尼子を滅ぼして陰陽十か国の超大国へと躍進。四国は長慶ら主柱を失ったとはいえ、三好家が未だにしっかり讃岐と阿波を中心に影響力を持っている。

 関東に目を向ければ、北条が南関東のほとんどを抑え、上杉は越後を拠点に各地に派兵を繰り返し、甲信の武田は駿河を手に入れていよいよ上洛への足がかりを得た。

 このように多士済々の戦国乱世だが、その最前線は洛東にある。

 今や『畿内最強』と称される六角高村と、桶狭間を皮切りに破竹の勢いで勢力を拡大した『尾張の風雲児』こと織田信奈。

 この二大勢力の動向を諸国は固唾を飲んで見定めようとしていた……。

 

 *

 

「……して、やられた……!」

 

 東山道を騎馬の一団が西へと行軍していた。

 先頭に立つのは、怜悧な美少年……江北の大名・浅井長政である。

 彼はその端正な表情を歪ませて、後方……先程まで滞在していた稲葉山城を睨みつけている。

 墨俣の会戦で義龍を降伏させ、稲葉山城を得た信奈は戦後処理の評定に長政を招いた。

 その稲葉山城での評定で決まったのは、稲葉山城と井ノ口の町はそれぞれ岐阜に改名。斎藤義龍の国外追放。そして、浅井長政との婚姻は行わず、ごく普通の軍事同盟の方向に転換するというものであった。

 

(これで、父上の説得が難しくなった……!)

 

 執拗に長政が婚姻同盟を織田信奈に求めた理由。

 それはやたら織田への評価が低い父・久政を納得させるためだった。

 いっときは長政によって幽閉された久政だが、短期間で復帰。大御所として影響力を持っていた。長政を推した家臣たちからすれば苦々しい状況だが、そも長政が立ち上がった理由が母を思う孝行心だったため、長政自身はこれを再度除くという手段を取り得ない。

 とはいえ、織田と結びきれなかった浅井の立場は辛い。朝倉の後ろ盾こそあれど、洛東の二大勢力を相手にするのは流石に分が悪いのだ。

 

「この国力差を説明して、父上には否応なしに納得していただくしかないのだろうな……」

 

 長政の胃はかすかに軋みを上げていた。

 

 *

 

 伊勢国、桑名。

 濃尾との国境に当たるこの地に緊張が高まっていた。

 当初は織田家が橋頭堡を築いたこの地は、織田家にとってはまさに喉元に突きつけられた匕首と言っていい。ここを放置すれば、織田は上洛や武田に対する防戦を行う際、むざむざと背後を高村に刺されることになるのは明白だった。

 

「まあ、敵の狙いが明白なのは俺としてはありがたいんだけどな」

 

 高村も当然このことを理解しており、周辺の防備を固めていた。

 そんな中で北から二騎の関破りが現れたという報は諸将を動揺させる。半ば大袈裟に騒ぎ立てられて、手勢を差し向けられ彼はすぐにお縄となったのだが、その関破りの正体はさらに桑名を震撼させることとなった。

 

「なるほど、こっちにあんたらは来たわけか……」

 

 関破りを引見した高村は親しげに声をかける。

 何をかくそう、関破りの片割れをすでに高村は見知っていたからだ。

 

「次にあのうつけ姫とことを構えるのは、そなただろう? ならば、儂が足を運んでもおかしくはない」

 

「確かに道理だな、義龍殿。して、要件は?」

 

「来たるべき大戦で儂を軍陣の端に加えてもらいたい」

 

 そう言って義龍は高村を見据える。没落したとはいえど、未だにその迫力は衰えない。そんな義龍に対し、高村はぽりぽりと頭をかきながら答えた。

 

「それは俺としちゃ願ってもないことだ。ただ、いいのか? 俺は領地を守るつもりではいるが、現状は濃尾の方に拡大しようとする意志はない。それでは、義龍殿を美濃に帰すことはできないだろう」

 

 高村の懸念はそこにある。義龍の参陣は手駒が増えるというメリットがあるが、それに対する適切なリターンを用意できないことを理解していた。

 

「別に構わん。まずはあのうつけ姫に一泡吹かせられれば良い」

 

 その高村の気遣いを義龍はふん、と笑い飛ばす。

 

「すまないな、義龍殿。あんたの参戦は正直、本当に助かっている。これぞまさしく天祐といったところだ」

 

 笑って高村は陣営に義龍を迎え入れる。

 連れてきた手勢はおらず、一人娘の龍興のみだが、美濃国内にはまだ多少は影響力が残っているだろう。使い方によってはかなり有用な駒だ。

 その後も、高村は準備を進めていく。

 だいたい義龍が参陣してから二週間ぐらい経った頃だろうか。

 織田信奈が岐阜から三万の兵を率いて、伊勢への街道への行軍しているという知らせが高村の耳に入ったのは。

 

「ついに、来たか……。織田信奈……!」

 

 報を受けた高村は瞑目する。

 いつか、この時が来ることはわかっていた。

 未来知識や地政学的にもこの戦いは避けられるものではなかった。

 だから、高村は長く準備をしてきたつもりではある。

 

「……不思議だな。もっと心がざわつくかと思えば、案外そうではなかった」

 

 やれることはやり切ったという自負だろうか、高村は慌てることはなかった。

 

(お市と歩む夢を切り捨て、俺は六角を選んだ。そして、目をかけてくれた定頼様の血筋を脇に追いやり、自らが当主の座を奪い取った。羅列したら割とろくでもない人間だな、俺)

 

 自身の来歴を振り返り、高村は苦笑いを浮かべた。しかし、それは次第に好戦的なものへと変わっていく。

 

「だが、だからこそだよ。この戦をうまく処理して六角を残さねば、今までの全ての意味がない。まあ、覚悟しておくんだな、織田信奈」

 

 洛東の王を、ひいては天下の次の局面を決める大戦の火蓋が、この時切られる。

 熱い戦争(たたかい)が始まろうとしていた。

 

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