月で死んだと思ったら異世界に召喚された   作:鮭のKan2me

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18:抱え行く者と捨て阻む者

「・・・遂に来たか。」

 

 

 牢獄にまで届く程の轟音。間違いなく女王軍がシェフィールドを攻め落としにきたのだろう。しかし、この様子ではまだ城壁は持つだろう。強情なボガードの事だから裏口はまだ開けないだろうが、避難も滞りなく—。

 

 

「ッ・・・!!?」

 

 

 悪感がした。それも今まで感じたことがないほどの。

 

 

「出るか。」

 

 

 そう決意した次の瞬間には手足の枷を一息に外しつつ、その勢いで鉄格子も切断した。

 

 

「あ、おいッ!」

 

 

「悪いね。だが、オマエも逃げた方がいいんじゃないか?ここが崩れるのも時間の問題だろう。」

 

 

 見張りを振り切って外に通じている道を探す。その間にもまた何度か悪感を感じた。言いようのない不安を感じながら外に出ると、そこには惨状が広がっていた。

 

 

「これは・・・!ボガードめ、一体どんな隠し玉を?」

 

 

 城から城壁の外まで一直線に抉られた痕跡が残っている。ただそれだけなら問題は無いのだが、その近くにいた妖精が目立った傷も無く死んでいる(・・・・・・・・・・・・・)のが気にかかる。

 

 

「いや、まずはハベトロットだ。裏口ならいいが・・・『予言の子』と一緒にいるなら、あるいは。」

 

 

 そう言葉を切って城を見やる。このシェフィールドに於ける『予言の子』とは、鉄の装備と凄まじい力を持った人間を指す。ボガードの新しいお妃として迎え入れられたのもソイツだ。

 もう逃しているなら問題はないが、まだ手元に置いているというならハベトロットもそこにいるハズ。

 

 

「まぁ、そりゃ女王騎士もいるよな。」

 

 

 いざ城につくと、チェスのナイトを彷彿とさせる鎧を着た妖精が包囲網を敷いていた。オレの場合、見つかっても襲われはしないだろうが時間を取られるのは確実。なんとか人気の無い通路を探っていると—。

 

 

「・・・おやおや、シェフィールドの領主や『予言の子』がこのザマとは。」

 

 

「!?キサマ、エリドール!牢獄から抜け出たかッ!!」

 

 

「あの程度の設備で拘束できるとでも?ま、それはオマエが一番わかってたと思うが。」

 

 

 城の中庭にはボガードとそのお妃、果てにはハベトロットまでいた。しかし、お妃である『予言の子』はもう動ける状態でないし、ボガードも生きているのが不思議なぐらい衰弱している。にも関わらず、ボガードの声色には力強さが抜けていなかった。

 

 

「エリドール、悪いけどこの二人連れてけるか?」

 

 

「ハベトロットさん?この方は、敵ではないのですか?」

 

 

「いーや、敵だよ。ただ戦うつもりがないだけで。今は休暇中だ、公私問わず友人の頼みぐらいは聞いてやるさ。」

 

 

 そう語りながら『予言の子』に向かって肩を貸そうとするも、その前にボガードが身を起こす。

 

 

「オレの妃に、触るな・・・!」

 

 

「おっと、それは失礼。じゃあどうするつもりだ?」

 

 

「愚問だ、オレが背負う!キサマの手など借りてたまるか・・・!」

 

 

 すでに死に体だと言うのに、ボガードは自身の妃を乱暴かつ優しく抱え上げる。

 

 

「ではオレはここらで退散するとしよう。ハベトロット、離れてやるなよ?」

 

 

「おうとも!ボクは花嫁の味方だからな!」

 

 

 お妃を抱えたボガードとハベトロットが城をあとにする。一方オレは手のひらで複数の水晶を転がしながら、女王軍の侵攻状況を確認する。

 

 

「・・・さて、頼み事を受けたはいいものの、誰かさんに仕事を取られたせいで手が空いてしまった。なら、ちょっとした手伝いに回るとしよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「裏門へ急げ!ボガードも『予言の子』もそこへ向かったハズだ!」

 

 

 妖精騎士ガウェイン率いる黒犬部隊が歩を進める。立ち向かう兵の姿は、すでに無かった。

 

 

(裏門がまだ騒がしい。ランスロットめ、何を手こずって—。)

 

 

 瞬間、複数の爆音がシェフィールド中に響き渡る。

 

 

「!?なんだ!」

 

 

「が、ガウェイン様!通路が・・・!」

 

 

 黒犬部隊の進軍先には、周囲の建築物と溶け合った壁が出現していた。

 

 

「ガウェイン様、他の道も同じく壁で塞がれております!」

 

 

「どけ、私が出る。」

 

 

 ガウェインがその手に持った剣を振るう。『太陽の騎士』の名に恥じない膂力は強力無比である。が、壁を完全に破壊するには至らず、半分程度の厚さを削るに終わった。

 

 

「これは、石英・・・水晶だと!」

 

 

「ご名答!いやー、まさかこんなことになるとは。」

 

 

 ガウェインが壁の材質を見破ると同時に、この水晶の壁を出現させた張本人が姿を見せる。

 

 

「エリドール、まさかとは思うが、この壁はキサマが作り出したのか?」

 

 

「まぁ、創ったのは私ですね。言い逃れはしませんとも。」

 

 

「—ほう。」

 

 

 角に手を掛かるガウェイン。それを見たエリドールは慌てたような様子で続きを述べる。

 

 

「いやいや、勘違いなさらないでほしい。これはたまたま落としてしまった(・・・・・・・・)だけなのですよ。牢獄からいざ逃げようと思った矢先に、ポロッと転がり落ちたようで・・・。」

 

 

「そんな戯言が通るとでも?舐められたものだな!」

 

 

「・・・裏切ってどうこうするつもりなら、こうして姿を現しませんよ。少々お待ちを。」

 

 

 今にも襲いかかりそうなガウェインを尻目に、水晶の壁に近づき手を触れる。すると、水晶の壁は一気に崩れ落ち、その残骸は辺り一面に転がる。

 

 

「と、このように処理するために来たのです。しかし、事故とはいえ手間を取らせてしまったのも事実。処分は如何様にも。」

 

 

「・・・キサマへの処罰は、私ではなく陛下が言い渡すだろう。それまで大人しくしていろ。」

 

 

 水晶の壁が無くなった事により、ガウェインは再び侵攻を開始し、オレは女王騎士に連行される。

 

 

「ではエリドール殿、こちらへ。」

 

 

「あぁ、すまないね。」

 

 

(もう少しだけ長引かせる予定ではあったが、時間稼ぎはこれぐらいでいいだろう。しくじるなよボガード、ハベトロットのためにも。)

 

 

 あとで聞いた情報によると、『予言の子』やボガードは裏門から脱出。裏門は詰所に残った二翅の妖精に手により閉じられ、開閉機能を壊されたことにより追跡は不可能。女王の軍は正門の穴からキャメロットへと帰還した。




 前回のシェフィールドの城壁についての疑問。ガッチガチなのは壁だけで壁の上通れば普通に侵入可能だった件(つまり空飛べるランスロットには関係無し)
 まぁそれは置いといて次回、誰とは言わないが最も120レベルまで上げられたキャラが登場します。
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