精神が肉体を凌駕する理論で勇者やってる逸般人の物語 作:niwaka
「まずは仲間を集める必要があるな」
勇者として活動するためには心強い仲間が必要だ。孤高に一人で活動するのも悪くはないがそれじゃ俺が目立たない。俺は目立ちたいのだ。仲間にチヤホヤされたい!
さしあたって必要なのは攻撃役である剣士か? 否。
防御役の守護者か? 否。
盗賊? 狩人? 魔法使い? 全て否。
吟遊詩人だ。吟遊詩人が必要だ。何故か、言うまでもない。これから魔王討伐の旅をするというのに俺の伝説を語り継ぐ吟遊詩人がいなくてはどうする。俺の雄姿を、俺だけでなく客観的に捉える第三者が必要なのだ。つまり吟遊詩人の確保は不可欠。
「そうと決まれば冒険者ギルドに行って募集をかけねば」
最早聖域などには用はない。さっさとここを出て冒険者ギルドに直行だ。
いつの間にかあれだけいたモブ共もいなくなっている。ローランドと白騎士もいない。どれだけここで呆けていたのだろうか……時間が惜しい。すぐにでも向かおう。
◆◆◆◆◆
王都アリアドネ。まるで迷宮のようだと言われる程道は入り組んでおり、一度入ると案内人がいなければ抜け出すことすら困難と言われている迷宮都市。余りの迷宮っぷりにこれはアリアドネの糸でもないと脱出不可能だよねー! みたいなノリで名付けられた国名だったりする。因みにアリアドネの糸はどういう理屈かどんな場所からでも脱出が可能とされている糸型の魔道具である。そんな迷宮都市にひと際大きな建物が一つ。
「優秀な吟遊詩人はいないだろうか。可能であるなら魔王にだって物怖じしない勇敢さがある吟遊詩人だ。戦闘力は問わない。いるだけ紹介してほしい」
王都に着き、迷うこと二時間。やっとの思いで冒険者ギルドに訪れた俺は受付のカウンターで暇そうにしていた獣耳の受付嬢に声を掛ける。
「ぎ、吟遊詩人なんて今どきいねぇだ……っと失礼しました。吟遊詩人ですね? パーティ結成のご希望ということでよろしかったでしょうか?」
「パーティ? まぁ親交が深まればそういったこともするだろうが……申請が必要か?」
「当たり前だ……コホン、はい、申請がなければこちらからは紹介は出来ません。ですが仮という形での登録も可能ですので、気に入らなければ解消ということも」
「仮だと? それは困る。語り部がコロコロと変わられては読者も……いや、逆にありか?」
案外色んな視点の俺が見られる可能性がある。斜め四十度の俺、垂直な角度から見た俺……ありだな。いや、だがそうなってくると雇う吟遊詩人の数が問題になってくるぞ。
「……とりあえず冒険者カードの提示だけお願いします」
吟遊詩人全然足りない問題について考えていると、聞きなれない単語が出てきた。冒険者カード? そんなものは見たことも聞いたこともない。各国に存在する冒険者ギルドの存在は勇者の章に記されていたが冒険者カードなるものの記述はなかったな。カードなんかさっき俺を案内してくれた優しき肉屋の爺さんに貰ったミートポイントカードしかないが。ちなみに十ポイント貯まると肉が半額になるらしい。いや、ただで寄越せよ。ここは正直に持ってない旨を伝えたほうがいいな。
「その冒険者カードを持っていないんだが、これで代用出来ないだろうか」
そう言って俺はミートポイントカードをケモミミ受付嬢にチラリと見せる。
「はっ? ミトポかよ無理にきま……んっ! すみません、そちらのカードでは代用することは出来ませんね。新しくこちらで発行することが出来ますがいかがいたしましょうか」
なるほど、ミートポイントカードでは無理と。てかそんな略称が付くほど普及してるのかこれ。
「なら新規で発行を頼む」
「はい、それではこちらに名前と職業をお願いします」
俺はケモミミ受付嬢から手渡された紙に名前と職業を書いて渡す。
「はい、ありがとうございます。ええと、名前がデッドさんで職業が勇者ですね。ありが……!? 勇者!?」
とてつもない狼狽えぶりだ。これだよこれ。俺が欲しかった反応はさぁ。
「ふ、ふざけるのもいい加減にしろよお前! 私が獣人だからって舐めてるんだろ!? ぶっ殺すぞ!」
「……うっ」
急に逆上したケモミミ受付嬢は俺の首を掴みかかってくる。思った以上に爪が首に食い込んで滅茶苦茶痛い。ついでに首も絞まって痛い。勇者だから泣かないが俺が勇者じゃなかったら今頃泣いてるぞ……? てか周りの人も見てないで助けて?
「は、放してくれ……馬鹿にする意図は、な、ない」
俺が苦しそうにケモミミ逆上受付嬢の手首を掴むと、ハッとして俺を掴んでいた手を首から離すケモミミ逆上受付嬢。
「す、すみません。つい……」
ついで済んだら騎士団はいらねぇんだよと言ってやりたい気分だが今の俺は勇者だ。勇者は何だって許す男でもある。勇者の章十七巻で勇者に呪いをかけた魔族の子供だって勇者は許していた。つまり勇者になるには広い心を持つ必要があるのだ。聖剣デュランダラなんかよりも広い心の方がずっと必要だと、俺はそう思う。ほんとに。マジで。
「いや、気にしないでくれ。誰にだってそういう日はあるさ。それで、登録をお願いしたいんだが」
「……!? ま、まだやるってのかお前!」
何をやるんだろうか。こちらとしては早いところ冒険者カードを発行してもらいたいんだが。
「い、今の時期に勇者を騙るのはやめた方がいい……騎士団に捕まってもしらねぇぞ」
「……勇者を語る時期は今ではない、と?」
どうして騎士団が出てくるかは分からないが、確かに俺の伝説を今語るのは時期早々かもしれない。もう少しストックを貯めてから一気に放出した方がいいな……
だがそうなってくると俺は仮初めの職業を申告することになってしまう。勇者として嘘を吐くのは気が乗らないが仕方ないか。
剣も使えて魔法も使える勇者に最も近い職業となると……魔法剣士が妥当だな。
「すまない、魔法剣士ということでよろしく頼む」
俺がそう言うとケモミミ逆上受付嬢は両耳をピクピクと痙攣させたかと思うと
「で、」
「で?」
「出ていけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ケモミミ逆上右ストレート受付嬢が爆誕した。
勇者の章十七巻あらすじ
魔族の子供を保護していた勇者に仲間の剣聖は苦言を呈する。
だが魔族とはいえ子供に罪はないと語る勇者。
そんな勇者の背後に突き刺さる短剣――その一刀には親を殺された魔族の子の恨みが孕んでいた。
憧れだった親を殺した勇者一行は許せない。必ず殺すとこの一刀に誓う。