「……やはりダメだったか……ならば」
覚悟を決め、霊装を身に纏った少年の死を無駄にしないためにもスーツ姿の女性は決意し、霊装ドライバー:オールドに手を伸ばす。
――――――だがその手は霊獣の拳の隙間から光が漏れ出始めたことで止まる。
「ま、まさか」
「どらぁぁぁっ!」
女性の驚嘆の呟きが響いた直後、英二の叫び声が木霊する―――それと同時に霊獣の拳が戻るかのように上方へと吹き飛ばされ、そのまま体も持ち上がり、背中から地面に倒れ込んだ。
眩い輝きを放つその存在に周囲の霊装者はおろか霊獣すらも視線をそちらへと向ける。
輝きはゆっくりと消失していき、そこに現れるは灰色の鎧に黒いラインが混ざった霊装を身に纏った才波英二の姿。
「こ、これが霊装……」
「そ、そんな……俺が使えないのに……なんでお前が」
――――グォォォン!
「っっ! らぁぁっ!」
一体の小型の霊獣が雄叫びをあげながら英二に飛びかかる―――英二は振り向きざまに拳を突き出す。
霊獣の顔面を拳がめり込んだ瞬間、霊獣の体が一瞬にして弾け飛び、その場から姿どころか存在すら消し去ってしまった。
「よし……少年、ここは頼むぞ」
「は、はい」
女性は顔面を蒼白させている男を連れ、戦いの場から離脱する。
一瞬の殺戮に霊獣たちは動きを止めていたが一体目の大型の霊獣がいけよと言わんばかりの雄叫びを上げ、それに押された小型の霊獣たちが一気に英二へと突撃していく。
「少年! キーを」
スーツの女性の助言を遮るかのように英二は地面を強く踏み抜き、その衝撃で瓦礫を舞い上げる―――直後に小刀を強く押しこみ、足を横薙ぎに大きく振るい、強風を巻き起こし、舞い上がった瓦礫たちを弾丸の様に蹴り飛ばし、次々と小型霊獣たちを撃ち抜いていく。
「……え……あ、あれ? なんで俺今」
―――グュォォァァッ!
「っっ!」
霊獣の雄叫びが響いたと同時にその場から前方へと飛び退く―――その瞬間、巨大な握り拳が隕石の様に地面を撃ち抜き、巨大な穴を開ける。
二度三度、地面を転がりながら距離を取り、立ち上がると同時に手を翳す。
直後、英二のに光が集まり、やがて弾け飛ぶと手中に一本の剣が収まる。
「よーし……行くぜ!」
英二が駆け出した瞬間、隕石の如し拳が打ち出される―――が、その拳の一撃を姿勢を低くすることでギリギリの回避を行い、一気に距離を詰め、すれ違いざまに霊獣の足首を切り裂く。
どす黒い体液が噴き出すと同時に霊獣の悲痛な叫びが木霊し、霊獣が倒れ伏す―――そこに残るのは右足首から先だけとなった右足。
「っっ!」
だが直後に霊獣は切断された右足を掴み、それを英二目がけて投げつけた。
英二は驚く間もなく小刀を押し込む―――同時に両足が輝きだし、目にも止まらぬ速度でその場から離脱し、地面に落ちていたサブマシンガンを拾い上げ、霊獣の周囲を凄まじい速度で滑るように旋回しながら弾丸の雨を叩きこんでいく。
先程まで効かなかった弾丸と高をくくっていた霊獣の全身を無数の弾丸が貫き、小さな穴が全身に次々に開き、霊獣の口からたまらんと言わんばかりの叫びが放たれ、地面に膝をつく。
「っしゃ!」
「少年! 止めを刺すんだ!」
「了解っす!」
その声に従い小刀を押し込み、サブマシンガンを投げ捨てて剣を強く握りしめると刀身が輝きだす。
霊獣は雄叫びを上げ、巨大な手を地面へと突き刺し、そのまま英二目がけて腕を薙ぎ払う―――が、英二は回避することなく迫ってくる腕に向かって切っ先を向ける。
直後、刀身が一気に伸長し、霊獣の手首に突き刺さると勢いのままに刃が深々と突き刺さっていき、あっという間に手首から先を切断した。
「これで終わりだぁぁぁ!」
剣を両手で握りしめ、勢いよく振り上げた―――その一撃を止めるべく、霊獣は巨大な手でその刀身を受け止める。
激しいぶつかり合いは衝撃波を産み、周囲の瓦礫を吹き飛ばす。
「うぉぉぉぉぉっ! せいやぁぁっ!」
英二は叫びをあげながら背負い投げのように力任せに体を動かす―――その軌道に従い、振るわれた光の一撃は霊獣の腕ごと体そのものを真っ二つに切り裂いた。
ゆっくりと左右に分かれて堕ちていく霊獣―――の動きに習うように施設全体も左右に分かれて堕ちていき、地響きを上げて倒壊した。
「残り一体は……あ、終わってる」
最初の一体は既に霊装者によって討伐されており、全身を光の粒子にしながら徐々に消滅していく。
周囲を見渡し、霊獣がいないことを確認した英二は一息つき、小刀を抜き取る―――その直後、英二を覆っていた灰色の鎧が消失する。
「……何で俺、戦い方を知ってるんだ」
「素晴らしい戦闘だった」
「あ、どうも」
スーツ姿の女性が拍手を英二に送りながら憔悴している男性を連れて彼の下へとやってくる。
「君、何故霊装の使い方を?」
「……え、えっと……さ、さぁ? そちらの人は大丈夫ですか?」
女性に連れられている男性は何かにかなりのショックを受けているのか先程から視線が合わず、ブツブツと聞き取れないほど小さな独り言を呟いている。
「あぁ……少しショックを受けているだけだ……それにしても並外れた戦闘センスの持ち主だ」
「そ、そうですかね」
「あぁ……遅れたな。私はこういうものだ」
胸ポケットからスマホを取り出した女性は軽く画面にタッチする―――と、英二と彼女の間に立体映像が映し出され、彼女の名前と顔写真が現れる。
そこにあった名前は『霊装学園理事長―――都城 京香』
「り、理事長だったんですか」
「まあね……もしよかったら一週間後行われる総合型選抜を受けてみないか」
「……うぇぇ!? あ、でも俺、評定平均3.4だから受験資格ないんじゃ」
「うちの総合型選抜の受験資格は評定平均4.8以上、もしくはスカウト担当の教員からの推薦だ。理事長もスカウト教員の一人だから大丈夫だ」
(霊装学園……ここに入ったら……姉さんもいるんだよな)
英二の脳裏に天才という名の変態の顔が過ぎる。
霊装学園という超有名校かつ超名門校に入学できたとなればこの先の人生は少なくともただのありふれた大学に入学するよりかは彩られることだろう。
「君、名前は」
そう言われた英二だがその質問に答えることはなく、バックルを腰から外し、小刀と一緒にセットを返却すると何も言わずに頭を下げ、その場を去るべく振り返る。
「ダメダメ~」
「うっぉぁっっ!?」
振り返った先に紗耶香の顔がドアップで視界全体に入ったことで英二は驚きのあまり膝から崩れ落ちて尻餅をついてしまった。
「い、いきなり出てくんなよ! ビビるだろ!」
「そのために後ろに出てきたんだよ」
「博士……どこに隠れていたんですか?」
「どこに隠れていてもいいじゃん」
「…………う、う、う、」
「「う?」」
「うちの姉が俺以外と喋ってるぅぅぅぅぅぅ!?」
これまでの英二の人生の中で紗耶香が自分以外の人間とまともに喋っている光景を見たことが無かった英二は驚愕の叫びを放った。
全身を震わせ、口を大きく開けたその顔はまさにみっともない顔。
「お、俺としか喋ったことが無い姉が赤の他人としゃっべてる」
「いろいろ事情があるのさ……ね、理事長ちゃん」
「まぁ、そんなところですね……で、何故ここに?」
「あ、そうそう……はい、英二」
「お、おう……」
英二が渡されたA4サイズの一枚の用紙―――その上部には大きく損害賠償請求書と大きく、それも強調するためか赤文字で書かれている。
そこからは破損場所の名称やそれぞれの金額が書かれている。
「……なんだよこれ」
「基本的に霊獣被害による家屋倒壊とかは全部、保険があるんだ」
「知ってるよ。うちも入ってるけど高いって母さんが嘆いてる奴じゃん」
「そ……でもそれはあくまで霊獣被害の保険。じゃあここで問題です。霊装者が霊獣との戦いで破壊してしまった家屋とかの補償金はどうなるでしょうか」
紗耶香から出されたクイズを前に少し黙って考える英二―――そして
「霊装学園だろ? 霊装者の所属先は霊装学園だから……いやいやいやいやいやいや!」
「勘が良いね~……君はまだ学園の関係者じゃない……でも君は霊装を使って霊獣を撃破した。それと同時にこの施設も真っ二つに切っちゃったよね~」
「そ、それは致し方のないことであってだな」
「その致し方ないを霊装学園が補っているんだけど……君は個人で払わないと駄目だね~。体育館に諸々の修繕費もひっくるめたら2億位かな」
「に、に、に、に、2億ぅぅぅぅ!?」
「君が取るべき選択は……決まってるよね?」
そう言い、紗耶香はもう一枚の用紙を英二の足元に落とす。
ひらりひらりと舞い降りてきた用紙の正体は霊装学園の入学試験参加承諾書―――それに遅れて朱肉が彼の足元に落とされる。
「指印でいいよ~」
「…………チクショー!」
英二は悲しみの叫びをあげながら手の平いっぱいに朱肉を塗り付けると勢い良く手を振り下ろし、用紙いっぱいの指印を押したのであった。
――――――☆――――――
物語は動き出した。
もう数えることすら諦めるほどの物語が紡がれては破壊され、誰にも受け継がれることなく闇の中へと葬り去られていった。
この物語は完成するのか――――――いや、完成させないといけない。
これまでに葬り去られた物語の為にも。