入学式……であったはずの初日から一夜過ぎ翌日。
晴れ渡った空の下、雄英高校の校舎にあるヒーロー科1年A組に話は移る。
「おはよう飯田君。それに麗日さんも」
「おはようデク君」
「おはよう緑谷君! 二人とも余裕を持っての登校とはいい心がけだな!」
「心がけだなんて……たまたま朝早く起きちゃっただけだよ」
「私も! 昨日あんなことがあったばかりだからね……」
「ム、確かに。僕も初日からあれほどプレッシャーを感じたのは初めてだったよ。流石は雄英だ」
飯田の言葉に緑谷と麗日も頷く。
呪術科が仲良く話している間にヒーロー科、それもA組限定で行われていた『個性把握テスト』。各自現状の能力を把握することを目的としたものだったが生徒らの反応から一変、最下位除籍をとするテストと化したのだ。結果としては除籍は合理的虚偽で皆在籍しているわけだが、やっとの想いで入学した当事者である彼らにとっては生きた心地がしないものだった。
「何はともあれみんな除籍されることなく今日を迎えることが出来てよかったよ」
「うん! 18人しかいないクラスメイトだもんね!」
「そうだな! ……18人か」
「どしたの飯田君?」
「いや18人というのが気になってな……」
そう言って飯田が一枚の紙を緑谷らの前に出して見せる。
その紙はいわば学級通信のようなもの、1年ヒーロー科一同の名称が記されたものだった。
「これは……『雄英通信』?」
「先ほど廊下で拾ったんだ。恐らく今日配布されるものか、廊下に掲示されていたものなんだろう。先生が来たら渡そうと思っていたんだが……二人ともここを見て欲しい」
「A組とB組の人の名前が書かれてるけど……これがどうかしたの?」
「ちゃんと全員分書かれてるよね?」
「ちゃんと全員分書かれてるさ。ただ気になるのは人数なんだ」
「「人数?」」
緑谷と麗日の発言に飯田は頷く。
「A組の欄に書かれているのは18。B組の欄に書かれているのは……22人なんだ」
「4人の差かぁ……4人も差があるってことあるのかな?」
「一人二人程度の差なら十分あり得る。が、4人差は見たことが無い。ただ単に分ければいいだけだからな。こちらに知らせていないだけで何らかの区分けがされている可能性もあるが……」
「なんにせよ警戒した方が良いかもしれない、そういうことだね飯田君」
「僕はそう思う。昨日の件がある以上これも何か試されているのかもしれないからな」
「さ、流石に考えすぎじゃないかなぁ……」
「オール……じゃなかった知り合いの人に聞いたんだけど相澤先生って雄英高校の中でも結構厳しい人らしいんだ。ならこれも昨日言ってた『苦難』なのかもしれない。それに……」
緑谷は教室の後ろへと視線を移す。昨日まではただの空きスペースであったはずの場所。そこには新たに机が4つ置かれていた。
「新しく席が4つもある。昨日までなかったはずだよね?」
「ああ。教室の状態は記憶しているが確かに昨日ここには机は無かったな」
「2日目から転校生でも来るんかな?」
「流石に2日目から転校生は考えにくいが……」
「『自由』が売りの雄英なら有り得なくはない……ね」
昨日の件もありあらゆる可能性が考えられる。一体何が待ち受けているのか……唸っている緑谷たち。そんな彼らの思考を遮るかのように教室の扉がガラガラと開かれた。
「よし、お前ら早く席に着け。今日は早めにホームルームを始めるぞ」
「まだ予鈴なのになんでー!! もっと話してたーい!」
「休み時間を奪わないでくれよぉ!」
「君たち! 口の聞き方というものがあるだろう! それはそれとしてご説明お願いします!」
「はぁ、わかってる。わかってるさ。後で早めに始めた分時間はやるからまずは話を聞け」
クラスの者たちをなだめ相澤はため息を吐く。『合理的』を語る相澤の様子から見てこの展開が不本意であることが何となくクラスの者らにはうかがえた。
「あー、別の科からの転入で4人A組に入ることになった。ったくなんでウチに4人も……」
「転入性⁉」
「2日目で⁉ マジかよ⁉」
「緑谷君の言う通りだったな……」
転入性というワードに教室内がざわつく。そのざわつきには仲間が増えるという嬉しさや期待、何故このタイミングという疑問の他既に『苦難』は始まっているのかもしれないという不安もあるだろう。それぞれが異なる思いを持ちながら開いた扉を注視する。どんな人が入って来てもすぐに動けるように……と。空気がヒリつく中外に居た者は遂に教室へと入ってきた。
「あ、もう入っていいのか?」
「「「「「えっ」」」」」
瞬間教室の空気が固まる。
教室へと足を踏み入れ入ってきたのはどんな人でもない。白と黒のツートンカラーの存在――――――パンダだった。
「さっさと入れよ。廊下冷えるんだからよ」
「ほーい」
誰かに蹴られ急かされるも動じずパンダはのっそのっそと教壇へ上がる。そのパンダに続いて黒髪メガネの少女・襟で半分顔を隠す少年、そして緑谷にとって見覚えのある気弱そうな少年が一人入ってきたのだった。
「なぁなぁ! お前の個性って『パンダ』なのか? やっぱり笹好きなの?」
「俺はパンダだぞ。けど笹は嫌いだ」
「笹嫌いなの⁉ ウケルー!!」
「俺瀬呂ってんだ。よろしくな狗巻」
「こんぶー」
「こ……こんぶ?」
「ねぇ、禪院……だよね? あたし耳郎って言うんだ。よろしくね」
「あぁよろしく。私のことは真希って呼んでくれ」
「オーケー。じゃあウチのことも響香って呼んでよ」
「緑谷君!」 「乙骨君!」
「まさか一緒のクラスになれるなんて思ってもみなかったよ!」
「僕もだよ! そう言えば五条さんは? 結局あの人って雄英高校の人だったのかな……」
「えっ……とあの人はどこかに行ってしまったというか……」
「お喋りはそこまでにしとけ。ホームルームを始めるぞ」
盛り上がっていた教室が相澤の言葉でピシャンと静まる。その状況についていけない乙骨ら呪術科組だったが周りに動きに合わせ指定された座席へと腰を下ろしホームルームに参加するのだった。
そしてしばらく時が経ち、4限目の授業も終了。昼食の時間を乙骨らは迎えていた。
「ようやく昼飯の時間だな。……ってどこ行くんだ憂太」
「どこって昼休みだし雄英高校って食堂が凄いらしいからそこ行こうかなって思ってたんだけど……」
「聞いていないのかい乙骨君」
「えっと、君は……」
「失礼、僕は飯田天哉だ。よろしく乙骨君」
「よ、よろしく……」
キビキビと喋る飯田に乙骨は圧倒されるも飯田は平常運転でそのまま話を続ける。
「それで本題だ。乙骨君は食堂へ行こうとしていたようだが今の期間食堂が使えるのは上級生のみ。すなわち一年生は使えない。一年生は来週からでないと食堂は使えないんだ」
「そうなんだ……」
「悟の奴伝えてなかったのか……まァあいつ大事なこと伝え忘れやがるからな」
「しゃけしゃけ」
「まぁ悟も忙しいだろうし仕方ないだろ。ほら憂太」
「え?」
腑抜けてた憂太が我に返りパンダが差し出してきた手を見る。そこにはサンドイッチが一つ乗せられていた。
「やるよ。俺別にそこまで腹減ってないからな」
「な、なんで? 僕パンダ君に何も出来てないし……」
「なんでって……友達じゃん。何かヤバイのに憑かれてるけど一応」
「しゃけ」
「ならば……乙骨君、僕のも少し分けてあげよう!」
「俺も俺も! あ、俺上鳴電気! よろしくな!」
「私芦戸三奈! たこさんウィンナーあげる!」
「え、そんな僕なんかに……」
初めての状況に対処出来ないでいる乙骨を置いて目の前にはどんどん食べ物が乗せられていく。卵であったり野菜であったり、白米であったり……色鮮やかなそれは拒絶や忌避をされ続けてきた乙骨が久しく得ていなかった人のやさしさ、温もりだった。
「私麗日お茶子! 私からはお餅を差し上げ……」
「う、うぅ……」
「な、泣いとる⁉ ウチなんかした⁉」
「大丈夫か乙骨君⁉ 怪我でもしたのかい⁉」
「おかか⁉」
「何でもない……大丈夫……」
「乙骨がひ弱だからだろ? こっちこい憂太、一から鍛えてやる」
「ちょっと真希さん⁉ この状況でそれやるとか鬼か何か⁉」
「……」
「チッ……うるせぇな……」
数名を除いて涙を流す乙骨を見てクラス中の人が乙骨を気にかけ駆け寄ってくる。
どれもついさっき会ったばかりの人間だ。上辺だけかもしれないし、すぐさま裏切られるかもしれない。それでも憂太の目から涙は止まらなかった。
場所は変わって職員室前。教職員らも授業を終え、食事へと向かおうとしていた。
「さーて今日は何を……ってイレイザー、眉間にしわ寄ってるぜ? 入学から2日目だってのに問題児でも相手にしてたのか?」
「問題児というか、面倒な大人を相手にしたせいだろうな」
「面倒な大人?」
「……五条悟」
「あー……あの人スゲー頼りになるけど毎度やること凄いもんな」
「全くだよ 面倒臭さはお前以上だよ」
「WHAT!? オイオイオイ! そりゃないぜイレイザー!」
「はぁ……」
隣で喚き散らすイレイザーの言葉には耳を貸すことなく、相澤は懐から数枚の書類を取り出す。それらは昨日五条から渡された書類で、乙骨らのデータが記されたものだった。
『―――ってなわけでうちの科の4人、A組に入ることになるからよろしく!』
『……どういうことですか』
『どういうことも何も……言葉の通りさ。あ、校長には話通してるからそこんとこは安心していいよ』
『安心して……ってその話自体初耳なんですが。大体なんで4人全員をA組に……』
『そこは勘さ。A組に入れた方が彼らは伸びる……そう踏んだだけだよ。だからB組のブラド先生に頼んで4人多めに生徒を担当してもらって、A組には予め空席を用意してもらってたんだ』
『……人数が不釣り合いだったのはそういうことですか。ならせめて早めに言ってもらえませんかね、こっちも暇じゃないんです』
『だって予め言ったら絶っー対受け入れないでしょ? そういうことだからよろしく!』
五条が力強くサムズアップを示すを見て相澤は睨みを利かしながらため息を吐く。
認識を改めねばならない。目の前の男……五条悟は敵だけでなく、味方にとっても最悪な人間であると。カリキュラム等を組んだ後でのこの申告である。相澤の中での嫌いな人間ランキング、そのトップに五条が君臨したのは言うまでもなかった。
「あの人に次会ったらどうしてくれようか……」
「ま、まぁまぁ。昼休みもそんな長くないんだし飯でも食おうぜ」
「……そうだな。あの人のせいで色々狂ったが今日の午後が良い機会だ」
「今日の午後? A組の授業は確か……ヒーロー基礎学か」
「そこで呪術科の生徒らの能力を見る。活躍次第によっては……今日が雄英での高校生活最後の日になるかもな」
「……そーかい」
相澤の言葉にマイクはただそう言葉を返す。それが共に戦ってきた相澤なりの考え方である以上マイクはそれ以上言葉を挟むつもりはなかった。
「いよいよだね……!」
「う、うん!」
そんな思惑はいざ知らず、教室は次の授業とその際に現れる人物への期待からざわめきたつ。緑谷は勿論乙骨ですら興奮を隠せていない。やがて時計の針は真下を指し、時刻は1時半を回った。運命の5限目、ヒーロー基礎学が今……始まる。
USJ編の話構成(途中まで)
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1話1エリア分(今回の形式)
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1話2エリア分(例:乙骨+緑谷パート)