呪い、呪われ   作:ベリアロク

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第20話 玉折

 

 

「夏油傑⁉ 僻地にある集落、そこに住む112人を皆殺しにした……夏油傑か!」

 

「そうですとも。当時あなたはアメリカに応援に参じていた。それがどういった了見のモノだったのかは存じ上げないが、私にとっては幸運でしたよ」

 

 

木陰から現れた夏油はオールマイトとUSJとの道を塞ぐように、間に立つ。

 

 

「日本から一時的にいなくなったとしても、エンデヴァーという自身に次ぐ実力者もポストオールマイトと名高い五条悟もいる。そう考えて出たのでしょう。けれど失敗だった。エンデヴァーは自らの執念に時を費やし、頼みの五条悟も私を殺すには至らなかった」

 

「……それは五条君が君に情を持っていたからではないかな?」

 

「ハッ、あいつがそんなもの持ってるとは思えないですけどね」

 

「そうかい。平和の象徴として、ヒーローとして言いたいことはたくさんあるが……悪いが先を急いでいるんだ。お喋りはこれくらいにしよう」

 

「それは残念。かの平和の象徴とはじっくりとお話したかったのですがね。例えば……あるべき世界の形とか、ね」

 

「enough!」

 

 

オールマイトはもう十分だと夏油に拳を振るう。

目の前の存在は先ほどと違い、明確な敵。即ち手加減の必要もない。

100%の力を込めた拳を夏油の腹部に叩き込む。

 

けれど細身の夏油など一撃で屠れるだけの威力があった拳はぐにゃりとした異様な感触とともに打ち返された。

 

 

「何⁉」

 

「凄まじい力……2級呪霊程度では一時の盾にしかならないか‼」

 

 

衝撃までは打ち消せなかった夏油は体勢を立て直し、掌を地に向ける。

その掌からはゆっくり広がっていく泥のように呪霊と称された化け物が5体、姿を現した。呪霊の大きさも身体的特徴も一体一体異なり、それぞれが別の存在であることをオールマイトは察していた。

 

 

「それが君の個性『呪霊操術』、その呪霊たちか。先ほどの攻撃もそれで凌いだか」

 

「ご明察。戸籍を消そうとも私の個性は把握済みか」

 

「君も雄英に一度名を連ねたんだ、連ねた以上戸籍を消そうとも雄英のデータベースには情報が残る」

 

「流石は雄英。そういうところはしっかりとしている。……しかし記録があったところでこれを防げるかな!」

 

 

夏油の指示で5体の呪霊が一斉にオールマイトに突撃する。

 

ある呪霊は恐竜の如く鋭い爪を伸ばして攻撃せんとする。

ある呪霊はその巨躯でオールマイト自体を包みこまんとする。

ある呪霊は蛙のような舌を伸ばしたかと思えば、喉奥から銃口のようなものを覗かせている。

 

正に十人十色、否十霊十色の攻撃がオールマイトを襲う。

 

 

「これはおっかないな!」

 

 

オールマイトは焦ることなく地に自身の拳を叩きつける。

地に叩きつけた拳は地を隆起させ、上昇気流を起こす。包囲攻撃を仕掛けた呪霊を突風は巻き上げ、予測していなかった状況に行動を止める呪霊をオールマイトの『SMASH』は一撃にして消し飛ばした。

 

 

「全く……容赦のない。アレらが人であれば貴方は人殺しになるのだが」

 

「騙そうとしても意味はないとも。五条君から話は聞いている。アレはヒトではない別の何かだと」

 

「騙そうなどと思ってはいませんよ。仰る通りアレらはヒトではない。ただのか弱い生命ですよ」

 

「か弱い、ね。弾丸飛ばしてくるような生き物がか弱いわけがないだろうに」

 

 

オールマイトは頬を擦り、地を拭う。

先の呪霊の一体がオールマイトに弾丸を発射、直撃ではないもののオールマイトの頬を掠め、傷を与えていたのだった。

 

 

「おや、血を出してしまいましたか。失敬、かの平和の象徴があの程度で傷を負うとは思いもよらず……」

 

「HAHAHA、私も年を取ったということかな。最近衰えを感じてしまうよ」

 

 

乾いた笑いで自虐するオールマイトは、チラリと夏油の様子を窺う。

おどけている様子を見せつつも、目の前の男に一切の隙もなかった。

 

1人殺せば犯罪者。100人殺せば英雄というのは誰の戯言だっただろうか。

目の前の存在は英雄などではない。けれど、並みの敵とは一線を画す存在であることをオールマイトは理解した。

 

 

「10年前のあの事件以来、目撃情報もなかった君がこれほどとはね……」

 

「お褒めの言葉をいただき恐縮です。どうです、この後お茶でも。東京駅の方に中々洒落た茶屋があると私の家族が……」

 

「悪いがお茶は先ほどたっぷり飲んできたのでね!」

 

 

オールマイトは拳を夏油に向け、夏油はそれを呪霊でいなす。

オールマイトは理解していた。夏油はただの時間稼ぎ、自身の足止めであると。

 

記録では彼が『1級』と呼称する呪霊が複数体存在する。五条君曰く『並みのヒーローじゃ相手にならない』とのこと。けれど彼はそれを切ってこない。何かしらの事情があるのか、切るタイミングを見計らっているのか。少なくとも本気で戦いに来ていないことは拳をぶつける中でオールマイトは確信していた。

 

呪霊も無尽蔵ではない筈。いつかは呪霊のストックも切れ、夏油を打破することが出来る。けれどその時には制限時間は0、主目的のA組救出は叶わない。

 

では夏油を放置してUSJに直行すべきか?

それもまた否だ。雄英生は校舎にも山のようにいる。それもヒーロー科のように自衛の術を持った者は少ない。教師もいるが先の『1級』のカードを夏油が隠し持っている以上、壊滅的被害が予測できる。放置するという選択肢もまた取れなかった。

 

 

「頭のキレる男だ、まったく………やり辛いな君は!」

 

「私も貴方を高く買っている。出来れば戦わず、私の同志になって欲しい」

 

「敵の同志にかい? それは出来ない……相談だな‼」

 

 

夏油との会敵から5分。オールマイトは既に夏油が『2級』と呼称する呪霊らを100体は打破している。それでも夏油の表情には焦り一つなく、無尽蔵かの如く呪霊が夏油の掌から溢れ出てくる。

 

 

「キリがないな。そんなに私とお茶したいのかい?」

 

「ええ、是非とも。ただここまで言っておいてなんですが、断っていただいても構わない」

 

「⁉」

 

 

夏油が掌を下に向けると同時に、オールマイトにプレッシャーが走る。これまでの呪霊とは別格の何かが出てくると彼の直感が述べていた。

 

その直感に応じるように掌から洪水の如くそれは出てくる。

夏油の背丈の何倍もの物体があふれ、身体を成したそれは頭上と右手に巨大な時計を持つ一つ目の化け物。どの時計の針も『4時44分』を示している。

その化け物が夏油の背後に現れた。

 

 

「貴方が死んでも私の理想の世界に大きく近づく。貴方が死んでしまうのは悲しいし、勿体ないとは思うが……どちらにせよ、私には有意義なのさ」

 

「これが『1級』という奴か。凄まじい圧………HOLY SHITだな全く!」

 

「『1級』も知っていたか。そうこれは私の切り札の一つ、『1級呪霊 逢魔ヶ時』。『1級』の位を冠してはいるが、実際のところ『特級』に1歩踏み入れているかもしれないけどね」

 

 

『逢魔ヶ時』と称された呪霊の眼光がオールマイトを捉えると、オールマイトの四方数メートルが暗闇を誘う結界で囲われる。結界の中には何もなく、ただポツンと浮かぶ時計が『4時44分』を示していた。

 

 

「何だこの檻のようなものは‼ 壊せん‼」

 

 

オールマイトは拳を結界に対しぶつける。けれどその透明な檻のような結界にはひび一つ入ることはなかった。

 

 

「4時44分────逢魔が時。妖怪だとか呪いとかが強まる時間帯、その時間が流れる結界に貴方を閉じ込めました。逢魔が時である1分の間、貴方はそこから出ることは出来ない」

 

「1分? その時間を耐えれば終わりじゃないか!」

 

 

結界内に溢れてくる呪霊を殴り、蹴飛ばしながらオールマイトは笑う。

目の前の魑魅魍魎に対する僅かな恐怖心を消すためにも、夏油の能力に屈していない姿を見せるためにも。

 

しかし夏油はその姿に笑みを返した。

 

 

「確かに1分の間では逢魔が時によって強化された呪霊が無尽蔵に湧くその空間でどうこうすることは出来ないだろう。だが、『逢魔ヶ時』が結界を生むことが出来るのは一度が限度ではない」

 

「……ッそういうことか」

 

「そう、貴方がそこから脱する度に結界に閉じ込める。勿論連発が出来るわけではないが、その隙を埋める切り札を幾つか持っているのでね」

 

 

しくじったか、オールマイトは心の中で吐露する。

これまでの判断、敵の誘いに乗らなかったことではない。相手の手の内を読み違えたことだ。文面、五条悟からの話で『呪霊操術』がどのようなものかは聞き知っていたが、ここまでとは思いもしなかった。トリッキーな個性は数あれど、ここまでのものはない。彼の個性は個性の範疇を大きく超えるものだった。

 

加えてあの夏油の余裕な表情。恐らく『逢魔ヶ時』と対等、或いはそれ以上の呪霊を手駒としていることが伺える。猶更放置すれば何が起きるかわからなくなった。

USJの敵が何体いるかはわからないが、制圧に5分かかるとして現時点の残り時間は体感15分程。数回結界に閉じ込められれば、その時点でデッドラインを迎える。

 

状況がより一層悪化したことで苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべるオールマイト。

彼に対し夏油は王手をかける。

 

 

「さぁ、オールマイト! 平和の象徴よ! 口惜しいが我が大義のための犠牲となれ‼」

 

 

『逢魔ヶ時』のインターバルを埋めるための呪霊を生み出そうと、掌に夏油は意識を集中させる。その時だった。

 

 

「────術式反転『赫』」

 

 

衝撃。

一瞬静寂が訪れたかと思えば、空間が割れんほどの衝撃が辺りに走った。

 

夏油は思わず呪霊を盾に、自らの身を守ろうとする。その判断は正しかった。

空から降り注いだ赤き光、そして衝撃は盾にした『逢魔ヶ時』を大地ごと屠り、消滅させた。

『逢魔ヶ時』の消失に合わせ、オールマイトを囲っていた結界も同時に消失する。

 

 

「1分経たずに結界が壊れた⁉ 一体何が……」

 

「『逢魔ヶ時』が一瞬で……君か、悟」

 

 

夏油が憎たらしいような、それでいて平静を装ったかのような表情を浮かべ空を見上げる。

そこには風に髪をたなびかせながら夏油を見下ろす、五条悟の姿があった。

 

 

「五条君! 来てくれたか!」

 

「こいつの相手は僕が引き受けます。オールマイトはUSJに。他ヒーローもじき向かう筈です」

 

「すまない!」

 

 

オールマイトはUSJに向け再び全速力で駆けていく。

その進みを夏油は止めはしなかった。

 

 

「さて、久しいね悟。相変わらずそんな目隠ししてるのかい?」

 

「世間話をしに来たんじゃない。帳を使わないなんて初歩的なミスもするんだな傑」

 

「そんなミスするわけないだろ。帳を下ろせば君がすっ飛んでくる、そう判断したから使わなかっただけさ」

 

 

遅かれ早かれそうなることはわかっていたけどね、と夏油は付け加える。

そんな彼の様子を五条は窺いつつも、自らの個性で無限を収束させ攻撃の準備を整える。

その様子を見て夏油は肩をすくめて笑った。

 

 

「止めとけよ。君が見たかは知らないが、さっきをここを走ってたメガネの男の子。彼に呪霊を付けておいた」

 

「……飯田君か」

 

「そうそう彼彼。『私が雄英敷地内にて五条悟に攻撃された時、爆破する』ようにしてある。逆に君が今ここで私を攻撃しなければ何も害はない。ただ……制約の分、爆破した時の飯田君と他の雄英生の命の保証はしかねるがね」

 

「……」

 

「さらばだ、悟。また近いうちに会おう」

 

 

夏油はそう言い残すと巨大な鳥のような呪霊を呼び出し、その場から脱する。

 

 

「近いうちに会おう、か」

 

 

呆気ない退却に呆れつつ、万が一に備え飯田に付けたという呪いを取り除くべく五条は雄英校舎へと戻っていく。

オールマイトがいれば問題ないだろうと考えて。

 

 

 

 

一方その頃、USJ。

『対平和の象徴 脳無』にイレイザーヘッドが交戦するも、健闘虚しく無残な姿がさらされていた。

 

腕は真逆に曲がり、何度も打ち付けられた地面には血だまりすら出来ている。そこに重石のように乗っかっていた脳無は今、パンダらと交戦している。

 

その光景を見て緑谷・蛙吹・峰田は呆然とするほかなく、骨がある存在を倒しゲームに飽きてきた死柄木は次の行動を考えあぐねていた。

 

 

「……」

 

「イレイザーヘッドはもう終わりだ。あのパンダと変な語彙のガキは脳無に相手させるとして後は……何すればいいかな。もう飽きて来たし適当に済ませて……」

 

「死柄木弔」

 

 

黒霧が靄から死柄木の背後に突然現れた。

 

 

「黒霧か。13号はやったんだろうな」

 

「行動不能には出来たものの……一名に逃げられました」

 

「……は?」

 

 

 

「はぁー--……お前がワープの個性じゃなきゃ消し炭にしてたよ」

 

「申し訳ございません」

 

「流石にプロ何人も相手にしちゃ勝ち目がない。今回はゲームオーバーだ。帰ろう」

 

 

死柄木が肩を落とし、トボトボと歩く。

その姿と話声は近くの水場に身をひそめる緑谷らにも届いていた。

 

 

「今帰るって……言ったよな? 言ったよな!」

 

「ええ。私にも聞こえたわ。けど……」

 

「これだけのことをしておいて、あっさり引き下がるなんて……」 

 

 

(ゲームオーバーって……一体何が目的なんだ、こいつらは!)

 

 

一貫性の無い、何が目的なのかもわからない目の前の恐怖に対し緑谷らは戸惑う。

そんな彼らを死柄木は視界に収めると、一瞬空を仰いだ後緑谷らのいる水場に身体を向けた。

 

 

「けどもその前に、平和の象徴としての矜持を少しでも────へし折って帰ろう」

 

 

帰路に着こうとしていた死柄木が一瞬にして距離を詰め、五指を蛙吹の顔面へと伸ばす。

相澤の肘を崩した個性、その魔の手が蛙吹の顔面に向けられている。個性を受けた肘はその機能を失い、崩れた。それが顔面だったなら死へと追いやられてしまう。

 

 

(マズイ、マズイマズイマズイマズイ‼)

 

 

その光景を間近で見る緑谷は何とか抵抗しようとする。

けれど身体は動かない。ただただ見ていることしか出来ない。身体を犠牲にした個性の発動すらも間に合わない。どうしようもない現実を前に緑谷は思わず目を閉じた。

 

 

「させ、るかぁっ‼」

 

 

どこからともなく現れた剣の一閃は死柄木の腹部を捉える。

その五指は蛙吹にたどり着く前に、遥か遠くへ吹き飛んだ。

 

剣撃による突風に緑谷は目をうっすらと開けると、そこにあったのは刀を携えた乙骨の姿だった。

 

 

「皆大丈夫⁉」

 

「乙骨君!」

 

「ごめん遅くなった! ここからは────僕が相手だ!」

 

 

 




恐らくあと数話で終わります。
出来れば年内、ないし年始には完結したいところ。

一話書くのに相当時間を要しているので、よろしければ評価や感想などいただけると幸いです。

USJ編の話構成(途中まで)

  • 1話1エリア分(今回の形式)
  • 1話2エリア分(例:乙骨+緑谷パート)
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