【カオ転三次】俺が不幸なのはどう考えてもメシア教が悪い! 作:ガイヤ
「ブスジマ君、何故使わないんですか?」
「えっ?」
「他の受付の子が言ってました。覚醒した転生者はほぼ全員シキガミを使っていると。何故、ブスジマ君ってシキガミは使わないんですか?」
「ああ、そういう事ですね」
ガイア連合山梨支部、その中にある【転生者居住区】。支部で働く事務の人達が泊まり込む場所、その一室、ハセガワさんの部屋で勉強を教えてもらっていた俺は、妙に距離が近い彼女に疑問を投げかけられていた。しかし、人の耳元で使わないんですかなんて紛らわしい事を吐息まじりに言わないでほしい。男の子が反応しちゃったらどうするんですか、いやらしいですよ、もう。
【シキガミ】。ハセガワさんの言っているのは、世間一般でいう調伏した鬼を使う式神ではなく、ショタオジの技術提供の元、日夜ガイア連合内で生産されているシキガミの方だろう。
ガイア連合内でのシキガミとは、スライムや地霊と呼ばれる悪魔としての意識や概念が薄い存在を降ろして、紙で使役しているもののことである。代表例としては、この前の恐山異界攻略で出会った、ハナヤマさんのシキガミ、モードレットがそれである。
えっ、何処が紙だ、どう見ても鎧着てるだけの金髪美女だろいい加減にしろだって? うんうん、確かにそうなるよな。俺も初見ではそうなった。だが考えて見てほしい。もし、日がな一日掲示板を見ているようなろくでなしの俺らが、自身のリアル二次元嫁を作れるとなったらどうするかを。答えは、既にみせている。
元々は、絵心皆無のショタオジが作った一反木綿もどきは、変態技術持ちの匠達により、何ということでしょう、立体的な三次元と二次元のいいとこ取りをしたような美女を作り上げました。変態の一念、天に通ずというやつだろう。
因みに、変態技術者共がハッスルした結果、今やガイア連合産のシキガミは並みの悪魔より強くて、人型は美男美女、獣型は可愛いやかっこいいを詰め合わせ、更にはガイア連合製【スキルカード】なるものを適用させることによって、転生者以外の現地霊能者達が束になってかかってきても、問題ない強さにまで完成度を上げている。デフォルトで物理耐性は流石にずるいと思います。
そんなわけで、【俺らの血と汗と白い汁の結晶】【最終兵器俺の嫁】【画面の中から出てきてくれた俺の彼女】と評されるシキガミは、今やガイア連合内ではなくてはならない存在になっている。レベル持ち、覚醒者にしか使えないという欠点はあるが、シキガミを手に入れたいというだけで覚醒修行の地獄巡りをクリアした人物もいるぐらいだ。
そのせいで、ガイア連合内でのシキガミ製造部はいつも戦場となっているらしい。俺も、簡単なアイテム作りにも飽きたし次のステップとしてシキガミ製造の方に手を出そうかなとか甘く考えていたが、あの現場を見たら、とてもじゃないがやろうとは思えなかった。ワ○ミよりヤバいよあれは。
話は戻るが、そんなこんなでハセガワさんが、シキガミを覚醒している転生者の殆どが持っているという話は事実だ。なら、お前はどうなんだというと、
「いや、居ないわけじゃないんですよ。俺もシキガミ自体はいるんですけどね」
「なら、普段はおろか、異界に潜る際にも連れていないのは何故なんですか? 私はいつも、いくら貴方が強くとも、単独での異界探索や攻略は危険だと言っていますよね?」
「あの、その、これには深いわけがありまして」
「聞きましょう」
少し怒っているのだろう。ハセガワさんはこちらをじっと見て、嘘は許さないと瞳で訴えてきた。しかし、俺がシキガミを異界に連れ回さないのも理由があるのだ。面倒で深刻なものが。
「実は俺、ハセガワさんに担当が変わる前、中学の三年に上がったばかりの頃、何度も大怪我して死にかけたんですよ。それはもう、普通なら助からないレベルのやつを何回か」
「っ!? だ、大丈夫だったんですか? 何処か後遺症が残っていたりなんてことは!」
「ああ、落ち着いてください。傷自体はショタオジやガイア連合の医療班の人達に治してもらったおかげで少しも残ってないです」
「…………ふう。あまり驚かせないでください。私が担当になったからにはもうそんな大怪我はしないでくださいね」
懐かしい話だ。あの時はまだ、俺自身の異界への理解も足らなくて、なにより力がなかった。今思うと、良く生きていられたものだと思う。
「話を戻すと、その何度か死にかけた理由がシキガミに由来するものでして」
「まさか、反乱されて襲われたとかですか? でも、神主さんがそういうことは出来ないようになっていると言っていましたよ」
「そういうのじゃないです。というか、シキガミに問題があったというか、どちらかというと俺自身の問題なんですよね」
「どういうことですか?」
頭の片隅でかつての記憶を思い出させる。もう見ることはできない、あの姿を。
「俺のシキガミって猫型だったんですよ。人型だと家に置けないですしね。流石に中学生が人一人連れてきて、これ俺のシキガミだからなんて言ったら、まず間違いなく頭の病院に連れていかれますよ」
「そうですね。まだ一人暮らしの出来ない年齢の転生者さん達はそういうタイプのシキガミ持ちが多いと聞きます」
「それで、俺って猫好きなのもあって、そのシキガミを凄い甘やかしていたんですよ。あまりにも可愛くて。家族もタマにはメロメロでした」
「タマと呼ぶのですね、そのシキガミは」
「ええ、そうです」
そう、ほんの一年少しだがブスジマ家には家族がもう一人、いやもう一匹いたのだ。
「で、俺が死にかけた理由を簡単にいうと、悪魔の危険な攻撃からタマを咄嗟に守ってしまうのが原因だったんですよね。なんか、ショタオジ曰く、前世での何かしらの出来事が俺の中でトラウマになっているらしくて、それで自身の大切なものを守る際に、命の危険とか関係なく身体が勝手に反応するようになっているそうです」
「それで神主さんから、シキガミを危ない場所に連れて行かないようにしろと言われたわけですね。周りめぐってブスジマ君自身の危険に繋がるから」
「概ねそんな感じです」
ハセガワさんは俺の説明に納得がいったのか、ふむふむと頷いた。
「あっ、でもそれなら、ブスジマ君のシキガミのタマさんは今もお家にいるんですか? 猫さんなんですよね、そのシキガミ」
勉強を続けていた手が止まった。相手会社の人を接待するためにキャバクラに行ったことを聞かれている時の父親みたいに、額から冷や汗が出てくる。
「…………いや、まあ、その。家にはもう居ないんですよ、タマは。正しくは、居られないと言ったほうがいいのか」
「? なんでですか。ご家族の方々も可愛がっていたんでしょう、タマさんを?」
「何というか、もう以前のタマではないんですよ。最後に死にかけた時にシキガミボディの大部分と核の所に傷が入ってしまって…………」
その時の事を思い出して、身体が震える。
「まさか、死んだんですかタマさん!?」
「ショタオジに修復がもう不可能って言われて」
「そんなっ」
「本当は家に帰してやりたかったっ! でもそれはもう、無理なんですよね…………」
「ブスジマ君…………」
「だって、だって」
「もう、無理していう必要はありませんよ! ブスジマ君の辛さ、もうわかりましたから!」
ハセガワさんが熱く抱擁してくる。まるで、我が子を抱きしめるように、泣きそうな子供をあやすように、優しく抱きしめてくる。その行動で、ついに俺は溜まっていたものが噴き出してしまった。あれからずっと、誰にも言えずに溜まっていたものが。
「だって! 猫型から女メイドロボ風人型に変わってしまったんだあああああ! ふざけんなよ、製造部とショタオジィ! 素体がダメだからって変えるなら同じ猫型にしてこいや! 何で人型なんだよ! 何でメイドなんだよ! なんでロボ娘なんだよ! 何が趣味で作った余り物の素体が残ってて良かっただ!? 少しも良くねぇよ! どうすんだよ、家に返せねぇよこれ。妹と両親になんて言ったらいいんだよ! これ、タマなんですとか言えるわけねぇだろ!? サムズアップしてんじゃねぇぞ製造部の野郎共ォ!?」
「はっ? 」
全てを吐き出した俺が最後に見たのは、鬼の形相をしたハセガワさんだった。
◆◆◆◆◆
頬が痛い。
俺は女の人の掌サイズの赤模様を頬に引っ付けて、ある場所へ向かっていた。
その場所は、山梨支部から歩いて直ぐのところにあった。俺がガイア連合の仕事で貯めたお金の殆どを費やして買った、ショタオジがプロデュースした、【対大破壊用シェルター】。一家庭用の一室だ。現在は家で暮らしているが、大破壊が来たり、近所のメシア教が何かやらかしたら直ぐにこちらで生活できるように準備をしている。因みに現在の利用理由は、主に妹のアサちゃんと喧嘩した時の避難場所だったりする。
個人認証を終えて、久しぶりに中に入るとお目当ての人物が顔を出した。
「お帰りなさいませ、ヒデオ様。またアサちゃん様と喧嘩なされたのですか?」
「違うよ。というかその理由でしかここにこないと思ってない? タマの様子を見にくる時もあるじゃん!」
タマ。そう呼ばれた女性は慣れた手つきで俺の荷物を受け取ると、完璧に清掃された部屋を案内してくれる。
エメラルドのような綺麗な緑の髪に赤い瞳、何の意味があるのか良くわからない、耳についたへんな機械。そして、お団子屋で看板娘をしてそうな着物を着ていた。和風とロボが混ざっているのに違和感のない完成されたデザインは、製造部達のプライドと欲望を感じさせる。
「それでヒデオ様。喧嘩に負けて泣きながら逃げてきたのでないのならば、本日はどういった理由でここへ?」
「おい、別にいつもアサちゃんに負けてるわけじゃないからね。ここに来る時、毎回たまたま目に唐辛子の粉末が入ってきてただけだから。只の唐辛子に対する涙だからね、あれ。まあ、その、なんだ。今日、支部の方で昔のタマの話をして、ちょっと顔を見たくなったというか…………」
タマが突然立ち止まり、顔をそむけた。
「そうですか。私としましては、どんな理由だろうと此処へいらしてくれるだけで感無量でございますよ、クソ虫」
「ねぇ、ちょっと待って? 最後なんて言ったお前。ねぇ、最後なんて言ったお前」
「どうかいたしましたか、クソむ、いえヒデオ様」
「おいいいい! 隠せてないよね、それ。俺のことクソ虫って思ってるよねそれェ!」
「いいから騒いでないで、さっさと座ったらどうですかクソ虫。あまり煩いと掃除しますよ、クソ虫」
「もはや取り繕ってすらくれないの!? 完全にクソ虫って言ってるじゃん! ごめんなさい、せめて隠す努力はお願いします! ヒデオはとてもナイーブなの、ガラスの心なの!」
取り乱す俺と裏腹に、何処までもロボ娘らしく無表情を崩さないタマ。昔はこんな子じゃなかったのに、いつからこんな事を言うようになってしまったのか。俺の膝の上でゴロゴロと寝転ぶ、あの可愛らしいタマは何処へ行ってしまったのだろうか。
俺はため息を一つついて、ふかふかのソファーへと身体を沈めた。そして、タマの用意してくれたお茶を飲む。やはり【食事】【家事】【会話】等の戦闘スキル以外のスキルカードをたらふく注ぎ込んだおかげだろう。いや待てよ。タマがこんなに毒舌になったのはもしかして【会話】スキルカードのせいだったりしないだろうか。
「ヒデオ様、神主様よりヒデオ様へ言伝を預かっております。お聞きになりますか?」
「いや、やめておくよ。どうせろくでもない面倒事だろう? 俺は自分磨きに忙しいので他の人へどうぞとでも言っておいてくれ」
「わかりました」
いきなりタマが、ソファーに座っている俺の膝にお尻を乗せてくる。
「えっ、何してるのタマさん。膝が重いんだけど」
「神主様が、ヒデオ様が話を聞かない場合は至近距離で無理矢理聞かせてやってくれと仰っていましたので」
「ちょっと待って、何? 何で俺よりショタオジ優先なの? もしかして俺が思ってるだけで、実はあの時ショタオジのシキガミにされているとかじゃないよね?」
「最高級黒マグロの大トロ、大変美味でした。成功すれば、次は回らないお寿司が私を待っています」
「買収されてやがるこいつ!?」
このままでは、また無理難題を押し付けられる。取り敢えずタマを退かそうとするが、途端に正面から抱きついてきやがった。そんなに寿司が食いたいか! 離そうとすればするほど、こいつ、足や手を絡めて離れないようにしてきやがる! どんだけ魚好きなんだよ。猫か、猫の時の名残かこれ!?
「諦めて話を聞いてくださいヒデオ様。安心してください、独占欲の強いヒデオ様。私はヒデオ様より神主様を優先しているのではありません。ヒデオ様より、お魚様を優先しているだけです。それに──ー」
タマは見れば見るほど精巧な顔をずいっと近づけて、耳元で吐息を吹きかけてきた。
「──ー例えヒデオ様が私を置いて那由多の先に消え去ろうとしても、私は絶対に貴方様の元を離れる気はありませんので」
「ヒェッ」
感情を読ませない顔に危ない光を宿したタマを見て、俺は謎の悪寒に襲われた。気分はまるで、狼を目の前にしたあわれなこひつじのようだった。
どうしてこうなった。
いや、原因は分かっているのだ。これも全て、俺に無理難題を押し付けたり、俺のシキガミを買収したりする愉快犯。天地創造の神を下し、万物を見下ろす力の主、ガイアの王、ガイア連合山梨支部の長である年齢詐欺ショタ、そう、全ては!
「俺のシキガミが変になったのはどう考えてもショタオジが悪い!」
後、素体を提供した製造部の奴。
カオス転生の世界観が好きすぎて、どの話を絡めようか悩むのが困る。早いとこ、半終末まで話を進めたいが地方のあれこれとかも書きたい。困っちまう。