月で死んだと思ったら異世界に召喚された   作:鮭のKan2me

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28:『失意の庭』と静かな怒り

「少々取り立て過ぎたが、これだけの水晶と核があれば攻めの手段も豊富に作れる。『予言の子』もエディンバラを出た頃だろうし、今度こそ陛下の依頼を完遂しなければ。」

 

 

 袋の紐を絞めて、『予言の子』が通過するであろう場所に向かうエリドール。その袋には対価として徴収した水晶が敷き詰められており、中には魔晶核と名付けた赤い水晶も幾つか混ざっていた。

 貴重な資源の一つを切り札としてわざわざ調達する辺り、エリドールの本気が伺える。

 

 

「さて、鎧の展開を・・・・・・む?アレは・・・。」

 

 

 水晶を見に纏う最中、遠くから黒いモヤの様なものが見えた。遠見用の水晶玉を取り出して兜越しに覗くと、そこには止まった馬車と人の形をしたモースと戦う『予言の子』達の姿があった。そしてもう一人—。

 

 

(モース人間・・・それに、バーヴァン・シー!?何故此処に・・・陛下の命でないことは確か、であればベリル・ガットの差し金か?)

 

 

 人の形をしたモースの様な何か、その正体はベリル・ガットが実験として作り出したモースの呪いを宿した人間。そして、それを率いているのは先日ギフトを剥がされ謹慎の身となった妖精騎士トリスタン改め、バーヴァン・シーであった。

 予想外の事態に足を止めて静観したエリドールであるが、その一瞬が更に大きな事態を招くこととなった。

 

 

「なっ、アレはッ!?」

 

 

 バーヴァン・シーが取り出した物を見て慌てて駆け出すエリドール。だが間に合うことはなく、バーヴァン・シーの持つ魔道具に『予言の子』と『異邦の魔術師』が吸い込まれた(・・・・・・)

 二人を助けようとマシュが盾を構えて突撃したものの、それより早くバーヴァン・シーは『水鏡』によって転移する。残されたマシュは唖然として膝をついてしまった。

 

 

(バーヴァン・シー、何故オマエが『失意の庭(ロスト・ウィル)』を・・・!)

 

 

「・・・で、テメェは追い討ち要因ってわけか?」

 

 

(・・・しまった、これは最悪だな。)

 

 

 村正が刀を突きつけた先には、水晶の騎士。バーヴァン・シーを止めようとなりふり構わず近づいてしまったためか、気配を捉えられてしまった。

 向こうからすれば、戦力を削いだところを潰そうとしていると思っていることだろう。撤退しようにも村正とグリム相手では苦戦は必死、『予言の子』と『異邦の魔術師』を攫われたこともあって鬼気迫る戦いが予想される。

 

 

(バーヴァン・シーも気になるが、まずはコイツらだ。場合によってはここで始末を・・・ッ!?)

 

 

「チッ、またか・・・!」

 

 

 突如として、水晶の騎士の背に円状の光が広がる。バーヴァン・シーが使用したものと同じ『水鏡』と同様のものであった。

 水晶の騎士の身体は『水鏡』に引き込まれていき、その場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬぉっ!?・・・ここは、キャメロット?」

 

 

 『水鏡』の転移先はキャメロット、この『水鏡』はエリドールが使ったものではなく、その眼前にいる者の手によって使用されたものだ。

 

 

「キサマ、あの場にいながら何をしていた。」

 

 

「へ、陛下っ、申し訳ございませぬ!まさかバーヴァン・シー様が『失意の庭』を持ち出していたとは・・・!」

 

 

「・・・バーヴァン・シーの容体を見てこい。私は無能共に『失意の庭』の件を伝えねばならぬ。オマエへの処罰はその後だ。」

 

 

「・・・はっ。」

 

 

 一方的に告がれるモルガンの言葉を聞き、エリドールはバーヴァン・シーが転移した先であるキャメロット内の部屋に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バーヴァン・シー様、お邪魔致します。」

 

 

「ぁ・・・だ、れ?」

 

 

「エリドールにございます。失礼ながら扉を開けさせていただきますよ。」

 

 

 ノックを挟んでバーヴァン・シーの部屋に入る。弱々しい返事の通り、バーヴァン・シーにいつもの様な刺々しさはない。その姿は見るも無惨で、身体(・・)の一部が腐り落ちてもいた(・・・・・・・・・・・・)

 

 

「・・・勝手に、入ん、ないで・・・。」

 

 

「そうも行きませぬ、女王陛下の命ですので。・・・『失意の庭』は、どこにありますかな?」

 

 

 軽く見渡しても『失意の庭』は見当たらず、また魔力反応もない。一体どこにあるのかと聞いたのだが、それによってバーヴァン・シーの様子はさらにおかしくなる。

 

 

「あぁ、あ、あぁぁ!持って、かれたの・・・お母様の『庭』、持っていかれちゃったの・・・ごめんなさい、ごめんなさいお母様。大切、にしようとして、たのに、ダメな娘でごめん、なさい・・・。」

 

 

「・・・バーヴァン・シー様、誰が『失意の庭』を持ち出したのですかな?」

 

 

「・・・・・・ベ、リル・・・。レッド・ベリル・・・ワタシの、ケッコン相、手・・・。」

 

 

「そうですか。バーヴァン・シー様、暫しお待ちを。『失意の庭』は必ずや私が取り戻し、陛下にお渡しします。」

 

 

 エリドールはバーヴァン・シーの欠けた身体を応急処置で繋ぎ合わせると、部屋を出た。その目の色は、今まで以上に真剣なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、久しぶりだねマシュ。それにペペロン伯爵まで。」

 

 

「!アナタは、エリドールさん・・・?」

 

 

「あらヤダ!エリドールちゃんじゃないの!ロンディニウムの子達が寂しがってたわよぅ?」

 

 

 ある領内の前でマシュとペペロン伯爵を呼び止める。ペペロン伯爵の正体はスカンジナビア・ペペロンチーノという藤丸立花やベリル・ガットと同じ『異邦の魔術師』、いつの間にかノリッジに住み着き、自らのブランドを浸透させたやり手でもある。

 

 

「しょうがないでしょう?今あそこに行ったら陛下に反逆者扱いされかねない。こっちは商売してるだけですから。」

 

 

「あらあら、じゃあ女王派のアナタはこんなところに何の様かしら?」

 

 

 伯爵が探りを入れる。当然だ、ここは好んで訪れる様な場所ではない。何かワケでもない限りは。

 

 

「『失意の庭』の探索ですよ。まずは持ち出した本人の領地を調査しようと思いまして。」

 

 

「!?な、何故それを・・・!」

 

 

「陛下から聞いた。依頼内容はある程度聞くのが大事だからね。そういうマシュは・・・聞くまでもないかな?」

 

 

「・・・はい、その『失意の庭』には大切な人達が囚われているのです。だから、一刻も早く助けだしたいのです!」

 

 

 その言葉には、エリドールに向ける真っ直ぐな瞳と同じくらい強い決意が込められていた。それに応えたのか、エリドールはこう述べる。

 

 

「私の目的はあくまで『失意の庭』です。それ以外にうつつを抜かしてたら、陛下に何を言われるか・・・。」

 

 

「へぇ?つまり、私達と敵対するつもりはないと捉えていいのかしら?」

 

 

「まぁ、ここは特に物騒だし、いざとなったら手助けし合おうということで。じゃ、探しますか。」

 

 

「エリドールさん・・・!ありがとうございます!」

 

 

 こうしてエリドールとマシュ、そしてペペロン伯爵の三人は、『失意の庭』が保管されているであろう場所・殺戮劇場『ニュー・ダーリントン』へと足を踏み入れた。




 今回情報量多いのは気のせいじゃないと思う。次話に持ち越し過ぎたかぁ・・・。
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