転生先の学友の顔が強すぎる件   作:流水麺と豪州侍

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第52話 夢の続き

 

 桂川高槻合戦から三日。

 俺は降伏を打診してきた松永久秀を引き連れて京に来ていた。

 六角が出兵した二日後に織田軍は出陣し、洛南の方で三好側の掃討にあたっていたらしい。

 

「高村。さきの合戦のことは聞いたわよ。大活躍だったそうね」

 

 信奈公は言うが、今回に関しては特に何かやったわけではない。高槻まで来たらなぜか久秀が離脱して三好本軍が崩れていたのだから。

 だから、6割ぐらいは久秀の戦意を挫かせるきっかけとなった宣教師と懇意になった俺の左隣に座る相良良晴の手柄だろう。

 

「まあ、三好本軍の将を討ち取ったのは俺たちや荻野直正殿か。その分の褒賞はもらう。だが、他の手柄は相良と明智に分配してやってくれ」

 

「それはわかってるわよ。あげられる土地はないからひとまずあんたには名物を渡しておくわ。今井宗久に聞いたところ、それは八千貫ぐらいの価値はあるそうよ」

 

 言うと、信奈公はぽいっとその名物を投げ渡してくる。

 俺があっさりキャッチしたからいいが、その様子を見て、茶の湯に造詣の深い光秀は慌てていた。まあ、形のない権威に対してあまり価値を見出さないのは、信奈公らしい気がする。

 ……というか、これ曜変天目じゃねえか。前世の茶道部の女子たちに見せたらあいつら発狂するぞ。だって現存してるやつ確か全部国宝だもん。

 

「ありがたく使わせてもらう。俺はあんまり得意じゃねえが、畿内の諸将との付き合いには必要だからな」

 

 実際のところ、畿内の諸将は教養を重んじる傾向がある。茶の湯しかり歌しかりだ。最近では信仰するとまではいかないものの、キリスト教や南蛮の文化もはやり始めている。とかく、政治以外の共有する世界観を持つことが交流には欠かせない。

 俺の後は良晴と光秀の論功行賞を行い、軍議は遂に本題にたどり着く。

 

「大和の領主を務めさせていただいております松永久秀。罷り越しましたわ」

 

 花のように美しく笑う久秀。一応降将だというのに、どこかふてぶてしさすらあった。

 

「そう、あんたが。よくもまぁ謀反してくれたわね。でも、降伏してくれた以上、命は取らない。それは保証するわ」

 

「感謝いたしますわ、信奈様。そうそう、渡したい物がございましたの」

 

 言うと、久秀は傍らに置いていた木箱を持って信奈の前に進み出る。

 

「これは?」

 

「わたくしが所有する大名物の一つ、九十九髪茄子ですわ。これを信奈様に差し上げようかと」

 

 久秀が言うと、諸将が特に畿内在地の将が一斉にざわめいた。

 

「なんですと……!」

 

 明智光秀に至っては清楚美少女がしちゃいけないあんぐり顔をしていた。

 だがまあ、こういった反応になるのも致し方ない。

 九十九髪茄子と平蜘蛛の茶釜。

 この二つの大名物が松永久秀を畿内屈指の教養人としての名声を確かな物にしていたのである。それを差し出すとなるといよいよ久秀は本気らしかった。

 

「あんたの象徴とも言える大名物、高槻の寝返りによる功績。ここまでやられたらしょうがないわね。弾正、大和一国は安堵してあげるわ!」

 

 このパフォーマンスが効いたのだろう、信奈公も久秀に対して強い処置は取れなかった。

 無論、討たれかけた光秀は反論したが、信奈公は取り合わなかった。ただ無警戒というわけではなく、一つだけ久秀に下問している。

 

「ねえ、あんた。三好長慶を暗殺したというのは本当?」

 

 畿内に根強く残る風聞である。いわく、松永久秀は六角高村と図り三好家を乗っ取ろうとしているというものだ。確か石山崩れの後くらいから出回っていたのではないだろうか。

 

「ありえませんわ! あのお方はわたくしの半生を捧げた方にして共に夢を見た同士。わたくしはあの方を守り、天下を治めるために戦っていたというのに!」

 

 強く抗議する久秀。彼女が言うようにこれは完全に事実無根であり、むしろ俺は久秀と手を組むどころかなんとか追い落とそうとしていたわけだが。というか、その一環で俺も久秀に関する悪評や陰謀論をばら撒いていた側である。

 

「俺としては少々久秀は過激なところがあるってところだな。明確な敵対をした義輝公や三好家中の反久秀派以外にはそこまで人道にもとることはしてないと思う。こいつに関する悪い噂は三割ぐらいこちらが流したものだしな」

 

「そう、高村の裏付けがあるならいいわ。それで弾正、あんたの望みは? 大和一国は安堵してあげたわ。けれど、あんたはそれで満足する人間じゃないでしょ? その欲するところを理解できなければ、私はあんたを使うことはできないわ」

 

「長慶様と見た夢の続きを再び見ること。わたくしや南蛮人のようなあぶれ者を排斥することのない秩序。信奈様とならそれが叶うとわたくしは思っていますわ」

 

 信奈の問いかけに久秀は笑顔で答える。

 それを見て、信奈公は微笑んだ。

 

「デアルカ! 久秀、歓迎するわ。これからは私と共に夢を見ましょう。私の目は天下だけじゃなくて海の向こうにも向いている。波斯も南蛮も私にとっては分けるものでも追い立てるものでもないわ!」

 

 そう言って、信奈公は久秀に右手を差し出す。

 

「ありがたき幸せ。よもや、再びわたくしの夢を理解してくれる方に出会えるなんて……。長く生きてみるものですわね……」

 

 久秀はそれを感慨深げに掴み、頷いた。

 

 *

 

 戦後処理が終わって少しした頃に、ついに朝廷から正式に今川義元への将軍宣下の綸旨が伝えられた。足利義栄に与えられていた将軍位は取り上げられたため、これで正統性では今川幕府が優位に立つことになる。

 ある意味、節目の時ではある。

 だから、俺はずっと温めていた案を建白書にして信奈公に提出していた。

 

「京の再建ね……。確かに天下人がやらなきゃいけないことではあるわね」

 

「かなり金と時間がかかるが、これを果たせば織田の声望は抜きん出る。今までの天下人が出来なかったことだからな」

 

 京の町は長きにわたる戦乱で荒れ果てていた。応仁の乱と天文法華の乱で焼き払われたダメージが未だに抜けていない。今は上京と下京に分かれているが、それだって平安時代や応仁の乱以前の市域に比べれば狭い。

 一応、三好長慶をはじめとした京を掌握した勢力が再建を試みた形跡はあるものの、ことごとく完遂には至らなかった。

 

『わしは六角や義晴さまの為に尽くしてきたが、京には悪いことをした。叶うならば、今一度京に上り、焼いてしまった街を再建したい』

 

 度々、晩年の定頼様が漏らしていた後悔。

 六角の最盛期を築いた英主がただ一つ残した瑕疵、それが衰退しきった京の姿だった。

 当主となったからにはいつか定頼様の代わりに果たしたいと思っていた。

 

「そうね、あんたの案を採るわ。ただ、六角からも資金は出しなさい。ただでさえ焼けた範囲が莫大だもの。織田の財布だけじゃ足りないわ」

 

「いい。もともとそのつもりだ。だからまぁ後は宜しく頼む」

 

 また正家にどやされるだろうなぁ、と頭をかきつつ信奈公の前を去る。

 財政的にはよくない。が、織田と六角の権威づけにはなるだろう。さらに言えば、これで一定の支出をすることで織田側からの警戒を緩めることができるはずだ。

 

(結局、織田政権は一枚岩ではないからな。畿内を抜きにしても、織田松平、六角、浅井で三つの利害が存在する。今はうまいこと噛み合って鼎立しているだけに過ぎないのだから)

 

 外敵ならともかく、自分達の落ち度で畿内を乱したくはない。そのためにはやはりある程度の政治的配慮は必要だった。

 

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