月で死んだと思ったら異世界に召喚された 作:鮭のKan2me
「・・・。」
「あ、あれ?成功してますよね?もしもーし。」
薄暗い森の中、無言のまま立ち尽くすオレの目を覗き込む様に見る少女。思考が全く追いつかない、情報不足にも程がある。今目の前にいる少女の疑問にどう答えたらいいかすらわからない。
「ふむ、サーヴァントとしては成立したようだが、情報がインストールされていないか。恐らく自分が何者かすらわかっていないだろう。」
「えっ、そうなんですか?参ったなぁ・・・。」
少女のすぐ近くにいた青髪の少年が助け船を出す。オレはそれに便乗して話に入ろうと試みた。
「その通りだ。正直わからないことだらけで困惑している。・・・オレから質問させてもらってもいいか?そちらの方が幾分か楽だろう。」
「わっ、喋った!?って、ですよね。そりゃ喋りますよね・・・コホン。とりあえず、意思疎通できるようで安心しました。答えられる範囲内であれば何でも教えますよ。」
「では早速だが・・・ここは一体?土地はともかく、これほどまでの魔力濃度は生前ではあり得ない。時代すら違うのか?」
「時代どころか、世界すら違います。ここは人類史によって剪定された異聞の世界。詳しく話すと長くなるので、
「・・・わかった。」
剪定された異聞の世界・・・。つまり、人類史に選ばれず消えた世界ということだろうか?疑問が更に増えたが、ひとまず何が起こってもおかしくはないのだろう。臨機応変に立ち回らざるを得ないか。
・・・それともう一つ気になるのが。
「先程サーヴァントがどうとか言っていたが、それはオレのことか?」
「そうです。バーサーカーのサーヴァント、妖精騎士モードレッド。それがアナタです。」
「・・・バーサーカーなのは置いとくとして、モードレッド?それに妖精騎士だって?なんだそれは・・・。」
「モードレッドは知ってますよね?かのアーサー王伝説において円卓の一員でありながら叛逆の騎士となった存在。今のアナタはその要素を合わせ持つサーヴァントなのです。よって妖精騎士モードレッドと名付けました。」
なるほど、あの何かが混ざられたような感覚はそれか。言われてみればモードレッドとしての自覚も強い。中々奇怪な感覚だ。だが、わざわざこの二流以下の魔術師を使う必要があったのだろうか・・・?いや、今は必要事項だけ聞くとしよう。
「そうだ、その青髪の少年もサーヴァントなのか?外見に反して妙に落ち着いてる様に見えるが。」
「そうですよ。セイバー・賢人グリム。私のサーヴァントでもあり、師匠でもあります!仲良くしてくださいね。」
「賢人グリムだ。複雑な経緯を持って召喚されたサーヴァント同士、よろしく頼む。」
「あぁ、よろしく。・・・となると、アンタがマスターか。聞けば聞くほど新しい疑問が増えていくばかりだが、あとはもう主の名前だけで充分だ。」
「あ、そういえばまだ自己紹介してませんでしたね。私の名は
「—トネリコ、か。覚えた。・・・バーサーカー・妖精騎士モードレッド、サーヴァントとしてマスターの助けになることを誓おう。まぁ、言うほど役に立つとは思えんが、最善は尽くす。」
オレが召喚されてから、トネリコの救世主としての旅が始まった。・・・正直な話、その旅は良いものとは思えなかった。困り事を解決して回っても、何の報酬もなく厄介払いされる日々。そんな対応をされたにも関わらず、トネリコは黙って村を後にする。対して、オレはそんな妖精の身勝手さに苛立ちが貯まり続けた。
そんな中、ある噂を聞いた。
「100年に一度の『厄災』?なんだそれは・・・?」
「文字通り、このブリテンに一定の周期で起こる災いのことです。あ、1000年周期で起こる『大厄災』なんてものもありますよ。まぁ、どちらも文献でしか知らないのですが・・・。」
「・・・まさか、その厄災をどうにかするつもりなのか?」
「そうです。私にしかできないことですから。それで妖精達が救われるなら、安いものです!」
そう意気込む彼女の勢いのまま、オレ達は厄災を祓いに行った。とりわけとんでもなく強かったとか、圧倒的な力量だったとかいうわけではなかったが、その特殊性ゆえ完全に祓うにはトネリコの力が必要だった。彼女一人に任せるのも気が引けたが、オレはその厄災を少しでも鎮めるために戦い続けた。
長い時間をかけてトネリコが厄災を祓い切った。彼女の魔力量は著しく減っており、立っているのもやっとだった。こんなに頑張ったんだ。あの妖精達であろうと労ってくれるに違いない。
「『厄災』を祓ってくれてありがとう!助かったよ!
じゃあもう帰っていいよ!お疲れ様!」
ここでやっと間違いに気づいた。奴等は妖精だ、人間じゃない。人間性だとかそういう問題ではなく、そういう存在なのだ。
・・・あの小屋にいる
「おい!人間達はやらないぞ!まだ使えるんだからもったいない!さっさと帰れ!」
オレが人間達が収容されている小屋に視線を向けていた事に気づいた妖精がこちらに石を投げてきた。その石は弧を描き、トネリコの頭部に直撃した。
「っ!?トネリコ!!大丈夫か、今治療を・・・!」
「そうだ、石を投げよう!そうすればきっと帰ってくれる!帰らなくても殺せるぞぅ!」
「・・・・・・ヤロウ。」
トネリコの前に立って石を防ぎながら妖精達を睨みつける。今にも飛びかかりそうな妖精騎士であったが、その前にトネリコが彼の衣服を掴む。
「トネリコ・・・?」
「大丈夫、大丈夫だから・・・。それより早くここを・・・騒ぎが大きくなる前に。」
「っ・・・!失礼。」
「モードレッド、こっちだ!」
グリムの案内に従い、走る気力もないだろうトネリコを腕に抱えて逃げる。サーヴァント、それもバーサーカーとなった彼の脚力は凄まじいものとなっており、村はみるみる遠くなっていった。
グリムがある場所で止まる頃には日が落ちかけ、オレも息が切れていた。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
「・・・モードレッド、もう下ろしても良いよ。」
「大丈夫だって・・・トネリコに比べたらまだまだ元気だ。グリム、今日はここで野宿か?もっとトネリコが休める場所に行った方が・・・。」
「安心しろ、ここが一番トネリコが休める場所だ。」
「・・・どういうことだ?」
近くにある洞窟を指差すグリム。理解できずに説明を求めると、グリムは淡々と語り出した。
「この中なら妖精達には見つからない。
「グリム、次ってなんだ?もう一度さっきみたいな目に合えってコトか!?そんなのあんまりだろ・・・!」
トネリコを抱えながらグリムに詰め寄る。コイツだって妖精達がトネリコにした仕打ちを見たハズだ。その上で、次もやれだって?冗談じゃない。
そんな風に憤っていると、トネリコが口を開く。
「モードレッド、怒ってくれるのは嬉しいけど、そろそろ休みたいかな?グリムもお疲れ様。」
「・・・見張りはしよう。モードレッド、悪いがトネリコを案内してやってくれ。」
「・・・わかったよ。すまないトネリコ、あともうちょっとだけ頑張ってくれ・・・!」
グリムを置いて洞窟に入る。入り口の辺りはそうでもなかったが、進めば進む程暗くなってきたため、途中から明かりをつけた。そうして奥に進んで行くと、グリムが言ってたであろう『棺』が見えてきた。
「・・・アレか。トネリコ、ホントにあの中に入れば・・・トネリコ?」
「あ、ゴメン。ちょっとボーっとしてた。何か用?もうそろそろ『棺』だったりする?」
「あ、あぁ、もうそろそろ到着するが・・・。」
ボーっとしていたというが、オレの声に反応するまでトネリコの視線はオレの左手に集中していた。今現在洞窟を照らしているオレの水晶玉に。
「・・・そういえば、見せたことはなかったな。今まで使ってたのは剣だけだったからな、っと。コレでいいか?」
トネリコを『棺』に優しく寝かせる。
「うん、ありがとう。・・・ねぇ、ちょっとお願いがあるんだけどさ。その水晶玉、もっと良く見せてくれないかな?」
「・・・こんなものでいいなら幾らでも。なんなら手に取って見るか?」
「いいの!?じゃ、じゃあ失敬して・・・わっ、すごい。ツルツルでスベスベだ!こんなに綺麗なもの作れちゃうんだ、すごいねモードレッド!」
「そうでもないさ。お前程の腕だったら、こんなものすぐ作れるようになるよ。」
以前グリムの授業を覗かせてもらったが、言ってることは理解しやすかった。だがノルマの難易度は非常に高いものだった。にも関わらずトネリコは出された課題全てをこなし、怒涛の勢いで魔術の腕を上げていった。天才以外の何者でもない。
最早自分よりも格上であろう魔術師である彼女ならば、近い将来オレなんかが磨いてきた独自魔術など簡単に模倣して見せるだろう。・・・かつての魔女のように。
「・・・そうかもしれませんね。でも、もしアナタがいなかったら私はこの輝きすら知ることはなかったでしょう。ありがとうございます、妖精騎士モードレッド。眠る前に、こんなにも素晴らしい魔術を見せてくれて。」
「—あぁ、おやすみ。トネリコ。」
トネリコから水晶玉が返されると同時に、『棺』の蓋が閉まる。本来ならこのまま彼女の眠りを見守りたいが、そうもいかない。グリムに報告しなければ。
妖精騎士が去った洞窟の最奥には、救世主の入った『棺』と水晶玉一つのみが残されていた。
妖精騎士モードレッド
クラス:バーサーカー
ステータス
筋力:B 耐久:B 魔力:A+
敏捷:C 幸運:B 宝具:?
クラススキル
対魔力:B 陣地作成:C 狂化:D
宝具:■■■■■■■・クラレント
概要:ある魔術師を元にした妖精騎士のオリジナル。モードレッドの要素を含むためセイバーの適正の方が強いのだが、賢人グリムの入れ知恵で完全に支配下におけるようバーサーカークラスとして霊基が構成された。副産物として感情の起伏が少し激しくなった。
その特殊な成り立ちから非常に不安定な霊基構造になっており、あろうことか宝具すら使えない状態である。この霊基が確立した時点で確かに存在しているのだが、今の彼はこの宝具の真名を知り得ない。モードレッドの霊基が絡むことから『クラレント』は判明しているが、もう一つの構成要素である魔術師。その魔術を真の意味で解き明かさない限り、その宝具は日の目を見ることがないであろう。—永遠に。