二度燃え尽きた灰色は何を成すのか……   作:TS大好き侍

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灰は蘇り影を連れて故郷へ帰る

「データリンク、開始」

 

 ──ヂ────ヂヂ──

 

 頭の中に様々な情報が入って来る。現在地周辺の海域場やネットワークにあげられている過去霧の艦隊が行った戦闘情報の経験値などなど……元人間である俺にとって不足している情報がどんどんとメモリーに記録されて行うが、その情報を取得するほどにどんどんと今の俺が過去の俺と違って生物ではなく無機物に近い兵器という自覚を促してくる。そして今の(コア)(船体)がどれだけイレギュラーな存在かという事も……

 

「共有ネットワークから全情報取得完了、出航準備」

 

──―"重力子機関起動"──―

──―"管制及び全兵装プログラムオンライン"────

────"艦内機密チェック"────

────"自己診断プログラム起動"────

 

「全システムオールグリーン」

 

 火が入った。命の火ではなく無機物で構成された眠れる獅子が目覚める為の火。エンジンの駆動がどんどんと船体を増幅器にするかのように大きく、そして力ずよく唸り始めると所々船体に光が灯り俺自身が目覚めつつあること示していた。火器管制よし、残弾よし、艦内水漏れ無し、エネルギー循環を待機モードから巡行モードへ、全対空対艦対潜レーダー良好っと……よっし、出航準備完了。

 

「第三船速、超戦艦────あっやっべ、俺ってば名前が無い」

 

 巨大な船体は海を進める……つもりだったが、錨を両舷下ろして急制動。船を無理矢理止めて俺は考え始める。そーだったそーだった。俺ってば名前が無い事を忘れていた。超大和型は元々計画だけで終わった戦艦、だから名前が付けられる事も無く終わった為に今の俺には名前が無い。前世の名前は艦艇の名前としては当てはまらないから使う訳にも行けないし……どうしよう。

 思わずウロウロと歩き回ってしまうが気にしないでくれ、コレは頭を働かせるに必要な事だから。

 

「名前名前名前名前名前名前────……あ」

 

 俺ピッコーンっと電球点いたわぁ! 

 そーいえば人類側のネットワークをハッキングした時、ついでにと思って自分の事をウィキペディアをちらっと検索した際に名前の候補があったよなぁ……よし。

 

「────錨回収、第三船速」

 

 ジャラジャラと火花を散らしながら錨を素早く回収、エンジンで生成したエネルギーを推進機関へ伝達させ、推進力を生み出すと俺の立つ巨大な船体はゆっくりと動き出す。さぁーって名前は決まった、後は行くのみ。

 

「超戦艦────オワリッ出航するッ!」

 

 さぁーさぁー、盛大なる処女航海だぁ。盛大に霧笛を鳴らし汽笛を鳴らせ! 

 ナノマテリアルに不可能は無い。だからだろうか俺が無意識的に頭の中で浮かんだ過去に見た海軍で行った進水式。それが今、再現されようとしていた。ナノマテリアルは艦の船首を豪華に飾り付けし、煌びやかなスパンコールの混じった紙吹雪がされ豪華さが演出。それと同時に小さい俺が大量に出現し、それぞれの楽器を持ってファンファンレを響渡らせる。あちゃー、豪華ではあるけれどかなり騒がしぃ―……まぁ、楽しいからいっか。

 

「さぁー奏でよう、1、2────」

 

 素早く作った指揮棒を出現させ構えると同時に分身たちを集め、甲板は既にステージへと変わる。

 作られた分身たちはそれぞれ楽器を手に取る。同時に瞬時に人類側のネットワーク上から楽器の奏方をダウンロード。それに合わせて俺は一つの旋律を作り、歌い、そして祝福す。例えそれが自分自身の事であっても、自己満足だったとしても。

 

「────今の時点では全て忘れ、奏で称えよう。俺にとって三度目である人生の始まりの日を……」

 

 彼女は喜んだ。全てを忘れ、苦痛も苦悩もこれから自身が迎えるであろう茨過ぎる道を、彼女は内心で涙を流しながら。

 だが、だからこそ彼は気付く事が出来ない。そんな彼女の様子を水中にて伺う者の姿を──―

 

※※※

 

 

 

────ピコン────ピコン────

 

 

 海中にて響くソナー音。聞こえる者のいない音を発しながら海中に潜む黒い影。それはゆっくりであるが着実にどんちゃん騒ぎしているオワリの元へと近付いていた。

 影はゆっくりと海面へと浮上する。影の正体は霧の潜水艦。そしてその潜水艦は特有の静粛性を生かしながら潜望鏡を海面から突き出すとそのままオワリの様子を観察、判断していた。そして今、潜水艦イ13は自身の中核であるユニオンコア内にて自身で思考する事が出来るその限られた演算能力のすべてを使い考えていた。目の前に存在しているあの戦艦は何なのか、と。

 オワリは自身では普通の霧に所属している戦艦の一隻と自分の事を自覚しているのだがそれは誤り。他の艦艇からしたら彼女は異質そのモノだった。

 イ13がオワリを分析しようと試みたものの彼女の情報は一切分からず、それどころか自身にエラーが出ているようで分析結果では誤って大和型戦艦と出て来てしまう。共有戦術ネットワークにアクセスして他の艦に助力を求めようとしても、謎の怪電波が海域一帯に広まっているようで量子通信すら行えず通信不可能な状況。だからこそ彼女は生まれて初めて考えていた。性能の低い潜水艦でありながら、人間のように自己の意志と判断をもって目の前の謎に対し答えを見つけようとしている。目の前の謎に対して、自身が納得いく答えと言うモノも。

 だけども何故自分はそう考えるようになったのだ、これは怪電波の影響だろうか? そうも考えたがこれ自体は通信妨害を狙ったモノだろうと結論付け、関係ないと切り捨てる。自身にとって変化を着実にもたらしているのは確かだ。そう結論付けたイ13は自身が受けた命令も忘れ、この疑問を解決する為にオワリを追跡する事に決める。そうと決まった途端の彼女の動きは速かった。無音推進で彼女の後を追いながら見つからないよう、覚られないように移動。右側へ左側へ、もしくは正面に船体を近づけながら潜望鏡で映像を記録、艦の持てる収音機能をフルで使いながら音を記録する。そしてその途中、甲板上で楽し気にオーケストラを奏でている様子を眺めながらも思考の途中途中に不思議に走り続けているノイズにまたも疑問を持ち続けるのであった。

 

※※※

 

 さぁーってアレから日が3~4回落ちたり上がったりしてたから四五日経過していると思うが、連続でお祭り騒ぎは自分でもどうかしてたぜ。

 

「北風風速3ノット、天気は快晴。絶好の船旅日和だと思うけど……間違っても戦艦でやるような行為ではないな」

 

 処女航海と称した俺の当ての無い船旅はまず北上する事から始まった。最初の場所は恐らくベーリング海だったと思う。んで、そこで俺は適当に北上したら島の一つや二つ見えるかなぁーなんて安易な考えで進んでたんだけどもその途中、俺のゴーストがピーンとそれは間違っていると告げて今度は南下。その間真っすぐ北太平洋を進んでたら何だか違うなぁーって感じて今度は左に舵を取り、転舵。適当にそのまま進んで今に至るってワケダ。

 

「それにしても適当に進んでてもラチあかねぇーよなぁ……あ、魚がかかった」

 

 そんでもって長い間の航海は自ずと暇を生み出すわけで粗方1人遊びを終え、暇を持て余していた俺は日課の釣りに興じし、今夜のおかずをゲットしていた。あぁー欲をいえばこれでも元日本人だから白米も欲しくてたまらないとこだがここは海上。手に入れる訳ないんだよな……前に気の迷いでナノマテリアルで作った物はコレジャナイ感半端なかったから早く本物食べたぃ。

 

「うぉー! ってか今回は深海魚じゃなくて久方ぶりに鯛が釣れやがったぁ、今夜はお刺身だぜぇ!」

 

 思わぬ御馳走に嬉しさ溢れながら俺は即座にナノマテリアルで作り出したぶっとい針製作。ピチピチと跳ねている鯛を素早くシメ、針と一緒に製作していた冷蔵庫へシュートッ! 特製急速冷凍庫で新鮮さ確保じゃゴラァ。

 そんでもって台所一式に刺身用の皿を製作した俺はルンルン気分で冷蔵庫を船内へと格納するんだけども……ここで一つ気付いてしまった。重要なモノが足りない……っと。

 

「あぁーでも醤油が手に入らないと意味無いよなぁ……」

 

 刺身に醤油は必須。コレが無いと美味しく生魚を食べる事が出来ねぇ。例えナノマテリアルで食料品を製作してもコレジャナイ感が強すぎるし、どうしたものか……

 

「あぁー、お醤油ほしぃい。お米たべたぁーい」

 

 元ではあるが日本人として米と醤油が無いのは死活問題。俺は前世から──つっても10年前の事だがその時でも食には拘ってたから、物資不足であっても米と醤油だけは良い物をちゃんと確保していた。だからこそ俺は米が食いてぇ! 醤油を漬けたお刺身が食べてぇ! 

 

「あぁぁぁぁぁぁ米米米米米米ッ! 醤油醤油醤油醤油醤油ッ!」

 

 地球の反対側だろうと正確に狙撃できるほど強力な演算能力が全て食へと向けられ、思考のループを生み出す。全能力を使って思考している為か体全体に彼女特有のマークが浮かび上がっており、その形は奇しくも水滴のような形だった。そうやってその問題を解決するか、どうやって目的の物を確保するか、そればかりを考え考え考えまくって……答えが出る。

 

「あ、そうだ────

 

 

 

 

 

 

 

 ────日本に帰ろう」

 

 決まったからには速実行。船速を第一船速へ上げ俺は自身の故郷である横浜港を目指す。だってあそこが一番近いし、土地勘だってまだあるからなぁ! こうして2049年、謎に人類はイ401とは別に霧の超巨大戦艦を拿捕する事になるのであった…………あ、俺自身は人間に混じって生活してるのでそこん所よろしく。

 




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