世界には常人に理解できないものがある。否、誰しも知りえないものはある、といった方が正しいか。
例えば、宇宙人がいる、という事象に対し、明確に否定できる人間がいないように、世界のどこかには謎というものが広がっているのである。
「ねえ、あなたは1日が24時間じゃない、って言ったら……信じる?」
だから、きっとこの言葉も、1日が24時間である、という事象に対して、明確に否定できる人間がいることを示していたのだと思う。
あの時の自分はこの言葉に対してなんと返したのだったか。確か―――
「新しい1日の基準でも作られたんですか?」
嗚呼、思い出した。確かこんな返しだった。どうも自分の言ったことは忘れやすい、とつくづく感じる。
でも、そんな素っ気ない返しをされた相手の反応は今でも鮮明に、つい昨日のことのように思い出せる。
「いや、そういうことじゃなくて……ううん、なんでもない。ごめんね、変なこと聞いちゃって……」
どこか寂しそうに笑っていた。
何かまずいことでもしたのかと首をひねる自分をよそに「あ、もうこんな時間」とあわててその人は部屋を出て行って、それきりだったけれど。
それでもそのことを鮮明に思い出せるのは、今自分が常人の理解の及ばない事象に相対しているからなのだろう。
「……」
気がつけば、先程までのモノレール内の喧騒は無くなり、煌々と車内を照らしていた灯りは消えていた。
辺りを見渡せば、目の前には棺桶。
座席にも墓標のように棺桶が倒れることなくそびえ立っていた。
窓から見える風景は変わらない。
衝撃もないまま、いつの間にかモノレールは停まっていたようだ。
時計を見れば、針は0:00を指して以降動く気配を見せない。
「……」
窓から見える不気味に嗤う月を横目に音が聴こえなくなったヘッドホンを外しながら、暫し考えて、僕は。
座席にそびえ立つ棺桶をどかし、その座席に座り、寝ることにした。
―――事件はまだ続いている。君は真実(Fact)から目を背け、偽物(Fake)でむりやり納得して逃げ出すのかい?
頭の中で、誰かがそう言っているような気がしたが、僕の答えは、そう。
「知るか」
影時間が終わる。
月が笑った。
モノレールに灯りが灯る。
先程まで象徴化されていた男が意識を戻すと、いつの間にか自分は立っていることにまず混乱するが、先程まで自分がいたと思われる座席を見れば、そこにはすやすやとヘッドホンを掛けて眠る少年がいることに、ますます混乱した。
そんな男のことなど知る由もなく、少年は眠り続ける。
胸元に見えるウォークマンも影時間から抜け出すことで光が灯る。
それと共にヘッドホンに流れる曲名が映る。
そこにはこう映っていた。
Burn My Dread―――恐怖に打ち克て、と。
この街を出た日。
それは僕の知らない物語が僕に知らせようとし、それを僕が拒んだ日。
僕は、この街を出て、ある町に引越しする。
―――ここからは真実(Fact)から目を背けることはできない。
そんな声が頭の中に響く。
別に、背いた覚えはないけれど。
―――だから、前を見据えて追うんだよ。
『本当の、自分自身ってやつを』
徐々に覚醒する意識の中で電車のアナウンスが聞こえてくる。
「……なば、次は終点、八十稲羽ー」
ウォークマンは曲名を点滅させる。
Pursuing My True Self―――本当の自分を追え、と。
新しい生活が、僕の知ることになる御伽話(Fairy Tail)のような物語が、幕を開ける。
「……しまった。何も連絡入れてなかった……こんな夜中じゃ相手にも迷惑だろうし、かといって土地勘も無い。さて、どうしたものか……」
幕を……開ける?
はじめましての方ははじめまして。
こんな話が読みたいな、という私の願望が形になればいいな、と思って書いているのでのんびりやっていこうと思います。
一番書きたいのはこのプロローグなのでこれ以降はきっと続ける強靭な意志を持てば、きっと……