とあるB級隊員のお話   作:冬獅郎

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一話?

 ここはA級一位部隊である、太刀川隊の作戦室にあるトレーニングルーム。

 住宅街が再現されたその空間の中では弾が飛び交い、二名の射手がしのぎを削っていた。

 片方は太刀川隊の射手、出水公平。ボーダー内に彼のことを知らぬ者は存在しない。それは所属している隊の影響ではなく、彼の実力によるものだった。ボーダーのトップを飾るにふさわしい、射撃戦の名手。

 そんな彼が、押され始めていた。

 出水を追い詰めるような軌道でバイパーを使いこなし、彼と互角以上の戦いを実現させている。それを可能にしている人物の名前は、神室渚。彼は出水公平と双璧をなすボーダートップの射手……などではなく、どの隊にも所属していない、全く無名のB級隊員であった。

 バイパーの弾幕から逃れきれずに数多のかすり傷を負った出水が、思わずといった様子で叫んだ。

 

「ああっクソ、バイパー撃つの早すぎんだろ!」

 

 彼が悪態を吐きたくなるのも無理はない。

 射手は通常、弾を威力・射程・速度に割り振る必要があり、それに伴ってタイムラグが発生する。加えて、神室はリアルタイムでバイパーの弾道も設定している。にもかかわらず、弾はキューブが生成されてからほぼノータイムで発射されている。

 そのようなことは本来ならありえないのだ。にもかかわらず、彼はそれを可能にしていた。あまつさえ、出水を追い詰めるような弾道で。

 

「サイドエフェクトのおかげでな」

 

 出水は返答を求めたわけではないだろうが、それでも彼は答えた。

 サイドエフェクト。優れたトリオン能力を持つものに稀に発現する超人的な能力の総称。

 彼、神室渚の持つサイドエフェクトは、思考加速。その名の通り、思考を加速させることが出来るというものだ。

 この能力を使うことにより、弾の割り振りを始めとした様々なことを常人とは一線を画した速度で行うことが可能になる。

 

「言われなくても分かってるよ!」

 

 相手の攻撃速度がこちらよりも早いため、一方的に撃ち続けられている。このままでは削り殺されるのも時間の問題だろうと判断した出水は、無理やりにでも反撃に出ることにした。

 バイパーの多角的な攻撃──隊員の間では鳥籠と呼称されているバイパーによる全方位攻撃──を凌ぐためにフルガードで対応していたが、それでは攻撃に転ずることはできない。二つのトリガーをシールドに使っていては、それ以上のトリガーを使えないからだ。

 建物に背を向け、弾道を正面に制限する。

 メテオラや合成弾なら背後から建物ごと破壊できるだろうが、相手は自分の正面にいる。そのようなことはできないだろうし、そんな隙を与えるつもりもない。

 正面から迫りくるバイパーの軌道を読み、集中シールドで防ぐ。既に何度も見た軌道だ。これだけ食らえば癖を見抜くことくらいできる。

 そうして弾を凌いでいる間に、もう一つのトリガーのメテオラを起動させた。トリガーを起動するこの数瞬でさえも防ぎきれない弾があったが、どれもかすり傷程度。問題はない。

 

「メテオラ!」

 

 出水の放った数重視のメテオラが相手の足元の地面を穿ち、爆裂してあたりに煙を立ち昇らせた。

 この程度の煙ではあまり時間を稼げないだろうが、それでいい。相手の反撃があれば、立ち昇った煙を裂くような弾の軌道が確認できるはずだ。加えて自分を視認できない分、バイパーは予測でしか撃てない。今までのようなキレのある軌道でないのなら、避けることは十分に可能。

 そしてもう一つ。こちらがフルアタックに入っているということを相手に悟られないようにするためでもあった。

 壁伝いに移動しながら、そこまでを考えている。

 稼いだ時間でキューブを生成。

 

「アステロイド!」

 

 二つのトリオンキューブを生成する。一つは言葉通り通常弾のアステロイド。そしてもう一つは追尾弾であるハウンドだ。

 煙越しに囮のアステロイドを撃ち込み、同時にハウンドを天高く撃ちあげる。煙幕のおかげでハウンドを天空に撃つところは見えないはずだ。

 既にイメージは出来上がっている。後はその通りに行動するのみ。

 

(まずは囮を……っと、もう撃ってくんのかよ!)

 

 煙を裂いて現れた弾丸を回避する。多角的な軌道はバイパーのそれだが、やはり標的が見えなければ普段の切れ味もない。余裕をもって回避する。

 ──思えば、それが油断だったのだろう。相手の姿が見えないのは、自分も同じだったというのに。

 自分の予想した通りの展開だ。このまま煙の向こうへと手元の弾を放てば勝利は確実。そう思った瞬間、視界がガクンと下がった。

 

「!?」

 

 何が起きたのか分からなかった。

 いや、正確に言えば何が起きたのかは理解していた。足を飛ばされたのだ。しかし、その方法がわからない。

 自分は相手の攻撃をすべて躱したはずだ。なのに、どうやって。ほんの一瞬、そのような考えが頭を過った。

 ──あるいは、このようなことに意識を囚われず目の前のことに集中していれば、結果は違ったのだろうと思う。しかし、もはや遅い。

 下に意識を向けた瞬間。

 その瞬間を狙いすましたかのように降ってくる弾丸の雨に、気づいた時には蜂の巣にされていた。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「っかー! また負けたぜ」

「俺のが一枚上手だったな」

「次は勝つっての。つか、最後のあれなんだよ。バイパーか?」

「なわけねーだろ。見えないのにどうやって弾道設定すんだよ」

 

 いったい何があったのか。その答えはシンプルだ。

 地を這うようなハウンドを、回り込むような軌道で撃ったのだ。ハウンドならば、相手の姿が見えなくてもトリオン反応を捉えて追尾することが可能である。

 出水は煙の正面を見据えていた。相手との距離も離れていないために、広範囲に広がる煙の端までは見えていなかったのだ。ほぼ真横、それも足元から迫る弾に、出水は気づかなかった。

 加えて、正面からは囮の弾。それに意識を向けすぎてしまったことも、一つの要因だろう。

 そしてもう一つの誤算がある。ハウンドの存在だ。トリガーセットにあることは知っていたが、この戦闘を通じて神室はバイパーしか使っていなかった。無意識のうちに、相手はバイパーしか使わないのだと思い込んでしまっていた。

 一通りの説明を本人から受けた出水は、こう口を開いた。

 

「やっぱ強ぇなお前。なんでランク戦やらないんだ?」

「えー、特に理由はないけど。あえて言うならランクやる理由がないから?」

 

 けだるげな様子でそう返す神室。

 

「理由って……。いや、ポイント上げたいとかランキングとか、後は……誰かに勝ちたいとかそういうのだよ。ないのか?」

「ないな。俺、お前に勝ってるし」

「言ってくれんじゃねぇかコノヤロー。俺の本領はタイマンじゃねえんだよ」

 

 神室の何気ない一言で頭にきてしまう出水。思わず言い訳じみた言葉を吐いてしまったが、しかしそれも仕方のないことだろう。実際、出水の本領はそこではないのだから。

 確かに神室との戦績は負け越してはいるが、それはあくまでも個人戦での話だ。部隊同士によるチーム戦なら負けはしないだろう。ただ、神室がチームを組んでいないというところが一番の問題なわけだが。

 

「早くチーム組んでくれよ。ボコボコにしてやるからさ」

「チームね……。そりゃ組みたいとは思うけどな、強くてソロでやってる奴なんてもういねえだろ。B級C級合わせてみてもさ」

「確かにそんな特殊な奴はいないだろうな、お前以外」

「だろ?」

 

 出水に肯定されて得意げな顔になる神室。皮肉のつもりで言ったのだが、全く気にかけていないらしい。

 神室が部隊を組めない理由は、実力を知っている人間が極端に少ないからだ。

 彼のランクポイントは5000程度であり、お世辞にも高いとは言えない。当然、そんな彼のことを隊に誘おうなどと考える人間はおらず、自分からどこかへ入ろうという積極性もない。結果として、ソロのままB級隊員として活動しているのだった。

 

「けどオペが居たら部隊は組めるよー、紹介しよっか?」

 

 会話に加わってきたのは、太刀川隊の紅一点でありオペレーターの国近由宇だ。先ほどまでゲームをしていたのだろう。コントローラー片手にこちらまで歩いてくる。

 

「どーも、国近先輩……。組めるには組めるでしょうけど、それじゃあ俺がソロでやってるのと変わらないじゃないすか」

「ほーう? 君はオペレーターが何もやっていないと言いたいのかね」

 

 神室の頭を拳でぐりぐりといじめる国近。その状況を特に気にするでもなく、神室は口を開いた。

 

「そんなつもりじゃないですよ。ただ、戦闘員が俺一人ならできることは基本的に変わんないですから」

「まー確かに戦闘員は二人は欲しいとこだよね、戦略の幅も広がるし」

「それにこいつ一人のチームボコっても楽しくないっすから」

「おい、それが本音だろ出水」

 

 軽口を叩きあう二人。それを微笑みながら見る国近は、いっそのこと二人でチームを組めばいいんじゃないかとさえ思っていた。まあそんなことをされたら自分の隊が困るわけだが。

 

「じゃ、俺はこれで……」

 

 ひとしきり雑談をした後、唐突に神室が席を立った。どうやらこれで帰るらしい。扉に向かう背中に、出水も声をかける。

 

「おー、今度はランクしようぜ」

「別にやってもいいけど、ポイント溶かすぞお前」

 

 肩越しに顔だけで振り返って、そう返す神室。その顔はどこかニヤけていて、人を苛立たせるのには十分なものだった。

 

「このやろ……」

 

 しかし既に遅かった。神室の姿は閉じられた扉によって隠され、声はもう届かない。わざわざ追いかけて怒るのも馬鹿らしいので、椅子に深く腰掛けて溜飲を下げた。

 

「それにしても神室君は強いねー。二宮さんとどっちが強いんだろ」

「うーん、あの二人がやってるとこは見たことないから予測しかできないっすけど」

 

 しばらく考えた後、口を開く。

 

「やっぱ二宮さんでしょ。二宮さんはあんまりランクやらないけど、神室はそれ以上にやらないっすから。経験が違いますよ」

「うんうん、やっぱり経験は大事だよね」

 

 出水の言葉に頷いて同調する国近。

 

「ただ、撃ち合いの火力勝負なら神室に分があるでしょうね。あいつのトリオンは二宮さんよりバケモンですから」

「それね。あー、一回でいいから二人の勝負見てみたいな」

「俺もですよ、まあそんなことあるわけないっすけど」

 

 出水と国近は顔を見合わせて笑った。

 しかし、もしも神室が部隊を組むことがあるのなら。あるいは、チームランク戦で戦うことがあるのかもしれないな、と二人は内心で思うのであった。




PARAMETER
トリオン 18
攻撃 13
防御・援護 6
機動 4
技術 10
射程 7
指揮 1
特殊戦術 2
TOTAL 61

TRIGGER SET
MAIN TRIGGER
バイパー
アステロイド
メテオラ
シールド
SUB TRIGGER
バイパー
アステロイド
ハウンド
シールド
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