「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
断末魔の如き叫びと共に乙骨の身体は地へと向けて急転直下していく。先ほどまで綺麗に見えていた景色の輪郭がどんどん緩やかに、身体を過ぎ去る風の音は益々荒々しくなっていた。
「死ぬ死ぬッ! 死んじゃうってぇぇぇぇぇぇ!!」
少しでも落下の速度を抑えようと身体をじたばた動かし必死にもがく。当然空中に掴むものも触れるものなどある筈もなく手足は空を切り、速度は少しも落ちる気配は無い。
それどころか身体に叩きつける風は更に強さを増し景色の歪みも更に酷くなっていく。
風と涙で視界が奪われる。何とか目を開け下を見るとすぐそこまで地表がやってきていた。見渡す限りあるのはコンクリートで舗装された道路に建物、後は緑色の謎の機械だけでクッションが置かれているようにはとてもじゃないが見えなかった。このまま落ちれば地面とごっつんこ、待つのは死のみである。
『標的ハッケン』
『排除スル』
追い打ちと言わんばかりに地表にいた緑色の機械―――仮想敵の銃口が落下する乙骨に向けられる。身動きのとることの出来ない乙骨には最早成す術は無い。
地面にぶつかり血肉をぶちまけるのが先か、銃弾ないし攻撃を受けるのが先かの2つに1つ。乙骨は向けられた銃口とすぐそこに迫る地面を前にして死を覚悟した。
だが乙骨が目を閉じようとしたその時、雲一つない晴天の空の下で乙骨の身体は巨大な影に包まれた。
『ゆゔだををぉぉぉぉをををを……いぃじめる゙な゙ぁっ!!』
怨嗟が声となり響く。
乙骨に取り着いた強大で凶暴なる異形。2m近い巨躯に鋭い爪と無数の牙を持った白き鬼の片方の手は獰猛にも仮想敵の身体を容易く引き裂き、もう片方の手は愛する人に傷一つ付けないよう優しくその場に降ろした。
乙骨には取れなかった第三の選択肢を仮想敵が用意してくれた。正に九死に一生を得た状況だった。
数分ぶりに五体満足の状態で地に足を下ろせたことに乙骨はそっと胸をなでおろした。
「た、助かったぁ……。ありがとう里香ちゃ……」
『つぶれろ……! つぶれろ゙ぉっ!!』
「あぁ……」
安堵していた乙骨の表情がその光景を前に固まる。
白き異形―――もとい里香が暴れている周りには先ほど乙骨を狙っていた仮想敵2体の他に多くの残骸が散乱していた。内2機は上下左右に4分割され程度で辛うじて『仮想敵だった」ということがわかるものの、周囲に落ちている残骸にはその影すら見ることは出来ない。里香と乙骨の存在に気付き近づいてくる仮想敵を里香はなぎ倒していく。
その動きで地は軽く揺れ、残骸の山はまた増えていく。その量を見るに里香が壊した敵の数は両手で数えられる量を軽く超えていた。
「里香ちゃん! もうそれくらいでいいから……」
『憂太と里香の邪魔をぉぉぉぉ……する゙な゙ぁっ!!』
里香は乙骨の言葉など聞く耳を持たないかというように破壊の限りを尽くす。
いやこれは聞く耳を持たないというより、完全に『聞こえていない』。そう表現するのが正しいかもしれない。
周辺に散らばっていた仮想敵の残骸は更に刻まれ、果敢にも乙骨らに向かってきていた仮想敵の影は視界の内に無い。遠くの方で機械音は聞こえるがスクラップが山のように詰まれるこの通りに立つのは乙骨一人になっていた。
「五条さんは『緑色の機械を倒せばいい』って言ってたけど……これでいいのかな」
暴れまわる里香を何とかなだめつつ、乙骨は足元に散らばる鉄くずを拾い上げる。
落下する際の歪む視界の中には緑色の機械の他に学生と思わしき人たちが何人も仮想敵と戦闘を行っていた。
ここが雄英高校で間違いないのなら今この時点で行われているのは超高倍率と名高い雄英入学試験、そこに乙骨は文字通り飛び入り参加をしたのだ。
問題はその試験がどういった形式で行われているかだ。今行われている試験がどのような形態で、何科のものなのかすら乙骨は知らなかった。
「少しでも説明してくれてたらなぁ……」
少なくともそれくらいの時間はあったよな……なんて乙骨は自身をこの場に放り投げた張本人を思い浮かべながらうなだれる。
仮にも試験なら説明くらいするのが道理だろうが……あの性格からしてそんなことを期待するのは無駄なのかもしれない。
フッと乙骨は自然と笑みをこぼす。気づけな里香の姿は消えていて通りには静けさが戻っていた。
そんな通りの中金属片の山が崩れるその音の方に乙骨が目を向ける。如何にも学校指定というようなジャージを着た少年少女2人が通りに差し掛かり、辺りに散らばった金属片を眺めていた。
「こっち側の敵は……って何だこりゃあ……」
「これって敵の残骸……よね。それも道一杯にあるし、ここはもう品切れかしら」
「他の受験生……だよね。試験中にあれだけどルールくらいは聞いとかないと……」
何しろ制限時間なども知らないのだ。いくら何でも時間が無制限だということはないだろう。
この後の動きを考えるためにも乙骨は話し合う二人の下へ駆けていく。すると乙骨が声を掛けるよりも先に話していたうちの一人、少女の方が乙骨の存在に気付き声を掛けてきた。
「ねぇ貴方、ここで何かあったか知ってる?」
「え? ここで何がって……」
『――――――誰?』
突然乙骨の背後に里香が現れる。白いその手には先ほどまで無かった破片とオイルのようなものが付いていて更に敵を倒してきたことを示している。そのせいなのか里香の姿は普段よりも更に負のオーラを感じさせた。
白き里香の身体には目は現れていない。けれど乙骨には里香が目の前の少女をひどく睨みつけているように見えた。
『お前も邪魔するなら……』
「ごめんなさぁぁぁぁい!!」
――――――まずい。そう直感した乙骨は少年らから逃げるように全速力で走る。
里香がこちらへと近づいてきた者たちを辺りに散乱するものと同様にスクラップにする光景が想像できたからだ。
里香の身体は乙骨の身体に引っ張られ少年らを串刺しにせんとする爪は身体にすれすれのところの空を切り、そのまま路地裏へと逃げる乙骨の身体に引きずられるように少年らの前から姿を消すのだった。
「はぁ……はぁ……」
電気もつかない薄暗い廃屋の中、乙骨は小さく息を切らし座り込む。窓から入ってくる日の光が心地よいその建物は若干埃っぽいものの仮想敵が入れるほどの高さは無く、当然他の受験生が入ってくることも無い。ひんやりとした壁と床が火照った乙骨の身体をじんわりと冷やしていく。
「はぁ……危なかったぁ……」
あと少しで彼らもあの機械みたいに……
先ほどの光景を思い出しそっと胸をなでおろす。里香は乙骨の意思に関わらず乙骨の周囲に顕現し、乙骨に危害を当たえんとするモノに牙を向いたり向かなかったり。乙骨に出来るのは自らがその場から脱することで乙骨の傍に現れる里香を対象から引き離すことだけだった。そんなじゃじゃ馬な乙女も今は姿を消していて一層の静けさが乙骨の周りを包み込んでいた。
「たまたま落ちた場所に他の受験生がいなくて良かったけど……もしあそこに最初から人がいたら……」
そんなもしもを考え乙骨は身体を震わせる。もしあの場に人がいたならば地面に散らばるのは金属片とオイル、そして人の血肉だったのかもしれない。そんな光景を思わず想像してしまい顔を青くさせると同時に乙骨は五条のある一言をふと思い出した。
『――――――あー大丈夫大丈夫、ちゃんと狙って投げるから』
「狙って……ってまさかそういうことだったのかな……」
「うふ、ふ…ふふふふ……」
「里香ちゃん? 何笑って……ひぃっ⁉」
気味の悪い笑い声の方を見た乙骨は驚きのあまり飛び上がる。
そこにいたのは頭から血を流しその血で顔を赤く染めた小柄な何か。人のようにも豚のようにも見えるそれはただ静かに不気味な笑いをこちらに向けていた。
「ふふふふふふふ……」
「き、君は一体……」
へっぴり腰で笑い続けるそれと距離を取っている乙骨を突然の轟音が襲う。
静寂を破るような爆発音が鳴り響き、その爆発とほぼ同時に建物にわずかな光を与えていた窓は一斉に割れていく。窓から見えていた綺麗な都市の風景は一瞬にして土砂で埋め尽くされた。
「一体何が――――――」
これまでの敵とは比べ物にならないほど大きな駆動音が通りに響き、並び立つ建物よりも大きな影が日光を閉ざす。先ほどまで横にいた存在と入れ替わるかのように建物の外、乙骨と建物何件かを隔てたその場所に巨大な何かが現れた。
砂ぼこりでぼやかしているその姿は巨大な仮想敵そのもの。武装から何まで先ほど遭遇したそれと同じ。けれどどこか異様さ、違和感のようなものを感じさせていた。
呪術0の小説買ったんですけど……良いですねこれ。
小説自体買うのが久しぶりだったんですけど地の文たっぷり、小説の表現も自分じゃ思いつかないようなものばかりで小説書くようになる前と比べて小説を読む楽しみが倍増したように感じます。
というわけでそのうち1、2話くらいはテコ入れするかもしれません。
皆も呪術0の小説……買おう!
USJ編の話構成(途中まで)
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1話1エリア分(今回の形式)
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1話2エリア分(例:乙骨+緑谷パート)