波乱の委員長決め、そして雄英へのマスコミ突入から一晩明けた翌日。
乙骨ら含めた雄英高校1-A組は広大な大地、もといそれと見間違うほど広大なグラウンドをバスに乗って移動していた。
A組の面々が各々話に花を咲かせる中、乙骨は最後部一歩手前の座席で荷物の確認を行っていた。
「ハンカチやティッシュ持ってる。刀も……うん、持ってきたから大丈夫だよね……」
「バス乗ってから確認したって意味ねぇだろ。隣でせわしなくされると気分が悪ぃ」
「ごめん……真希さんは冷静だね」
「冷静でもねぇよ。ってかこれが普通だ」
乙骨の申し訳なさそうな声に隣に座る真希はそっぽを向きながら答えた。
「とは言え、今日行く場所が場所だからな。準備の確認はしておいた方が良い」
「しゃけしゃけ」
一つ後ろの座席に掛けていた狗巻とパンダが声を合わせて言う。
「なんたってこれから行くのは『USJ』だからな。U・S・J!」
パンダの言葉に狗巻は何度も首を縦に振る。
パンダの言う『USJ』。それがこのバスの行先だった。
「USJ……? もしかしてあの『USJ』⁉」
「知ってるのか憂太?」
「勿論だよ! 色々なエリアが一つの敷地の中にある場所でしょ?」
「そうだな。あらゆるエリアを体験できる場だ」
「季節関係無く訪れることが出来て、可愛いキャラクターもいる!」
「そう! それこそ!!」
「ユニバーサル「嘘と災害と事故ルーム!!」」
パンダの口から発せられたのはとても『USJ』と認識したくないワード。
期待していた言葉とは全く違う言葉を拾い、乙骨の口角は下がり表情は漂白した。
「……え?」
「『嘘と災害と事故ルーム』だ。ユニバじゃないぞ。ユニバは大阪、ここ東京」
「授業でなんでユニバに行くと思ってんだよ」
「だって『USJ』って聞いたらそれしか出てこないよ……」
「まぁ気持ちはわかるケドな、色々とそれはナイだろ」
パンダの言葉に真希と狗巻もうんうんと頷く。
「でもそしたら色々なエリアがあるっていうのは……」
「それは本当だ。前悟に連れてこられたとき、色んなゾーンがあったからな。屋内だから季節問わず」
「じゃあ可愛いキャラクターっていうのは……」
「それは俺と13号デース。13号は常にいるかわからんケド……可愛いじゃん?」
「……ソウダネ」
「USJってそもそも大阪だろ? 雄英の敷地にあるわけねぇよ。……にしても雄英のバス、もう少しどうにかなんねぇのか?」
真希が頬杖を付きながらため息を吐く。
乙骨らが乗るバスは紛れもなく雄英高校専用車。けれど、その内装や外装は交通バスのそれだった。
「経費削減で使いまわしてるんじゃないかな? ここって国立の学校だし」
「試験でメッチャ金使ってる癖にケチくさ……金の使い方偏りすぎだろ。どうなってんだよ雄英の金使い」
『おい呪術科。騒ぐのは結構だが限度は守れよ』
「チッ、わかってるよ」
相澤の社内アナウンスで乙骨らの会話が途絶える。その一方で社内の前方では呪術科などいざ知らず、ヒーロー科の面々が会話に花を咲かせていた。
「私、思ったことなんでも気になったこと言っちゃうの。緑谷ちゃん」
「ハッハイ! 蛙吹さん!?」
「梅雨ちゃんと呼んで。あなたの個性……オールマイトに似てるわよね」
「えっ!? そ、そうかな!? で、でもオールマイトは僕なんか比較になんてならないし……」
「そうだぜ梅雨ちゃん! オールマイトって言ったら、こう……一撃粉砕!みたいな感じじゃねぇか?」
「確かにそうね。緑谷ちゃんのはなんというか……危なっかしいもの」
「だろ? でもインパクトある個性は良いよな。俺のはあんまパッとしなくてよ」
「そんなことないよ切島君! 切島君の個性も……」
「どいつもこいつも個性の話なんかで盛り上がるって……ガキかよ」
「おかか!」
「俺らだって十分ガキだぞ真希さんや」
「外見の話してんじゃねぇんだよ。精神だ、精神」
「精神ねぇ……あれが年相応だろうに。憂太だってああいう青春っぽいの好きだよな?」
「すじこ?」
「青春かどうかはわからないけど……これまで友達いなかったからああいうの羨ましいよ。良かったら真希さんも……」
「フリだとしても私はやらねぇからな」
乙骨がチラリと横を見るも真希の視線は窓の外。そっぽを向いた真希に乙骨の期待の眼差しは届くことはなく、そこそこのショックを受ける乙骨だった。
それから早数分、バスは停止する。
下車した乙骨らの前には野球ドームのような巨大な建造物があった。
「この中が訓練場だ。入ってすぐのところで説明があるから話が聞こえる位置にいるように」
相澤の指示に頷くと、薄暗い入場ゲートをくぐり扉の向こうへと足を踏み入れる。
次の瞬間目に入ったのは倒壊したビル群に燃え盛る街、湖にポツンと浮かぶ船に土砂崩れを起こす山などが災害のオンパレードがお菓子の詰め合わせのように一面に収まっている光景。
そしてそれを背にして立つ小柄な宇宙飛行士の姿だった。
「皆さん、待ってましたよ!」
「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」
「スペースヒーロー13号! 災害救助を主に行っている紳士的なヒーローと会えるなんて…」
「私好きなの13号!!」
「あの人が13号なんだ」
「マスコットっぽいだろ? 俺みたいで」
「お前の100倍はマスコットしてるよ」
「しゃけ」
「あはは……」
容赦ない2人の様子に乙骨は苦笑いする。
未だ狗巻の言葉の意図は読み取れない乙骨だったが、今回ばかりは感じ取れたような気がしていた。
「見ろよあの湖! でっけーウォータースライダーあるぜ!」
「ドームの中にドームがあるのか。マトリョーシカみてぇだ」
「ゴホン……説明大丈夫かな?」
13号の一言で生徒らは一斉に口を閉じる。
13号は皆気を引き締めたことを確認すると話を始めた。
「ここには見ての通り様々な災害を想定した状況を意図的に作りだしている演習場です。嘘の災害や事故ルーム―――略してUSJ!」
(本当にUSJなんだ……怒られたりしないのかな)
(俺らがアトラクションになってるし大丈夫だろ)
(え、そうなの? 僕呼ばれてないけど……)
(そりゃお前出番ないからな)
(そんなぁ……)
(めんたいこ……)
既にUSJのくだりを知る呪術科組は気を緩ませる。勿論、周りの迷惑にならないようにだが。
一方相澤は13号に居る筈の存在について尋ねていた。
「13号、オールマイトは? もう着いてる時間の筈だが」
「先輩……それが制限ギリギリまで活動してしまったみたいで」
13号は指を3つ上げながらそう伝える。それはオールマイトが本当に限界まで活動してしまったことを示していた。
「仮眠室で休んだ後、授業の終わりごろには顔を出すそうです」
「不合理の極みだなオイ……仕方ない。13号、始めよう」
平和の象徴の献身加減に相澤は思わずため息を零しつつも、授業を開始するよう促す。
あくまでオールマイトを授業に組み込んでいたのは念の為の警戒態勢だからだ。
一学校の授業にプロヒーローが3人付くことですら過剰であり、そこにオールマイトが組み込まれるようなことは過剰でない筈が無い。2人でも十分。そう相澤は判断した。
「ゴホン! はい、では始める前にお小言を1つ、2つ……いや3つ、4つ……」
((((どんどん増えてくな……)))
生徒の皆がそう考えていた、その時だった。
ほんの一瞬、ラジオの波長を合わせる時のようなノイズが空気中に走った。
「‼」
「しゃけ!」
「敵か⁉」
いち早く気づいた狗巻、真希、パンダが臨戦態勢を取る。そしてそのコンマ数秒後に相澤もまた事態を察知した。
噴水広場に表れた謎の黒渦、そこから這い出ようとする存在に。
「一塊になって動くな!」
「え?」
「13号! 生徒を守れ!」
「ちょ、真希さん、パンダ君、狗巻君も! 急にどうしたの⁉」
「里香とパス通じてんだからお前でも何となくわかるだろ」
「あっちの方から嫌な感じは確かにするけど……」
「嫌な感じがする奴は大抵2種類にわけられる。1つはクソったれたジジババ共。もう一つが……」
「「敵だ!!」」
相澤と真希、二人の言葉がその場にいる者たちに現状を理解させる。
先ほどまで伽藍としていた噴水広場には渦の中から現れた者たちで埋められて行っていた。
「ヴィ、敵⁉ どうしてこんなところに来るんだよォ⁉」
「喚くなブドウ野郎、殆どが雑兵だ。ただ……」
「モヤみたいな奴と手一杯の小僧、ありゃちょいと面倒かもな」
「13号に……イレイザーヘッドですか。先日頂いたカリキュラムではオールマイトが居る筈なのですが……」
「やはり先日のはクソ野郎どもの仕業か」
「どこだよ平和の象徴は……折角こんな大軍連れてきたって言うのに……」
「子どもを殺せば来るのかな?」
その日、乙骨たちは初めてソレに直面した。
プロが自己の為、人の為向き合っているモノ
プロが自己の為、人の為戦っているモノ。
その途方もない悪意に。
永らくお待たせしました。合間合間を縫って少しづつ書いてはいますがモチベとmustなことに挟まれて中々筆が進まない次第です。もしまだ読んでいただける方がいれば感想でも、評価でも何かしらで反応していただけたら幸いです。
USJ編の話構成(途中まで)
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1話1エリア分(今回の形式)
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1話2エリア分(例:乙骨+緑谷パート)