転生先の学友の顔が強すぎる件   作:流水麺と豪州侍

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そろそろシリアスタグ入れた方がいいかな……?


第8話 顔見知り

 浅井賢政の脱走から始まる一連の家督奪取劇は、六角家には内外から衝撃を与えた。

 すぐさま諸将が観音寺城に集められ、どう対応するのか決めるための評定が開かれた。

 

「おのれ、猿夜叉丸……! このわしをコケにしおって……!」

 

 と言っても、怒り心頭の義賢様から察するに浅井に対する征伐が行われるのは確定的に明らかで、すぐに2万の軍で浅井を攻めると決まった。

 

(ついに、この時が来てしまったか……)

 

 評定が終わり、屋敷までの道を歩く。

 あの別離の夜からこうなることはわかっていた。

 しかし、それでも俺の心のざわめきは抑えられそうにない。

 

「顔が暗いよ、新十郎。大丈夫?」

 

 それを見かねたのか、義定に声をかけられた。

 六角次郎義定。現当主の義賢様の長女で、長い茶髪が特徴的な姫武将である。

 一見ほわほわしているが、あなどるなかれ。弓に関しては六角一門随一の腕を誇る剛の者だったりする。年は俺と同じだが、弓が絡むことに関しては今まで一度も勝てたことがない。

 

「義定か。いや、大丈夫だぞ」

 

「他の人はともかく、わたしには分かるよ。猿夜叉丸のことでしょ?」

 

 猿夜叉丸についで仲が良かったのが義定だ。少しの強がりなど易々と看破されてしまう。諦めて俺は口を割ることにした。

 

「ああ、そうだよ。猿夜叉丸のことだよ。俺はこれから無二の友と戦わなければならない。これで、思い悩まずにいられるか!」

 

 思わず叫んでしまう。

 戦わなければならない理由は明確。しかし、戦う動機は義務感のみ。とはいえ、戦わない選択を放棄した以上は敵として立ち塞がなくてはならない。

 そのためには、心を殺さなくてはならない。

 決めた以上は繰り言を言いたくはない。

 そんなルールを半ば自覚的に課していたが、どうやら限界だったらしい。

 

「そう、だったらわたしの前で隠すのはやめようか。体面上隠さないといけないのは分かるけど、どうせ思い悩むことだし、そうそう抑え切れるものじゃない」

 

 だから、と義定は続ける。

 

「新十郎が猿夜叉丸にしてあげたように、わたしが新十郎を受け止めるよ。苦しむ新十郎の姿を見たくはないからね」

 

 そう言う義定の表情はとても同い年とは思えないほど穏やかだった。

 それを見て敵わないなぁと思う。

 俺とお市は共に競い合いながら進む関係性だった。一方で義定は一歩離れたところから優しく見守ってくる。年が同じだけで、感覚としては姉に近い。

 

「ありがとう、義定。やっぱり俺は友達に恵まれたな」

 

 俺の大事な人はお市だけではない。義定だって大事だし、他にも離れがたい人はいる。

 だからこそ、俺は六角をそう容易く捨てられなかった。

 

 *

 

 浅井征伐の軍は観音寺城を出たのち、手始めに浅井に寝返った肥田城を攻めることにした。

 義賢様は熱心に城を攻めたものの、落とせずにいる。

 もたついているうちに猿夜叉丸率いる援軍の1万が到着して、六角軍と対峙した。

 

「肥田は落とせなかったが、かえってちょうどいい。皆の者、浅井を叩きのめすのだ!」

 

 義賢様が号令をかけ、六角軍が宇曽川を渡る。

 先鋒は俺と蒲生定秀殿。

 

「敵に回った以上は容赦はしない。者共、俺に続け!」

 

 二千の騎馬隊を率いて、浅井の陣に切り込みをかける。

 まずは騎馬で陣を散らし、後続の蒲生殿の三千を通しやすくする。それが今回の役割だ。

 

「あれが、六角高村だ! かかれ!」

 

 視界の右奥にこちらを指差して叫ぶ武将がいる。

 確かあれは、阿閉(あつじ)殿か? 

 一時期、猿夜叉丸の世話役として来ていたから顔は覚えている。

 

「弓を貸せ、左平次」

 

 隣で駆けていた兵から短弓を借り、矢を番える。

 狙いは阿閉殿。本人はそこまで強くないが、家臣に腕が立つ者を何人か抱えていた。彼の隊を機能不全に出来れば、この辺りの形勢は確実にこっちに傾くだろう。

 

(さて、問題は俺がぶれないことだな)

 

 馬上は揺れて狙いを付けにくいが、俺に関しては問題はない。阿閉殿に狙いを定め、射る。

 放たれた矢は真っ直ぐに飛び、狙い通り阿閉殿の頭を撃ち抜いた。

 

「敵将、阿閉貞征。六角新十郎高村が討ち取ったり!」

 

 高らかに名乗りを上げる。

 だが、勝ち誇るのはまだ早い。

 浅井家中でも屈指の武辺ものが集う阿閉家臣団が、俺に的を絞って襲いかかってくる。

 

「貞征様の仇を討つ! 渡辺了、参る!」

 

 渡辺了(わたなべさとる)。かれも観音寺城で見たことがある。

 阿閉貞征の娘婿で『槍の勘兵衛』と謳われたほどの名手だ。一時、猿夜叉丸に稽古をつけていたこともある。

 明らかに俺より力量が高い格上の相手だが、馬上ならやりようがないわけではない。

 

「新十郎とて、容赦はせぬぞ!」

 

 互いに馬を駆り、馳違う。

 俺の刀と渡辺殿の槍が打ち合って甲高い音が辺りに響いた。

 手がビリビリと痺れる。やはり、まだ膂力では渡辺殿には及ばないか。

 となると、搦手を使うしかない。

 

「はあっ!」

 

 もう一度、馳違う。

 だが、今度はまともに受けはしない。槍を弾くことに集中する。その狙いは当たり、渡辺殿の重心が弾かれた槍に引きずられて下に傾く。

 その期を俺は狙っていた。

 馬腹を蹴って渡辺殿に飛びかかり、渾身の力で馬上から蹴り落とす。

 

「くっ! 槍がッ!」

 

 蹴り落とされた拍子に、渡辺殿が槍を手放す。

 こうなってしまえば、槍の勘兵衛も怖くない。

 渡辺殿の腹を足で押さえつけ、力の限り刀を首に向けて振り下ろした。

 

「敵将、渡辺了! 六角新十郎高村が討ち取ったり!」

 

 渡辺殿の首を掲げて、名乗りを挙げる。家中屈指の剛の者が討ち取られた影響は流石に大きく、阿閉遺臣の勢いが減退した。

 

(すまない阿閉殿、渡辺殿……)

 

 本日2度目の兜首。勲功としてはかなりのものだろう。

 ただ、心は晴れない。

 初陣ではないから、敵を討ち取ったことは何度もある。

 しかし、それでも今回の戦ほど後味の悪さを感じることはなかった。

 

「やっぱり、あれか。相手の顔を知ってるのが問題か」

 

 阿閉殿も渡辺殿も何度か顔を合わせたことがあり、彼らの背景をわずかだが知っている。

 だからこそ、自分が壊したものが何か把握出来てしまう。

 幸せだったあの頃にはもう戻れない。血に塗れていくうちに遠ざかっていく気がする。

 けれども、俺は進むしかなかった。

 

 *

 

 阿閉家中が壊乱した後、蒲生殿が浅井軍に進撃する。すでに抵抗の核を失った浅井の先鋒はナイフを入れられたバターのようにあっさりと切り崩される。

 とはいえ、存亡の危機を迎えている浅井の粘りは凄まじく大勢を決するまでには至らなかった。

 

 

 




いつのまにかバーに色付いてましたね。
評価してくださった皆様、ありがとうございます。
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