リリカルなのは 短編小説まとめ   作:白翼

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少し頭冷そっか♪♪(sts後:リリカルスイカバー2021)
少し頭冷そっか♪♪(リリカルスイカバー2021)


 夏の午後、じりじりとした太陽の光が赤いおさげの少女に照りつける。ヴィータはこのジメっとした暑さを鬱陶しく思いながら、どこか懐かしくも感じていた。

 

「ずっとミッドに居たから忘れてたけど、地球の、日本の夏ってこんな感じだったんだよなー」

 

 今いるこの場所、海鳴市に住んでいた時のことが頭の中で思い出される。だがぼやぼや回想をしている時間はない。

 

 ヴィータはビニール袋の中身を気にしながら公園の木陰のベンチに目を向ける。そしてそこにいる長いサイドテールが特徴の大人の女性、高町なのはがいるのを見てほっと一安心した。

 

「おーいなのはー、待たせたなー」

「ヴィータちゃんどこ行ってたの、あんまり遅いから探しに行こうと思ってたところだよ」

「わりい、わりい。ほら、みあげだ」

 

 ビニール袋からアイスを取り出すと、なのはの手に無理矢理持たせる。なのはは小言を言うのタイミングを逃してしまい、どこか釈然としないままベンチに座り直す。ヴィータはその隣に座るとなのはと同じアイス『スイカバー』を取り出した。

 

「珍しいね、ヴィータちゃんがスイカバーを選ぶなんて」

「んっ、そうか?」

「ヴィータちゃんって言うと昔はストロベリーとかバニラとかのアイスのイメージがあったから」

「言われてみればそうかもなー。何だろな、あの頃はアイスを食べるときはアイス。スイカを食べるときはスイカ、って感じでまずこれが選択肢に入ってなかったんだろうな。まあ大人になってあたしの見聞が広がったってところだなー」

 

 ヴィータはフフンと鼻を鳴らしながら、スイカバーを一気にかみ砕いていく。その瞬間、頭に走るキーンとした感覚に思わずこめかみを押さえた。そんな子供っぽい言動の彼女を見て、なのはは「あ、あはははー」と声を漏らしてしまう。

 

 

 

「あ、あはははー」

 

 なのははそんなヴィータの姿を見ると、少しの苦笑いをし頬を掻いた。

 

 ヴィータと同じ轍を踏まないようにと、少しずつスイカバーを口に運ぶ。ほんの少しの果汁ではあるが、口に広がるスイカの味。そして種に見立てたチョコレートが、暑くなった体にひんやりととけ込んでいく。

 

 地球、そして日本の夏。うだるような暑さと、それをさらに引き立てる蝉の合唱。そして耳を澄ませば子供たちが遊ぶ楽しそうな声が聞こえる。それは絵に描いたような平和だった。

 

 なのは未だこめかみを抑えているヴィータに、つぶやくように話しかけた。

 

「こんなにゆっくりしてていいのかなー」

「ゆっくりって、もう今日の『海鳴市視察』は終わっただろ。ちゃんと仕事を終えて今はもう自由時間だ。終業後に肩肘張る必要なんてないと思うけどなー」

「そ、それはそうなんだけどね。……昔ならいざ知らず今の海鳴は平和そのものだし、私たちがわざわざ視察に来る意味があったのかなって」

「意味があるからこうしてあたし達二人が選ばれて送られてきたんだろう。いいじゃねえか、しっかり視察して平和で平穏で問題なし。これ以上のことはねえだろー」

「そ、それはもちろんそうなんだけどね。……でもこんなふうに油売ってていいのかなって思っちゃって」

 

 二泊三日の海鳴市視察。その間に教導はもちろんなく、事務仕事も必要最低限だ。

 

 さらに家やヴィヴィオのことは、フェイトやヘルプのはやてに任せてあるため心配の必要はない。

 

 ワーカーホリック気味の日常に訪れた、突然の空白。そんなゆったりとした時間に、なのははどこか居心地の悪さを覚えていた。

 

「ねえ、ヴィータちゃん。もしあれだったら、明日にでも視察の終え、ん、んんっ!」

 

 なのはの言葉は最後まで出てこない。それもそのはず、彼女の口にはヴィータの持っていたスイカバーが思い切り突っ込まれていたのだから。

 

「ひぃ、ひぃーひゃはん⁉ んっっつ‼」

 

 無理矢理食べさせられたスイカバーで頭の奥がキーンとしてしまう。そんななのはの顔を見て、ヴィータはどこかご満悦のようだ。

 

「どーだー、少しは頭冷えたかー」

「んっ、けほっ、い、いきなり何を」

「今の言葉通りだよ。少し頭冷やそっか、なんてなー」

 

 ヴィータが何を言っているのかわからない。そんななのはの疑問が表情に出てたのだろう。ヴィータはそれに答えるように表情を引き締めた。

 

「今はあたしとなのはしかいねえ。だからもっと気楽にしてていいんだぞってことだよ」

「気楽にって、えっ?」

「管理局のエースオブエース、凄腕教導官、一児の母親、細かいのをあげたらお前の肩書きってたっくさんあるだろー。でもさ、今はいいんだよ。仕事を終えアフターを楽しむOL、高町なのはで」

 

 ヴィータは残りわずかのスイカバーをパクッと食べ終える。そしてなのはの目を見つめて話を続けた。

 

「仕事はやりがいがあって大切で、家は心休まる幸せな場所。でも教官と母親ばっかりじゃ、気楽とは言えねえだろー。たまには羽を伸ばしてリラックスしてもいいと思うぞ」

「羽を伸ばすって? もしかして今回の仕事って皆が私のため――――」

「しぃ~~」

 

 ヴィータは鼻頭に指を当ててそう声を上げ、なのはの言葉を完全に遮る。だがそれだけで全て理解できてしまった。

 

「(そう言えば最近、フェイトちゃんやヴィヴィオからも、少し休んだ方がいいって言われてたっけ)」

 

 しかし少し疲れているくらいで、体調にそこまで不備を感じていなかった。そして何度も心配の声を聞き流していたことを今になって自覚する。

 

 自分では全く感じず。しかし周りには見て分かるほどに、根を詰めすぎていたようだ。

 

 それでも昔の自分なら『本当に大丈夫だよ』とすぐに仕事に戻っただろう。だが今のなのはは違う。

 

 フゥと観念したように息を吐くと、小さく肩をすくめる。

 

「いまミッドに戻ったら皆に怒られちゃうね」

「休むのも仕事のうちってことだよ。ほら、それが分かったらお前のスイカバー少し寄越せよな。お前に渡して全然食べられなかったんだから」

「もう無理矢理口に押し込んだくせに。……でもありがとうヴィータちゃん」

 

 半分も食べていないスイカバーをヴィータの口に運んでいく。ヴィータは遠慮なしに大口でそれをかみ砕くと、満面の笑みを浮かべた。

 

 そんなヴィータの顔を見て、なのはは昔の過ちを思い出した。

 

 幼き頃のなのはは目に見える全ての人を助けたい、そんな無垢なる思いのまま空を駆け、そして大きな怪我を負った。

 

 その時一番傍にいたヴィータの表情や感情、何もかもを酷く歪めてしまったのだ。

 

 もう前線に復帰できないかもしれない怪我は確かに辛かった。しかし責任や後悔に押しつぶされそうなヴィータの姿、それを見ていることのほうが、何倍も、何十倍もきつかったのを今でも覚えている。

 

 その時になのはは誓った。これからも無理や無茶はするかもしれない。だが何があっても、二度とヴィータにあんな想いはさせないと。

 

 きっとそんななのはの想いも折り込み済みで、今回の視察はヴィータと共に行かせたのだろう。

 

 なのはは観念したように肩を落とす。そして残りのスイカバーを一気に口に含んでいった。そんな棒だけになったそれを見てヴィータは驚きの声を上げた。

 

「お、おい、なのはそれ、それ!」

 

 ヴィータの声に導かれるように、なのははスイカバーの残り棒を見る。そしてそこに書かれた『当たり』の文字に目を丸くした。

 

「えっ、えっ、当たりって、最近の奴には当たりはついてないはずじゃ⁉」

「でも実際に当たりって書いてあるじゃねえか。ほら、とりあえずあたしが行ったコンビニに行こうぜ! もし間違って恥掻いても、当たりってことであたしがもう一本奢ってやるからよ!」

 

 ヴィータは勢いよくベンチから立ち上がると、なのはを手を握りしめる。そしてそのまま勢いよくなのはを引き上げていった。

 

 ヴィータの無邪気な笑顔を見ていると、なのはは今度こそ色々な重圧から解放された気がした。

 

 今日の仕事はもう終わっているし、ミッドチルダへの迎えが来るのはまだ先だ。ならヴィータの言うように、今この瞬間だけはいちOLとしてアフターを楽しむのもいいかもしれない。

 

 皆の気遣いと心配。そして今この手を引っ張ってくれているヴィータの想いに答えるためにも、なのははつかの間の羽休めを受け入れていく。

 

 長年の付き合いであるヴィータは、そんななのはの想いにすぐに気づいたのだろう。なのはを向かい入れるように、ひまわりのような元気な笑みを浮かべるのだった。

 




HN:白翼
Twitter:@hakuyoku123

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