月で死んだと思ったら異世界に召喚された 作:鮭のKan2me
『大厄災』が起きてから300年。妖精達も徐々に数を増やしていき、復興も大分進んできた。その背景には救世主の活躍もあるのだが、あまり感謝はされず、都合良く事実を曲げられてたり。
今日も今日とてブリテンを旅する救世主とその仲間たちであったが・・・。
「・・・ライネック、気持ちはわかるがその肉を寄越せ」
「断る!これはオレと・・・ト、トネリコ・・・のものだ!!」
その中にひときわ大きな牙の氏族。それは数日前の事—。
「それにしても、今回の依頼は楽勝でしたね!色んな魔術も試せましたし、一石二鳥ってヤツです!」
「後始末全部オレがやったけどな!?・・・はぁ、今回はちゃんと報酬取るぞ。今日の分どころか、保存してある食料も少なくなってきてる。牙の氏族相手じゃ肉は難しいが、野菜や果実ぐらいなら—。」
そうした算段を立てながら牙の氏族ばかりが住む村に戻ると、なにやら騒ぎ声が聞こえた。急ぎ足で戻ると、そこには傷だらけの依頼主とその首を潰さんとする妖精の姿があった。
「なっ・・・!」
「なんだテメェら。」
驚嘆の声を上げると、それに反応したのかその妖精がこちらを向いた。ただそれだけの行為であったが、得体の知れぬ圧を感じた。
「いきなりすいません。ちょっとその方に話があるので、解放してもらってもいいですか?」
「・・・・・・フンッ、命拾いしたな。」
「ニャギャッ!?」
トネリコが物怖じせずに申し立てると、案外あっさりと猫顔の妖精・グレイマルキンを放り投げた。トネリコはその妖精に近寄り、治癒の魔術をかける。
「大丈夫ですか?こういう状況で言うのもなんですが、アナタの依頼はちゃんと解決しましたよ。」
「た、助かったニャ・・・。そ、そうニャ!次はアイツをなんとかしてくれニャ!」
「・・・あ?」
一命を取り留めたグレイマルキンが、労いの言葉も無しにオオカミ妖精(仮)を指差す。先程死にかけたばかりで礼を求めるほど鬼畜ではないし、依頼を連続して受けることも慣れっこだが・・・。
「あんなヤツがいたら皆困るニャ!さっきみたいにやられるニャ!救世主様ならなんとかしてくれるに決まってるニャア?」
「あ、あの、まずは何故争うことになったのかをですね・・・。」
「そうだ!アイツ、誰彼構わずイジメてくるんだ!強いから誰も勝てない!」「あんなに強いなんて絶対おかしい!きっとアイツは『
「おい、もう収拾つかんぞ。」
エクターが呆れたように愚痴を溢す。確かにアイツの強さは戦わずとも感じ取れるほどではある。しかし『厄災』というには時期が早すぎる。まさかとは思うが・・・。
「・・・ったく、うざったらしいんだよこのグズ共がぁ!!」
「いかん!!」
オオカミ妖精が凄まじい勢いで騒ぐ妖精達に襲いかかるが、エクターは咄嗟に身を投げ出してオオカミ妖精を食い止めた。しかし—。
「ウゥアァッ!!」
「ぬお!?」
「エクター!!?この・・・!」
オオカミ妖精のアッパーカットにより、エクターが弾き飛ばされる。間髪入れずに猛進するオオカミ妖精をオレの水晶魔術流ガンドで牽制する。
「!?消え—。」
「遅ぇ!!」
「ガッ・・・!?」
横一直線の蹴りが頭に直撃する。そのまま振り抜かれると、オレの身体は低い弾道で飛び、何回か地面に叩きつけられることになった。
姿だけは捉えておこうとなんとか顔を向ける。オオカミ妖精はオレとエクターの妨害により標的を変えたのか、次はトネリコに向かって突撃し、腕を振り上げていた。
「!?なんだこいつは・・・!」
「トネリコに手出しはさせないんだわ!」
その振り上げた腕にはトトロットの糸が巻き付いており、エクターをも吹っ飛ばしたその膂力を完全に抑えていた。その隙にグリムがオオカミ妖精の首に剣を突きつける。
「ウッ・・・!?」
「動けば、わかるな?」
「グ、グルルゥォ・・・ッ!!」
悔しさが感じられる唸り声を上げるオオカミ妖精。身動きの取れないソイツに、トネリコが近づいて— 。
「あの、一つ提案があるんですけど、別の場所に行きませんか?ここだとより被害が出そうなので。」
「なんだと・・・!キサマ何のつも・・・ッ。」
食ってかかろうとするオオカミ妖精だが、その前にグリムが剣を更に押し当てる。気持ちはわからなくもない。今の状況において、その提案はオオカミ妖精にとって有利に働くのだから。
「・・・いいだろう。オマエの話に乗ってやる。」
「ありがとうございます。では、あちらへ。」
トネリコの誘導に従うオオカミ妖精。グリムとトトロットも剣や糸を離し、トネリコとオオカミ妖精の間に入るように合流する。
「おいモードレッド、生きてるか?」
「・・・なんとかな。今起きる。」
頭の揺れなどお構いなしに立ち上がる。飛距離だけで言えばエクターの方が飛ばされてたのだが、流石というべきかピンピンしているようだ。
そうしてオレ達二人は遅れて合流しようとするのだが、その途中でトネリコから念話が届いた。
「・・・全く、一日の消費量としては過去最高だな。」
「なんだ、指示でもされたか。」
「そんなところだ。悪いが先に行ってくれ。」
トネリコの進行方向とは真逆、村の方に向き直り魔術の準備をする。使うのは大きめの麻衣袋二つ分たっぷりに入った水晶とオレの魔力。そうして少しばかり工夫して作ったのが、壁である。
「よし、こんなものか。・・・触媒のストックは余裕あったんだが、まぁいいだろう。」
一切の透き通りもない水晶の壁。しかし粗悪品かといえばそうでもない。トネリコの注文とは別に、並の妖精では撤去に苦労するほどの強度は誇らせた。
自分の仕事ぶりと貯蓄していた水晶の大量消費に一喜一憂しながらも、早足でトネリコの元に向かう。オレが着いた頃には、トネリコ達とオオカミ妖精は一定の距離を保って睨み合っていた。
「モードレッド、頼んでたものは?」
「見えてるだろ?アレなら充分だ。」
「ほう、万が一って時の防壁か。あんな壁でオレを止められるとでも?」
オオカミ妖精が臨戦態勢に入る。対するオレ達も構え始めるが、トネリコだけは構えを取らず、対話を試みた。
「ああいえ、勘違いしているようですが、私はアナタと戦うつもりはありません。」
「・・・なんだと?」
「つまりですね。
・・・なるほど。だからあの時、こちらの様子が見えない障害物の制作を命じたのか。てっきり妖精達が恐慌してモース化しないための策かと。
「逃がすだと?『厄災』であるこのオレをか?」
「いえ、アナタは『厄災』ではなく『
『亜鈴返り』とは、ブリテンに於ける原初の妖精・六氏族の始祖と同等の力を持って生まれた妖精を指すものである。それも牙の氏族の『亜鈴返り』ともなれば、このブリテンの妖精の中でも最強と言っても過言ではない。そう、アイツはただ強すぎるだけで『厄災』ではないのだ。
「だからなんだ!オレがあのグズ共を潰そうとしたことは事実だ!それでも戦わないってのか?」
「はい、だってアナタ、根っこの方は善い妖精だと思いますから。」
「・・・脳みそ腐ってんのか?」
「失礼な。もしアナタが凶暴で悪い妖精だったら、私が油断してる隙に襲いかかってきたでしょう。でもアナタはしなかった。それだけで充分です。」
トネリコの言葉によって、オオカミ妖精の闘気や怒気と言ったものが収まっていくのがわかった。どうやら戦闘は避けられるらしい。
「・・・・・・フゥゥゥゥゥ。興が削がれた。戦うのはヤメだ。」
「よろしい。それでは、アナタを逃がすためのカモフラージュに入るとしましょうか!えっと・・・そういえば名前聞いてませんでしたね。」
「・・・ライネック。」
「ではライネックさん。今から私が魔術を放つので、それに合わせて姿を隠してください。あ、ちゃんと外すので安心していいですよ。」
こうしてライネック死亡ぎそう作戦の内容を伝えたトネリコは、距離を取ってライネックの横に魔術が落ちるよう狙いを定め、詠唱を始めた。
「やれやれ、今回ばかりは突っ込むようなマネせんで助かった。」
「そうだな、流石に『亜鈴返り』相手じゃ骨が折れ—。」
急に不安が押し寄せてきた。いや、何か第三者の邪魔が入るとかじゃなくて、当事者がやらかすような、そんな異変を感じとったような・・・。
「おぉ、すげー!トネリコの魔術、いつもよりすっごい派手だぞ!!」
「待て待て待て!?そこまで魔力込める必要ないだろ!??おい、ライネック!もう逃げとけ!!これはヤバ—。」
トネリコの放った魔術がどれほどヤバかったか。その威力は余波でオレの水晶壁が崩れる程と言えばなんとなく察せられるハズだ。
次回はライネックが如何にして救世主一行に加わったか・・・の話ではなく、また別のターニングポイント的な出来事の話となります。ライネックの話はまた別の機会に・・・。