【カオ転三次】俺が不幸なのはどう考えてもメシア教が悪い!   作:ガイヤ

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プロローグ

 世の中には、時に信じられないような出来事が存在する。

 

 告白するくらいには好きだった女の子が、実の兄貴の彼女だった事が判明したり、はたまた、毎日朝起こしにくるツンデレだと思っていた幼馴染が弟の彼女だった事が分かってしまったなんてのもあった。

 

 事実は小説よりも奇なりというが、本当に人生は何があるかわからない。そういう意味でいえば、死んだと思えば、いきなり赤子に転生したなんてことも普通にあり得るわけだ。そう、今の俺のように。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 俺が新しい生を得て、既に十三年もの月日が流れた。

 

 今世の俺は前世より幸福に生きていた。

 糞の塊のような兄貴はいないし、両親は優しい。屑の鏡な弟はいないし、可愛い天使のような妹もいる。転生者として同年代の子供とはあまり仲良くできていないし、割と周りから神童か変なモノが憑いているといった視線で距離を置かれることは多かったが、別に妹がいるので寂しくなんてない。友達0人なんて今時普通のはずだ。

 

 両親は赤子の頃からろくに泣かない気色の悪い俺を愛してくれた。三歳下の妹は「兄ィ、アイス買ってきて」と懐いてくれている。なんだかんだで高スペックな身体能力と転生したのが少し前の時代の日本ということもあって、未来を知っているが故のお年玉運用による株で割と金は稼げているし、将来の安泰はもはや約束されたようなもの筈だった。

 

 俺のそんな今世での経験で得られた少しばかりの自信と自負は、とある出来事を境に崩壊した。

 

 始まりはいつも通りの晩御飯を食べていた時だった。もう少しで中学二年生の夏休みが始まる。それで少しだけ浮き足立ってはいたが、それ以外は特に変わり映えのしないいつもの日常、母の用意してくれた晩御飯のハンバーグを食しながら、付け合わせのミックスベジタブルが嫌いな妹から皿に押し付けられていたのを、ついつい甘やかして許してしまう父の姿に笑いが溢れる食卓。

 

 そんな中、母が新しく近所にできたとある建物について話した。

 

「ねぇ、あなた。最近まで工事でうるさかった近所のあそこ。新しく教会が出来るみたいよ」

 

「へぇ、教会が。カトリックかい?」

 

「それが変なカルト宗教団体らしいのよ」

 

「それは少し嫌だな。変なことをしない連中だといいが……。なんていう宗教なんだ?」

 

 カルト宗教団体。日本人なら誰もが少しは嫌気がする存在。俺自身も前世から様々な悪辣な事件を聞いていたこともあってあまり良い印象がない。何の話をしているのかわからないのだろう。一瞬こちらを見て首を傾げた後に目の前のハンバーグに夢中になった妹に微笑ましい気持ちになった俺は、近所にできたというその教会のことが気になった。もし前世での鳥関係宗教のような存在だったなら、妹の安全も考えて今後は近づかない様にしなくてはならない。

 

 だがそんな俺の考えを蹴散らす、俺にとっての爆弾発言を母はこともなげに話した。

 

「ええっと、確か、メシア教とかいう団体らしいわよ。何でも人攫いしているだとか、天使を神聖視していて、何も居ない場所に誰かがいるように話しかけている信徒がいたらしいわ。近所のマツコさんが言ってたもの」

 

「そうか、噂を鵜呑みにするのも危ないが、一応気をつけていた方がいいかもな。ヒデオとアサも気をつけるんだぞ。知らない人について行かないようにな」

 

「はーい」

 

「…………」

 

「おーい。聞いてるのかヒデオ?」

 

「……あっ、うん。わかったよ。俺もうお腹いっぱいだから部屋に戻るね!」

 

「あら、こんなに残して。もしかして買い食いでもしたのかしらあの子?」

 

 父と母が何を話しているのか、メシア教? 確かにそんな言葉が聞こえた。殆ど無意識に俺はその場から逃げるように自室へと戻った。

 

「ほーん、いやいや、まさかね。たしかに転生するなら魔法とかファンタジーには使ってみたいなとは思ってたよ、うん。へえー、でもそっか…………」

 

 ベッドに身を投げ出し、息を思い切り吸い込み、枕に顔を埋めて叫んだ。

 

「ここ、メガテン世界かよおおおおおォォォォォ!!!」

 

 その日から一週間、俺は今世で初めて仮病を使って学校を休んだ。教会から近所周りの挨拶にイケメンの神父が来た。母親が懐柔された。我が世の地獄の始まりである。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 女神転生シリーズ。通称メガテン。これらは株式会社アトラスが作り上げたとあるゲームシリーズの名前だ。このゲームの特徴はただ一つ。東京を破壊する。これに尽きる。ゲームシリーズのほぼ全てにおいて世界ないしは東京が破壊される。中には既に東京が世界が滅んでいるところからスタートする作品まである始末だ。

 

 これらのシリーズには悪魔と呼ばれる存在が出てくる。簡単に言えばドラクエのスライムとか、所謂モンスターみたいな奴らだ。最も残虐性はスライムの比ではないが。生きたまま脳みそ啜ったり、恋人の前で女を踊り食いするといえばその酷さがわかるだろう。

 

 そんな糞のような存在の悪魔だが、普通の人には見えないだけでメガテンには割とウヨウヨ存在するのだ。一番弱いやつでもヒグマより強いような化け物がだ。これだけで俺が何故あれほど嘆いていたのかわかるだろう。

 

 そして、【メシア教】。俺の家の近所にできた教会の主。此処が女神転生の世界なら、その名はどんな悪魔よりも警戒すべきものだった。

 

 この組織は女神転生シリーズ、メガテン世界において大きな意味を持つ。【秩序】、これは人間が生きる上で欠かせないものだ。秩序なき社会に安寧はない。それは誰もが知っている。女神転生シリーズは大体、この秩序を含む、三つの勢力の話が多い。【秩序】、【混沌】、そして【中庸】、この三つだ。それぞれ、法を重んじるか、自由を愛するか、それともどちらも程々がいいか、思想を形にしたものでプレイヤーはそれどれかを選んだルートを進んでいく、それが女神転生というゲームの特徴だった。

 

 その中でメシア教は、ゲーム内においての【秩序】。この属性に属していた。

 

 この属性は。法を重んじて、弱者を救う。施しこそが尊いという、割と文章として書く文には真っ当なものだ。しかし、メシア教はそれが行き過ぎている。過激では収められないほどに。

 

 例を挙げるなら、プレイヤーの親友を洗脳して救世主に仕立て上げて良いように扱ったり、人間の子供だけ攫って、その両親は穢れているとかいって殺し、子供達だけで千年王国作ろうとしたり、メガテンで何か酷いことやっている奴がいたらメシア教徒、メシアンだと思えといわれるくらいにはクソな存在。大体、女神転生では神も天使も悪魔の一種なのに、それを棚に上げて天罰だなんだと好き放題やっている危ない奴ら。

 

 それがメシア教である。

 

「このまま何もせず、餃子にされるわけにはいかない!」

 

 とにかく行動しなければいけない。俺はすぐに動き出した。

 

 あの衝撃の食卓から早くも一週間、俺がただ放心して無駄に日々を過ごしていたかというとそんな訳がない。この世界が女神転生の世界だというなら、先ずは情報を集めるべきだと行動に移ったのだ。情報を集めるためのツールは父が持っていたパソコンである。そして様々なサイトを歩きわたり調べた結果、ここがメガテン、女神転生の世界だという疑念は確証に変わっていった。

 

 先ず、メシア教について調べた。分かったことは米国はもう駄目だということだ。米国を含むほとんどの主要国家はメシア教が蔓延っていた。更に、ジュネスグループの存在も確認した。うちの近所にはなかったので知らなかったが、この情報によりこの世界にはペルソナもあることを考慮しなければならなくなった。

 

 次に、近所のメシア教会に見学といって偵察に行った。

 

 神父のイケメンは、快く俺を迎え入れた。そこで色々と見て回ったが、奴らのシンボルであるクソ天使は見つからなかった。ただ単に見えていないだけかもしれないけど。

 

 とりあえず、神父から情報を引き出した。何故こんなちんけな町に教会なんか建てたのか、天使の見た目は美少女なのか、此処で何をするのが目的なのか、天使はふたなりって本当ですか等々。神父は、笑顔を絶やさずどんな質問にも答えてくれた。まあ、最後の質問の時は瞳の奥に呆れが見えていたが。

 

 最後に極めつけは、ネットサーフィンで見つけたあまりにも怪しすぎるスレッド。そのスレッド名は【転生者雑談スレ38】。最初は冗談と思ったが、入る時に入れた前世を知るものしか答えれないようなパスワード、更にはスレッド内で語られる内容。それら全てが、俺以外にも転生者が大量にいたことを証明していた。

 

 嬉しかった。

 

 強がっていたが、転生者というフィルター越しに、常に疎外感と孤独が纏わりついていた俺にも同じ境遇の仲間がいるのだと柄にもなく感動した。会いに行こう、そう思った。過去ログを漁り、【星霊神社】と【ガイア連合山梨支部】の存在を知った俺は、両親と妹を何とか誤魔化して夏休みを利用し、自身の力を覚醒させるために富士山へと向かった。

 

「君が新しい子だね。僕のことは掲示板内みたいにショタオジとでも呼んでくれていいよ。神社へ案内するからついておいで」

 

 何も無い場所から俺と同じくらい背丈の、陰陽師っぽい服装の少年が現れる。

 

 俺はスレッド内で、星霊神社の管理人、始まりのデビルサマナーが、何故、ショタオジと呼ばれていたのかをそこで知った。

 

 妙にニコニコしたショタオジについていき、大きくて神聖な神社についた俺は、そこで力を得るための修行を行った。

 覚醒修行というものらしく、何度も死ぬような疑似体験をして魂を覚醒させるという、荒技を持って霊的資質を呼び起こすもので、スレッド内で散々きついと言われていただけの事はあった。

 俺自身、何度もくじけかけた。だが、脳裏を浮かぶ今世の家族と自分の今後を思うと頑張れた。

 

 どうやら俺には才能があったらしい。他の転生者よりも早く修行は終わり、何とか夏休み中に覚醒することができた。覚醒して得た力は【ブフ】。女神転生シリーズでは氷結系に属する魔法だった。そう、魔法だ。

 

 星霊神社の中庭、俺は右手を前に突き出す構えのまま、目を瞑る。思い描くは、身体の中にある少しどろっとした液体を手繰り寄せて手から放つイメージ。瞬間、掌から氷の塊が飛んでいく。それは、眼前の大岩が粉砕して、その周囲を凍りつかせた。

 

「よし、覚醒修行はこれで終わりだ。お疲れ様」

 

 俺は感動と謎の全能感を味わっていた。そして、ニコニコしたショタオジに呪殺系にも才能があると言われ、ホイホイ乗せられて地獄の修行圧縮バージョンを受けた結果、俺はスタートラインにしては中々の力を手に入れた。ショタオジの簡易アナライズ曰く、

 

【ステータス】

 ブスジマ ヒデオ《LV1》

【スキル欄】

 ・ブフ

 ・ムド

 ・トラポート

【耐性】

 無効:破魔

 耐: 氷結、呪殺

 

 

 スキル欄でいうならば、俺は今【ブフ】【ムド】そして、【トラポート】が使えるのだ。更には簡易アナライズで調べてもらった俺のステータス傾向は【魔体】型。贅沢をいうなら【魔速】型が良かったが、それでも魔法スキルを有効活用するには適したステータス傾向だった。掲示板内やショタオジ自身から告げられた【大破壊】という終末への始まりを生き抜くためにはまだまだ力不足だろうが、何とかレベルを上げて、少なくとも、近所にできたメシア教団の魔の手から、家族を守るくらいにはならないといけない。

 

 俺はショタオジに礼を言って、ガイア連合山梨支部へ所属願いを出して故郷へと帰った。全ては愛する家族を守るため。星霊神社へ来る前に抱えていた不安は驚くほど軽くなっていた。力を得た俺はもうあの頃のような無力な存在ではないのだッ! メシア教、滅ぶべし! 

 

 それにしても、何で他に支部もないのにガイア連合山梨支部なんていう名前にしたんだ。安価は絶対というが、本部の名前をガイア連合なんていう曰く付きのものにしたら駄目だろう。というか山梨支部って、転生者以外の人にじゃあ本部はどこですかと聞かれた時、どう答えればいいんだ。山梨支部なんですけど本部なんですってか。意味わからんわ。

 

 俺は早速、空間転移魔法であるトラポートを使い、家の前に転移しようとしながら、そんなどうでも良いことを考えていた。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 家に帰ると妹に泣きつかれた。両親から一発ずつ、頬にビンタを食らった。そして思い返した。そういえば、長期の泊まり込みすること言ってなかったな、と。夏休みのほとんどを星霊神社で修行に費やしていたが、家族から見れば、学校で神童と呼ばれるくらいの優等生な子供が、いきなり一週間も学校を休みだし、その後復活したかと思えば、夏休み初日に失踪。確かにこれは心配をかける。

 

 あまりにも焦っていたとはいえ、両親と妹には悪いことをした。その日から一ヶ月、妹のアサちゃんは俺にくっついたままだった。父も仕事を早く終わらせて帰宅するようになったし、母も前以上に俺を気にかけるようになった。

 特に妹のアサちゃんは、ご飯の時はもちろん、学校の登下校、休日のお出かけ、果てには風呂や自室に戻ってからも、それはもうべったりと離れなくて、俺は自家発電を一ヶ月近くすることができなくなった。

 

 何故こうなったんだろう。

 

 いや、理由はわかっている。最近学校では、教会で天使のふたなりについて神父と熱く語り合っていたとか、自分の妹に棒状のお菓子を舐めさせて、いやらしい顔で笑っていたとか、やばいシスコン等という噂が流れているのも。そのせいで学校中の女子に避けられ始めているのも。

 

 そう、全ては! 

 

俺が不幸なのはどう考えてもメシア教が悪い! 

 

 

 

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