月で死んだと思ったら異世界に召喚された 作:鮭のKan2me
「やはり騒がしいな。今日中には出るつもりか?」
「おぉ、エリドールじゃないか!残念だけど商売はまた今度にしてくれ!今はロンディニウム侵攻に向けて兵と武器を揃えてるところだからな!」
大食堂『オックスフォード』、領主である牙の氏族の長が作り上げたレストラン街。とはいっても、領主の意向で牙の氏族の本能を掻き立てる肉の料理はどこであろうと取り扱われていないのだが。
「お気になさらず、今回は商売目的じゃありませんから。注文があれば別ですけど。」
さて、今この街では進軍の準備で慌だたしくなっている。ノリッジの『鐘』がならされたことで、女王モルガンは『予言の子』とそれに与する勢力を敵と見なした。
よって、まずはロンディニウムを拠点とする円卓軍を潰すために動員されたのが—。
「ウッドワス様、お久しぶりでございます。」
「・・・エリドール、非戦闘員のキサマが何故ここにいる!!」
「今一度若き勇者の勇姿を見たくなりましてね。流石に戦場まで行くつもりはございませぬから、出発前にと。」
亜鈴百種・排熱太公ウッドワス。モース戦役以来、モルガン陛下に支えてきた牙の氏族長。過去のある事件から本能を曝け出すことを非常に嫌がっており、菜食主義となって礼節も身につけた変わり者でもある。
「確かに戦場にまで足を運ばれては迷惑だ。精々陛下に殺されぬよう、キサマと同じく何の役にも立たないガラス細工でも作っておけ。」
「おぉ、ヒドイ言われよう。陛下の期待を裏切らぬようで最上の結果を出さねばなりませんね、お互いに。上手く事が運ぶのを願っていますよ?」
「当然だ、種としても軍としてもこちらの方が上なのだからな!パーシヴァルに『選定の槍』があろうとそれは変わらんよ!」
「おや、『選定の槍』の事はご存じでしたか?陛下から聞かされたので?」
「いや?オーロラだよ。そういえばキサマ、オーロラから依頼を受けたが未だに完成していないらしいな?彼女ほどの妖精を待たせるとは、水晶工も落ちたものだな!」
なるほど、ソールズベリーの領主からか。確かに『選定の槍』はあの街の大聖堂に保管されていた、逆に知らない方がおかしい。聞いたタイミングはノリッジ陥落時にここオックスフォードで会食をした時か?しかし、この話題を出せば絶対に不機嫌になるので聞かない方が吉だろう。
「落ちたも何も、今の私めの腕では
「なんだ?これ以上は時間のムダ—。」
「先日新しく出来たというレストランの事で。折角訪れたことですし、是非堪能したいと思いまして。」
「・・・二つ先の曲がり角を右に曲がれ。オススメは根菜のサラダだ。」
レストランの話題になった途端、急に丁寧な対応をするウッドワス。どれほど本性が荒々しくても、長い間それを封じ込めただけあって紳士差が様になっている。その成長を見れただけでも来た甲斐があった。
「ありがとうございます、オックスフォード公。またの機会があれば、アナタが考えたフルコースなんてものも注文してみたいですね。」
「フン、ソレは安く無いのでな。精々手持ちと相談することだ。」
それを最後にウッドワスは軍隊の指揮に戻った。ちょうど武器の装備や隊列が終わった頃らしい。途中で指示を出さなくてもこれなのだから、良く指南されている。
ウッドワスの軍がオックスフォードを去り、その一方でオレはウッドワスに薦められた料理を注文し、口にしていた。
「・・・確かきんぴらごぼう?とかいう料理があったな。それに近いものか?」
ごぼうと人参、それにジャガイモと大根が入ったサラダ。和食の一つに似たようなレシピがあった気もするが、何か違う気がする。まぁ美味くはあるのだが。
「おうエリドール、どうだそのサラダは?ウッドワス様が自ら編み出した新作だ。」
「おいしかったよ、少なくとも私にとっては。肉を制限されているアナタ方にとってどうだかは存じませぬが。」
「まぁな、肉が喰えなくて不満なのはみんな一緒だ。ウッドワス様はお堅すぎる。」
「まぁ、肉なんて置いていればオックスフォード公はお怒りになることでしょう。
「ハハハ、大丈夫だって。
「それならよかった。では、ご馳走様。」
メニュー表にも載ってないし目に見える保管庫にも入ってない、か。全く、不憫としか言いようがない。なぁ、ウッドワス?
モルガン陛下、アンタ、イベントでなんちゅー事を・・・。それはそれとして可愛かったですハイ。
強い分横領とか自分勝手な行動多い牙の氏族をできるだけ纏めつつ自身も律していたウッドワスはめっちゃ有能。異論は認める。