呪い、呪われ   作:ベリアロク

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第18話 劣勢と光

 

乙骨らが移動せんとしていたその頃、荒野エリアで待ち構えていた敵らは目の前の光景に啞然としていた。

 

 

「何が……何が起きてんだよ⁉」

 

 

相手にするは4人、それも学生だ。事前に伝えられていた情報・段取りと相違なく、『子どもをいたぶるだけの簡単な仕事である』と皆がそう認識していた。

 

天下の雄英高校に攻め入ることも知っていた。倍率何百倍をも突破した金の卵たちが標的であることも十分理解していた。それでも戦いは数であり、子どもが相手である以上不測の事態など起きうる筈もないと確信を持っていた。

 

 

目の前の光景を見るその時までは。

 

 

「なんだよコイツ⁉」

 

「弾丸切るなんてありえねぇだろがよぉ!」

 

「ふんっ!」

 

 

真希の持つ薙刀が敵を一人、また一人と地へ叩きつけ空へと放り飛ばしていく。

抵抗する敵が放つ弾丸や剣戟も真希の前で火花を散らすのみで、傷一つも与えられない。

簡単な仕事であるという認識は一人の少女によって打ち砕かれた。

 

 

「聞いてねぇぞこんな奴がいるなんて! 簡単な仕事って聞いたから来たんだけど!」

 

「私もよ! 子どもいたぶって気持ちよく帰るつもりだったってのに!」

 

「囲んでやっちまえばガキ一人くらい────」

 

 

「お喋りはもう良いだろ。ガキ相手に黙って倒されとけ」

 

 

敵たちが足並みを揃え攻撃しようとするも、真希にとっては所詮烏合の衆。焦りの一つもない。

弧を描くように払われた薙刀の一閃は敵を一掃した。

 

 

「コエ~! ちょっと真希サン、一瞬三途の川が見えたンだけどォ⁉」

 

「間合いに入る方が悪い! 電気とか飛ばせんだろ、遠くから援護でもしとけ!」

 

「俺は電気を纏うだけなの! 放電も出来るけど、したら皆巻き込んじまう!」

 

「じゃあ今はただの足手まといじゃねぇか!」

 

「そうだよ! 今俺は頼りにならないから、頼りにしてるぜ!」

 

「調子良いヤツだなオイ!」

 

 

薄ら笑いを浮かべつつ敵を薙刀で払い、脳天直撃の一撃を与え意識を刈り取っていく。

負けじと上鳴も人間スタンガンが如く、電気を纏い突進し敵の数を減らしていく。

 

その光景を一歩引いたところで耳郎と八百万は見ていた。

 

 

「最初はこの数相手にどうしようかと思いましたが……流石は真希さんですわ」

 

「正に一騎当千って感じ。下手に手を出したら上鳴よろしく真希の邪魔になっちゃいそう」

 

「とは言えこのままじゃキリがありませんわ。ヒーローの卵としても、真希さん一人に任すわけにはいきません!」

 

「そうだね……上鳴‼」

 

「何だよ耳郎!」

 

「八百万がぶあっつい絶縁体のシート作ってくれた!」

 

「────なるほどね!」

 

「時間は大分かかってしまいましたが……真希さんは早くこちらに!」

 

 

八百万の言葉に真希は敵に向けていた薙刀を地に置き、棒高跳びの跳躍のようにしなやかにその場を脱する。

脱する時には既に先ほどまでのものとは比べ物にならないほどの電気を上鳴はその身に纏っていた。

 

 

強力ではあるものの、味方を巻き込んでしまう彼の個性。

制約とも言えた味方は今絶縁体で身体を覆った。巻き込んでしまう味方はいない。もう彼が気にするものは何もなかった。

 

 

「助かるぜヤオモモ、耳郎。これなら俺は────クソ強え‼」

 

 

限界に達した風船が割れるが如く、上鳴はギチギチまで貯め込んだ電気を爆発させる。

放出した電気は地を走り、空を伝い360度彼らを囲んでいた敵たちを襲っていく。

一瞬とも、数分とも感じられた電光と電撃は無防備に立ち尽くしていた敵たちを一人残らず黒焦げに、地に伏せさせた。

 

八百万らは身を守ってくれた絶縁体シートから抜け出すと、その光景・そしてその光景の代償とも言える上鳴のアホ面を目の当たりにした。

 

 

「ウェ、ウェ~イ……」

 

「放電するとあんな風になるんだ……ブフッ、顔ヤバすぎる」

 

「案外やるじゃねぇか上鳴。サシならいい勝負になるかもな」

 

「お二人とも真面目になさってください……他の方々が心配ですし、合流を急ぎましょう」

 

「……そうだな。バカになった上鳴連れて先行ってくれ」

 

「真希はどうするの?」

 

「一人は危険ですわ! 敵がどこに、どれだけいるか分からない以上固まって動いた方が……」

 

「武器拾ってくるだけだから問題ねぇよ。そこら辺に落ちてるやつ見つけたらすぐ合流すっからさ」

 

「外の救援を呼ぶためにも今は合流最優先! 真希なら大丈夫だって!」

 

「……わかりました。すぐに来てくださいね!」

 

「おう、わかってらぁ」

 

 

気の抜けた返事を返し、真希は八百万らと別れ敵が倒れる中を歩いていく。

一人になり、無防備な背中を見せる真希。そんな彼女を見る者が地中から静かに姿を見せようとしていた。

 

 

(素晴らしい信頼ってヤツだなぁ……その信頼が仇になるんだがなぁ!)

 

 

息をひそめ、音を立てないよう敵は少しずつ身体を地表へと出していく。地面が隆起する音も石ころが転がるような音すら立つことなく、そのまま敵の凶手が真希へ向かわんとする。その矢先、真希は振り返ることなく大きく跳躍した。

 

 

(なッ……アイツどこ行きやがった)

 

「ここだバーカ。どうせ隠れてるヤツがいると思ったわ」

 

 

音を立てないよう最小限の動きで探そうとする敵を嘲笑うかのように真希が告げる。

音一つ立てずにいた敵の動きを察知した真希は地中に身体を残す敵の背後を取っていた。

 

 

「実質戦闘不能の上鳴、次点で一人になった奴を人質にでもしようと考えてたんだろうが、残念だったな」

 

「なんで気づいた……音一つだって立ててなかったんだぞ! まさかそういう個性持ちか?」

 

「そんな個性持ってねぇよ。ただ色々と感が良いだけだ、人一倍な」

 

「クソッ……ガキが‼」

 

「ガキだからって甘く見るからこうなんだよ。そこでのびとけ」

 

 

地中に身体半分を埋める敵の頭に真希は薙刀の柄で ゴン と一撃を加える

鈍い音とともに、敵はその場に首を垂れた。

 

 

「さーて、野暮用終わったし合流するか。あの脳無(デカブツ)どうにかしねぇと」

 

 

あの敵だけは格が違う。そのことをわずかな接敵の間の衝撃と真希の本能が告げている。

八百万らに追いつくため、ワープ前の高台に急ぐ為真希は駆けだした。

 

 

 

 

 

一方その頃、噴水広場前。

先陣を切っていた相澤/イレイザーヘッドは死柄木をはじめた敵たちと交戦を続けていた。

 

 

「クソヒーローが!」

 

「死ねェイレイザー!」

 

 

罵詈雑言を吐きながら攻撃をしかけてくる敵。

イレイザーは体術を駆使し、襲い来る敵を1人づつ着実に倒していく。

 

その光景を死柄木は首を掻きながら眺めていた。

 

 

「流石だなぁイレイザーヘッド。やっぱり有象無象じゃ相手にならないか」

 

「だったら大人しく捕まって欲しいもんだがな。合理的じゃない」

 

「そんなつまらないことするわけないだろイレイザー。それに相手にならなくても、()()()()()

 

「‼」

 

 

静観を決めていた死柄木が突如距離を詰め、相澤へと手を伸ばす。

攻撃に転じたのを察知した相澤は周囲の敵を布を回し振り払い、向かってくる死柄木にエルボーを繰り出した。

 

 

「ッ⁉」

 

 

直線的に向かってくる死柄木の身体をイレイザーの攻撃は容易に捉える。

けれど苦痛の表情を浮かべたのは死柄木ではなく、イレイザーの方だった。

 

 

「1アクションごとに髪が下がる瞬間がある。その間隔はどんどん短くなっていってる」

 

「……」

 

「個性だって万能じゃない。無理をするなよイレイザーヘッド……」

 

「────ッ」

 

 

死柄木の五指に囚われたイレイザーの肘がボロボロと音を立てて崩れ、落ちていく。

イレイザーは苦痛に耐えつつ個性を再度発動させると、死柄木の拳を振り払い距離を取った。

 

 

「……やってくれたな」

 

 

距離を取ったイレイザーは苦痛をこらえつつ息を整え、再び戦う構えを取る。

体力を消耗し、肘は砕かれ、個性のインターバルを見抜かれた。

劣勢であるのは誰の目にも明らかであり、雑兵と称された敵らも勢いづいていた。

 

 

「良い表情だなヒーロー。気に病むことはないさ、普段の仕事と勝手が違うんだろう? 生徒に安心を与えるために真正面から飛び込んでくるなんて……」

 

「どんな状況に対応してこそヒーローなんでね……」

 

「へぇ……かっこいい、かっこいいなぁイレイザー」

 

 

肘が砕かれ右腕をだらんと下げるイレイザーを見て死柄木は不気味な笑みを浮かべつつ、追い打ちのように言葉をかける。

 

 

「そんなかっこいいお前に良いことを教えてやるよ、イレイザーヘッド。本命は俺じゃない

 

 

長身なイレイザーをも丸々覆ってしまうような影がぬらりと現れる。

剥き出しの脳、まばたきすることない眼球、残虐性を示すかのような歯と筋肉を持つ存在────脳無がイレイザーの背後にはいた。

 

 

「クソっ、いつの前に」

 

「やれ、脳無」

 

 

咄嗟に距離を取ろうとするイレイザーの腕を無慈悲に脳無は掴む。

死柄木の一言でぶらさげるだけだったイレイザーの腕はメキメキと音を立て、小枝のように本来とは真逆の方向に湾曲した。

 

 

「ッ────ああああああああああッ‼」

 

 

イレイザーの悲痛の叫びがUSJに木霊する。

その叫びは敵の方から一足早く脱し、付近まで近づいていた緑谷らの表情を絶望の色に染めただけでなく、

高台にいる者たちにまでその絶望の片鱗を味合わせるものだった。

 

 

 

「脳無がイレイザーヘッドを倒しましたか。これは僥倖ですね」

 

「相澤先生……ッ」

 

「下手な動きは取らないほうが身のためですよ。そこに転がる13号のようになりたくなければ、ね」

 

 

黒霧の言葉、そしてすぐ傍に倒れる13号の姿を見て麗日たちは足を震わせる。

 

当初は飯田一人を脱出させ応援を呼ぶ算段だった。しかし13号は黒霧との交戦により、自身の個性を利用され背中に大きな損傷を与えられ戦闘不能。

相澤の助けも期待できなくなった今、麗日たちに黒霧を突破しUSJを脱出できる余地はなかった。

 

 

「どうすればいいんだよ……」

 

「大人しい子は嫌いじゃないですよ。大人しく待っていたとしても死ぬことに変わりありませんが」

 

 

黒霧は靄を麗日らへと伸ばす。ワープしそこねた生徒らを確実に殺すために。

しかしその靄は障子が伸ばした触腕によって払われた。

 

 

「飯田、走れ!!」

 

「ッ……ああ!!」

 

 

最後のチャンスであると判断した障子の叫びに飯田は全速力で走り出す。

個性『エンジン』のスピードに黒霧の靄は一度振り払われるも、黒霧自身が飯田と扉の間に立ちふさがった。

 

 

「ちょこざいな……外には出させませんよ!」

 

「くそう!!」

 

 

全速力の飯田を受け止めるように黒霧がゲートを開く。飛び込む先はUSJのどこかか、高所か、水の中か。いずれにせよ死地が先にあることは飯田は理解していた。

 

 

(それでも止まるわけにはいかない! これが皆を救える最後のチャンスなのだから!!)

 

 

覚悟を決めた飯田はギアを上げる。どのような場に出ようと一分でも、一秒でも早く救援を呼びに行けるように。

 

 

「うおおおおおおおッ!」

 

「なまいきだぞメガネ……消えろッ!!」

 

 

黒霧はゲートをより広く展開し、扉全体を覆う。もはやゲートに触れずして外へと続く扉に触れることは叶わない。

全速力で駆ける飯田の足が黒霧の靄に触れんとした、その時

 

 

 

「潰れろ!!」

 

 

どこからともなく聞こえた叫び。それは言霊の如く黒霧の身体から発する靄ごと叩き潰した。

 

 

「何をッ……⁉」

 

「めんたいこ!!」

 

「狗巻君! すまない!」

 

 

安否不明だった狗巻の姿に飯田は一瞬笑顔を見せ、扉を蹴り破りUSJの外に脱する。

飯田の姿はみるみる小さくなっていく。その姿を見て、黒霧はふらつきながらも立ちあがった。

 

 

「逃がすわけには……ッ」

 

「うおおおおおおッ!!」

 

 

飯田を追いかけようと外へ出んとする黒霧。プレートとして浮かぶ()()()()を白き剛腕が撃ち砕く。

メキメキと音を立てたその衝撃は黒霧をUSJの中へと引き戻し、壁に突き飛ばした。

 

 

「お返しだ、靄野郎。殴ってきたのあのゴリラみたいな奴だけど」

 

「しゃけ」

 

 

相澤と13号がダウン。プロヒーローがいないこの状況は極めて劣勢と言えるだろう。

けれど、飯田が救援に向かいパンダと狗巻が復帰したことで一筋の光が見えたのだった。

USJ編の話構成(途中まで)

  • 1話1エリア分(今回の形式)
  • 1話2エリア分(例:乙骨+緑谷パート)
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