【カオ転三次】俺が不幸なのはどう考えてもメシア教が悪い! 作:ガイヤ
『マハブフ』『マハブフ』『マハブフ』『マハブフーラ』
告げられる呪文によって、辺り一面が凍りつく。
元々そこにあった木々も、花も、大岩さえも、全てが氷雪に呑まれていく。それは異界で暴れる悪魔達も例外ではない。一体、一体が並みの霊能力者や異能者なら鎧袖一触であろう強力な悪魔【レギオン】。それらがほんの一瞬も抵抗が許されず、氷像へと姿を変えられていった。
もはや、その場に残っているのは、凍りついた悪魔達と全てが凍りつく白銀の世界を創り出した黒フードの男、その横に立つ、顔面傷だらけの白スーツのヤクザらしき巨漢と西洋の鎧を身に纏った金髪の女。そして、その後ろに固まる巫女服のイタコ達だけだった。
「神主が大きな異界だから気をつけろとかいっていたが、それほど強力な悪魔も出ないしよ、正直期待はずれもいいとこだぜ、なぁマスター」
「あまり油断するなよ、モードレット。まだ、異界のボスの姿が見えていない。恐らく──ー」
「──ー来ますよ」
「……そうみたいだな」
一見すれば、もう終わったも同然だった。この異界【恐山】の中枢たるこの場所で大量発生していた悪魔を全て蹴散らし、もはや、敵対者はカケラも存在を確認できない。今更、一体の悪魔が現れたところでこの異能者達をどうにか出来るとは思えない。
同行していた、恐山でも有数の手練れである、とあるイタコはそう楽観視していた。
しかし、その考えは甘く、異変はすぐに起きた。
先ほどまでの凍り付いていた床が、突如現れた地面の下から生えてきた岩によって砕かれる。氷柱が垂れる天井は、突然氷柱を溶かすドロリと黒い何かが滴り落ちてくる。白く凍りついた木々や悪魔達の氷像は、黒き液体に侵食されるように黒く染まり、腐ってゆく。
そして、異界の中でもひときわ存在感を放っていた白銀の大岩は、その中から這い出てくるナニカによって、爆ぜるように砕け散った。
『…………恨めしや。アァ、恨めしや。憎い、憎いィィィィィ! メシアめ! メシア教めぇ! よクも我が子らヲ! 幾星霜経とうとモ、この恨みは忘れはせんゾォ! ミナゴロシダ! スベテ、ノロイツクシテクレルゥ!』
それは手だった。眼だった。そして巨大な人だった。
頭部にあるべき頭は中央に大量の眼が集合する歪な掌に成り代わり、人間でいうヘソの辺りには頭部と同等かそれ以上の眼が生えしきっている。そしてその眼の全てから、黒い液体がまるで涙のように流れ落ちている。恐らく強い酸性のあるその黒い液体は、飛びっちった床をゴッソリと溶かしていた。
恐山の厳しい修行を乗り越えた歴戦のイタコですら、見た瞬間に正気を失い逃げ出す程の圧倒的な重圧。大量の眼にうつる爛々とした、メシア教への恨み憎しみを孕む、恐ろしき狂気。イタコの祖霊達が憎しみによって変化した異界の主は、狂ったように叫んだ。
そして、その化け物は雄叫びをあげて、黒き液体を撒き散らしながら、他を無視して黒フードの男へと向かっていく。全ては自身を封印し、愛しき我が子らを痛めつけた憎きメシア教を滅ぼす為に。
猛烈な勢いでヒグマの二、三倍はある巨躯を、まるでトラックのようなスピードで男目掛けて突っ込ませる。それに巻き込まれれば非力な人間の身体ではほんの少しの抵抗も許さずに砕け散るだろうそれを、しかし、対峙しているフードの男は何ら気にした様子もなく、ただ一言呟いた。
──ー『ブフダイン』
◆◆◆◆◆
「やべぇよ、やべぇよ。これはやばいってアサちゃん!」
「うるさいよ、兄ィ。そんなに騒いで、一体何がヤベェのよ」
「いや、見てくれよこれ! この前の期末テストの答案!」
「んっ、貸して。…………70.65.58.71.62.53.66.55.65.73。うへぇ、高校ってこんなにテストあるんだ。まぁ、でも、うん、普通じゃん。何がやばいの?」
「いやいや、赤点一つもないんだよ!? これって凄くない、やばくないか!?」
「…………兄ィ。それはただ単に兄ィの頭がやばいだけだよ。はぁ、こんなのが兄でも妹してあげてるの私ぐらいなもんだよねぇ。…………小学校の頃は凄かったのにな、兄ィ」
「えっ、なに? 最後なんか言った、アサちゃん」
「なんでもないよ。バカ兄ィ」
そんな馬鹿なっ! 赤点が一つもないなんて奇跡だろ! 担任のゴリラ、いやサルタニも涙を浮かべて、ハグしてきたぞ。そのせいで、俺が剛毛男好きのホモとかいう噂が出来てしまったけども。絶対に噂を流したやつは許さない。見つけ次第、三日は下痢が止まらない呪術をかけてやる。
因みに、殆どの教科で以前から三十点、大きいのでは四十点上げてきたからか、最初は教師陣にカンニングを疑われたりしたけどね。委員長が庇ってくれなかったら追試を受けなければいけなくなっていたので、本当に感謝である。
感謝といえば、ハセガワさんにもしなければいけない。
ハセガワさんの勉強の教え方は凄い。凄くサラサラと頭に入ってくるし、何より距離が近くてボディタッチが多いのだ。二ヶ月少しだったが、割と幸せな日々だった。ハセガワさんはおそらく男に対して警戒心が薄いタイプなのだろう。それはそれで心配だ。あの見た目に大学生と来れば、そこらのチャラ男を簡単に騙されたりしそうだもんな。チャラ男、幼馴染、弟。うっ頭が!
「はぁ、それにしても今年ももう終わりかぁ。今年も彼女なんて出来なかったな。俺に甘酸っぱい青春はいつ訪れるのだろうか」
「そんなの無理だよ。兄ィに彼女が出来る可能性よりも、私に理想の彼氏ができる可能性の方が全然高いよ。つまり当分は兄ィに彼女なんて出来ないね。もしかしたら一生かもしれないけど」
「言ったな、それを言ったら戦争だぞアサちゃん!」
「ちょっ、もう、暴れないでよぉ。きゃー♪ シスコンに襲われる!」
妹のアサちゃんとコタツでじゃれあいながら、今年を振り返る。何だかんだあったが、まあクラス内イベントに殆ど参加できなかったこと以外は概ね満足な一年だった。期末テストも問題なく終わり、最近急に他のアイテム製造俺らが成長してきたのに伴い、俺は普通に冬休みをダラダラと満喫していた。
そうそう、異界攻略といえば【恐山】。あれは大変だったな。あの後、直接ショタオジに抗議しに行ったけど、あの人の言いくるめ性能が高すぎて、気づけば、俺以外にもちゃんとした連合員が行くから、絶対安心安全大丈夫と丸め込まれて結局参加することになった。
そして当日やってきた転生者はまさかのヤクザ。それはもう、ひと目見た瞬間、
「あっ、この人カタギじゃないわ」
とこぼしてしまう程度にはヤクザだった。だって、顔面傷だらけの白スーツの巨漢って、もうスリーアウトでしょう。なまじヤクザじゃなくても、その風貌は何かしらヤバい人だよ! まあ、実際は見た目に反して、凄く真面目で誠実な人だったけど。というか転生者スレッド内で名を轟かせているガイア連合の幹部、通称【霊視ニキ】その人だったんだけどね。当然背後には、シキガミのモードレットもいました。本当に紙で作ったのかっていうクオリティだったよ、あれは。
霊視ニキ、本名を《ハナヤマ カオル》という人を一言で表すなら、【メシア教絶対殺すマン】。これに尽きる。
元々は海外で暮らす一般人だったハナヤマさんは、悪の組織ショッカー…………違った、メシア教に攫われて拷問されたらしい。特徴的なスカーフェイスもその時のもので、その存在がどれだけ酷い拷問をされたのかを物語っている。メシア教に攫われたのも、恐らく、ハナヤマさんの転生者特有の高い霊的資質に目をつけたんだと思う。
ハナヤマさんは、メシア教徒達の監視を誤魔化して、何とか施設から逃げ出したらしい。その時の拷問がショタオジの覚醒修行の代わりになって覚醒したらしく、それで身についた力が、ハナヤマさんの代名詞である【霊視】。ゲーム風にいうなら、アナライズだ。
そんな境遇なのでメシア教が大嫌いらしく、ガイア連合内でも随一のメシア教アンチの過激派となっている。一説によれば、転生者掲示板内にある【ガイア連合対メシア教対策総合雑談スレ】というスレッドを、一人で半分以上消費しているらしい。凄まじい恨みを感じるが、俺も近所にメシア教の拠点が出来ているという身の上なので、全然他人事ではない。
今の段階でも、教会にいる神父がイケメンなせいで、俺の母親を含む近所の奥さん連中は殆ど懐柔されている。神父さんも無駄に爽やかで、人の警戒心をさらりと掻い潜る力が強い。気づけば俺以外の家族は、最初の印象であった変なカルト宗教団体という意識は無くなっていたりする。やめろ、作り過ぎたとかいって肉じゃがを持ってくるな。何ですごく美味いんだよ。顔も良くて、料理も美味いって最強かよ。
とりあえずハナヤマさん達と現地のイタコさん達に挨拶して、それから直ぐに異界攻略に取りかかった。俺の場合、期末テストの関係で時間が押してたからね、しょうがない。駆け足気味に異界を進もうとするが、簡単にはいかなかった。元々、恐山自体が日本三大霊山に数えられるレベルには強力な霊地ということもあって、その最重要霊地である祖霊をメシア達に封印されたその異界は、周辺異界より数段上の悪魔が蔓延る場所だった。
以前の俺なら、絶対に一人では入らないレベル。今回は強力な異能者であるハナヤマさんと、そのシキガミであるモードレットも一緒にいたので問題なかったけど、今の俺でも一人で突っ込んで解決してこい、なんて言われたら断れるだろう。
道中の悪魔はそこまででもなかった。ただ問題だったのが、最後に現れた異界の主、いわゆるボス悪魔のイタコの祖霊達の集合体だった。これが厄介極まりなく、呪殺は反射してくるし、祖霊、幽体である故か物理にも耐性があった。氷結も効きが悪かったし、俺のビルドでは相性は悪いといって差し支えなかった。
勿論、持参した氷結系や呪殺系が通じない悪魔用の各種魔法ストーンを使って応戦したし、霊視ニキやモードレットのサポートのおかげで倒せはした。トドメを刺そうとしたら、イタコさん達に全力で止められたけども。
何でもメシア教への恨み辛みで暴走していただけで、落ち着けば、大人しくなるし、イタコさん達にとっては大切な存在で霊地の管理にも必要なのでやめてくれとの事だった。やっぱりメシア教ってろくでもないな。
話自体はよくわかったのでトドメを刺すのは止めたんだけど、その光景を見たイタコの里の長老が俺を止めようとフルスイングで顔面を強打してきたことは絶対に忘れない。絶対にだ。
「それにしても、まさかあの霊地の封印を解いて異界を浄化させた結果、長老が若返るとは思わなかったな」
そう、何とイタコの里には今現在、若返りの水が存在するのである。【恐山の冷水】と呼ばれるそれは、水の癖にそこいらの回復薬よりもHPを回復できる上、魔力まで少しであるが回復してくれる。
そして、水に適性のある者は本当に若返ってしまうのだ。と言っても、普通なら俺の母親レベルの人が二十台後半くらいのお姉さんに見えるレベルへ若返るくらいだが。
えっ、それでも十分凄いだろうって? いや、確かにそうなんだけど、イタコの里の長老を見たら、なんかその程度だと、可愛いレベルに見えてくるんだ。あれはもはや年齢詐欺どころの話ではない。ショタオジすら可愛いレベルだよ。もう、ヤベェよとしか言い表せられない。だって、
「どうやったら、齢○○○歳の婆さんが俺の妹よりも小さく見える年齢の子になってんの?」
今の長老は見た目だけならロリコンほいほいなのである。巫女服のじゃ口調ロリとか属性強すぎだからしょうがないね。まあ、中身を知ったらSAN値直葬されるという、即死級の罠なのだが。
しかし、あれに言い寄られているショタオジの姿は面白いので大変良い。そのまま末長く一緒に暮らしてほしいですな。ははっ。
そういえば最近、この前の異界攻略で、俺の境遇を知ったからか、熱い握手をされながら、メシア教に何かされたら直ぐに連絡してくれと電話番号とメールアドレスを交換したハナヤマさんからメールが来ていたのを思い出す。
何だったか、確か、「巫女服、おばさん、夜這い、コワイ、タスケテ」という意味のわからない文字の羅列が書かれていたと思う。俺は、よくわからないですが頑張ってくださいと見て見ぬふりをした。あれ以降返信がない。これは喰われたかもわからんね。
俺からしたら贅沢極まりないものだと思うけどね。西洋の金髪美女のシキガミに、巫女服大和撫子美人の群れから言い寄られて男としたら最高の立場なはずだ。俺だって恐山の依頼をよく受けているし、今回だって異界攻略を頑張ったのに、何故か俺の周りには、イタコのお姉様達は一人たりとも寄ってこない。
こんなことがあって良いのか。顔面偏差値ならハナヤマさんのスカーフェイスと比べるならどっこいどっこいくらいだろう!? 俺の何がいけないというのだ。やっぱりあれかな、童貞臭いとかそういう目に見えない何かを感じ取られてしまうのだろうか。
もはや。イタコの里での俺の周りにいる女なんて、イタコの里周辺異界を探索、攻略する際の案内役である、イタコの里の見習い巫女のルリちゃん。後は、妹と同じくらいの年齢の何かと小馬鹿にしてくるガキ共しかいない。
いやいや、女の子いるじゃん。転生者掲示板ではそういってくる人もいるが、案内役のルリちゃんとは世間話くらいしかした事ないし、クソガキ共にいたっては、こっちを煽って遊んでいるだけだ。何が童貞クソ雑魚お兄ちゃんだ。舐めやがって。
最初の頃は俺に話しかけてくれるイタコのお姉様もいたのだが、最近ではそれもない。そういえば、いつ頃からそうなったのだろう。確か、ルリちゃんと一緒に異界探索するようになった時期くらいからだった気がするような。まあ、それはどうでもいいか。
しかし、このままでは来年も俺に出会いはない。一度神頼みにでも行った方がいいのかもしれない。でも、メガテン世界の神様に何かを願うのは、あまりにも抵抗感がある。それに、俺の場合、内面はそこまで悪くはないと思う(当社比)ので、このブサイクな外面を誤魔化せばワンチャンあるのではないか?
「なぁ、アサちゃん。お兄ちゃん、イメチェンしようと思うんだけど、何処か良い美容院知らない? 外面さえ整えれば、お兄ちゃんモテモテになると思うんだ」
「兄ィ、無駄な努力はやめといた方がいいよ。傷が深くなるだけだから。髪型を変えたくらいで兄ィの非モテオーラは消えないって」
一刀両断であった。
ごめんアサちゃん、もう少し手加減してもらっていい? 言葉のナイフどころか、それもう国宝童子切安綱レベルの切れ味だから!
溜息が出る。どうしてこうなった。もはやモテるのは諦めろというのか。俺だって由緒正しき日本男子だ、男にとって都合の良いハーレムにだって憧れる、ハーレムは土台無理でも彼女の一人くらいは欲しいと思う、普通の男の子なんだ。
いや、原因は分かっているのだ。これも全て、イケメンはモテて、ブサイクは唾を吐き捨てられる、つまりは、俺がお姉様にも、女の子にも、かけらもモテないのは世界が悪い。そんな世界を作った存在が悪い。そしてそんな存在を信仰する、そう、全ては!
「俺がモテないのはどう考えてもメシア教が悪い! 」