鍋の庭   作:かりん

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チートな鍋庭

二週間、部屋の模様替えをして、買い物をして、のんびりしていたら早くも昆虫園のプレオープンが放映されるという。早くね?

 

食事をしながらニュースを見る。

 

「やっぱり痛ましいね……」

「部位欠損ですが、やはり強い魔法の力と昆虫の強い生命力でも治療は難しいようですね」

「それは仕方ない。部位欠損など治せるはずがない」

「……皆は商品どうする?」

「それでも。傷や病気の治りを補助するポーション系統でせめてみようかと思います。薬品とは別枠で国が管理体制を作ってくれるそうです」

「えっ いいの? それ。私達しか作れないのに」

「エルフの得意技ですが? ただ、日本人でもポーションを作れるようにはしてほしいとの事でした。まあ無理ですが」

「魔女金貨一枚でどうにかなるよ。君たちが食べたスープを用意できる」

 

魔女通貨は召喚ができるのだ。私が設定した鍋庭アイテムの特殊召喚である。

   

「えっ」

「じゃあ、明日から本格的な魔女の魔法を教えようか。全員、本はあるよね」

「無論だ。読めないが」

「えっ」

「日本語、喋り言葉はなんとなく覚えてきたんだが」

「あちゃあ……」

「じゃあ、尚更だね。午前中は魔女としての修行にしようか」

 

 翌日。

 2階の黒板を前に、私は講義する。

 

「まず、私達の流派の奥義は外部には内緒だから。坂田さんにもだよ」

「奥義」

「私達の流派の奥義、それは鍋庭」

「鍋庭」

「箱庭を作るように、鍋の中で生物や魔法を育てるんだよ。物は試しで、やってみようか」

 

 時の木の薪に火をつけ、たっぷりと鍋魔水を入れた鍋を火にかける。

 設定通りに、海1と書かれた大瓶から液体を注ぎ、大地と書かれた瓶を適当にブレンドして注ぎ入れ、お玉で混ぜる。種と書かれた瓶を振ると、パラパラと落ちていった。

 そして、鍋魔水のたたえられた鍋の底に小さな世界ができた。

 

「うわ、小さい木が中で育ってます」

「嘘だろ……」

「あり得ん」

「す、すごい……」

「これ生き物か?」

「これって、文明何度も破壊するんだよね?」

「そう。みんなも聞いて。絶対に文明を鍋から溢れさせてはダメ。どうしても溢れそうな時は、ここのゴミ捨て場に捨てなさい。出ないと世界が溢れ出て大変なことになる」

「意味がわからないんですけど」

「兎に角、鍋庭を育て、鍋庭を管理するのが私の流派の魔女。鍋のスープを飲めば、その鍋で育てた魔法が使えるようになる。ま、スープは何度も飲めるようなもんじゃないけどね。魔具にするって手もあるわ。試しに回復魔法を育ててみましょうか」

 

 腰が引け気味に武兎が言うのに答えれば、みんなもドン引きして驚愕の目で私を見る。

 回復魔法の作り方は、一番オーソドックスと言っていい。

 

「回復魔法は、回復魔法の元を入れてとことん痛めつけることで出来るわ。この鍋には鉱物を入れてないんだけど、代わりにこれを掛ける」

「あっ」

「わかる? 明日は槍が降るっていうでしょ? それがこれよ、鉄分を追加できるわ」

「は?」

 

 私はせっせと鍋の面倒を見る。

 槍。悪意のタレ。愛のタレ。

 

「うん、こんなものかしら。これは試しだし」

「も、もうやめて。やめてあげてください」

「う、うああああ……」

 

 私は、鍋で全体をかき混ぜてスープをよそってスープジャーに入れると、残りを捨て場の茶色の惑星にぶっかけた。ふむ。10人分ってところかな。

 

「うわあああああ!!」

「あ……ああ……」

「アアアアア!!」

「ああああ!」

「酷すぎる……っ」

「さすが魔女。圧倒的鬼畜……っ」

 

「しぶとく生き延びれば、彼らは自由を手に入れるわ」

「空気も何もない星に放り出されて自由も何もないだろ……」

「何度も鍋を捨てれば、惑星に文明ができるってものよ。二度と誰にも干渉されない、本当の文明がね。ちなみに魔女のワインは、力ある魔女が力を振り絞ってワインを作り出すの。それじゃ、パンは、明日作りましょう」

 

 うっ 皆の視線が痛い……! それに気がつけば1日が経っていた。まあ、本来なら何年も掛けて育てるものだけど、とりあえずの試しだし。

 

 翌日はパンの作り方、その翌日は儀式の仕方を教えた。更に翌日は、鍋庭の素材の作り方をみっちりと。

 儀式の仕方を教えたら、ドラクスが持っていた魔女金貨全て使って最高級の飛行蟲の卵をダースで召喚してしまった。宇宙までいけるやつである。育てるのに最低10年掛かるけど。

 当然昆虫園預かりとなり、一匹はドラゴと名付けて使い魔にする魔法を試すこととした。

 

 昆虫園にスープ5人分とパンくらいは寄付しておこう。

 一人分は日本に寄付して、後はオークションである。

 

 ちなみに、今月の食事当番はエル。

 午後はみんなでポーション作り。月の終わりにオークションに纏めて出した。

 オークションでは大体アメリカ関係が競り落とし、大金を手にすることができたので、みんなでお祝いした。

 

 エルの好みで一ヶ月野菜生活だったから、もう皆限界だったんだ……。

 

 でも、次の食事当番はガルーなので今度は肉一色になるんだろうな……。エルの絶望顔と言ったら。

 ちなみに、数ヶ月分のノルマが達成できたので、武術家の田中さんに護身術を習う事とした。

 魔法も含めて護身術を鍛えておくのは悪いことではない。報酬は前渡しで鍋庭のスープである。召喚した。

 


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