訓練を終えた乙骨らはオールマイトの指示の下モニタールームへと足を運ぶ。その部屋の扉を開けた先でクラスメイトが乙骨たちを出迎えた。
「やるじゃねぇか乙骨! 熱かったぜ!」
「やべー戦いしやがって! 後にやる俺らのハードル上がりまくりだよ!」
「常闇も凄かったー! あの影みたいな奴カッコ良かったよ!」
「あはは……何か恥ずかしいね」
「むぅ……」
「はいはい静かに! 時間は大切にだ」
先ほどまでの戦闘に沸き立つ生徒らをオールマイトは抑えるとモニターを再度点灯させた。講評の時間である。
「では訓練の講評を行うぞ! 今戦はHEROチームが勝利、MVPは禪院少女だ!!!」
「アレ~最後バチバチやってた乙骨と常闇じゃないンすか?」
「二人とも全力で正しく男‼ って感じだったよな! なんで二人じゃないんだろ」
「何故だろうな~? わかる人⁉」
「はい、オールマイト先生」
オールマイトの問いに一人堂々と手を挙げる。手を挙げたのは長髪を後ろで束ね、動きやすさを重視したコスチュームを身に纏う八百万だった。
「それは禪院……真希さんが一番状況設定に順応していたからです」
勿論その点については蛙吹さんもですが と付け加えて八百万は話を続ける。
「乙骨さんは最終的にヴィランチームを二人打倒しています。が、最初に会敵した際には戦闘放棄さえしていませんが何もしていません。相手を前に逃げも戦いもしないのは愚の骨頂かと」
「すみません……」
「常闇さんも念には念を入れた行動や序盤の冷静さは良かったと思いますが乙骨さん共々攻撃が乱暴過ぎます。建物内にあるハリボテ核が本物だったら……危険すぎますわ」
「むぅ……」
「蛙吹さんは行動に問題点はありませんでした。真希さん同様設定に準じた行動を取っていてワンダウン取っています。他のメンバーよりも活躍の場が少なかったことがMVPでない要因だと思われます」
「ケロ、嬉しいけど悔しいわ」
「そして真希さんですが冷静な行動で敵の待ち伏せを看破、敵側に有利な状況で互角に渡り合いつつ最終局面では蛙吹さんを拘束した上強引ではありましたが部屋の中に光を差し込ませた。状況に応じ適した行動を取っていたと思います」
試験の見解を淡々と述べていく八百万。己の見解を述べられた者らは各々反応を示すがMVPとして挙げられた真希は今保健室にいるため反応を示すようなことは当然なく、代わりに『しーん』とした空気が流れた。
「ま、まぁ禪院少女の行動には粗さもあったわけだが……正解だよ。くぅ……全部言われちゃったな‼」
「常に下学上達! 一意専心に取り組まねばトップヒーローになどなれませんので!」
「その意気だ八百万少女! さぁ次の組み合わせに行こうか! 次は……」
そうして訓練は次々と行われていく。
轟のワンサイドゲーム
緑谷と爆豪の死闘とも言える衝突
それら個性のぶつかり合いをA組一同は目にし講評する。幾つもの組み合わせで戦闘が行われる中パンダと狗巻、二人のヒーロー科における初陣も行われようとしていた。
「これが最後の組み合わせだな。ヒーローチーム『狗巻・パンダコンビ』VS ヴィランチーム『上鳴・耳郎コンビ』‼」
「どんな戦いになるんだろ? パンダたちの個性私たち知らないしー」
「さぁな。仲の良い乙骨なら知っているかもしれんが」
「確かにな。どうなんだよ乙骨……乙骨?」
「……え、あ……ごめん、聞いてなかったや」
閉じかけていた瞼を何とか開けて乙骨は聞き返す。里香の力の行使の影響か乙骨の身体も精神も既に疲れ切っていて立っているのが限界だった。
「パンダと狗巻ってどんな個性なのかなって聞こうと思ったんだが……大丈夫か?」
「初戦闘だ、疲れ切ってしまうのも無理はない。キツかったら休んでもいいぞ乙骨少年」
「大丈夫です……僕も皆の戦いを見てたいんだ。パンダ君の個性も、狗巻君の個性も知らないし」
「お前も知らないんだな。ま、見てればわかるか」
「相手の動きや見た目から個性を推測することもヒーローとして重要なスキルだからね。それ含めて見ていこう」
そう言ってオールマイトがモニターの方へと視線を移したのを見て乙骨らの視線も流れるようにモニターに集中する。モニターには既に始まった戦闘訓練の様子、建物内でヒーローらを待ち受けるヴィランである上鳴らの姿が映っていた。
「どうだ耳郎」
建物の中、上階に位置するヴィラン二人はヒーローを待ち構える。上鳴は身体に電気を迸らせつつ視界に入る周囲の警戒、その上鳴に問われた耳郎は耳から伸びるイヤホンプラグを床へと差し息を済ませていた。
「……下の階に足音。足音的に二人いると思う」
「んじゃ二人ともくっついて歩いてんだな」
「音の大きさからして一人は大柄、一人は小柄……上鳴の言う通り固まって歩いてんだと思う」
耳郎はプラグを床から抜き息を大きく吐く。プラグを通して下の階の音を耳郎は拾っていた。
「よーっし! なら後は上に上がってきたのをぶち倒すだけだな!」
「頼むから油断はしないでよ? パンダはともかく狗巻の個性はわからないんだから……」
「わかってるよ! 大丈夫大丈夫!」
「ホントかなぁ……」
下の階の様子を把握した上鳴らは待ち伏せするべく階層を渡る唯一の手段である階段の方へと向かう。建物内にはエレベーターはなく、あるのは二つの階段のみ。二人は下階での音の向かう方向からヒーローらが通るであろう階段はわかっていた。
その階段へと向かい、相手を待ち伏せする。階段の少し手前で腰を下ろそうとしたその時だった。
「ッ⁉」
突然数歩先の床が打ち砕かれ瓦礫となる。その異変にいち早く気づいた耳郎は上鳴を引きずりながらも飛ぶようにその場から後退した。
「一体何が……」
そう上鳴が言い切るよりも先に床の抜けた穴から答えが飛び出す。静かだった建物内で突然床をぶち抜いた犯人、その正体は犯人というよりも犯『パンダ』だった。
「あれ、外したか」
穴から現れたパンダは手に着いた瓦礫や砂を掃いながらつぶやく。それはまるで狙っていたかのような口ぶりだった。
「ッ……なんでウチらの場所が⁉」
「うーん何となく? 野生の勘ってやつかもな」
「勘であそこまで当ててくるのかよ……!」
上鳴と耳郎は驚きつつも冷静にパンダから距離を取る。この訓練では核が見つからない限り時間切れが勝利条件の一つであるヴィランが有利だ。故に無理して戦闘する必要はない。そうでなくとも目の前で想像以上の超パワーを見せられた以上正面から戦うのは分が悪い、そう判断しての行動だった。
「行くゾォ!!」
だがその後退を許さないかのようにパンダは二人目掛け突進する。床を振動させるような獰猛な走りにパンダと二人の間にあった距離は一瞬で縮まった。
「マジかよッ⁉」
「まずは一人、もらったァ!」
パンダの拳が上鳴の横腹を打ち取る。上鳴はその動きに何もアクションを起こすことが出来ない。パンダの拳は宙に浮いた上鳴の身体を壁へと叩き付けた。
「上鳴‼」
「よし……んじゃ後はお前だけだな」
砂塵が舞う中上鳴の声は無い。数的有利を失ったヴィランチームは完全に劣勢になる。そんな中で耳郎に取れる選択は一つしかなかった。
「クソッ、ごめん上鳴!」
取れる選択は一つ、その場から脱出。ヒーローチームが合流するよりも先にその場から脱し核の防衛に徹するのが優良の選択。
ただそれはパンダが見逃してくれればという条件付きの選択だった。
「逃げか。ま、妥当だが……見逃すほど俺は甘くないぞ!」
「ッ……だろうね!」
パンダと耳郎の間にはわずかな距離しかなく、パンダの脚力をもってすれば間を詰めるのは他愛もない。パンダが上鳴を壁へと押し付けていた拳を引き駆け出そうとする。けれどその脚は思うようには動かなかった。
まるで人一人分の重しが片足に引っ付いているかのように。
「……ただじゃやられねぇよ」
「あ」
「個性マックス出力ッ……‼」
上鳴の身体が一瞬発光する。次の瞬間溢れんばかりの膨大な電流がパンダと上鳴の身体をのみこんだ。距離を取っている耳郎の肌すらもジリジリとヒリつかせるその電撃をもろに食らったパンダはその身を焼かれていく。
「うおおおお⁉」
「このまま倒れろッ!」
互いに身動きが取れない状態での意地同士のぶつかり合い。時間にして数秒経った頃、叫びと共に流れていた電流は消えた。
「ッ……どうなって」
眩暈を起こす視界を何とか戻しつつ耳郎はどうなったのか通路の先を見る。
電気が消えた後には黒い煙と焼け焦げた音が通路内に流れる。その下には倒れたままの上鳴、黒ずんだパンダの姿が変わらずあった。どちらもその場から微動だにしない。
「上鳴……?」
倒れたまま動かない上鳴に耳郎はそっと近づくと声を掛ける。その声に反応して上鳴は顔だけ起こして見せた。
「ウェ、ウェ~イ……」
「ブフッ‼」
アホ面を浮かべる上鳴の顔を見て思わず耳郎は吹き出す。その顔は耳郎のドツボにハマる面白さで訓練中でありながら笑い転げそうになるも目の前の存在が動いたことでその行動は取られなかった。
パンダはぴんぴんしていた。
「あー痛かった。案外やるなお前」
焦げた肌をポリポリと搔きながら倒れ伏す上鳴を眺めてパンダはつぶやく。まるで激辛麵でも食った後かのような軽いリアクションに耳郎はすぐさま距離を取りなおし上の階へと駆け出してく。
間違いなくパンダへダメージは与えている。
けれどそれはパンダを倒すには不十分だった。
「今ので通信機器が壊れたか……棘‼」
もはや使い物にならなくなった機材をその場に捨て、相方の名をパンダは叫ぶ。
「ッ、早く上に上がらないと」
耳郎の走る先に狗巻の姿は無い。パンダが回復する前にこの場を脱することがこの状況での耳郎の判断だった。
核を防衛するため上の階の階段に足を掛けようとした、その時だった。
「――――――しゃけ」
そうはさせまいと狗巻が間に遮って飛び出す。考えるまでもなく耳郎は待ち構えられていたのだ。
「なッ⁉」
突然の狗巻の登場に耳郎は身構える。けれどその時には、狗巻が襟から口を露わにした時にはもう勝負は決まっていた。
「動くな」
震えるようではっきりと耳に届いたその声はエコーがかかったかのように何重にも頭の中で響く。その事に耳郎が気付いた時にはもう身体の自由は耳郎にはなく、ただその場に立ち尽くす他出来なかった。
「ッ……マジか」
その隙に狗巻は拘束テープを耳郎に巻き、パンダもまた倒れ伏したままの上鳴にテープを巻いた。ヴィランチーム戦闘不能、ヒーローチームの勝利である。
『訓練終了! 勝者ヒーローチーム!』
「お疲れ棘」
「高菜!」
パンダと狗巻は互いの手をパチリと叩く。その勝利のハイタッチで今年ヒーロー科における初の戦闘訓練は幕を閉じた。
日も傾いた放課後。夕焼けの空が広がる中乙骨らは廊下を歩いている。教室で今日の戦闘訓練の反省会が行われていて乙骨らもそれに参加しようと教室へ向かっているところだった。
「いや~凄かったよパンダ君も狗巻君も!」
「まぁあれくらいはな。憂太も凄かったぞ」
「しゃけしゃけ!」
「……ありがとう。でも二人の方がもっと凄かったよ! 上鳴君の電撃受けてもパンダ君平気そうだったし、狗巻君も言葉一つで拘束しちゃうんだもん! 僕なんかとてもじゃないけど二人みたいには出来ないよ……」
「俺らは経験があるからな。憂太だってもっと戦えるようになるさ」
「……」
「あれー、ひょっとして真希さん話題に上がらなくて拗ねてらっしゃる?」
「拗ねてねェよ!」
授業も全て終わり保健室で大事をとっていた真希も万全の状態まで回復、他3人もリカバリーガールの治療により同じく万全の状態。ただ乙骨だけは少し事情が違った。
「それより聞いたぞ乙骨。なんでも二限ぶっ続けで寝てたらしいじゃねェか」
「うっ……ハイ、その通りです」
苦虫を嚙み潰したような顔で乙骨は頷く。リカバリーガールの回復はあくまで身体的なもの、体力は回復しない。
里香の力を初めて行使した影響もあった乙骨は真希の言葉通り2時間連続で授業中に寝てしまったのだった。
「初回の授業もあったしな。こりゃ目つけられたかもな」
「こんぶ!」
「制服目立つは授業は爆睡かます。『異端児乙骨サマ』……ってか? 傑作だな」
「やめてよもう……」
恥ずかしさで手で顔を覆い隠す乙骨に構うものかと3人はケタケタと笑う。傍から見ればいじめに見えてもおかしくない光景ではあるが、この状況下で乙骨は恥ずかしさと同時に暖かさを感じていた。
それは彼が求めていた、人の暖かさに他ならなかった。
お気に入り数や評価が良くならない中、何とか更新する今日この頃。週一更新はもうキツイですわな
メゲナイショゲナイドラゲナイの精神で頑張るしかねぇ!
USJ編の話構成(途中まで)
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1話1エリア分(今回の形式)
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1話2エリア分(例:乙骨+緑谷パート)