ノーゲーム・ノーライフ in SAO   作:たゆな

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── 六話 ──

 

「……くっ、想像以上にキツいわ……ねッ!」

 

 そう言いつつも、モンスターを倒し切るアスナ。

 

(こんな事なら、ちゃんとアルゴさんの言う通りにレベリングを続けていれば良かったわ……!)

 

 アスナは多数のモンスターによる攻撃を捌きつつ、迷宮区へ向かう前に交わしたアルゴとの会話を思い出していた。

 

 

 

 ───え”っ! アーちゃん……もうそんなにレベルが上がったのカ!?

 

 ───たしカニ推奨ステータスには達してるケド、それはあくまでもパーティプレイ前提のものダ。ソロプレイである事と……ネペントの時みたいニ、急にモンスターが大量に湧く等の異常事態(イレギュラー)への対処を考えると、まだレベリングをしていた方がイイと思うガ。

 

 ───エ? ちょっとどんな感じか確かめるだけ? ……それならまぁ、先っちょだけダゾ?

 

 ───い、いや先っちょというノハ……細剣の話サ! ハァ、あぶないあぶないアーちゃんの知的好奇心をナめてた……

 

 

 

 パーティプレイ前提、という部分を甘く見てしまった事への後悔などしている暇はない。次々と押し寄せる迷宮区のモンスター達の攻撃を必死に避けるアスナ。

 

(このまま続けるのはマズイわ! 数体削ってコボルトの攻撃が緩まったら離脱、その隙に安全地帯に逃げ込めば……は?)

 

 そう思考を巡らせ、細剣の基本ソードスキルである『リニアー』でコボルトを倒したアスナに更なる困難が待ち受ける。

 

「う……そ」

 

 ソードスキルの硬直によるデメリットを考えても、リニアーで移動した距離と討伐したコボルトの分攻撃頻度が減ると思っていたのだが……実際は、コボルトを討伐しても瞬間的に新しいコボルトが生成され、攻撃頻度は減らず、離した距離も瞬く間に詰められるという……もはや絶望でしかなかった。

 

「……っ足りない!」

 

 パーティプレイであれば、リポップするコボルトより速く……そして多くのコボルトを狩ることが可能な為、離脱することは容易である。対してアスナは、現状ソロで一度に倒せる数に限りがあり、更には数発の攻撃を入れてHPが少し減っているコボルトのみ……かろうじてリニアーで倒し切ることが出来るという状況であった。

 

「ごめんね、アルゴさん……」

 

 このまま私が死んだら、優しいアルゴさんはきっと自分を責めてしまうだろう。そう思い、心に罪悪感を浮かべるアスナ。しかし、自身にやれる事はもうない。このデスゲームが始まり……それに立ち向かうと決意してから全力で戦った、やり切った、このまま戦い抜いて死ねるなら本望! と考えた時、ふと……。

 

(本当にそう?)

 

 ──本当に自分はやれる事を全てやったのだろうか。

 

(いえ、あの二人なら私と同じ状況になってもまだ諦めたりしないで思考を巡らせるわ)

 

 ──もうこの世界に悔いはないのだろうか。

 

(アルゴさんへの恩を返す前に、逆に悲しませるわけにはいかないわ! ……それに、まだあの二人を越えるどころか)

 

「追いつけてすら……いないのよッ!」

 

 消えかけていた心に再び火を灯すアスナだが、絶望的な状況に変わりはない。モンスターの攻撃を捌きながら思考を巡らせ続ける。

 

(ポーションを飲む暇は作れる! 残りは10個……ミスせずに捌き続ければあと二時間は持つ、それだけ時間を稼げれば不審に思ったアルゴさんが助けに来てくれる!)

 

 予め先っちょだけという話をアルゴとしていた為、あまりに長引けば必ずアルゴが動いてくれるだろう。しかし……

 

(それは、アルゴさんが気付いてくれた場合で……手が離せない用事で確認する時間が無かったりした場合は、恐らく気付いて貰えるという可能性はかなり低くなる)

 

 パーティを組んでいない為、アスナのHPゲージを見ることが出来ないアルゴに気付いて貰うなど運ゲー、言わば逃げの作戦だ。

 

(死ぬつもりなんてない、でも戦わずに助けを求めていたあの頃みたいになるなんて……絶対に嫌ッ! 戦い続け……戦う?)

 

 諦めずに別の方法を考え続けたアスナは遂に、逃げの作戦ではない方法を思いついた。

 

(このまま戦い続けて、レベルを上げる! その後リニアーで距離をとった瞬間、アジリティとストレングスにポイントを振る! それを繰り返して徐々に負担を減らせば、時間を稼ぎつつアルゴさんが来れなかった場合でも可能性があるわ!)

 

 そもそもソロで戦うにはステータスが足りず、逃げるという判断をしたはずなのだが……その時の事はもはや頭にはない。エテルナ女学院での勉強で培った脳は、全て目の前の敵を最小限の被害で倒す為にフル稼働させている為、迷宮区に来た当初とは気概も、慣れも違う。そして何より掛かっているものが違うのだ。……などと言葉を並べてはみるが、第三者から観ればただの『脳筋』である。普通であればステータス差をたかが精神力で覆そうだなんて笑い物なのだが……ことソードアート・オンラインに置いてはそうではないという事を知る者はいない。

 

「よし! 上手くいったわ!」

 

 リニアーで上手く距離を取り、ステータスポイントを振り分けるアスナ。

 

「この調子なら……次はポーション!」

 

 クールタイムが終わった瞬間、コボルト達が少ない空間へとリニアーを発動する。

 

「よし……え? きゃあ!」

 

 しかし、限界を越えて稼働させていた身体が前回のステータスでの動きに異常に慣れてしまっていた所為で、アジリティにポイントを振ったアスナは少しばかり速く動き過ぎていた。その為、コボルト達を部屋の端まで寄せきる前に動く事になってしまったのだ。一度そうなると、暫くポーションを飲む隙がなくなり……かなりマズイ状況になってしまう。

 

「リニアーのクールタイム分稼げば……え?」

 

 自身のHPゲージの横に見える一時行動不能(スタン)の表示、ポーションを飲むことが出来ず一瞬体勢を崩した時に貰った一撃が、運悪く状態異常を付与する攻撃であったのだ。

 

(ここまでか。でもまぁ、最期まで頑張れたから……いいや)

 

 迫り来るコボルトの攻撃に目を瞑るアスナ。しかし、いつまで経ってもその攻撃が届かない。恐る恐る目を開けると……。

 

「……へ?」

 

 あれだけ大量に湧いていたはずのコボルト達が、全て消え去っていた。

 

「あんた、大丈夫か?」

 

「え、ええ、ありがとう……これは貴方が?」

 

「あ〜……俺もそうだけど、ほとんどはあっちの二人だ」

 

 黒髪の少年が指差す方向に居たのは、アスナが出会える事を願って止まなかった二人であった。

 

「空白……」

 

 そう呟きながら、ばたりと床に倒れるアスナ。それと同時に被っていたフードが脱げる。

 

「「エ?」」

 

 今のところキリトにしか空白というワード自体を知られていないはずなのだが……フードを目深に被って居たいかにも(・・・・)な人間に、二人のプレイヤーネームを言われ、明らかに動揺する空と白。

 

「空白? あぁ、空と白の知り合いか?」

 

「い〜〜〜や? 俺は全然知らん! はずだ」

 

 空は、まさかと思い白の方を見るが……

 

「広場には、居た……多分、違う」

 

 この少女が茅場晶彦という訳ではないようだが、そうだとして……何故二人の名前を知っているのか。

 

「まぁ、とりあえず……またモンスターが一面に広がる前に、安全地帯まで行こうぜ?」

 

「あぁ、そうだな。じゃあ俺らが戦っておくから、キリトがその子を運んでくれ。よろしくな♪」

 

「キリト、任せた……そして任せろ! ぶいっ!」

 

「途中で目が覚めたらどうしたらいいんだ!? 俺……はぁ」

 

 俺、コミュ障なんだけど……と言おうとしたが、すでに二人はコボルトの討伐に向ってしまった。あの二人の方がコミュ障である為、言えたところで意味がない事をキリトはまだ気が付かない。

 

 

 

 

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