精神が肉体を凌駕する理論で勇者やってる逸般人の物語 作:niwaka
冒険者ギルドを追い出されてからおよそ半日。
適当に食事を済ませて宿屋の確保をしたところで俺は重大なことに気が付いた。
「武器、買ってないな」
それもそのはず、デュランダラに選ばれないなど考えたことすらなかった。今日というこの日に俺はデュランダラと共に華々しく勇者としてデビューするつもりだったのだ。だが、やつが選んだのは俺ではなかった。今更悔やんでも仕方ないが、後もう少しあの列に並ぶのが早ければ俺が勇者だったと思うとやりきれない思いが込み上げてくる。
それに吟遊詩人を仲間に出来なかったのも痛い。ギルドを追い出された後も王都内の人々に声をかけ、当てがないか尋ねるも誰もが怪訝そうな顔をしてそんなものは知らないの一点張り。王都内の掲示板に吟遊詩人募集を掲示してみるも一時間としない内に王国騎士団の警備隊に紙をはがされてしまう。
宿屋を探すのもかなり苦労した。何故か魔法剣士を名乗るだけで追い出されるのだ。なんとか俺を受け入れてくれた宿屋の店主も頼むから騎士様の前では余計なことを喋らないでくれよ、なんて懇願されたりもしたが俺のどこに余計な発言があっただろうか。
今日一日を振り返ってみてもほとんど収穫は得られていない。聖剣に選ばれず、冒険者ギルドを追放され、吟遊詩人は見つからず、やっとのところで宿屋の確保が出来ただけだ。
せめて武器だけでも調達しないとやるせない。聖剣とまではいかずともそこそこ性能のいい武器を……と考えたところで俺の脳内に衝撃が走る。
本当にそれでいいのか? そこそこの規模の王都で、そこそこに性能のいい武器を買う。そんな凡庸な考え方が勇者のすることか?
そうだ、思いだせ。勇者の章一巻にて、勇者が最初に得た武器はなんだったか。聖剣デュランダラか? 聖槍ロンダボルグか? それともオリハルコンの剣か。そのどれもが勇者が序盤で使うような武器ではなかった。勇者が初めて武器を持って戦った戦闘は今でも世界中に語られている。鬼のような顔をした豚型の魔物、オークを相手に木の剣一つで勇者は立ち向かったのだ。
「ありがとう、勇者。俺は大切なことを忘れていた」
初めから聖剣を手に入れようなど傲慢でしかなかった。まずは原点に返ってコツコツと。経験を積めば木の剣だって聖剣になるさ。俺に今必要なのは己にあった武器。すなわち木剣だ。さっそく鍛冶屋に買いにいこう。
◆◆◆◆◆
適当に見つけた鍛冶屋に入ると、中は薄暗く、独特な鉄の匂いが鼻に充満する。客は俺以外には誰もいない、なんてことはなく数人の体つきのいい男たちが食い入るように陳列された武器を見ている。
店主らしい男は見当たらないが、奥の方で鉄を打つ音が聞こえてくるからそこにいるのだろう。しばらくは陳列されている武器でも眺めて時間を潰そう。
「兄ちゃんも魔剣目当てかい?」
適当な剣を手にとって見ていると男が声をかけてくる。
「魔剣? いや、俺が探しているのは別物だ」
「なんだ、魔剣じゃねぇのか。こんなところに来てまで魔剣に興味ねぇとは随分変わってるな兄ちゃん」
「別に、普通に鍛冶屋なんだから魔剣は関係ないだろう」
「おいおい冗談きついぜ? 魔剣を打つ鍛冶師なんてこの王都じゃここしかねぇだろうよ」
男はそう言って適当な武器を手に取ったかと思うとおもむろにそれを振るって見せる。
「ここじゃ魔剣の試し斬りなんてのも出来るんだぜ。ちょっとやってみるか兄ちゃん、ついてきな」
「まぁ、やるだけなら……」
名をガルダというらしい男に案内された場所はおよそ鍛冶屋に存在するとは思えない程の大きな闘技場のような空間だった。
恐らくは何かしらの魔道具の空間展開によるものなのだろうがそれにしたって規模が大きすぎる。
「随分と広いな」
「特注の魔道具による空間展開だそうだ。おっと、先客がいたみたいだな」
ガルダの視線の向かう先には一人の女が黙々と剣を振るっていた。
まるで血に染まったかのような赤い髪をした女はこちらを一瞥すると何事もなかったかのようにまた素振りを始める。
「ありゃ新米の剣聖様だな。王都に来ているとは聞いていたがもうここを見つけ出してるとは大したもんだ」
剣聖……剣聖だって!? あの、勇者の唯一無二の親友とされている剣聖!? 彼女が剣聖ということはつまりは俺の親友ポジションということだ。共に苦楽を乗り越え、魔王を討たんとする仲間だということに他ならない。だが――だがしかし、昨今はまるで剣聖のバーゲンセールだとでも言わんばかりに剣聖は誕生している。勇者のいた時代には剣聖といえば勇者の親友である彼しかいなかったのに対し、現在は剣聖と呼ばれる剣士は数十人も存在する。もちろんそれが悪いことだというつもりは毛頭ないが俺は親友ポジションは一人でいいと……いや、一人だからこそいいと思っている。他の仲間には言えないようなこともこいつになら言える。そういう親友が俺は欲しい。
「見極めるか……」
俺はそう言って素振りをする彼女の前に立ちはだかる。
彼女は一瞬驚いたような顔をしたが目の間に立つ俺を無視して素振りを続ける。
どこの流派の剣術かは分からないが素直に綺麗な剣筋だな、と思う。これといった欠点も見当たらないし、まるで隙がない。俺がいきなり襲い掛かったとしてもある程度は対応出来るだろう。
「お、おい! 何やってんだ馬鹿! す、すみません剣聖様」
俺が彼女を観察しているとガルダは慌てて俺と剣聖の彼女の前に立って仲裁するが彼女は気にした様子も特にない。
「おい兄ちゃん勘弁してくれ! 嬢ちゃんを……原初の剣聖の再来とも言われてるルミナ・シグルドを知らねぇのか!?」
「何……? 原初の剣聖だと?」
「ああ! 千年前の勇者の相棒だとされている剣聖に最も近いとされてる剣聖様だよ! 分かったならとっとと謝って目をつけられない内にここを出るぞ!」
「それは出来ないな。どう切り出すか迷っていたが、今しがた彼女に用事が出来たところだ」
「はぁ!?」
俺はガルダを押しのけもう一度彼女の目の前に立つ。彼女は……ルミナ・シグルドは俺を目の前に堂々たる立ち振る舞いだ。そうでなくては困る。
「……何か?」
俺が声を掛けるより早く彼女は口を開いた。素振りの邪魔をされたとはいえ苛立っているようには見えない。言葉に棘がある気がするのは恐らく俺の気のせいだろう。
「ルミナ・シグルド、若き剣聖よ。俺の……親友になる気はないか?」
「……は?」
魔剣
通常の武器とは異なり、魔術的な付与がされている剣のことを魔剣と呼ぶ。
主に剣先から炎を放出する、雷を纏うなどといったことが可能となる。
基本的には付与した属性の効果が顕著に表れる。
武器に魔術を付与することが出来るものが極少数の為、魔剣の数は年々と減少していっている。