月で死んだと思ったら異世界に召喚された 作:鮭のKan2me
昔の、あるいは空想の中の作り話。旅の付き添い、綱渡りの日々、それが気の遠くなる程に繰り返されていた。
ハッキリ言って、苦痛だった。強引で危なっかしく、されど真っ直ぐなヤツが見てられないから側にいただけだ。
ある妖精が言った。そんなやり方でしか救えないのなら救世主など辞めてしまえ、と。確かに変えの効かない役ではあっても、逃げる選択はできる。オレがその立場であったなら間違いなく放り出してるかもしれない。
しかし、ソイツは逃げないどころではなく、それ以上を望んでしまった。本来の『目的』を果たすだけであれば、まだ楽であっただろうに。
だからこそ、その旅を終わらせようとした妖精を、『亜鈴返り』と呼ばれる強力な妖精を一人で叩き潰した。
それ以来だったか。その『亜鈴返り』は救世主に手を貸し、旅を共にしたのは。傲慢ではあったが、気高く、一途な、信頼できる友であった。
・・・話がズレたな。あぁ、どのように『亜鈴返り』を捻じ伏せたのかは言ってなかったか?わざわざ説明する気も無いのだが・・・。
「グゥ!?ガァッ・・・!??」
「・・・・・・。」
排熱太公ウッドワスの霊基を以て『予言の子』の前に立ちはだかったベリル。ただの見せかけではなく、その姿通りの力を持つ存在に空気が張り詰めていた。
そんな中最初に動いたのは、今もなおベリルを串刺しにしているエリドールであった。
「え、エリドールさん!?何故ここに・・・というより!」
「なんで、ベリルを・・・?」
かつて苦戦を強いられたウッドワスと寸分違わぬ力を持つベリルに一撃喰らわせた、というのは頭に無いだろう。それほどまでにこの同士討ちは衝撃的だった。
「テ、メェェェ!エリドールッ!何考えてやガッ!!?」
「合点が言ったよ。」
ベリルの身体を串刺していた爪、水晶の腕を振るい、地面に叩きつける。『予言の子』は眼中に無く、ただベリルだけをその目に捉えていた。
「その魔術、ウッドワスに何かしたな?そして、それをやらせた者に使わせたのは・・・。」
「・・・だったらなんだ?後ならともかく、今オレを攻撃する理由にはならねぇだろ。陛下の夫ってポジションはそこまで軽くねぇと思うんだがなぁ。」
ベリルがモルガンの夫という立場である以上、直接的な危害を加えるということは女王に背いたも同然。故にベリルはエリドールを駒としてある程度は信頼していたのだ。女王騎士の権限を与られていようとそれは変わりなかった。
「そうだな、陛下の側に付いておきながら身内に手を出したという点ではオマエと同類だ。・・・全く、ここにきて情で動くことになるとは思いもしなかったよ。」
静かに、だが確かな怒りが声に乗っている。
「よって、オマエを始末するためだけに陛下の意に反くとしよう。そうとも、ならば
エリドールの身体に赤い稲妻が・・・いや、赤い水晶が魔力の奔流へと変わり、荒々しくほとばしり始める。
「何故オレが
—我が名、妖精騎士モードレッド。ベリル・ガットよ、それが独善を持ってキサマに叛逆する者の名だ。」
片手には採掘したばかりのような荒削りの水晶を剣にしたものが、もう一方には加工されたように少しの傷も翳りもない丸水晶が浮かべられている。
かつて救世主と旅をした妖精騎士。現代に於ける妖精円卓の基盤の一つでもある彼。漂流妖精、水晶工と呼ばれたエリドールは、今ここにその名を持ち出した。
「ハ、ガッ・・・・・・ァッ!」
「元からではあったが、性能頼りの攻撃なんて通用するハズもないだろう。そら、もう一太刀。」
「ギッ、ガアァァァァアアッッ!!!?」
ウッドワスの脚力を活かした迅速な一撃。それを最低限の動きで避けた妖精騎士モードレッドは、水晶の剣を払って浅く傷つける。そんな軽傷で済むハズの攻撃は、ベリルに耐え難い激痛を与える。
戦闘が始まってからそう時間は経ってない。実のところ、状況は妖精騎士モードレッドが少し優勢止まりでまだ互角ではある。だがそう感じさせないほど、ベリルの口から搾り出される苦悶の声は悲痛であったのだ。
「どうだ、『再生封じの杭水晶』は?人間相手では無害に等しいが、妖精、それもウッドワス程の再生力となれば吸い取られる魔力も、掻き捻られる肉の量も尋常ではないだろう。」
皮膚を傷つければ血が出るだろう。それは暫くすると血小板によって塞がれる。そんな働きを補助する薬や絆創膏と言ったものがあるだろう。この礼装はその逆。元に戻ろうとする力が強いほど、より悪化させるものだ。
もっと厳密に言うならば、傷自体は塞ぐ。ただしそれに必要な代謝、それに伴った傷の治りが極端なものとなり、杭を支点としてより乱雑な形で傷を癒してしまうのだ。しかも、治っているのだからそれ以上良くなることもない。
そんな礼装がベリルの体内に5本。最初に刺された時に打ち込まれたものが、5本だ。果たして人間が、妖精の身体だからこそ発生する痛覚の奔流に耐えられるのだろうか。
「急所を攻撃しようにも、オレの力では再生前に寸断するのは難しい。そこでまずは、再生できなくなるところまで再生させる。傷が塞がなくなったなら、それで致命となりうるからな。」
「グギ、ギィ・・・ッ!・・・ィ、ヒヒ、ヒ、そう上手く、いくものかよ。」
「ほう、まだ痛みの治らぬ状態で喋るか。何か勝機でも?」
「あぁ、そりゃあもう。・・・制限があるのは、そちらも同じみたいだし、なぁ・・・。随分、魔力の流れが緩やかになったじゃないか?」
痛みに顔を歪めながらも、妖精騎士モードレッドの弱点を言い当てたベリル。身体中を絶え間なく走っていた赤い稲妻は、今は断続的なものに落ち着いている。
「・・・想定の範囲ではあったが、やはり鋭いな。お察しの通り、これは資源を消費しての一時的な力だ。だが、その前に決着がつくとは思わないか?」
妖精騎士モードレッド、その霊基を維持できる時間はそう残されていない。しかし、目の前の敵を片付けるには充分。
その焦りと慢心が、ベリルに反撃の糸口を与えてしまった。
「ホラよ!」
「・・・ふん。」
ベリルの掌から放たれた魔力の光線。魔術というにはあまりにも粗雑なものであったが、それ以上に強力な一発。
それを妖精騎士モードレッドは新たに取り出した水晶玉に吸収させる。魔力を吸った水晶は暗く濁り、砕け散ることでその役目を終えた。
その隙にベリルは懐に潜り込み、爪による一閃を放つ。それによって痛手は負ったのはベリルの方であったが。
「・・・ガ、ハ・・・ハァ、ッ!!やっぱり抜け目ねぇな・・・!」
「・・・・・・。」
爪が捉えたのは衣類の下に隠された板形の水晶。防御用というにはあまりにも脆いが、壊されることで即座に別の形を取り相手に突き刺さる迎撃に秀でたものだ。
だが、その程度は読めたハズ。ただ力で圧すことは不可能だというのに、愚直に攻めるその姿勢に疑念を抱く。
(何かあるな。であれば即座に潰すまで・・・!)
「—残念だが、オレが一手先だ。」
先程の攻撃でエリドールの礼装に貫かれ、縫い付けられた手・・・とは逆。右手の甲から強い光が発せられた。
「しまった、
「ご名答。さぁ、ひとまずご退場願おうか!」
狼を象った令呪、その一つが消える。令呪はサーヴァントへの命令、または魔力ブーストに使用される。だが、その本質は無属性の膨大な魔力。扱い方によっては己の身体性能の増強、武器の強化に費やすこともできる。
この場にベリルのサーヴァントはいない。かといってサーヴァントを呼び出すわけでもない。これは妖精騎士モードレッドを隔離するための
「『猟奇固有結界・レッドフード』、残り少ない時間はそこで楽しく使うと良い。」
防ごうにも左手を縫い付けてしまった以上、右手の位置は遠く。妖精騎士モードレッドは、ベリルの発動した固有結界、世界を蝕む空間の中に幽閉され、姿を消した。
しかし、まだ終わりではない。次の邪魔者を前にし、ベリルは獰猛な笑みを浮かべる。されどその目は・・・笑っていない。
「・・・フゥー、悪いな待たせちまって。あぁ、時間をかけたくないのは一緒だろ?そういうわけで・・・さっさと殺されてくれ。」
というわけで、妖精騎士モードレッドの再登場回でした。まぁ大半の読者様はとっくの昔に真名看破してたとは思いますけども()
ちなみに本編でお蔵入りになってしまったベリルの固有結界『猟奇固有結界・レッドフード』は断片的な情報しかなかったので作者の妄想となります。ベリル・カットの名は伊達じゃない。