鍋の庭 作:かりん
「智兎姉さん!?」
泡を食ってやってきた弟を大魔女の家に引っ張り込み、助手用のパンとスープとワインをまず食べさせる。
「なんなのこれ!? なんなのこれ!? 夢でも見てるのか!?」
「よくわかんないけど、鍋庭が実体化して勢いで弟子を5人攫ってきちゃった」
「誘拐!?」
「だって全員死にそうだったのよ! とにかく、男の世話なんてわかんないから、助手して!」
「ええ……。仕事はどうすんの」
「引き継ぎして辞めるしかないでしょ。会社立ち上げるつもり」
「どうやって稼いでいくんだよ」
「とりあえず、動画サイトに登録してみる。そんで知名度稼いでから商品を販売する」
「はぁ。会社に辞表書いてくる。今、仕事がひと段落してるから、すぐに辞められると思う」
「すまぬ。すまぬ……。あ、カバーストーリーはおばあちゃんから受け継いだって事にするから」
「はぁぁ。わかった。会社の手続きと動画登録も俺がするよ」
「すまぬ。社長は私ね!」
「わかってるって! 会社名は?」
「魔女の鍋社!」
そして、弟はその日、泊まる事となった。私は急遽明日の仕事を休む連絡をした。翌朝。早い時間に起きてきた私は部屋の鍵を開けると、鍋をお玉でガンガン叩いた。
慌てて起きてくるが、人間の子以外は元の服のままである。風呂に入っていないのすらいる。
鍋庭世界の言葉で、私は5人を急かした。
「ほら! 体を洗う部屋があったはずだよ! 着替えもね! ちゃんと身を清めて着替えてきな! 朝、だらしない格好をしている奴に食べさせる朝食はないよ! その後はきっちり仕事を覚えてもらうからね! 今日はひとまず、身の回りの物の買い出しと商品作りの検討会だよ!」
気分はすっかり大魔女様である。
お風呂に入ってローブを着て仮面をして、すっかり身支度を整えていた。
朝食の準備はあえてしていない。それは弟子が作るものだからだ。
慌てて部屋へと戻る四人。ただ一人準備の出来ていた子が、声を掛けてくる。
「その、何か手伝いましょうか? 貴方様の事はなんと呼べばいいですか?」
彼は英語圏の人間なのに、鍋庭世界の言葉できちんと話してくる。適応力の高い子である。
「そうさね、魔女様と呼んでもらおうか。あんたは二階の食堂で弟を起こして食材の準備を手伝いな。弟は助手さんと呼ぶんだよ。それと、あんたの呼び名を考えなきゃね。短くて呼びやすい名を考えときな」
「では、ウィズと呼んでください」
「ウィズ。いいね。ウィズ。階段はあっちだよ」
ウィズが行ってしばらくして、蟲人が戸惑いながらローブを着てきた。
若干濡れてる。
「乾かす物があっただろ、全く。しっかり乾かしてきな、やり直し!」
エルフと魔族と乾かした蟲族が出てくる。
「貴様、何の目的があって私を助けた」
「助かったとは限らないのでは? 随分と趣味がいいように見える」
「……」
「ごちゃごちゃ煩いね。得たものを全て返してここから出るかい? 帰る場所もない癖に?」
「「「!!」」」
「あんたらの家は今日からここだよ。独り立ちするまではね。無駄口叩いてないで、さっさと食事を作りにいきな」
そこで漸く獣人が出てくる。
「腹が減った。飯なしはなしで頼む!」
「揃ったね。さっさと二階に食事を作りに行きな。ウィズはとっくに行ってるよ。ぐずればぐずるほど遅くなるんだからね!」
二階に追い立てると、ふわり、といい匂いがした。
アボガドサラダに、スクランブルエッグ。焼いたベーコンに、蜂蜜がたっぷりかかったホットケーキ。
パンとバターにジャムにシチュー、ご飯に焼き魚にシリアルに牛乳、オレンジジュース。果物の盛り合わせもある。しかも驚くなかれ。フライパンが自動でスクランブルエッグを焼いている。魔法を覚えた翌日から使い熟しているのである。
「手際がいいね。もう出来たのかい」
というか、この子達が準備遅すぎるのだが。
「ウィズ君、料理上手いよ。魔法の才能もあるし」
「助手さん、ありがとうございます。材料を結構使ってしまったので、後で買い出しに行っても良いですか?」
「やる気十分じゃないか。そういう子は好きさ。買い出しは後でね。とっときな」
銀貨を一枚渡す。金庫に入っていたものだ。銅貨、銀貨、金貨、魔女銅貨、魔女銀貨、魔女金貨がある。
「わ、ありがとうございます!」
「さあ、食べようか」
美味しい。めっちゃ美味い。かなりの量があったのだが、あっという間になくなった。朝から食べるなー。
私は昨晩、食べ逃したからだけど。
後片付けを全員でして、教室へと移動する。
「さて。自己紹介と行こうかね。私は智兎。魔女様と呼びな」
弟が笑いそうになってるのをギッと睨む。
「こいつは弟の武兎。助手さんと呼びな。で、あんたら。名乗りたい名前を名乗っていきな」
「ウィズです」
「……エル」
苦々しげにエルフの少年が言う。
「ゾーク」
魔族が吐き捨てる。
「ガルー」
獣人がいう。
「ドラグス」
蟲人が恐る恐る言う。
「ウィズにエルにゾークにガルーにドラグス。よし、覚えたよ」
脳内メモにしっかりと書き記す。
机に名札を置く。
「あんた達は、才能があって居場所がない者という条件で召喚した私の弟子だよ。一人前になったら、あんたらの好きにするがいいさ」
「本当は塾費を取ろうとしたんだけど、召喚対象を間違ってピンチな子を選んじゃってうっかり助けちゃったんだよね」
「助手ぅ! 大魔女様の威厳と言う物がね!」
「おばあちゃんから受け継いだばっかりで、受け継ぐまでは魔女の魔も知らなかったくせに。大魔女の演技、似合ってないよ」
「ムキー!」
「魔女様は日本人なんですか?」
「ふぅ、そうだよ。引き継ぎして、仕事を辞めて、起業する予定。引き継ぎしている間に動画サイトでバズって、起業したら一気に商品を売って儲けるのがベストかな。受け継いですぐ皆のこと召喚しちゃったから、何も準備が出来てないんだよね」
「じゃあ、僕の顔が割れるのはまずいですよね。未成年誘拐になっちゃいますし。一度帰ります?」
「ビルの屋上から飛び降りるような環境に子供を返すって? 冗談言わないでよ。貴方は殺されそうになったわけじゃないけど、他の子達は犯されかけたり手足を落とされかけたり、船から放り投げられたり、殺されかけたり、そんな中に混じってたのよ。貴方だって、それくらい居場所がないって事でしょ? できるわけがないじゃない。仮面でもしときなさい。部屋にあったでしょ?」
「魔女様……。ありがとう」
「もうこんな時間ね。ありがと、武兎。会社行って辞表出してきてね。私も、明日から一ヶ月ぐらい引き継ぎでいないけど、その間は武兎がいるから」
「あの、全然準備出来てないんですよね? お金稼ぎ大丈夫ですか?」
「しばらくは遺産があるわ。三ヶ月は持つはず」
「三ヶ月しか持たないんですか……」
「だから、それまでに利益を出さないと」
「話している事の半分はわからないが……ようは、顧客ではなくお荷物を弟子にしてしまったと言うことか。とんでもないお人好しだな。お人好しを通り越して馬鹿だ」
ずっと話を聞いていた魔族のゾークが言った。
「力をくれると言うのなら、貰います。私は身を守る力が欲しい」
エルフのエル。そうだね。
「貰った分の恩義は返すぜ!」
ガルーは笑った。
「身を守る力、欲しい。守りたい物を守れる力、欲しい!」
ドラクスの言葉に皆が頷き、ひとまず武兎を送り出して、手をぱんと叩いた。
「じゃあ、必要な物リストアップして、人化クッキーを作って、武兎が帰ってきたら色々見て回るよ! メモ帳は配るから、欲しい物の値段ちゃんとメモすること! 部屋の間取りも図らないとね。その後、お買い物! その後は、商品に良さそうでコスパの良いものを検討して作り方を確認して、一ヶ月ひたすら作って販売、と」
皆は元気よく返事した。
それから、人化クッキーを作りながら、ポツポツと事情を聞く。
エルフのエルは、勢力争いで身内に売り飛ばされてしまったんだとか。一番年長で、人間換算15歳。
魔族のゾークも、お家騒動。人間換算14歳。
獣人のガルーは、船長の息子で、これも父が急死して、No.2に追われる形に。人間換算12歳。
ウィズは両親が商売で成功して大金持ちになると、両親が不審死して親戚が乗っ取り。12歳。
最も、ウィズが成人前に死んだら遺産は寄付されるように両親がしてくれていたので、監禁されていたのだとか。それを必死で逃げ出して、腹いせの死である。
権力闘争、こわっ
でも一番悲惨だったのは蟲人のドラクス人間換算10歳だった。
里が襲撃されて、飛行蟲という飛行船代わりに使われてる蟲を操る為の生きた部品にされる所だったらしい。ちなみに鍋庭の近似世界だと、10歳からは小さな大人と扱われ、15歳は完全に大人と扱われる。
お、重い! 一同の事情が重すぎる!!
そして、27歳の私の10倍ぐらい、皆しっかりしている。
クッキーの進捗は問題なさそうなので、私はブラウジングして鍋庭近似世界の買い物に良い場所を探す事とした。ガルーから話を聞きつつ、転移先を吟味していく。
そうだ。皆にはこれから買い出しに出てもらうんだから、鍋庭近似世界なり、日本なり出入りできるチケットが必要だよね。2時間ぐらいで自動で戻るようにしようか?
ガルーもよく知る大きな港町があるので、そこにしようか。やはり土地勘があるのは強い。
ガルーは人化して訪れるので、追われる心配もない。
そして、武兎が帰ってきた。皆の分の服も買ってきてくれている。気がきくぅ!
「明日から有給ー。引き継ぎも何もないのが悲しいぜ……!」
「ど、どんまい」
「まー。フリーのシナリオライターになるだけだし。完全に離れるわけじゃないし……。仕事覚えてそれはふざけんなって言われたけど、何か埋め合わせさせてください」
「すまぬ。すまぬ。この鍋庭近似世界観光チケット12枚綴り10セットをお納めください……」
転移チケットである。破ってきっかり2時間で戻れる安心設計。
ということで、人化クッキーを食べてもらい、まずは勝手知ったる日本に行った。
「何だここ!?」
「私の故郷だよー」
「すげぇ……!」
「ゲホッゲホッ 空気悪いですね。人化クッキーがないときつかったかも」
「天を突くような建物……すごい」
「すごい」
食料品売り場から、家具店、服屋。満遍なく見て回る。
次に、弟の会社へと行った。
「破ると異世界に行けるぅ? そんなわけないだろ、急に辞めたと思ったら頭おかしいこと言って」
弟の上司がやれやれとお試し用の5分チケットを破った。消えた。
「えっ」
「5分で戻りますから」
5分後、ガタブルしながら上司が現れた。
「治安あんまりよくないそうなんで、旅行の際は気をつけてください」
「お、おう。おう。まままっ魔女様でいらっしゃる?」
「殻付きですが」
「取材させてくださいっ!!」
「無事起業できたらね」
「サポートさせて頂きます!」
心強い味方が出来た。