パラレル・セイバー   作:kue

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第三話

「ここ……だよな」

 

 高校の制服に身を包み、大きな荷物を抱えた少年―――才波英二は第一空港内にて迷子になっていた。

 紗耶香から送られてきたマップを頼りに空港までは来れたもののそのマップには肝心要の空港内のマップは無く、加えて英二本人が飛行機を使用したことが無いということもあり、まるで迷路のように迷っていた。

 

「空港は着いたけどどうやって飛行機乗るんだよ……五番搭乗口ってどこだよ」

 

 かれこれ20分ほど、空港内を右往左往しているが全くゴールに辿り着けていない。

 誰かに聞こうにも何故か空港職員は異常なほどにバタバタと走り回っており、捕まえようにも追いつけないためにこのような状況になっていた。

 

「ヤバいぞヤバイぞ……このまま飛行機に乗り遅れたら試験に間に合わないし……試験受けられなかったら2億の借金をどうやって返すんだよ」

 

 現在、英二は2億という18歳が持っていい額ではないレベルの借金を持っている。

 霊装を使い、霊獣を撃破したは良いものの学園の関係者ではない彼を守ってくれる法も保険も無かったがために個人負債となってしまった。

 それを返済するべく霊装学園へ入学する―――そのために総合型選抜を受験するのだが受験できなくては元もこうも無い。

 

「どうすればいいんだよー! ヘルプミー!」

「うるさいわよ!」

「ごめんなさい!」

 

 怒鳴り声が響き、反射的に頭を下げる英二だったがその後の言葉が返ってこなかったため、顔を上げてみると声の主らしい女性と怒鳴られている男性のペアがいた。

 

「もう一度、俺にチャンスをくれ! 次こそは君に相応しい武勲を立てる!」

「何度も言わせないで。貴方との婚約関係はあくまで予定であって確定じゃないのよ。そもそも貴方はイベントで失態を犯したみたいじゃない」

「あ、あれは横やりが入っただけなんだ! それが入っていなければ新型の霊装ドライバーを起動出来て霊獣を倒せていたんだ!」

「どうかしら。そもそもトップ20すら入れていない貴方が新型の霊装を起動できるとは思えないけど」

 

 核心を突かれたんか男性は悔しそうな表情を浮かべ、拳を握りしめ、肩を震わせる。

 対する女性は腰に手を当て、余裕の表情を崩さず、男性を見続ける。

 

「とにかく貴方との約束で婚約は破棄。今後は幼馴染兼友人として接するわ」

「ま、待ってくれシャルティア!」

(ひぇ~……修羅場じゃん。相手の男もイケメンだけど女の人も超美人……まさに美男美女だな)

「あら……その格好だと貴方、入学試験の受験者かしら」

「あ、はい! 道に迷ってしまって……五番搭乗口ってどこですか?」

「……貴方本気で言ってるの?」

「え? あ、はい」

「……だとしたらよっぽど注意力散漫なのね」

 

 女性が呆れながらそう言うとともに上を指さした―――それに従い、英二は視線を上へと向けるとそこには大きく五番搭乗口と書かれており、もう一度視線を降ろすと彼の目の前にゲートがあった。

 

「……わぉ」

「わぉ、じゃないわよ……はぁ。グレン、連れて行ってあげて。私は先生に連絡して来るから」

 

 男性の返答を聞かず、女性はその場を後にする。

 女性がどこかへと去った直後に流れたのは重苦しい雰囲気―――ではなく、男性から注がれる憎悪、殺意がふんだんに込められた視線だった。

 

「あ、え、えっと……あの時はどうも」

「っっ! お前ッッ!」

 

 その一言が彼の琴線に触れたのかグレンは英二に近づくや否や腕を伸ばして胸倉をつかみ、にらみを利かせながら顔を近づける。

 

「お前のせいで俺の人生は滅茶苦茶なんだよ……どう責任とってくれるんだ」

「っっ……そう言われても俺はただ巻き込まれただけだし……」

「ッッゥッ! お前っ……分かってんのか? お前が壊したのは有象無象の人生じゃないんだぞ……シャルティア・フローレンスの夫となり、世界を救う英雄となる男の人生を壊したんだぞ!」

「そ、そうですか……ただ俺も必死で」

「そんなこと知ったことか……謝罪しろ。今―――ここで」

 

 胸倉をつかむ力がより強くなるとともにポケットから出したであろう灰色の小刀の切っ先が英二の腹部に軽く当てられる。

 理不尽な謝罪を迫られ、英二は――――――

 

「……確かに俺の行動があんたに迷惑をかけたかもしれない……でもだからってなんであんたに謝らなきゃいけないんだ。俺はあの時、霊装を使わなきゃ誰も護れないと思った。だから霊装を使って戦ったんだ。俺は俺の行動に後悔なんてしてない。だからあんたに謝らない」

「お前っ! そうか……ならばここでっっ!?」

 

 グレンが小刀を持つ腕を振り上げ、その時、不意にグレンの腕が止まる。

 グレン自身、何故腕を止めたのか分かっていな様子であるがその目線がゆっくりと右へと移動したその時、その目は大きく見開かれ、顔が真っ青に落ちていく。

 英二もグレンの見ている方向を向く―――そこにいたのはとても人間に向けてはならない表情をした紗耶香が立っており、その横には一体の球体が浮遊している。

 いや―――そもそもそこにはつい数秒前まで誰も居なかったはずであり、そもそもここまでの距離に近づいてくる人影があれば気付くはず。

 まるでそこに突然現れたかのようだった。

 その表情に込められている感情は憎悪・殺意、その他諸々の負の感情であり、今の彼女の顔は押し詰めて貼り付けたようなどす黒い感情を集めた物。

 

「ね、姉さん」

「才波博士っ!? 何故ここに」

『警告―――警告―――腕をそれ以上、1mでも動かせば処分内容を退学処分にする』

「―――こ、これは」

『喋るな』

「っっ!」

『これは才波紗耶香様の命令である。命令に背けば―――消す』

 

 それは学園の在籍者名簿からデータそのものを全て消すのか―――それともこの世から存在そのものを消すのかは分からない。

 ただそれが意味するのは不吉なことであるということは理解できたのかグレンは言葉を一切発することなく、額から冷や汗を流しながら腕を降ろした。

 

『敵性消失―――よろしい。処分を半年に伸ばすだけにしておいてやろう。さっさと消えろ』

 

 球体に罵られるままグレンはゆっくりと背を向け、速足でこの場を去っていく。

 英二が紗耶香の子の表情を見るのは二度や三度ではない。

 過去、これまで英二にちょっかいをかける者がいれば今回の様にいつの間にかすぐ近くに立っており、その場を押し潰すまでの重圧を与える。

 

「ふぅっ……英二に手を出すなんてほんとバカだねぇ」

『バカーーーバカ』

「別にあそこまでしなくても」

「私があそこで立っていなかったらあの小刀が君の顔とか目に傷をつけてたかもね」

 

 紗耶香はそう言いながら英二の頭を軽く撫でた後、ゲートをくぐる。

 ボケーッとしている英二だったが先程の喋る球体に背中を押され、慌てて紗耶香の後に続いてゲートを通り抜けていった。

 

 

 

 

 

 ――――――☆――――――

 

 

 

「くそっ!」

 

 機内に入る前の最後のトイレに壁を殴りつける音が響く―――それは怒りと憎しみを込め、全力で壁を殴ったグレンが出した音。

 

「この恨み……必ず……才波英二」

 

 

 

 ――――――☆――――――

 

 

「……南国?」

「アロハ~」

 

 英二の呟きに合わせるかのように紗耶香が体をくねくねさせる。

 飛行機に乗り込み、20分ほどのフライトを終えた英二が降り立ったのはハワイを連想させる景観の無人島だった。

 島の至る所にヤシの木が生えており、気候は真冬の日本とは打って変わって非常に温かく、飛行機から降りた学生たちは皆、上着を脱いでいく。

 

「俺はハワイに旅行に来たのか?」

「まさか~。ここは学園所有の無人島。ここで試験が行われるんだよ~」

「……何やってんださっきから」

「フラダンス~」

『フラダンス~』

 

 紗耶香はそう言いながら球体と共に体を左右にくねくねさせるが英二の目にはそれがフラダンスには見えず、むしろ一反木綿の横揺れVerにしか見えなかった。

 その時、英二の耳に少しざわついた声が入る―――振り返るとそこには数人の男性を引き連れた真っ赤な髪色の女性がこちらに向かってくる。

 

「さっきの女の人」

「皆さん、おはようございます。本日の試験官を務めさせていただくシャルティア・フローレンスです」

 

 女性―――シャルティアが自己紹介をするだけで男女問わずにその美しさから来る驚きの呟きや憧れの視線が周囲に溢れ出る。

 

「はぁ……毎年毎年ウザい。黙って話も聞けないわけ?」

 

 先程の表情とは打って変わって冷たい声が響き渡り、一瞬にしてこの場の空気が冷え固まる。

 

「今から一回しか言わないから聞いといて……今から総合型選抜を行うわ。ここで問うのは知識じゃない……貴方達の実力よ。後ろにいる男性陣は学園に在籍している2年生。今から貴方達には男性陣と戦ってもらうから」

 

 試験内容が伝えられた瞬間、英二の耳に入ってくるのは端的に言えば諦め。

 模擬とはいえ、戦闘を行うだけではなく相手は素人の受験生からすれば圧倒的なまでの実力者。

 

「とはいっても素人と経験者じゃ明らかに経験者の方が勝つに決まってる……だから特別ルール。使用して良い武器は剣のみ。制限時間は1分。それまでに1回でも斬撃をあてることが出来れば合格。当てられなければ不合格……簡単でしょ?」

 

 シャルティアの新たな付け加えにさっきまで諦めていた生徒たちの表情に希望の色が戻り始める。

 そんな様子を見ながらシャルティアは小さく笑みを浮かべる。

 

「じゃ……番号順に行きましょうか」

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