ウマ娘は辛いよ   作:剣乃 和也

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ジャパンワールドカップのハリボテエレジーを見て思いついた作品です。

悪乗りで作っただけなので、誹謗中傷や意見は受け付けます。

作者はウマ娘から競馬を知ったにわかですね。「そうじゃない!」という意見は受け付けますのでお気軽に言ってください。



走れ! ハリボテカップ!

 それはある日突然起きた。

 

「「「「スィーツ♪ スィーツ♪……」」」」

 

 いつものようにチームスピカの面々が練習している時のことだった。

 ランニングをしていたら、ある視線に気が付いた。

 

「ねえ……あの人達何だろ?」

 

 ダイワスカーレットの耳打ちにウォッカが不思議そうにそちらを見る。

 見覚えのない女性達がこちらを見ているのだ。

 ウォッカはチラ見したが、記者や見学者はいつものことなので気にしなかった。

 

「記者じゃないか?」

「違うわよ。よく見てよ」

 

 ダスカの言葉にウォッカがもう一度見てみると変なことに気付く。

 

「あれ? 会長と理事長がなんか説明してる……」

 

 その一団の中には会長と理事長が混じっているのだ。

 それを見てテイオー不思議そうな顔になる。

 

「あれ? あの人達みんなカメラ持ってないよ? 記者じゃないのかな?」

 

 よく見ると鞄は持っているものの、カメラを持っておらず、ノートやノート端末を見ながら様子を探っているように見える。

 

「スカウトのように見えますけど……既にデビューしてるあたしたちをスカウトするのも変ですわね……」

 

 マックイーンも不思議そうな顔になっている。

 確かにトレーナーが担当ウマ娘を探す様子に似ているのだが、既に全員がデビュー済みのチームスピカには関係ない話しである。

 

「引き抜きじゃないか?」

 

 ゴルシがそうめんどくさそうに話すのだが、スズカが困り顔になる。

 

「チームの引き抜きならあんなに大ぴらにしないでしょう? 私がここに来た時も一人の時に話されましたから……」

 

 実際に引き抜かれたスズカが言うので説得力がある。

 

「本当に不思議ですね? 何をやっているのでしょう?」

 

 普段は難しいことを考えないスぺちゃんでさえ、不思議そうである。

 そんなチームの様子を見てトレーナーが言った。

 

「こらー。何サボってんだ?」

 

 そう言われてしまうチームスピカだが、流石に気になるので全員がトレーナーの前で止まる。

 

「トレーナー! あいつらは一体何者だ! どっかの国のスパイか!」

「失礼なことを楽しそうに大声で叫ぶな!」

 

 ゴルシの言葉に思わず突っ込むトレーナーだが、トレーナーも彼女が指さした方を見て、苦笑する。

 

「ありゃハリボテカップの選抜だよ」

「「「「「…………ハリボテカップ?」」」」」

 

 その言葉に全員が不思議そうな顔をした……したのだが、ゴルシだけはすぐににやりと笑う。

 

「まさか! あのハリボテカップの魔の手が俺達にまで来たのか!」

「し、知ってますのゴルシ!?」

 

 ゴルシの言葉に驚くマックィーン。

 

「ああ。奴等はウマ娘達をみんなハリボテにする悪の結社なんだ。そうやって全てのウマ娘を根絶やしにしようとする悪の組織だ!」

「そんな!」

「酷い!」

 

 思わず信じてしまうスズカとスぺだが、逆にそれ以外はジト目になっていた。

 

「そんな人達が会長たちと和やかに話しなんてするわけ無いでしょうが」

 

 そう言ってゴルシにチョップを食らわすダスカ。

 トレーナーも呆れ顔で答える。

 

「勿論、全然違う。ハリボテカップってのは()()()()輿()()()()()()()()()()()()だ」

「「「「……お輿に乗せる?」」」」

 

 不思議そうに尋ねる面々。

 

「お輿って何かわかるか?」

「あれですよね? 祭りの時にみんなが担ぐやつ」

「それは神輿でしょ?」

 

 ウォッカの言葉に突っ込みを入れるダスカだが、トレーナーは苦笑する。

 

「いや、半分正解だ。あんな感じのものをお輿って言ってな。本来は貴族の人達をあんな感じの物に乗せて移動するんだ。神様を乗せるお輿を神輿って言うんだ」

「へぇー!」

「そうなんですねぇ」

 

 初めて聞く話に驚く面々。

 

「昔は将軍様や偉い方々を乗せるお輿を担ぐウマ娘を集める競争だったらしい。それが近年になって残ったレースだな」

 

 実はお祭りなどでお輿を必要とする場合は確かにあるのだ。

 そう言ったメンバーを集めるのが一苦労になっている。

 

「規模こそ小さいが格式は古くからあるから、G1と同じぐらい重要なレースなんだぞ? 重賞を勝ったウマ娘しか出られないからな」

「そんなに格式高いんですか!」

 

 格式の高さに驚くダスカ。

 その一方で不思議そうな顔をする。

 

「でも聞いたことないですよ? そんなに格式高いレースなら優勝者の名前ぐらいは知られてもおかしくないですけど?」

「知らなくて当然だよ。()()()()()()()()()()()()()()

「「「「「20年に1回!」」」」」

 

 トレーナーの言葉に驚く面々。

 

「山梨にある黒駒大社で行われる20年に1度の式年遷宮の際に優秀なウマ娘達に神輿とお供を選ぶ競争だからな。甲斐の黒駒と言えば聖徳太子の伝説で有名な神社だし」

「そんな競争があったんですね」

 

 スズカが感心した声を上げる。

 

「うちのチームも強くなってきたからな。お呼びがかかるかもしれん……と?」

 

 トレーナーがこちらに向かってくるたづなさんに気が付いた。

 

「すみません。何名かこちらに来ていただけますか?」

「早速お呼びがかかったみたいだな」

 

 トレーナーのドヤ顔にゴルシのドロップキックがめり込むまで長い時間を必要とはしなかった。

 後日、「俺にドロップキックする必要あった!?」という抗議は黙殺されたと言う。

 

 

 

 

 たづなさんに呼ばれたのはスぺシャルウィーク、サイレンススズカ、ゴールドシップ、メジロマックィーン、トウカイテイオーだった。

 五人は呼ばれて会議室に入っていったのだが、他にも実力派ウマ娘が集っていた。

 

「レベルが高いレースになりそうですわね……」

 

 自然と気合を入れ始めるメジロマックィーン。

 すると、理事長から説明が入った。

 

「諸君! 今回も凄いレースが始まる故にみんなに集まって貰った!」

 

 いつものように気合が入り過ぎの口調で話す理事長。

 

「既に聞いていると思うがハリボテカップのメンバーを決める為にみんなに集まって貰った! そして、こちらが今回お輿に乗ってくれる『騎手』の方々だ!」

「……『騎手』?」

 

 耳慣れない言葉に不思議そうなテイオー。

 それを聞いていたのか説明を始める理事長。

 

「このハリボテカップでは担ぎ手となるウマ娘二人とお輿に乗る『騎手』と呼ばれる巫女との三人のチームワークが重要になってくる! そこで、今回はこちらの方々に乗って頂くことになった!」

 

 理事長が扇を広げて『騎手』となる8人の女性達に自己紹介を促した。

 

「武 由香です」

「岡部 美幸です」

「横山 典子です」

「的場 瞳です」

「柴田 良美です」

「村本 佳乃です」

「南井 勝美です」

「松永 昌子です」

 

 年齢もバラバラな8人の女性たちの自己紹介が終わる。

 

「では各自、たづなの誘導に従ってチーム候補を選んで欲しい!」

 

 理事長がそう宣言すると同時にたづなさんが誘導を始めた。

 

 数十分後……

 

 各々がチーム作りの為に詳しい話し合いを始めた。

 最初に騎手の方がウマ娘を数名指名しているので後はそのメンバーでの話し合いになるのだが、早くも決まったチームがあった。

 

「では、私とテイオーのタッグで行くのだな?」

「一緒にがんばろー! 会長!」

 

 元から仲良しのシンボリルドルフとテイオーの岡部美幸の組が素直に決まる。

 他にも柴田が推薦したマチカネタンホイザとマチカネフクキタルなどもすんなり決まった。

 一方で少々話し合いが必要な組もある。

 

「わたしはちょっとこう言うのは難しいかなって思います……」

「スズカ先輩! 一緒に出ましょうよ!」

 

 武 由香が推薦したのはサイレンススズカ、スペシャルウィーク、メジロマックィーンの三人なのだが、一番に押したサイレンススズカは渋い顔だった。

 

「私は他の人に合わせるのが苦手なので……」

「そんなぁ……」

 

 スズカの言葉に悲しそうなスぺ。

 だが、そんなスぺに優しく肩を叩く者もいる。

 

「大丈夫ですわ。私がしっかりとスズカ先輩の代わりを務めて見せますわ」

「マックィーンさん……」

 

 マックの言葉に少しだけ元気づけられるスぺ。

 一方でマックはテイオーの方を見て静かに闘志を燃やす。

 

(テイオー! 今度こそ雌雄を決するときですね!)

 

 そんなことを考えているマックだが、一方で同じように闘志を燃やす者たちも居た。

 

「あんたら。あいつらにだけは勝ちたいやろ?」

 

 的場瞳の言葉にライスとグラスの二人が静かに闘志を燃やす。

 

「……マックさんには必ず勝ちたいです……」

「スぺちゃん……黄緑のことばっかり……」

 

 半分ストーカーのような二人の姿にニヤリと笑う的場。

 

「いいか? あたしの得意は徹底したマークよ。あんたたちの得意と一緒と思うんだけど?」

 

 的場の言葉に首を縦に振る二人。

 

「じゃあ、作戦を考えようか……」

 

 既に勝つための作戦を考えて始めていた。

 一方で大きく難航したチームも居る。

 

「あなたなら絶対にやっていけるから! 一緒にやりましょう!」

「む、無理ですって!」

 

 横山典子の熱心な勧誘に逆に引いてしまっているメジロライアンが居た。

 

「本来ならG1を勝てる素質があなたにはあるわ! だから一緒に頑張りましょう!」

「無理ですよぉ!」

 

 全力で拒否するライアンだが、それには大きな理由があった。

 

「そこまで嫌がるのに無理強いは良くないんじゃねぇか?」

「そうだよ~。のんびりやって行こうよ~」

 

 一緒に組む相手がゴールドシップとセイウンスカイだからだ。

 トレセン学園きってのマイペースコンビに合わせる自信はライアンには無かった。

 

 横山典子が提案したチームはライアンとゴルシかライアンとスカイである。

 どっちにしてもライアンがいなければ意味が無い。

 

 そんな感じで話が難航しているのだが、一方で熱い繋がりを持ったチームも居た。

 

「一緒に頑張るでぇ!」

「うん! そうだな!」

 

 タマモクロスとオグリキャップのコンビだった。

 こちらは南井 勝美の推薦チームだが、一緒に推薦したナリタブライアンが「無理」の一言で立ち去ったので、必然的にこのチームになったのだが、元から仲良しの上にライバル同士ということもあり、思いは一つになった。

 

 その一方で静かなチームも居る。

 

「あ、あんまり期待されても困るけど、頑張ってみるね」

「お任せください。必ず期待に応えましょう」

 

 真逆の事を言っているのはナイスネイチャとイクノディクタスのコンビだ。

 こちらは松永昌子の推薦で、ナイスネイチャが自信なさげだったのだが、何とか説得に成功した。

 そして、説得に成功した者もいれば失敗した者もいる。

 

「僕には無理です!」

 

タタタタタ……

 

 ライアンが走り去ってしまった。

 

「ああぁぁ……」

 

 悲しそうな顔の横山典子。

 そんな彼女の両肩を二人のウマ娘が叩く。

 

「このゴルシ様に任せな! 絶対一着取ってやるからよ!」

「大丈夫大丈夫。なるようになるって~」

 

 ゴールドシップとセイウンスカイが笑顔で肩を叩くのだが、横山典子は不安そうな顔になる。

 

(ふ、不安しかない……)

 

 横山典子は不安の色が隠しきれない。

 

 こうして選手の選抜は様々な可能性を秘めたまま終わりを告げた。

 

 

 

 

 そして数日後……

 

 各自それぞれの練習を始めたのだが、その内容はかなり異質なものだった。

 

「全然前見えない~……」

「あたしの叩く鞭の音を聞いて! その合図に合わせて走ればいいだけだから!」

 

 メジロパーマーの困り声に村本騎手が檄を飛ばす。

 実はこの競技は『ハリボテ』と呼ばれる伝説上の生き物である『馬』を模したお輿を担ぐのだが、困った事に前が見えない。

 すっぽりと箱を被るような体勢で走るので、一応は外をみる窓がついているが、乗っている巫女の合図が頼りになる。

 こんな感じで練習しているのだが、早くも差が出始めた。

 

「「えっほ! えっほ!」」

「良い調子よ! その感じを忘れないで!」

 

 松永騎手が下のイクノとネイチャに声掛けをする。

 実際、このチームは歩調が綺麗にあっており、速い速度で進んでいる。

 

「良いわね。その調子! もっと早くなるわよ!」

 

 柴田騎手のタンホイザとフクキタルのマチカネ組も上手く走れている。

 一方で物凄く上手く行っているチームもある。

 

「うぉぉぉぉ! いけるでぇオグリ!」

「うむ!」

 

 南井騎手のタマ、オグリ組が恐ろしい速度で走っている。

 こちらは激しい性格ながらもペースを生むタマモクロスと猪突猛進のオグリキャップとのコンビが綺麗にかみ合っているようだ。

 一方で意外にも上手くかみ合わないコンビも居る。

 

「むぅ~……」

「どうしたテイオー? 練習に集中しろ」

 

 会長とテイオーの岡部組が今一つである。

 会長とテイオーの歩調が今一つ合わないのだ。

 性質こそ違うがどちらも俺様系の二人なので、今一つ合わずスピードが乗らない。

 とは言え、この辺はまだマシだろう。

 

ガシャン!

 

 武組のハリボテが転んでしまう。

 

「あいたたたた……」

「由香さん大丈夫ですか!」

「しっかり!」

 

 慌てて駆け寄るマックィーンとスペシャルウィーク。

 この二人はたまにハリボテを落としてしまう事がある。

 こちらはどちらも不器用なタイプなので、今一つ歩調を合わせられないでいる。

 

「う~……私がもう少ししっかりしていれば……」

 

 落ち込んでしまうスぺだが、そんなスぺをマックィーンが引っ張る。

 

「落ち込んでいても始まりませんわ。どんなに困難であっても努力でねじ伏せられます。さっ、頑張りますわよ!」

「でもぉ……」

 

 自信なさげなスぺだが、武騎手が言った。

 

「大丈夫。最初はみんな難しいものよ。どんな難しい問題でも一つ一つ解きほぐせば解決は出来るわ」

 

 優しい武騎手の言葉にスぺが自然と落ち着く。

 武騎手が優しく二人に言った。

 

「足りない部分を補い合ってこそのチームよ。このチームで頑張っていきましょ!」

 

 優しくも力強い武騎手の言葉に二人は元気を取り戻す。

 

「「はい!」」

「良い返事ね! もう一回行きましょう!」

 

 何だかんだで上手く行きそうな三人。

 そしてマックはため息を吐く。

 

「スぺちゃんは気にし過ぎですわ。あっちに比べればまだマシですわよ」

 

 そう言ってマックが指さした先には横山騎手のゴルシ、ウンス組が居たのだが……

 

「お願いです……たまにで良いから練習してください……」

 

 練習をサボりまくるセイウンスカイとゴールドシップが居た。

 あまりのサボり具合に横山典子は半泣きになっている。

 

「なーに泣いてんだよノリコちゃん! だーいじょぶだって」

「すべては流れに任せる……それで全てが上手く行く……」

 

 サボりが上手い二人故にまともに練習しないのだ。

 全然練習しない二人に横山典子は完全に手を焼いていた。

 

(だからライアンさんが居て欲しかったのに……)

 

 ライアンは真面目な性格なので練習をしっかりやる。

 横山自身はライアンが凄く気に入ったのだが不器用なライアンである。

 セイウンスカイなら不器用な部分を補えるし、ゴールドシップなら勝負強さで上手く導くだろうと踏んで組み合わせを考えていたのだが、よりにもよって悪い所が同じ二人がコンビを組んだ。

 

(上手くかみ合えば最高のパフォーマンスになるけど不安しかない……)

 

 もはや半分諦めの境地に入り始める横山典子。

 

 そんな彼女を尻目に的場騎手のライス、グラスのコンビが通り過ぎる。

 

「えっほ! えっほ!」

「良い調子だ。ペースを見誤るなよ」

 

 決して早いわけではないが、コントロールが完璧にこなせている。

 二人とも物静かだが、その分理性的で歩調を合わせやすい。

 また、目的が綺麗に揃っているので協調出来ている。

 

 その様子を見てエアグルーヴが困り顔になる。

 

「こんなことで大丈夫なのか? 当日は他の学園からも参加者が出るのだろう?」

「ま、何とかなるだろ」

 

 ナリタブライアンはどうでも良さげに練習を後にした。

 

 

 

 

 そして本番当日……

 

 多少問題はあったものの、8チームは万全の調子を整えて本番に備えた……と言いたいところだが、あるチームだけ問題だらけだった。

 

「お願いですから走ってください……」

「だーいじょうぶ! だーいじょぶだぁって!」

「良い風だねぇ……」

 

 ゴールドシップとセイウンスカイの担ぐハリボテに乗った横山典子は不安そうな表情だ。

 結局ほとんど練習できていないので不安しかない。

 それ以外のチームはしっかりしており、ハリボテの様子なども確認して上手く歩けている。

 

『さあ始まりました20年に1度の祭典ハリボテカップ! 各ハリボテが一斉に特別ゲートに入ります!』

 

 この大会用にカスタムされたゲートに全員が入る。

 

ガシャン!

 

『各ウマ娘一斉にスタートしました!』

 

 レースが始まった!

 そして、このレースはしょっぱなから大波乱だった。

 

『おーっと! 横山騎手! 早くも逃げの体勢だ! これは凄い! ピッタリ息が合っている!』

 

 意外なことに横山騎手が最初に飛び出した!

 

「す、すごい!」

 

 全然練習していないとは思えない速さである。

 実際、他の騎手を置き去りにしており、超好スタートを切っている。

 

「だから大丈夫だって言ったろ?」

「ちゃんと裏でシミュレーションしてたから」

 

 天才ゴルシの天性の勘とウンスの油断ならない性格が綺麗にかみ合ったようだ。

 それを後ろから追いかけるのは岡部騎手のシンボリルドルフ、トウカイテイオー組である。

 

「テイオー慌てるなよ?」

「大丈夫だよ会長」

 

 冷静にレースを進める二人。

 上から岡部騎手の不安そうな声が聞こえる。

 

「おい、大丈夫なのか?」

「心配するな。まだ慌てる時間じゃない」

 

 岡部騎手の言葉にシンボリルドルフは冷静に答える。

 このチームのリーダーは実質会長が握っていた。

 とは言え、これは妥当な所だろう。

 一方で騎手がリーダーになっているところもある。

 

「マックちゃん、スぺちゃん。ペースに飲まれてはダメよ!」

「「はい」」

 

 武騎手の言葉に力強く答える二人。

 こちらは岡部騎手に次ぐ二番手の位置を進めている。

 その後ろには的場騎手のライスシャワー、グラスワンダー組が居る。

 

「良いか? 慌てなくても良い。武を徹底マークだ」

「「はい」」

 

 静かに答える刺客タイプの三人。

 その後ろは他のトレセン学園チームと松永騎手、柴田騎手、村本騎手の順番で中団を形成している。

 そして最後方にはこのチームが居る。

 

「まだや! こっちは後ろで前の様子を伺いながら行くで!」

「わかった!」

「うむ」

 

 南井組のタマモクロス、オグリキャップ組が虎視眈々と隙を狙う。

 

 こんな感じでレースの序盤は進んでいたのだが……波乱は第一コーナーで起きた。

 

「なあ、ペース早すぎねー?」

「何言ってんの? これでも遅いぐらいだよ?」

 

 横山騎手の下で不穏な話声が聞こえた。

 

「ちょ、今は止めてよ! レースに集中して!」

 

 顔を青くする横山騎手だが思い当たることがあった。

 

(ウンスは逃げでゴルシは追い込み! 脚質が合わないとは思ったけど!)

 

 全く真逆の脚質なので合うはずがない。

 

(ライアンが居ればウンスと逃げよりの先行とかゴルシと差しよりの追い込みも出来たのに!)

 

 そう言った意味でもライアンを中核に沿えて作戦を考えていた横山典子だが、流石に真逆の脚質は無理があった。

 

「もっとゆっくり行こうぜ~」

「何言ってんの! ペースをこっちに合わさせないと!」

 

 逃げはレース全体のペースを作るのだが、この最大の強みは自分のペースを作れることである。

 先頭のペースに引っ張られて他のメンバーがペースを乱して消耗するのが最大の強みで、ここに計算高い考えが無いと無理である。

 そして追い込みはと言えばマイペースに進めるのが強みだ。

 こちらはこちらで最後に差し切る為の計算高いレース運びが重要になる。

 つまり、同じ計算高さが必要な走りでも意味合いはかなり違うのだ。

 

 そして、どっちもペースを自分に合わせたがる脚質なので、こういう時は最悪の組み合わせに変わる。

 案の定、もめ始める二人。

 

「だからもっとゆっくり行こうぜって!」

「遅いよ! 遅すぎるよ!」

「お願いだから喧嘩しないで! 真面目に走って!」

 

 もめ始める二人に必死でお願いする横山騎手。

 そして悲劇は起こった。

 

ぐらっ!

 

 ハリボテの体勢が崩れた!

 ハリボテは10キロ前後とかなり重い物なので体勢を崩すと厄介である。

 加えてウマ娘のは走る速度は原付レベルなので一度崩れた体勢を直すのは至難である。

 結果、どうなるか?

 

ガシャン!

 

 クラッシュして外へと転がっていく横山騎手とゴルシとウンス!

 

『あーっと! 横山騎手がクラッシュ! 第一コーナーを超えられなかった!』

 

 快調に前を行っていた横山組があっさりとリタイアしてしまった。

 ゴルシとウンスはすぐに起き上がって喧嘩を始めた!

 

「だから早過ぎたんだって!」

「違うよ! 君が遅すぎたんだよ!」

 

 喧嘩を始める二人を尻目に、倒れたまま涙を流す横山騎手。

 

「やっぱりライアンに居て欲しかった……」

 

 そうぼやく横山騎手だが、そんな彼らを尻目にレースは順当に進む。

 

 逃げ馬不在となったレースは先行チームがペースを作る。

 

『各騎手、大ケヤキを超えて正面に入ります! 一番は岡部騎手、二番は武騎手、三番手に的場騎手……』

 

 レース運びは順当な形になった。

 

「今だ!」

「わかった!」

「了解!」

 

 シンボリルドルフの合図でラストスパートを走る岡部組。

 一方で武組もスパートに入る!

 

「今よ!」

「「了解!」」

 

 それを見て的場組もスパートに入った!

 

「今だ! 取るぞ!」

「「了解!」」

 

 ライスとグラスの目に鬼が宿る!

 

『おっと! 最後はこの三組か! 勝つのは岡部か? 的場か? 武か?』

 

 実況の声にも熱がこもる!

 

「「「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」

 

 三組のチームが雄たけびを上げて走る中、後ろから脅威的な末脚を発揮するチームが居た!

 

「どけどけどけどけ!! ウチが通るでぇ!」

「はぁぁぁぁ!!!!」

「いけぇ!」

 

 南井騎手の激に答えるように猛進するタマモクロスとオグリキャップが居た。

 猛追する南井組を見て愕然とする岡部騎手と武騎手。

 奇しくも二人は同じことをぼやいた。

 

「「後ろからオグリ達が来ている!」」

 

 そして……()()()()()()()()()()()()()()()

 最初に動いたのはシンボリルドルフだった。

 

「テイオー! 道を塞ぐ! 右に半歩寄れ!」

「わかった!」

 

 そして武騎手もこれに呼応した。

 

「マック! 左に半歩寄ってくれ!」

「わかりましたわ!」

 

 そして、それを見たタマモクロスは思った。

 

(ちぃ! 塞がれたか!)

 

 隙間はわずかにあったが通れそうもない。

 

(しゃあない! 横に避けるか!)

 

 そう思って少しスピードを落とそうとしたタマモクロスだが……

 

グン!

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 その瞬間、タマモクロスは気付いた!

 

(しまった! ()()()()()()()()()()()()()()!)

 

 一人で走るレースならタマモクロスの考えは最善だっただろう。

 だが、これは二人で走るレースで、後ろに居たのは……

 

「はぁぁぁぁ!!!!」

 

 怪物オグリである。

 当然ながら()()()()()()()()()()()()()

 

「ちょっ! オグリアカン! スピードを……」

 

 残念ながらその指示は少しばかり遅かった。

 オグリのパワーで押された南井組のハリボテが岡部と武の間に突っ込んできた!

 

「えっ!?」

「何でっ!?」

 

 突っ込んでくる南井に驚く二人だが、肝心の南井も驚いていた。

 そして……

 

ガシャン!

 

 三人は接触してクラッシュしてしまう!

 岡部と南井はそのままリタイアしてしまった!

 一方、武騎手もすぐにリタイアはしなかったのだが……

 

「おいぃ!!」

 

 的場騎手の方へとよろけてしまい、そちらとも接触!

 

ガシャァン!

 

 的場と武が揃ってクラッシュしてしまう!

 

『あーっと! 何と言うことでしょう! 大クラッシュが起きてしまいました!』

 

 一気に4組のチームがリタイアしてしまう!

 

「……うん?」

 

 一人ポツンと立ち尽くすオグリは不思議そうに首を捻る。

 何が起きたのかよくわからなかったのだ。

 

 そして……

 

「えっほ! えっほ!」

 

 松永騎手のナイスネイチャ、イクノディクタス組がその横を通り過ぎる。

 そして……

 

『一着は松永騎手! 二番は村本騎手! 三番は柴田騎手だぁ!』

 

 あんまりな結果で幕を下ろすこととなった。

 

 そしてそんなレースをテレビで見ていた者が居た。

 

「あのバカたれどもめ……」

 

 トレーナーは頭を抱えていた。

 凄まじいばかりの大クラッシュを見て呆れていたのだが。

 するとスズカが不思議そうに尋ねる。

 

「でもトレーナーの言ったとおりでしたね。松永騎手が勝つなんて……どうしてそっちが勝つと思ったんですか?」

「そうだよ。他にも柴田騎手とか村本騎手とかちょっと弱いチームが勝つって言ってたし」

 

 ウォッカも不思議そうにしているが、トレーナーは頭をポリポリかいた。

 

「なーに簡単な事さ。スぺもマックもトップウマ娘だからな」

「……どういう意味?」

 

 訝し気なダスカの言葉に答えるトレーナー。

 

「元々、トップを張るようなウマ娘は総じて我が強いし、レースにもこだわりがある。ついつい自分のペースを通す癖があるのさ」

 

 これはどんな世界でも同じで、優れた者ほど我が強くこだわりが強い。

 特に個人競技は個々の強さが重視されるのでこうなってしまう。

 

「優れたトップアスリートほど自分のペースが崩れるのを嫌がる。ましてああいったレースでは敵だけでなく味方に合わせないといけないからな」

 

 こういった競技は下手に強い者同士のチームよりも弱い者同士の方が強くなることがある。

 

「最後のクラッシュ前の判断も通常のレースなら何も問題なかった。タマモクロスは横に逃げて、マックもテイオーも安心して走れた」

「けど、今回はハリボテを乗せて戦うレースだから負けた?」

「そういうこと」

 

 スズカの言葉ににこやかに答えるトレーナー。

 

「まあ横山騎手のあれはチーム作りの失敗だろうが、どの騎手も脚質を揃えてなるべく早いウマ娘を揃えようとした。それ自体は間違いじゃなかったけど、その場合はどうしても急な展開に対応しにくい。だからああなった」

「なるほど」

 

 ダスカも納得する。

 

「ま、あいつらにはいい経験だ。レースに絶対は無いからな」

 

 そう言ってトレーナーは新しいタバコに火をつけた。

 付けたのだが……

 

「トレーナー。ここは禁煙です」

 

 スズカに火を消された。

 

 

 

 

 

 

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