月で死んだと思ったら異世界に召喚された 作:鮭のKan2me
女王マヴがオレ達の前に姿を現してから数日、現在ブリテンは北の妖精と南の妖精に分かれた戦争の真っ最中である。
「予想通り、状況は不利。このままだと全滅は必至ですね。
「あぁ、核になっているだろうマヴさえ突破すればいい話ではあるが、アレはムリだな。数が違いすぎる。」
予測にはなってしまうが、アルビオンの加護の大半を継いでいるのはマヴ。それを叩けば他の妖精や人間にもかかっている加護は段々と消え、形成逆転も可能になるハズ・・・なのだが、取り巻きが多すぎてオレ達のような少数精鋭ではマヴの元まで辿り着けないのだ。仮に辿り着けたとしても兵士の相手で疲弊してるオレ達にマヴが遅れを取るとは思えない。
「ヤツ自身も前線に出るのは好奇だと思ったが、全く油断してねぇ。オレ達がどこから参戦しても対応できる陣形を組んでやがる。腹立たしい事この上ない。」
「なぁ、どうするんだよトネリコ。このままじゃみんなやられちまう。ボクそんなのヤダぞ!」
まさに絶対絶命のこの状況。しかし、トネリコにはまだ策があった。無謀としか思えないほどの策が。
「そうですね。ではマヴの元まで直行する、というのはどうでしょうか。」
「待て、周りの取り巻きはどうするつもりだ。あそこで消耗すればマヴには・・・。」
「大丈夫です、要は
「お、おい、エクターだけでいいのか?グリムはともかく、オレは霊体化すれば・・・。」
「ダメです、恐らくマヴには勘付かれるでしょう。心配しないでも、無事に帰って来ますよ。」
「・・・・・・わかった、朗報を期待する。エクター、頼むぞ。」
「任せておけ、この身一つでいいなら幾らでも差し出してやるさ。」
「—さて、こっちもこっちでマズイことになったな・・・!」
トネリコがエクターと共に北の妖精達の元へ向かった頃、オレ達は南の妖精の動向を見ていたのだが、しばらくして北の妖精からの攻撃が止んだ事に気づき、一気に攻めようと蜂起したのだ。
今攻め込まれれば混戦は避けられない。そこでオレら四人は南の妖精の軍を抑えることに従事することとなった。
「ハッ、北に比べれば南の妖精など軟弱よ!」
「勢い余って殺すなよライネック。」
「フン、誰にモノを言ってる。」
「モードレッド!こっち頼むんだわ!そろそろ崩れる!」
「今行く!こうなったら何袋でも使ってやるよ!!」
自分で言うのもなんだが、この場をライネックの次に抑えているのはオレだ。いつか作った水晶壁、その亜種。糸のように細くした水晶を編み込み、物理的な強度を上げた一品。それが妖精達の進行を妨げている。
あえて欠点を言うのであれば荒れが多い不純な部分はあまり使えないことだが、このブリテンで取れる水晶はどれも品質が良い。燃費が悪いのに変わりはないが、無駄な部分が多く出ないのは精神的にも楽できる。気休め程度ではあるが。
「モードレッド、触媒の在庫は?」
「・・・正直厳しい。最悪オレの魔力で補えば多少なりとも数を増やせるが・・・そちらはどうだ。トネリコから何か来てないか?」
「何かあればお前にも来るだろう。そう心配するな。」
「・・・あぁ。」
(エクターもいるし大丈夫だとは思うが・・・。いや、ここまで時間が経って何もなければ、持ち込めはしたのか?和平交渉に。)
トネリコが南の妖精を守るために下した一手、それはマヴに戦いを止めさせることだった。確かに北の妖精は軍として圧倒的な力を持っているが、それ故にトップの指向には逆らえない。女王マヴがあるタイプの王として君臨するなら、交渉の余地が無くとも一対一の場には持ち込める・・・というのがトネリコの談だ。
良くて一騎討ち、悪くて精鋭との戦いになるが、それを切り抜けても軍のど真ん中。生還の余地があるとは思えない。やはり距離を取ってでも一緒に行くべきだったか—。
「モードレッド、聞こえたな?」
「・・・グリム、あとは任せる。」
「おい、トネリコに何かあったのか?言え!」
「
ライネックに指示し、オレは残った水晶をありったけ使って砂嵐のように妖精達に飛ばす。目に入ったり傷口に入ったりと怯んだ隙に退却し、それを見計ったようにグリムの魔術が妖精達を吹き飛ばす。その威力はトネリコの本気に匹敵する程であった。
「—それで?何もかも予想通りだったわけじゃないだろう。」
「えぇ、お互いにとって予想外の出来事があったのは確かです。」
あれからマヴとの交渉に成功したトネリコと合流したオレ達であったが、南の妖精の邪魔をしたのは事実なので良い目はされなかった。そんなわけで、また姿を消すべく『棺』の洞窟の最奥を目指していた。
「最初は話を聞いてはくれましたが、それでも止めるつもりがなかったようで精鋭達と一緒に襲い掛かられちゃいました。エクターが盾になってくれたおかげでなんとか乗り切れましたが・・・。」
「エクターだからできた力技、か。あとで労ってやらないとな。だが、そこから一体どうやって勝ったんだ?」
「・・・その、ですね。その戦いの最中、一人の人間が亡くなられたのです。その人間には特にアルビオンの加護が強かったのですが、肉体が耐えきれなかったようで。」
「それがどうした?人間一人失ったところで—。」
「その者はマヴの婚約者でした。」
「!?」
婚約者、だと・・・!?いや、南の妖精達の扱いと一括りで考えるのは良くない。価値観は様々だ。マヴにとってはそれが婚約対象にまでなる程であったということで・・・。
「その瞬間を目の当たりにしたマヴは戦意を喪失。そして、向こうから戦いの終わりを申し出ました。」
「そう、か・・・なぁ、トネリコ。いっそのこと、マヴが勝った方が良かったんじゃないか?そうすれば—。」
そうなれば、もう迫害されることはないかもしれない。頑張った分報われるような世界になるハズだ。
「それはいけません。女王マヴが南の妖精を根絶やしにするという意思は本物でした。それに万が一南の妖精が傘下に入るとしても、いつか必ず反発するでしょう。」
「・・・すまない、今のは失言だった。」
「いえ、大丈夫ですよ。・・・それに、今回は個人的な感情でも動いてたのであまり褒められたことではないですから。」
「な・・・そうなのか。」
トネリコが私情を挟むのは滅多にない。たまに後先考えず突撃したりするが、悪い結果になることは早々ないのもそれが起因している。
「えぇ、だって—。」
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補足ですが、最後の伏せ字の内容は当たりざわりのないものとなっています。簡単に言うと、本心の内容が過激かつ自分勝手なものになってない感じです。