月で死んだと思ったら異世界に召喚された   作:鮭のKan2me

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4:選定の槍と大厄災

 トトロットが加わってからというものの、救世主トネリコの旅は一気に賑やかさを増した。トトロット自身がハキハキとしているのもあるが、やはり暴れん坊気質が残ってるのか喧嘩腰になることが多く、その度にトネリコが宥めるといった光景も多く見られた。

 だがそれとこれとは話が別なようで、当の本人の突っ込みグセは相変わらずだった。

 

 

「—全く、本当にあの星の内海(アヴァロン)から来た妖精とは思えない。」

 

 

「聞こえてますよモードレッド?」

 

 

 ぐぐぐーっとモードレッドにヘッドロックをキメるトネリコ。そう、トネリコはこのブリテンから発生した妖精ではない。あのアーサー王が死後旅立った場所で有名なアヴァロン、そこからやってきた『楽園の妖精』(アヴァロン・ル・フェ)なのである。

 わざわざそんなところから派遣された以上、何かしらの『目的』があるハズなのだが、オレはその『目的』については何も知らない。妖精達の困り事や『厄災』を解決していることに関連しているとは思うが・・・。まぁ、なんにせよこの身はサーヴァント。大した願いも無い以上マスターの『目的』のために骨身を砕いて働くさ。だから早くヘッドロックを解いてくれ、そろそろ限界だ・・・。

 

 

「そこまでにしておけ、『大厄災』への対策を考えてたんじゃなかったのか?」

 

 

「・・・っと、そうでした。では続けますね。」

 

 

 モードレッドを解放するなり即座に話に戻るトネリコ。そう、次に対処すべき『厄災』は100年周期ではなく1000年周期の『大厄災』。その規模はこのブリテンに住まう妖精全てを滅ぼしうる程らしい。

 今のトネリコであれば『厄災』を祓い終えても少し余裕が残るほどの力はあるが、『大厄災』ともなれば全魔力を使っても祓い切れはしないだろう。

 

 

「—ですので『大厄災』に於いて私たちがするべきは、少しでも被害を減らすことです。もちろん祓いはしますが、それにも限度があるのでその分アフターケアにリソースを回すという感じです。」

 

 

「多少の犠牲は織り込み済みというわけか。・・・まぁ、妥協案としては悪くないな。」

 

 

「ま、待てよ!そりゃトネリコにヒドイことしてきたヤツだって沢山いたけど、それでも良い妖精だっているんだぜ。そんなヤツらを見殺しになんてできないんだわ!」

 

 

「落ち着けトトロット。そうならないようにオレ達が動くんだ。な、トネリコ。」

 

 

「もちろんです。それに、今回はこの『選定の槍』もフル活用します。『大厄災』といえども、この槍であれば効果はあるハズです。」

 

 

 そう言ってトネリコが取り出したのは一本の白い槍。なんとこの槍、まさかのアヴァロン産だとか。過去の『厄災』戦の時も何度か使用されており、その度に窮地を救われた。・・・が、トネリコにかかる負担も少なくはないのか、使う度に毎回苦虫を潰した様な顔をしている。それを今回主武装として扱うのであれば長期戦は望めないだろう。

 

 

「今日のところはこれぐらいにしておきましょうか。それじゃ、おやすみなさーい!」

 

 

 そう締めて横になるトネリコ。他の面々も眠りにつく一方、オレは睡眠の必要がないサーヴァントの特性を活かして寝ずの番を務めた。そうしてまた救世主一行の夜が明けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、助けてくれぇ!」「こっちだ、早くしろ!」「逃げろ、逃げろぉ!『大厄災』がやってきたぞぉ!!!」「もうダメだ、おしまいだぁ・・・。」

 

 

 悲鳴、怒号、阿鼻叫喚の声がブリテン中に響く。それはどこからともなくやってきた。黒雲と共に歩を進め、雷霆を喰らう巨大な獣。ブラックドッグ、このブリテンを滅ぼさんとする『大厄災』である。

 

 

「こっちこっち!さっさとするんだわ!」

 

 

「皆さん、早く街の中へ!」

 

 

 トネリコとトトロット、そしてその側についてるグリムが比較的安全な場所への誘導をする中、オレとエクターは逃げ遅れた妖精の救助に当たった。しかし、それにも限度があり—。

 

 

「!?おい、そっちじゃない!戻ってこい・・・!」

 

 

「い、イヤだ、死にたくない。死にたくない!死にたくな—。」

 

 

 行き先を間違えた妖精が雷に打たれて消えた。もうブラックドッグはすぐ側まで近づいてきている。

 

 

「エクター!モードレッド!」

 

 

「トネリコ!・・・すまない、確認できただけでも妖精一翅が—。」

 

 

「大丈夫、むしろ救助できただけマシ!それより、『大厄災』をこれ以上進行させるわけにはいきません。準備はできてますか?」

 

 

「・・・もちろんだ。雑だが対雷用の礼装も幾つか作っておいた。役立ててくれ。」

 

 

 こうしてトネリコ一行の対ブラックドッグ戦が開始された。『大厄災』だけあってその攻撃は激しく、咆哮一つで辺りに雷霆が降り注ぐ。だが、その雷霆はオレの作り出した対雷用魔術礼装・水晶避雷針によりその一部を受け流される結果となる。

 オレの水晶魔術は簡単に述べると、水晶の良い部(・・・)()悪い部分(・・・・)、その二種を極端にまで分け、再構築するという錬金術染みた要素のある魔術だ。

 今回作り出した水晶避雷針は悪い部分、荒れた水晶のみで組まれた柱のようなもので、先端部にはより尖った水晶を選んである。即興で作ったものなので耐久性は皆無だが、それでもブラックドッグの雷霆を散らすには十分なものだった。

 

 

「・・・よし、巻きつけたんだわ!エクター、ちょっと来てくれ!」

 

 

「任せろ・・・フンッ!!うおりゃぁぁぁぁ!」

 

 

 トトロットがブラックドッグの足に素早く糸を括り付けると、エクターはそれを思い切り引っ張り、ブラックドッグを転ばせることに成功した。それを好機と見て—。

 

 

「ハアァッ!!」

 

 

「燃えろ。」

 

 

 トネリコとグリムが、それぞれ選定の槍とルーン魔術を宿した剣でブラックドッグの皮膚を切りつける。オレも普段使っている剣を飛ばし、ブラックドッグに着実に傷を与えていく。そんな時だった、()れていた妖精二翅(・・・・・・・・)がオレの目に映ったのは。

 

 

(!?まだいたのか・・・!残念だが戦闘中だ。抑えるだけとはいえ戦線を離れる訳には・・・。)

 

 

 妖精から目を逸らし、体制を建て直したブラックドッグに向き合う。そんなオレの仕草で逃げ遅れた妖精がいるのに気づいたのか、トネリコの意識がこちらに向いた。

 

 

「モードレッド、そこの妖精の救助をお願いします!今回の目的は討伐ではなく、犠牲を減らすことでしょう!」

 

 

「っ!・・・わかった!」

 

 

 マスターからの命令を聞き、妖精二翅の元へと駆け寄る。ブラックドッグに対しひどく怯えた様子だが、ケガはしてないようだ。

 

 

「怖いよぅ、怖いよぅ。なんであんなものが出てくるんだよぅ。」

 

 

「大丈夫か!ここはオレ達で抑える。早く逃げるんだ!」

 

 

「ムリだよぅ。あんなに大きいんだよ、あんなに強いんだよ?逃げたところでムダさ!」

 

 

「っ・・・いいから早くしろ!本当に死ぬぞ!」

 

 

 どうあっても動こうとしない妖精に苛立ちを見せるモードレッド。すると、二翅の妖精の内一翅がとんでもない提案をする。

 

 

「そうだ!コイツを盾にしよう(・・・・・・・・・)!そうすればアイツの攻撃だって防げるぞ!」

 

 

「—は?」

 

 

「そうだ!そうすれば逃げなくたって大丈夫!ずっとここにいれるぞぅ!」

 

 

「うお!?お前ら、足引っ付くな!なんのためにオレ達が戦ってると思って—。」

 

 

「モードレッド、後ろっ!!!」

 

 

 トネリコの叫び声が聞こえる。言われた通り後ろを向くと、そこには口に雷を溜め込んだブラックドッグの姿が。

 

 

「なっ・・・。」

 

 

「避け—。」

 

 

 指示を出す間もなく雷撃がモードレッドを襲う。余波で木々や大地も抉られ、側にいた妖精二翅も消しとばされた。しかし—。

 

 

「・・・・・・うっ、ぐ・・・。あぁクソ、虎の子だったんだけどなぁ・・・。」

 

 

 しかし、モードレッドを倒し切るまでには至らなかった。あの一瞬、魔術礼装である『荒れ水晶の剣』と『歪みなき丸水晶』を取り出したモードレッドは剣を砕いてチャフとし、水晶玉を丸盾へと変形させて雷撃を防ぎ切った。

 とはいえ代償は大きい。細かく砕かれた荒れ水晶は消滅し、対して丸水晶が変形した盾は傷一つ負わない強靭ぶりを見せたが、それを使役するための左腕はあらぬ方向に曲がっている。二撃目はどう足掻いても防げない状態であった。

 

 

(・・・ここまで、か。)

 

 

 深いダメージを負ったモードレッドは意識を失う。その間際にある言葉を聞いて。

 

 

「—選定の槍よ。」




 妖精歴2000年にはアルビオンの加護を得た北の妖精が襲来。妖精歴1年で(恐らく)ケルヌンノスの呪いによって妖精全滅。ということで、妖精歴1000年の大厄災にはブラックドッグさんに務めて頂きました()
 ちなみに妖精騎士モードレッドが扱う魔術礼装の正式名称は『荒れ水晶の剣』『歪みなき丸水晶』としました。魔術師らしく英語版名称もつける予定です。シンプルなものになるとは思いますが。
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