【カオ転三次】俺が不幸なのはどう考えてもメシア教が悪い! 作:ガイヤ
時間が経つのは早い。
気づけば、俺にとっての転換期であったあの日の食卓から、既に二年が経とうとしていた。
俺もこの二年で身体的にも精神的にも成長した。ガイア連合から支援を受けて異界攻略などを頑張った結果、この前ショタオジにアナライズして貰ったステータスは、
【ステータス】
ブスジマ ヒデオ《LV30》
【スキル欄】
・暴れまくり
・ブフダイン
・マハブフーラ
・ムドオン
・アムリタ
・ディアラマ
・食いしばり
・トラポート
・チャクラウォーク
【耐性】
無効:破魔、呪殺、状態異常
耐: 氷結、物理
ここまで成長していた。ここまで来れば、もうそこらの悪魔は脅威では無くなる。少なくともメシア教の普通の天使【エンジェル】なら者の数ではないといえるだろう。
ここまでくるのにも色々あった。悪魔達との死闘や女子達からの軽蔑の視線、中には罰ゲームの嘘告白なんてのもあった。あれは悪魔達からの死に際の罵倒よりも、よほど心にきたものだ。
早いもので、俺ももう高校生である。
中学では、あのあと最後まで俺の悪評はなくならず、青春とは無縁の中学校生活となった。彼女もできなかった。ついでにいうと、高校デビューも失敗して現在ぼっち進行中であったりしている。笑えよ、ベジータ。
「うるせぇ! このM字ハゲがぁ! 何が高校デビューには。自己紹介でのインパクト、第一印象が大切、自分の得意なことや大切なものについて自信満々に話せるようになりましょうだぁ!? 熱く語りすぎて引かれたわ! もう無理だぁ、俺に青春は来ないんだ! うわぁああ、俺だって、彼女とか作ってラブラブチュッチュしたいんだよおおおおお!!!」
「兄ィ、うるさい!」
「ヒデオはいつも朝から元気だな。中学の頃までは、冷静というか、もう少し落ち着いていたんだがなぁ」
「ほら、変なこと言ってないでヒデオも早く朝ごはん食べちゃいなさい。学校遅れるわよ」
父は会社に遅れると慌てながら家を出て、妹のアサちゃんは寝起きが悪いのか、不機嫌そうに朝ご飯をリスのように口へ詰め込んでいる。とても可愛らしい姿で、そんなアサちゃんを見て、母も俺も少し笑ってしまい、それを見たアサちゃんが怒り出す。
いつも通りの朝。悪魔やメシア教のことなんて何も知らない、終末なんて夢のまた夢、想像すらできないような平和な朝だ。
あの日から近所にできたメシア教の教会も、熱心に宗教勧誘してくる以外は特に悪さをすることもなく、裏で起きている霊地活性化という終末への兆し以外は問題はない。このまま大破壊なんて起きなければいいのに、心底そう思う。
【大破壊】。我らがガイア連合の元締め、通称ショタオジが掲示板でこぼした、女神転生シリーズあるあるの一つ。
大破壊とは文明が滅び、悪魔が蔓延る世界が来る、終末への始まりを示す出来事のことだ。それがどんな風に始まるのかは誰も知らない。核の雨が降ってくるかもしれない。連続した自然災害の成れの果てかもしれない。または、何の前触れもなく大量の悪魔が発生するかもしれない。最後に関しては、霊地活性化の影響で今の地方では馬鹿にできないレベルで大量発生しているから、一番正解に近いまである。
おかしな話だ。与太話だ。そういう輩は多い。かくいう俺もそうあって欲しいと願っている。しかし、俺を含むガイア連合に所属するほぼ全ての転生者、【大破壊】。すなわち、終末が来ると本気で信じて行動している。
ある者は家族や大切な人を終末から守る為、ある者は自身の命を、ある者はその先の世界で何かをする為。一人一人理由は異なるが、【大破壊を乗り切る】、ガイア連合の目的はそれであった。
何故俺が、たかだかメシア教なんていう一カルト集団を警戒しているのか、その理由もこの大破壊に関連している。
女神転生シリーズ内のシナリオで大破壊を引き起こすような出来事を神の名の下に暗躍して行うのが、メシア教の天使どもなのだ。これだけで名前を見た瞬間警戒した俺の気持ちもわかるだろう。
転生者の中には、女神転生シリーズを知らないが故に奴らの恐ろしさを知らない人たちもいるが、明らかに対応が甘い。女神転生シリーズ愛好者であり、ペルソナ含む全シリーズを遊んだ俺にはわかる。絶対奴らは何かをやらかす。
故に力を手に入れなければならない。たとえ奴等が束になって襲ってきても、大切な家族くらいは守れる力を。その力を得る為に、たとえ学業を犠牲にしても…………
「行ってきまーす。ほら、学校行くよ兄ィ」
願わくば、この平和な日常が続きますように。
◆◆◆◆◆
「おい、ブスジマ。お前もう少し頑張れよ。おまっ、全教科赤点はやばいだろ、ええっ?」
「……はい、すみません。あの、このことは家族には」
「いや、これは流石に親御さんにも報告せんといかんと思うぞ。全教科ってのはなぁ」
「すみません、あの、ほんっとにお願いします! これ以上、妹にゴミを見るような目で無視されたくないんですぅ! 何でもしますから黙っていてください。補習でも何でもしますからぁ!?」
「ええい、鬱陶しい! わかった、わかったからひっつくな! でもブスジマ、全教科赤点ってお前単位大丈夫か? 最悪、来年も同じ一年生としてお前を見たくないんだが。まあ、話は終わりだ。帰っていいぞ」
担任のゴリラ、いやサルタニ先生に呆れられながら職員室を出た俺の顔には冷や汗がどっしり溢れて出ていた。
やばい、流石にやばい。学業を疎かにしすぎた。
でも仕方ないだろう。だって忙しいんだもん。決して、どうせ大破壊で終末来たら勉強なんて何の意味もないしなんて考えて、元々頭も良くないので、やる気もない上に注意散漫で授業受けたら、そりゃあ内容が頭に残るわけもないとか、そんな事をいってはいけない。
どうしよう。このままだと最後の期末テストで赤点取って、本当にもう一度一年生を繰り返すかもしれない。そんな事になったら最後、もうアサちゃんは俺のことを兄ィと呼んでくれないかもしれない。ゴミィになるかもしれない。
「……勉強だ。一心不乱の大勉強をやるしかないっ!」
このままでは青春どころの話ではない。俺の兄としての威厳や家庭内地位までもが失われてしまう。大破壊なんて知ったことか。明日より今さ! 取り敢えず、連合に連絡を取って、今来てる依頼を全てキャンセルしてもらおう。
「いや、そんな事いきなり言われても無理ですよ。ブスジマ君にどれだけ名指しで依頼が来てると思ってるんですか。勉強なら私が教えてあげますから、ふざけてないで早くうちに来てください。あと、恐山の巫女の子からもまた依頼来てますよ」
「えっ、あの、でも、最近忙しいし、気分転換的にも休みが欲しいというか……」
「確かにブスジマ君には、いつも大量の依頼をこなしてもらっているので助かっていますが、それで忙しくて学業が疎かになっているのは問題ですね。そこに関しては私が勉強を教えるので問題は解決ですね。安心してください、これでも前世は東大だったので勉学には自信があります。高校程度なら教えるのに何の問題もありません」
「いやぁ、しかし、ハセガワさんにそこまで面倒をかけるのは申し訳ないというか、自分の不手際に巻き込むのも躊躇われるみたいな」
「大丈夫です、全然迷惑ではありません。なので良いから早く、いつものように山梨支部へ来てください。それじゃあ待ってますから」
「えっ、ちょっ、まっ!?」
交渉は失敗した。所詮はコミュ障、俺に目上の女性相手の交渉なんて高度な事できるはずもなかったのだ。
諦めて、いつものように支部へ向かうしかない。といっても徒歩や自転車で向かうわけではない。そんな事をすれば1日はかかる。なんせガイア連合山梨支部って街中じゃなくて富士山の中にあるからだ。とてもじゃないが正常な移動手段で学校帰りから向かえる場所ではない。
ならどうするのか。答えは簡単だ。俺にはトラポートという魔法がある。ブフやムド系統のように敵対者を倒す魔法ではない。ドラクエのルーラなんかに近い魔法といえばわかりやすいだろう。この魔法を覚えている事により、俺の過酷なスケジュールは実現されている。
この魔法は、指定場所への時空間転移を可能とするもので、行ったことのある場所なら何処へだろうと、この魔法を使えばほんの一瞬で移動できる。まあ、この魔法を覚えたせいでこき使われているのだが。
視界が一瞬暗くなった後、俺は帰り道にある商店街の路地裏の見慣れた景色から木々が溢れる富士の樹海へと転移した。
何故支部へ直接飛ばないかというと、ショタオジに駄目だと禁止されているのと、支部自体にそういう魔法は対する結界等が展開されているからだ。何でも俺を洗脳して纏まった戦力を支部へいきなりぶち込まれても困るという事だった。あまりにも真っ当すぎる理由に俺も頷いた。確かにそんな事をされれば大問題になるだろう。たとえ俺より強力な異能者が多数常駐している山梨支部といえど、その中にはまだ覚醒していない転生者の人たちもいるのだ。危険を遠ざけるのは当たり前のことである。
俺は森を少し歩いて、目的の場所へ辿り着いた。
周りの景観をぶち壊すように建てられた四角い建物。何というか見窄らしいというか、もう少し外観頑張ってくれよ感はあるが、何を隠そう、此処こそが転生者達のアジト、我らが秘密基地。【ガイア連合
中に入っていつもの受付へ顔を出す。すると奥の方から先ほどの電話相手《ハセガワ レイ》さんがやってきた。
黒髪のショートに感情の気薄そうな表情、無表情面といったほうがいいか。あの表情でどばどはキツイ言葉を吐いてくるので、その手の人には人気が高いんだとか。それ以前に顔が整っていて美人という前提があるが。誰だって美人に罵声を浴びせられれば何かしら感じるものである。勿論、俺にその手の趣味はないのでグイグイ押してくるハセガワさんは少し苦手だったりする。
「お待ちしてました、ブスジマ君。それでは早速行きましょう」
おそらくあっちもこんなブサイク相手は面倒臭いなどと思っているに違いない。早いところ仕事を終わらせて、勉強する為の時間を確保しなければ。俺は先導するハセガワさんについていき、いつものように仕事をこなしていく。
俺のガイア連合内での仕事は大きく分けて二つある。
一つは異界探索。
【異界】と呼ばれる、悪魔の出現する隔離空間を探索して、目的を果たす仕事だ。
基本は、他の転生者との協力体制でのレベリングやアイテム回収だけの目的が多く、その次に【異界攻略】という、その異界の主を倒して異界を消滅させるというのがある。これが一番やり甲斐のある依頼で、ボス悪魔の周辺には、その異界にいる強力な悪魔が大量に彷徨いていることが多い為、強敵との戦闘回数が増える。
つまりは、レベリングに向いている。それ以外にも悪魔の落とす【マッカ】と呼ばれる万能貨幣とかその他のアイテムも一段と多くなり、収入が跳ね上がる。小さいところでも攻略すれば、日本円にして三桁万円の報酬が貰えたりする。
おかげで俺の預金通帳は学生とは思えない貯まり具合をしている。多分両親に見せたら泣きながら何か悪いことでもしたのかと問い正されるレベルだ。しかし、普通の異界探索はともかく、異界攻略となると長期になることが多いので、その場合は纏まった休み、ゴールデンウィークや夏休み等を利用してこなしている。
二つ目はアイテム作り。
この仕事が俺の依頼の割合の殆どを占める。というか異界攻略なんて、ガイア連合内でも指折りの強者くらいしか指名なんてこない。異界を攻略するのは、どれだけ小さな異界でもガイア連合内ではPTを組むことが殆どだ。
もしも、一人で異界攻略をやり続けている奴がいたとしたら、よっぽどの危険好きか、それともPTを作れないくらいの生粋ぼっちのどちらかである。ちなみに俺は後者だ。
話は戻るが、俺の魔力は俺の魔法適正の関係か、氷結系、呪殺系、そして回復系の三つに作用する。その為、宝石等を利用して魔石やストーンといったゲームでお馴染みのアイテムを作っているのだ。
この仕事は魔力を宝石に込めるという、まあ、異能者なら簡単に短時間でもできる為、基本学校帰りなんかでやっているのだが、俺の手先が器用なのか、それとも魔力の質でもいいのか、割とアイテムに関しては連合内でも好評で、こうして名指しでアイテム製作を依頼されることも多い。
だが最近、あまりにも二つ目の仕事に関する依頼が多くて、魔力も手も足りていないのが現実だ。放課後は殆ど支部でアイテムを作っているせいで帰るのが遅くなると言い訳を考えるのが面倒極まりない。高校に入ってから不思議生物研究部とかいう、よくわからない部活に幽霊部員で所属したおかげで誤魔化しが効くようになったが、それでも今回の件で俺には勉学の時間が足りないということがわかったので、この仕事を減らそうと考えたわけだ。まあ失敗したわけだが。
「ブスジマ君、お疲れ様。うん、これでブフーラストーン二十個、マハブフーラストーン十個、ムドオンストーン十個に魔石が五十個。依頼料は口座に振り込んでおきますね」
「は、はい」
疲れた。宝石にただひたすら魔力を込めるこの作業は割と精神的、肉体的にも辛いのだ。まだ異界攻略している方がマシだ。あっちは何だかんだで冒険している感じがして楽しい。
しかしこれで本日の仕事は終わりだ。頑張ったおかげで時間も余裕がある。
早く家に帰ろうと荷物を纏めていると、隣にハセガワさんがやってくる。いきなり女性に近づかれるとドキッとするからやめてほしい。今から近づきますねとか何かワンクッション置いてくれないかなと、悶々としているとハセガワさんは何でもないようにに語った。
「ああ、そういえば言い忘れてたました。恐山の重要霊地の異界攻略、遂にするらしいです。日時は○○月○○日○○時から○○月**日**時の間。それでガイア連合内でも有力者には協力を依頼してるって神主が。それで、恐山のイタコさん達からあの巫女の子を通して、名指しでブスジマ君に依頼が来てました。多分、ブスジマ君が恐山周辺の異界を片っ端から攻略したからですね。確か、依頼料たんまり貰ったせいで断れなさそうだからごめん頑張ってと伝えてほしいって神主さんが言ってました」
「えっ、なにそれは……」
その言葉は呑気に帰ろうとした俺をその場に踏み留ませるには十分すぎるものだった。
えっ、何も聞いてないんですけど? もう決定事項なの、既定路線になっちゃったの? それにその日って期末テスト前三連休の日じゃん。
ショタオジぃぃぃぃぃ! 俺を売りやがったなぁアイツ!? 俺が学校の単位ギリギリなの知っててやりやがった!?
「安心してください。勉強ならこれからテストが終わるまで、毎日私が此処で教えますから。だからこれからも学校終わりには支部へ寄ってくださいね」
隣で無表情にそんな言葉を告げるハセガワさん。
どうしてこうなった。
いや、原因は分かっているのだ。こうなったのも全て、霊地が活性化する理由であろうあの組織のせいだ。俺の学校の成績が地に伏して、一向に上がってくる気配がないのも、女の子にかけらもモテないのも、最近妹が冷たいのも。そう、全ては!
「俺が留年しそうなのはどう考えてもメシア教が悪い! 」