【カオ転三次】俺が不幸なのはどう考えてもメシア教が悪い! 作:ガイヤ
ーーー西にメシア教あれど、極東にガイアありーーー
この世界における最大規模の霊能組織。それが何処であるかなど裏の世界で生きる者なら誰もが知っている。
一神教という世界最大規模の宗教における信者の数をベースとした巨大霊能組織。
一神教メシア派、通称【メシア教】。
アメリカを拠点に、各国家の中枢にまで根を伸ばし勢力を拡大したこの組織は、今や実質的な裏世界の支配者となっていた。
だが、そんなメシア教に対抗できるかもしれない。
他の霊能組織や裏業界人達にそう期待されている組織が極東の島国に存在した。
【ガイア連合】
発足当時、本部一つだけしかなかったその組織は、今や日本の各地に十九もの支部が出来上がる程の勢力拡大を果たしていた。
もはや、日本内における裏の業界でガイア連合の名を知らぬのは、余程のモグリか世間知らずの烙印を受ける程にガイア連合の影響力は強まっていた。
地方では既に、一部ではあるが神や救世主のように扱われ、その支持率は、今でなお、日本政府に唯一存在を認められている【根願寺】すらも上回るくらいほどである。
そんな日本における、現在最もポピュラーで勢いのある組織であるガイア連合。その中枢を担う幹部達が、【ガイア連合山梨支部】。正確にいうのなら、その隣にあるガイア連合のボス、通称【ショタオジ】の管理する【星霊神社】に集まっていた。
会議の間と呼ばれる、連合内でも幹部や支部長クラスの人物しか入れない空間において、陰陽服に身を包む少年を奥にして、左右に統一感のない風貌をしたもの達が連なっていた。
右の席には、傷顔ヤクザや白髪天パ、黒尽くめの狩装束を着る男等が座り、左の席には、女子高生や番長っぽい服装の男、アルビノの様に白い肌に赤い瞳の優男。更には白饅頭みたいな白くて丸い人等が座っている。
イメージとしては、結界師の十二人会の会議シーンみたいな感じだ。
見た目は変な者が多いが、その一人一人が、中小異界の主程度なら一人で殺せる程の実力者。
並みの悪魔なら部屋に入った時点で消し飛ぶ程の圧力を放つ、ガイア連合の主戦力、力の象徴達が集まる場。
その場にてとある会議が行われていた。
現在、世界中で行われているメシア教の【過激派】と呼ばれる集団が率先して引き起こしている、メシア教の侵略戦争による世界各地の紛争。
それだけではない、今まで日本の中だけと思われていた霊地活性化が、世界的なものであったことによる不安、更には、今まで絶対の支えであった巨大なカルト組織の崩壊etcetc…………。
更には先日の多神連合が一つ、エジプトがメシア教の手に堕ちたという報は裏世界に激震を引き起こした。
正直な話、地方の一組織という規模でしかないガイア連合に、メシア教、並びに世界相手に真正面から戦える力はまだなかった。
故に、ガイア連合の上層部は考えた。今は日本が海外のメシア教【過激派】からの侵略を受けても抵抗をできる様に【地固め】、地盤を強くするべきだと。
その為に、国内の空港等の重要施設に霊的感知結界の施設。
並びに対霊機器や簡易式神の配置等を行い、日本国内の霊的防衛能力を底上げを目指そうということが会議で決まった。
だが、会議で対策が決まったそれらを行うには、あまりにもガイア連合は権力が足りない。いくら地方の救世主として祭り上げられようと、有力な議員と何人か友好な関係を築いているとしても、日本各地の空港などの施設に単独で手を出せる程の影響力はまだ無いのである。
そんなガイア連合に悩みを解決する力を持つ、とある組織が接触した。
ある意味、ガイア連合という名を持つ彼らにとって、原典世界において一番の天敵であるその組織の名は【メシア教日本支部】。
過激派と違い、ラブ&ピースをスローガンに掲げる穏健派の彼らは、日本国内で急激に力を増すガイア連合へ迎合するように協力を申し出た。
かくして、日本政府と真正面から交渉が出来る彼らの協力により、ガイア連合は先ず、地方の結界設置から始めることにしたのだった。
◆◆◆◆◆
不幸というのは少しずつ重なる方がダメージが続く。
例えば、ある日隕石が空から自身の家へ落ちてきても、その時は驚きや家のローンを考えたりして落ち込むだろう。だが、一週間もすれば立ち直る。時間が経てば、吹っ切れて不幸だと思い続けることもないだろう。
しかし、毎日の朝のトイレ。それが毎回トイレットペーパーが無いことに用を足してから気づく。更には、毎日鳥のフンが頭へ降ってきたり、タンスの角に小指をぶつけて悶絶したりする。
こういうタイプの不幸が続くと、とても落ち込む。自分は今不幸なんだと自覚して、何をやってもダメなんじゃないかと考えて、何もかもが上手くいかない。
時間が経てば経つほど、自身に起きる事象を全てマイナス面で捉えて勝手にダメージを負う。
だからこそ、不幸というのは大きなものを一度味わう前者の方がいい。俺は常々そう考えていた。
「あー、神龍でも出てきて願いを叶えてくれないかな」
「兄ィ。変なこと言ってないで、次の店に行くよ。ほらきびきび歩いて」
「うぃーす」
俺の事を大好きな百人くらいの美女に囲まれたハーレムで毎日楽しく自堕落に生きていきたい。
何処か楽しそうに先を行くアサちゃんを追いかけながら、右腕のギプスを一目見て、俺はため息をついた。
あの五重の塔以来、俺は日常を平和に過ごしていた。
異界へ行くどころか、学校以外で家を出る時は必ずアサちゃんの監視がつく日常をだけれども。
あの日、異界内で意識不明の重体になった俺はそれから一週間もの間、目覚めることはなかった。
まあ、流石にガイア連合の誇る医療班という所か、目が覚めた俺に後遺症は残っておらず、元気いっぱいの状態で家に帰ったのだが、もんだいはそこからだった。
なんせ一週間も意識不明になるほどの重体になったのだ。
両親や妹にどう言い訳をするのか俺は頭を悩ませたが、そこは国家権力の力を使える根願寺からの仕事。
ダミーニュースにより、俺は全然身に覚えのない事件に巻き込まれて、その時に人質を守る為に犯人から受けた傷が原因で入院しただとかで誤魔化して貰い、何とか違和感のなく家に戻ることができたのだ。
だが、そんな事でいつもの日常に戻れるほど俺の運は良くなかった。
中学の頃からよく怪我をして家族を心配させていた俺だが、流石に今回の件は看過出来なかったらしく、上で述べたとおりに俺は現在、プライベートというものが存在しなくなった。トイレや風呂にまで入ってくるのは、本当にやめてほしい。
家の中では、家族に過保護というほど心配され、俺の聞き手が右手でギプスによって使えない事により、今では、家族でご飯を食べるときに隣の席に座るアサちゃんにあーんをされるという屈辱を味わう事になる。
兄である俺がアサちゃんを甘やかすのは当たり前だが、兄である俺がアサちゃんに甘やかされるのは解釈違いなのだ。
右腕は退院時に完治しているのだが、ダミーニュースに信憑性を持たせる為ギプスを外すわけにもいかないという、面倒くさい理由により、俺は現在、ため息が溢れでる毎日である。
そんな毎日の中でも特に憂鬱なのが、学校生活であった。
「飯だ飯だ。早く食堂行こうぜ」
「ちょっ、待てよー」
「私、今日はお弁当作ってきたの」
「えっ、ユカそれってダークマターじゃなかったの?」
昼休み。それは、学友と一緒に食事をし、親睦を深めあう時間。人によってはご飯を食べたのち、校庭で学友と覇を競ったり、図書室で読んだり、やることは様々だ。
もっとも、ぼっちの俺には今までトイレでの一人飯をするだけの時間だった。
別に一人が寂しいとかそんな事を思ったことはなかった。異界で過ごす命を削るスリルある空間より、一人で食事をするこの時間の方が俺は好きだったからだ。
だが、そんな日々は俺が退院して学校に戻った時よりなくなった。
「ヒデオ先輩ー♪ 今日もお昼ご一緒しませんか?」
この学校の一年を表す赤いバッチを付けた紫髪の美少女が教室の中へ入り、端の方で存在を消していた俺の前へやってきる。
周りの女子生徒の好奇の視線と男子生徒からの強烈な敵意や殺意の視線が俺へと集まっていく。
そんな周りを気にせず、俺へと声をかけた彼女は楽しそうに笑っていた。
ーーー笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である。
《ツキジ シオン》。根願寺に所属する退魔士であり、前回の依頼で共に異界を攻略した彼女は、現在何故か、俺の通う高校へと一年の転校生としてやってきたのだ。
「ほら、ヒデオ先輩もぼーっとしてないで立ってください! 中庭に日当たりの良い場所を見つけたんです。空気もいいので今日はそこで食べましょう?」
ーーーああ、俺の
シオンに引き摺られるように中庭へと連れて行かれながら、俺はそんな事を考えていた。
「んー、美味しい! やっぱり一人で食べるご飯より二人で食べるご飯ですね、ヒデオ先輩!」
その小さい体の何処にその量が入るのか。
三重に重ねられた重箱に詰められた弁当の中身を次々と口へ運び無くしていくシオン。
その姿を見るだけでお腹いっぱいになるレベルだ。
「あれ、そんなに私を見つめてお箸が全然進んでないですよ、ヒデオ先輩? もしかして………シオンちゃんに見惚れちゃったのかな? な、なんちゃって〜」
途中で恥ずかしくなったのか、シオンは顔を赤らめて逸らすようにご飯を口に運んでいく。
確かに目の前の少女《ツキジ シオン》は、美少女といって差し支えないほど綺麗だ。
ぱっちりとした赤い瞳に柔らかそうな桜色の唇。幼げながら綺麗な顔立ちに、胸はなくて背丈は小さいが、そういうのが良いという男には好かれそうな要素が積み重なっている。
そんな美少女と一緒に食事を取れる、それは学校生活における素晴らしい思い出になる事だろう。その相手が普通の美少女ならば、という条件はつくが。
相手は、裏に根願寺が付いている退魔士。つまりは裏を生きる人間である。
そんな相手に、美少女だからと気を許せば何が起こるのか、想像するに値しない。
過去の経験から俺は、仕事、つまりは悪魔に関わる連中に恋愛感情を抱かないようにしている。全ては自身と家族の身を守る為に。
「ヒデオ先輩? 早く食べないと昼休みが終わってしまいますよ。そのミニトマトが苦手で食べれないなら、私が代わりに処理してあげましょうか〜? ………まだヒデオ先輩の箸がついてないし、こ、これなら間接キスにならないよね」
何故なら、美少女が俺に積極的に関わってくるなどハニートラップ以外にありえないからだ。
俺は前世を含めて、モテたことがない。そんな俺が、急に美少女と仲良くご飯を食べるなんてイベントにありつける訳がない。それがハニートラップでもない限り、絶対に。
ミニトマトを見つめて、ぶつぶつと何かを呟いているシオンの重箱へミニトマトを摘んで放り投げる。
俺は何があろうとハニトラには屈さない。
それに俺が知る裏関連の人間は、この学校にはまだシオンしかいない。つまりはこの後輩に気をつければ、俺の学校生活はまだまだ安泰ということだ。これからは昼休みに速攻でトイレへ行こう。流石にシオンでも男子トイレにまでは突入してこないだろう。
ガハハ、勝ったな。第三部、完!
◆◆◆◆◆
ーーー翌日
「えーそれでは、これからお前達の新しいクラスメイトとなる転校生の《アリス=グレイラット》さんだ。彼女は帰国子女でアメリカからやってきた。日本の事についてはあまり知らないそうなので、皆でしっかりとフォローしてあげるように。それじゃあグレイラットさん、自己紹介を」
「ーーーはい」
黒板の前へと金色が動き出す。
美の権化。黄金の輝きを見せる絹のような金髪をした女神のような美少女が黒板の前へと立つ。
クラスは静けさに満たされた。
ある者はその美しさに目をやられて下を向き、またある者は呼吸を忘れた。ある者は両手を組み、このクラスへ在籍していた事を神に感謝し、ある者は無意識にその姿を目に焼き付けんと瞬きをやめた。
「ーーーアリス=グレイラットと申します。まだ日本の事は良く分かりませんが、皆さんとの対話を通じて少しずつ知っていきたいと思います。これから、宜しくお願いいたします」
優雅で上品に、彼女は頭を下げ、教室の中を静寂が場を支配した。
そして、彼女が顔を上げ、その整った顔に笑みを浮かべた時、まるでワールドクラスで日本が優勝でもしたかのような熱狂がクラスを包んだ。
「グレイラットちゃん、何処に住んでるの? 近いならこの後一緒に帰らない!?」
「彼氏とかいる!? いないなら俺立候補したいと思います!?」
「馬鹿野郎! お前らどけよ! グレイラット様が席へつけねぇだろうが!?」
「ほわぁ〜天使〜。惚れたわ」
「いや、あんた女でしょ。まあ、でもあの美しさは罪だわ」
「いけるッ! 今年の文化祭ミスコンはウチのクラスの圧勝よ!」
クラスメイト達が騒ぎ立つ。
転校生であるグレイラットの席の周りには、既に人だかりで一杯になっていた。
質問攻めにされて困った顔も美しい。クラスメイト達はとある一人を除き幸福の中にいた。
クラスでもお調子者で通っている、とある男子生徒がグレイラットに質問した。
「ねえねえ、グレイラットちゃんの趣味ってなんなの?」
その質問に少し間を置いて、グレイラットは答えた。
「趣味と言えるのか怪しいですが、私はメシア教教徒として恥ずかしくないように毎日のボランティアに精を出しています」
「俺もボランティアされてぇ〜」
「顔立ちだけじゃなくて心も綺麗とか最強じゃない?」
「俺、仏教徒やめてメシア教に入信するわ」
盛り上がり続けるクラスメイト達のボルテージ。俺はそれを教室の端から眺め、冷や汗をだらだらと流し、一人呟いた。
「どうしてこうなった」
いつのまにか、日常が侵食されていっている。俺はただ毎日を清く正しく生きているだけなのに。
いや、原因はわかっている。俺がこんなに頑張っているのに、毎日鳥の糞が俺の自転車の座席の上に降ってくるのも、学校内での男子生徒からの視線が殺意や敵意満載になってきているのも、メシアンの女が学校に転校してきたのも、そう、全ては!
「俺が不幸なのは、どう考えてもメシア教が悪い!」
因みに《アリス=グレイラット》の現住所は、俺の近所にあるメシア教の教会だった。
登場人物のちょこっと紹介
◆【ブスジマ ヒデオ】
この話の主人公。
最近の悩みは、妹のアサちゃんが急に彼氏とか連れてきたらどうしようかということ。今のスタンスとしては、先ずは全力の自身を軽く倒せる位には強さを持つ男でないと妹は任せられないと考えており、もしアサちゃんが彼氏を連れてきたら、取り敢えずトラポートからの不意打ちを喰らわせようかと考えている過激派シスコン。
なお、父親は父親で娘が彼氏を連れてきたら、娘にバレないよう破局させようとしてくる。この父親と息子、やり方が陰険である。
◆【ツキジ シオン】
元根願寺の捨て駒部隊の隊長。現、親ガイア連合派の小悪魔系後輩退魔士。
五重の塔事件以来、まともじゃなかった環境は【ミナシゴ】部隊ごと解消され、今ではヒトミ達三人を含め、まともな衣食住と学校に通わせてもらえるほどになった。
その理由としては、ガイア連合の幹部候補であるヒデオに、自身すら重体を負うような敵がいる場所から逃してもらったという事実で、ガイア連合の幹部候補が気に入っている人間をどうこうする訳にはいかない。あわよくば、くっついて貰って今後のガイア連合との友好関係を親密なものにする為にと今の立場になった。
元々夢見がちな所があり、少女漫画を読み耽る女だったシオンは、自身達の立場を含め色々と助けて貰った(ヒデオ自身はその事を認知していないが)白馬の王子様的な存在として、ヒデオに好意を抱いているが、そのアプローチの仕方が下手である為、ヒデオからはハニトラと疑われて避けられている。
基本的にアプローチの仕方を少女漫画から得ているため、あたふたする相手を攻める時は小悪魔系になるが、相手に責められるとクソ雑魚処女になる恋愛クソ雑魚女。