呪い、呪われ   作:ベリアロク

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第12話 想い:下

3階での戦闘の影響で下の階へと転落した乙骨と真希は再び核のあるであろう上階へと向かい進んでいた。その足取りは訓練前の何倍も遅くなり、乙骨は真希に肩を貸し歩いていた。

 

 

「ここまで来れば大丈夫な筈……身体の方は大丈夫?」

 

「はぁ……はぁ……心配すんじゃねェ……よ」

 

「真希さん⁉」

 

 

その場に崩れそうになる真希の身体を乙骨は支え、壁へともたれかけさせる。真希の言葉には先ほどまでの威勢は無く、額には尋常ではないほどの汗が伝っている。

 

転落は絶体絶命だった二人にとって嬉しい誤算であったが同時に予測していなかったがための反動を二人は受けた。落下自体の衝撃に加え共に転落した瓦礫から受けたダメージもある。結果敵から身を隠すことは出来たが二人は相応のダメージを受け、真希に至っては一人で歩けないレベルで疲弊していた。

 

 

「なんで……っこの切り傷のせいか」

 

「お前と違ってひ弱じゃねェからな……切り傷如きじゃくたばりゃしねェよ。床が崩れたタイミングで切り傷に毒かなんか入ったんだろ。ったくツイてねェ……」

 

「僕を庇ったせいで真希さんが……」

 

「ウジウジすんな気持ち悪ィ……その様子だとお前の方は大丈夫そうだな……ふぅ」

 

 

真希はため息を吐き震える手で額の汗をぬぐう。そして何かを決心したかのように乙骨の方へ顔を向けた。

 

 

「もう時間一杯、決断の時だ乙骨」

 

「決断って何を……」

 

「戦うかどうかだよ。恐らくこの訓練は私たちのヒーロー科編入の試験を兼ねてる筈だ。じゃなきゃ悟はこのタイミングでお前に刀なんて渡さずに見学させてる」

 

 

真希の言葉を受け乙骨は背負っている竹刀袋を見る。大した重さもなかったそれが急に重くなったような気がした。

 

 

「ここで結果を残せれば晴れてヒーロー科、残せなければどうなるかはわからない。今ここでやるしかねぇんだよ」

 

「……そんなこと言ったって僕には無理だよ」

 

 

これまでも同じようなことは何度もあった。けれどその度に己が呪いの恐ろしさから逃げ出したのだ。誰も傷つかないよう、自分自身を苦しめないように。誰かに立ち向かっていく自分の姿など乙骨には到底想像できなかった。

 

悔しさからか、それとも自身の惨めさからか。ぐちゃぐちゃの感情が入り乱れ乙骨は唇を噛みしめる。

 

 

「――――――乙骨」

 

 

そんな後ろ向きな姿を見せる乙骨の胸倉を真希は掴んでいた。

 

 

「お前マジで何しに来たんだよ……この雄英高校によ!」

 

「何がしたい! 何が欲しい! 何を叶えたい!」

 

「……僕は……」

 

 

答えはもう己の中にあった。誰かの役に立ちたいとか自分の力を生かしたいとか、そんな胸を張って言えるような立派な理由ではない。本当に個人的な、されど乙骨にとってはもっとも得難いもの。

 

 

「……僕はもう誰も傷つけたくはなくて、閉じこもって一人で消えようとしたんだ。でも……」

 

 

一度は受け入れた秘匿死刑。それで乙骨は終わろうとした。他人の為、何より自分自身の為に。誰ふり構わず傷つけてしまう人生はもうウンザリで、死刑を選び終えようとしたのだ。

 

 

けれど言い返せなかったのだ。

 

 

 『でも……一人じゃ寂しいよ?』

 

 

人生を終えようとした場所で五条に告げられた一言。これで乙骨は気づいてしまったのだ。誰かを傷つけるのは怖い。それでも乙骨には願いがあった。

 

 

「誰かと関わりたい。誰かに必要とされて……生きてて良いって、自信が欲しいんだ」

 

 

使命でも義務でもない。純然たる願い。自分自身を救う為の術を探しに乙骨は雄英高校へとやってきたのだ。

 

 

「だったら強くなれ」

 

 

そしてその答えは真希の口から告げられた。

 

 

「強くなって、強くなって、強くなって! そんで敵を倒せ! 自信も! 他人も! その後からついてくんだよ!」

 

「……」

 

「雄英高校はきっと……そういう場所だ」

 

 

それだけ告げて真希は限界が来たのかその場に倒れ伏す。真希に掴まれていた乙骨の胸倉は倒れた勢いでボタンがちぎれ胸元が露わになり、そこには小さな首飾りが木漏れ日に照らされ鈍く光っていた。

 

それこそ鎖に通した幼き日に交わした指輪。

里香との約束の証であり、里香という存在との最も強い繫がりだった。

 

 

「……」

 

 

願いは明かした。答えも得た。

ほんの片手で数えられる程度の人数との関り。それも数日のこと。けれどその出会いを経た乙骨にはもはや迷いはなかった。

 

 

「里香ちゃん」

 

 

指輪を握りしめ愛する人の名を呼ぶ。

 

 

 

――――――なぁに?

 

 

 

応える声が確かに聞こえた。

もうその声に怯えない。その声から逃げることもない。

 

 

幼き日の彼女との約束と呪いという二面性を持つその指輪。過去から現在、そして未来までも続くはずだった約束。その光と闇を乙骨は覚悟を持って受け入れる。指輪は今鎖から放たれ、左手の薬指へと嵌められた。

 

 

 

「――――――力を貸して」

 

 

 

あるべき場所へと移った指輪が淡い光を放つ。

幼き頃から自他を巻き込み傷つけてきたその呪いを今乙骨は”術”として受け入れた。

 

 

 

 

 

 

一方3階にいる常闇と蛙吹は崩落した床の先を眺めつつ、乙骨らの動きを窺っていた。常闇らヴィランチームはほぼ無傷だったが防衛対象がある以上油断は出来なかった。

 

 

「どうかしら常闇ちゃん。乙骨ちゃんたちの姿は見える?」

 

「見えんな。探そうにも瓦礫が邪魔で黒影も出せん」

 

「もしかしたら核の方に向かってるのかしら。結構なダメージだったと思うのだけど……」

 

「万一もあるからな。蛙吹は核を守っていてくれ」

 

「梅雨ちゃんと呼んでね常闇ちゃん。核の方は任せておいて」

 

「頼む」

 

 

薄暗い廊下で常闇と蛙吹が別れ、各々の役目のため動いていく。

その時だった。

 

 

 

ガラッ……

 

 

 

瓦礫が傾いたかのような微かな音、微かな振動。常人であれば気づくことも気にすることもないその僅かな異変に常闇だけが気づいた。

 

 

「蛙吹‼」

 

(何か、何かがマズイ……‼)

 

 

形容しがたい悪寒が常闇を襲う。それは野生的本能か同族故か。危機を伝えるべく言葉を発した時にはもう遅かった。

 

 

 

「どうしたの常闇ちゃん? 何か――――――」

 

「ッ、お前の後ろだ蛙吹ィ!」

 

 

 

常闇の言葉に振り返った蛙吹。そしてその背後には刈るように飛び出した乙骨が刀を振りかざしていた。その眼光は訓練前のそれとは別人であり、暗闇に飛び上がるその姿は命を刈る死神のようだった。

 

 

「ケロッ⁉」

 

「――――――ごめんね蛙吹さん」

 

 

乙骨の放った大振り。その一閃には技術など一切込められていない。けれど刀は蛙吹の胴を打ち取り、蛙吹の身体を壁面へと叩きつけ意識を刈り取った。

 

その場に残った二人は向き合い対峙する。

 

 

「後は君だけだ常闇君」

 

「そのようだ。不意を突いたとは言え蛙吹を一発で仕留めるとは……それがお前の個性か」

 

 

常闇が乙骨の持つ刀を見て言う。乙骨の刀には赤色でも紫色でもないオーラが纏われていた。

 

 

「僕の力じゃない。この力は里香ちゃんのモノ、そして僕が今立てているのは真希さんのおかげさ」

 

 

パスを繋いだ里香の力を形ある刀に込めたモノ。これが蛙吹を刃こぼれした刀で沈めた要因であり、乙骨と里香の呪いの形だった。

 

 

「成程、詳細は知らんがこの短時間でお前が成長したことはわかる。何というか……前向きになったな」

 

「そうかな。ならそれこそ真希さんのおかげだよ」

 

 

里香の力は危険だ。扱い切れるかもわからず、誰かを傷つけてしまうかもしれない。それ故に自ら使おうとせず再び閉じこもろうとした。このまま終わろうとした。誰も何も傷つけないように。

 

それでもこの力を使い戦おうと思わせてくれた、一歩を踏み出せたのは真希のおかげだった。

 

 

「それより僕とゆっくり話してても大丈夫? 今頃真希さんが核を確保しちゃってるかも」

 

「フッ、ハッタリはよせ乙骨。建物の中で動いているのは俺とお前だけなのはもうわかっている。残るは俺とお前だけだ」

 

「わかっちゃうか~……はぁ、出来れば君とは正面からやりたくなかったんだけど」

 

 

乙骨が常闇と正面から戦いたくない理由は大きく分けて3点。常闇が真希と同等の実力を持っていることと乙骨には喧嘩の経験はおろか刀を扱ったことすらないこと、そして長時間の力の行使による里香顕現の恐れがあった。

 

経験も力も乙骨自身に無い以上里香の力に頼るほかない。だが今回が里香の力を自発的に扱う初めての場だ。扱いを誤れば里香顕現に繋がる。

 

里香が顕現してしまえば常闇らを傷つけてしまうのは間違いない。それは乙骨の本意ではないし五条の言う通りならば顕現させた時点で即死刑執行となる。

 

どの点を取っても乙骨に取れる選択肢は『短期決戦』以外なかった。

 

 

 

「行くぞ乙骨‼ 『黒影』‼」

 

 

掛け声と同時に影が乙骨目掛け突進してくる。流動的でありながら鋭利な爪を持つそれの拳を乙骨は躱しつつ、真希のようにカウンター気味に攻撃していく。けれど刀の扱いに慣れない乙骨の攻撃は影を掠める程度で一振りで軽く息が上がってしまっていた。

 

 

「はぁッ、はぁ……」

 

「お前の方こそゆっくりしていて大丈夫か? このままタイムアップならこちらの勝ちだ!」

 

「ぐっ……」

 

 

影の猛追を刀で振り払いながらも乙骨は残り時間を確認する。与えられた時間の大半は既に消費してしまっており訓練終了までもう2分となかった。

 

 

「こうなったら……!」

 

 

このままだと常闇の言う通りこちらの敗北は確定する。それだけは避けなければと考えた乙骨は常闇と一旦距離を取ると力任せに刀を壁にぶつける。激しい音とともに壁は崩れ、砂埃と瓦礫が乙骨と常闇の間を遮った。

 

 

「今のうちに核を見つけにいかないと……」

 

 

常闇がこちら側に来れない内に上の階へ……そう考えた乙骨は常闇のいる方に背を向け駆けていく。だが

 

 

「そうはさせんぞ乙骨‼」

 

 

瓦礫は大した足止めにもならず、常闇は瓦礫を吹き飛ばし乙骨へ影を飛ばす。常闇に背を向けていた乙骨は身を守る間も無く壁へと強く打ち付けられた。

 

 

「カハッ⁉」

 

「終了まで後2分を切った。核には辿り着けんだろうが……念のためだ。ここで拘束させてもらう」

 

 

打ち付けられた衝撃で息が上手く吸えない。痙攣する。身体が言うことを聞かない。震える足に鞭を振るいながら立ち上がる乙骨を前に常闇は容赦なく近づく。確実に意識を刈り取り拘束するために。

 

 

「くそっ……!」

 

 

乙骨は何とか床に落ちた刀を拾い握り攻撃しようとする。けれどもう間に合わない。満身創痍の乙骨が刀を振るうよりも先に常闇の影が乙骨にぶつけられるのは明白だった。

 

 

「これで終わりだ」

 

 

放たれた意識を刈り取らんとする攻撃。常闇の影が乙骨の鳩尾にぶつかるのを止められる者は誰もいない。誰もがそう思った時、突如一面の壁が崩れ目が眩むような光が中へと差し込んできた。

 

 

『グワァァァァァッ⁉』

 

「クソッ『黒影』‼」

 

 

その日光に当てられてか猛威を振るっていた影は悲鳴を上げ常闇の中へと戻っていく。

その光は日光。人に活力を与える光であると同時に影を掃うもの。常闇の『黒影』も例外ではなかった。

 

 

「……一体何が」

 

「ギリギリセーフ……ゴホッ!」

 

 

九死に一生を得た乙骨が声のした方を見る。光が差し込む崩れた壁、そこには2階で倒れているはずの彼女、真希が壁に背を預けながら座っていた。

 

 

「真希さん‼」

 

「蛙吹はもう拘束した! 後はそいつだけだ乙骨‼ もう時間が無ェ!!!」

 

 

こっちは心配するなと真希はかすれた声で叫ぶ。残り時間は1分を切った。寸秒の躊躇いも許されない。そのことを理解した乙骨は刀を力強く握る。今出せる全てをぶつけるために。

 

 

「行くよ常闇君ッ‼」

 

「ッ……来い乙骨‼」

 

 

両者ともに満身創痍、互いが今出せる呪い/影を刀/拳に乗せる。その力の増幅のぶつかり合いは建物すら揺らつかせる。その揺れが一瞬だけ止んだその瞬間二人は地を蹴り飛び出した。

 

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」」

 

 

呪いと影がぶつかり合う。大地が揺れるかのように建物全体が揺れ、風が吹き荒れる。そのぶつかり合いはすぐに決着が着いた。

 

 

「終わりだァァァァァァ‼」

 

 

陽の光を味方につけ、今引き出せる呪いを全て込めた一撃は影の拳を上回り常闇を切りつける。全霊を賭けた一撃は常闇の意識すらも刈り取り、瞬時に常闇の身体を乙骨は拘束した。

 

 

 

呪いと影の戦い。その軍配は呪いに、乙骨に上がった。

 

 

『訓練終了‼ 勝者ヒーローチーム!!!』

 

 






ようやく書きたい乙骨を書けるステージに来た……! ホントようやくって感じです。
相変わらず難産だったので高評価・感想お待ちしております!



加えて一つ。
感想欄を見たのですが恐らく感想が一件消えたように感じます。恐らく本誌ネタバレを含んだ感想を書かれた方が消したのだと思います。ご配慮ありがとうございました。

USJ編の話構成(途中まで)

  • 1話1エリア分(今回の形式)
  • 1話2エリア分(例:乙骨+緑谷パート)
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