月で死んだと思ったら異世界に召喚された   作:鮭のKan2me

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10:『秋の戦争』と大魔術

「モードレッド殿!鏡の氏族領地北方の包囲、完了しました!」

 

 

「ご苦労、見張りの目は二人以上、30分毎に入れ替える様に。後衛は得物の調子も確認しておけ。」

 

 

 ウーサーがトップを務める『円卓』の軍が妖精達に反旗を翻し、数日が経つ。消耗は激しいものの、破竹の勢いで土・風・牙の氏族を撃ち倒していった。まぁ、その背景にはウーサーやトネリコに賛同してこちら側についてくれた翅の氏族の妖精達とその氏族長となったムリアンの働きもあったわけだが。

 残る敵は鏡と王の二つの氏族だけだ。

 

 

「はっ!・・・その、つかぬ事をお聞きしますが、モードレッド殿はまともに休まれてないのでは?軍の指揮は我々に任せて仮眠でも・・・。」

 

 

「オレに限った話だが、休息の有無でポテンシャルは変化しない。人の心配をするなら自分の心配をしておけ。」

 

 

「は、はぁ・・・。」

 

 

 戦争が始まってから休まず動いたのは事実だが、直接的な戦闘はまだ行っていない。精々魔術による広域殲滅に加担したぐらいだ。そういった消耗で考えるなら、牙の氏族をたった一人で抑え込んでいたライネックや最前線で敵の攻撃を受け続けたエクターの方がひどいだろう。

 

 

(手筈通りなら、ウーサー率いる南の本軍が領地内に突入、鏡の氏族長を討ち取るのだが・・・妙だな、合図が上がらない。)

 

 

「報告、報告ーッ!南の本軍が王の氏族による強襲を受けた模様!」

 

 

「なに!?」

 

 

「も、モードレッド殿!北から王の氏族の軍勢が向かってきています!その数、およそ3000翅!」

 

 

 いざ鏡の氏族と戦おうという時に、突如として攻撃を仕掛けた王の氏族。しかし、マヴが何かしらの行動を起こすのは予測済みだ。冷静かつ臨機応変な対処が求められる。そのために重要なのは—。

 

 

「女王マヴの姿は?」

 

 

「はっ!北の軍勢、その中枢に確認できました!」

 

 

「ならトネリコやウーサー達はなんとかなるか・・・全部隊に通達!これよりオレ達は北の軍勢を相手取る!ただし目的は殲滅ではなく足止め、決して南に向かわせるな!」

 

 

 オレの指示は『円卓』の兵士により迅速に行き渡り、迎撃の準備を整える。しかしやはり時間はかかるもので、マヴの軍勢はもうそこまで来ていた。

 

 

「前線に立つ。あとは任せたぞ。」

 

 

「ご武運を!」

 

 

 補佐官としてオレの傍にいた兵に指揮を任せ、急いで前線に向かう。それにしても、魔術師であったオレが軍を率いるとは、らしく(・・・)なってきたな。

 

 

「モードレッド殿!我々はいつでも行けます!」

 

 

「よし、まずオレが敵の勢いを削ぐ。が、それでもタカが知れてるだろう。油断することなく数的有利を保って・・・!?」

 

 

 数刻の余裕、それを持って『円卓』への気休めの激励を送ろうとしたが、その刹那の間にオレの目の前には槍が迫っていた。サーヴァントの動体視力でもかろうじてでしか反応できないソレに、オレは水晶玉を槍の穂先に合わせた大きさの円形に広げて防いだ。しかし、衝撃までは殺し切れず身体が吹っ飛んでしまう。

 

 

「ぐぉっ・・・!」

 

 

「あら、誰かと思えばトネリコの取り巻きじゃない。まさかとは思うけどアナタがここの最高戦力?」

 

 

「・・・役者不足な上に力不足で悪かったな。そちらは・・・妖精統一の軍か。相変わらずだな。」

 

 

 顔見知りなだけあって軽いやりとりをする。『夏の戦争』時のマヴの軍勢は人間も妖精も入り混じった編成だったが、それ以来マヴは妖精のみを己の軍として使役している。やはり原因は・・・。

 

 

「えぇ、人間なんて弱い生き物は私の軍にはいりません。それなのにアナタ達ときたら人間ばっかの軍な上に飽き足らず、王にする、ですって?そんなもの認められるわけないじゃない!いいこと?妖精の上に立ち、王として君臨するのはこの私、女王マヴよ!本当は鏡の氏族を落とすつもりでしたが、余興として、アナタ達を蹂躙してあげましょう!」

 

 

 マヴの号令と共に王の氏族の軍勢は攻撃を開始する。オレは少しでも『円卓』の負担を減らそうと広域殲滅を試みたが・・・。

 

 

「くっ、マヴめ。やはり好き勝手させてくれないか。」

 

 

 マヴの軍、その中でも選りすぐりの精鋭がオレに殺到する。サーヴァントとタメを張れるほど強力な上、数もいるため対応が難しい。なんとか合間を縫って水晶を介した魔術を行使し、『円卓』の兵士を攻め立てる多数の妖精を倒せてはいるが、キリがない。

 

 

「後続部隊、壊滅状態です!先陣を切った部隊も戦う意志はありますが、消耗は激しく・・・。」

 

 

「えぇい、モードレッド殿の周りにいる妖精は引き剥がせないのか!」

 

 

「すでに別動隊が助太刀に行きましたが、赤子のように蹴散らされた模様・・・!」

 

 

「かくなる上は・・・モードレッド殿!助太刀する余裕があるのであれば、離脱はできますか!?もしそうであれば、急いでウーサーや救世主様の元へお戻りください!ここは我々が命に変えても・・・!」

 

 

 指揮を任せた兵がそう提案するが、それはできない。ウーサーだけでなく、トネリコからも頼まれたのだ。やられるつもりは毛頭ないが、見捨てるつもりもない。

 

 

(・・・やりたくはない。やりたくはないが、これしかあるまい。)

 

 

 葛藤しながら、左手の礼装『歪み無き丸水晶』に目を向ける。こいつは角ばった変形こそできないものの、それに目を瞑ればかなり自由な形を取れる。そして、その形を限りなく縮小化させた球状にし、魔力を逆流させれば、理論上の話ではあるが、縮めた分抑えられた魔力が放出され大爆発を引き起こす。これをすれば、マヴの精鋭はおろか、マヴ本人にも痛手を負わすことができるだろう。

 しかし、その代償としてこの最高傑作とも言える礼装は消滅し、それと密接に繋がったオレの魔力回路には凄まじいフィードバックが襲いくる。人間であれば確実に死ぬが、サーヴァントの身体ならば良くて戦闘不能で済むハズ。

 

 

「あとは、任せたぞ。」

 

 

「!アナタ達、早くその妖精騎士を仕留めなさい!」

 

 

 何かを感じ取ったのか、マヴが精鋭達に始末の命令を下す。だが、もう遅い。すでに水晶玉は指一本ですら包み込める程に縮小、拳銃で例えれば引き金に指がかかり、銃口は額に付いているような状況だ。左腕をマヴのいる方向に向ける。その瞬間、視界が光で埋め尽くされた。

 

 

「っ・・・!?」

 

 

(しまった・・・!これでは狙いが—。)

 

 

 慎重に取り扱わなけらばならないため、下手には撃てない。逆転の一手を潰され、その後の展開に思考を張り巡らせていたが、その考えついた中にはない予想外の光景が目に広がっていた。

 

 

「よっしゃー!!『合わせ鏡』成っ功!!!前々から試してみたかったけど、使う機会なくて困ってたんだー!」

 

 

「と、トネリコ?それは流石に危険じゃないかい?了承した僕も僕だけど・・・。」

 

 

 目の前に突如として現れたトネリコとウーサー・・・だけでなく、ライネックやエクター、『円卓』と翅の氏族の軍勢の姿があった。

 

 

「モードレッド、ここまで良く持ち堪えましたね。おかげで鏡の氏族への進行妨害は一回きりで済みました。あとは私達にお任せを。」

 

 

「あ、あぁ・・・ところでトネリコ、『合わせ鏡』を行う魔術リソースなんてよくあったな。へそくりでもあったのか?」

 

 

「あー、その、へそくりと言えばへそくりなのですが・・・。」

 

 

「わかった、もうこの話は止めにしよう。補完してた二十袋超分の水晶は無かったことにする・・・!」

 

 

「そんな魔術もあったのね・・・いいわ、手間が省けたとはこの事ね!アナタ達を倒した暁には、堂々と戴冠式を挙げてやるわ!」

 

 

 体勢を立て直した王の氏族の軍勢は、更に士気を上げ突撃を開始する。

 

 

「さぁ、ウーサー君。」

 

 

「あぁ・・・みんな、これが最後の戦いだ!南軍全部隊、迎撃用意ッ!!」

 

 

『オオォォォォォォォォ!!』

 

 

 まさに大合戦とも言うべき『秋の戦争』最後の戦い。結果として、ブリテンの王の座を賭けた一進一退の攻防を制したのは、救世主と翅の氏族を味方につけた『円卓』であった。




 断章ばっか見てて『合わせ鏡』どんな魔術なんだろうなー、とか想像膨らませてたら普通にトリ子が使ってた件。
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