ノーゲーム・ノーライフ in SAO   作:たゆな

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── 七話 ──

 ──第一層迷宮区、入口付近の木陰にて。

 

「んっ……ここは?」

 

 視界が霞んでいる感覚によって、目頭を抑えながら体を起こすアスナ。

 

「私は迷宮区で……って、そうよッ! 空白ッ!」

 

 アスナは焦りのあまり、そう叫びながら目を見開く。まさか会えると思ってはいなかった二人に奇跡的に出会う事が出来たのにも関わらず、自身は意識を失ってしまったのだ。どれ程の時間が経っているのかは分からないが……直ぐに追いかければまだ間に合うと考えたアスナは、急いで立ち上がろうと膝を立てる。

 

「……どうやら、やっと目が覚めたみたいだな」

 

 彼女の真横から声が聞こえた為、其方へと顔を向けると……片手剣を背中に背負い、木に寄り掛かりながらアスナを見下ろす男の姿があった。

 

「貴方はたしか……えっと、誰ですか?」

 

「あぁ……」

 

 自己紹介をしていなかった事を思い出した……否、思い出してしまった男は、軽く咳払いをした後……立ち上がろうとしていたアスナへと向けて手を差し出した。

 

「初めまして、俺はキリトだ。よ、ヨロシク……」

 

「私の名前はゆ……アスナです。宜しくお願いします」

 

 ……以上! 二人の自己紹介はこれでお終いである。

 

「……」

 

「……」

 

「空と白……空白の二人なら、あそこで付近のモンスターを寄せ付けないように戦っているよ……呼んでこようか?」

 

 少々気まずい空気になりながらも、勇気を振り絞って話し掛けるキリト。

 

「別にいいです」

 

「そ、そうか」

 

 そんな彼女の冷たい返答に、再びこの場の空気が終わる。何やら恐ろしく冷酷な表情を浮かべている彼女に対して……コミュ症のキリトは密かに『たったこれだけの事で彼女の機嫌を損ねてしまったのか』と、自分から話し掛けるなんて事はもう二度としないと誓うレベルのトラウマを植え付けられていた。……実際は空白の戦闘を見て、少しでも多くの技術を吸収しようと集中しているだけなのだが。

 

 

 

 

 

 ──一方で。

 

「ハハハー! なぁー白ー! ……先程から俺達の事を穴が開くレベルで見詰めている御方がいると思うんですが……マジで誰なん?」

 

「……広場、周ってた時……白達を追いかけてた、かもしれない人……一人居た……その人、と……同じ顔」

 

 猪型の雑魚モンスター……フレンジーボアを切りつけながら、背後の視線へと顔を向けない様に話を続ける二人。この辺りのモンスターは迷宮区内部とは違ってリポップする速度が遅く、尚且つアクティブモンスターでは無い為、しっかりとモンスターを寄せ付けないように見張っていれば……『安全地帯』というモンスターの出現しない場所と同等に危険度が低くなるのだ。

 

「……ふむ、なるほどな。色々と気になる点はあるが、それはまぁ、追々って事で。……にしても、この距離でこれ程の精神的ダメージを与えられるとは」

 

「片手用細剣、の……ソードスキル……視線でも……発動……出来るん、だ」

 

 横目でチラリと二人の方へと視線を向けてみる空。そこには、ダラダラと冷や汗を流しながらこちらへ助けを訴えているキリトと、何やらヤバい顔をしている少女が並んでいるという光景があった。

 

「さてと、そろそろキリトが可哀想だし……行ってやるか」

 

「……こっちは……コミュ症、三人……これ程の、人数有利……負けるわけ、ない……」

 

 そうして空と白は、わざとらしく今気付いたとばかりの表情を浮かべた後……キリト達の方へと歩き始めると、それに気付いて表情を和らげた様子の少女へと声を掛けた。

 

「……ウチのキリト君がすまんな細剣使い(フェンサー)さん」

 

「……何せ、ソイツは、コミュ症な……もん、で」

 

「おい、お前らっ」

 

 するとアスナは……きょとんとした表情を浮かべた後、気まずそうな顔をしているキリトを見る。

 

「いえ、大丈夫です。特に嫌な事はされてないので。助けて頂いてありがとうございます」

 

 どうやら、キリトが何かした訳では無いという事にホッとした空白。勘違いをしていたキリト自身も安心感から息を吐く。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 と、ここで会話は終了。

 

 ──なるほど。と、色々理解してしまった空と白の周囲に鳴り響くフレンジーボアのリポップ音。この長い沈黙から一刻も速く抜け出したいと考える三人……いや四人には、それが普段より大きく聞こえた。

 

「まぁ、お互い話したい事はあると思うんだが……モンスターも居るし、一旦トールバーナに戻らないか?」

 

 流石はキリト、この状況で声を発する事が出来るのはもはや勇者と言わざるを得ない。更に、話す事が無い為に沈黙したのにもかかわらず……『お互い話したい事はあると思うんだが』などという言葉を吐けてしまうのは尋常ではないメンタルの持ち主だ。しかし、先程のミスがミスでは無かった事と、この場にはコミュ症……自身の仲間しか存在しないという事に気付いた彼はもはや無敵だ。

 

「そ、そうだな。ポーションも買い足さないとだしな」

 

「……キリト、ナイス」

 

 空白とその仲間はコミュ症……なんて事ない普通の人間だったという事を知ったアスナは──

 

「……そうね」

 

 ──ほんの少しだけ、肩の力を抜く事が出来たのであった。

 

 

 

***************

 

 

 

 トールバーナに帰還後、ポーションを含めたアイテムの補充が終わった四人は……迷宮区のモンスターを狩って稼いだ金を持って、少し高いが美味しいというレストランへと足を運んでいた。

 

「ベータテストの時は、ここの店のバターステーキ丼がマジで美味かったんだ。俺は皆にも食べて貰いたいッッ!!」

 

 食い気味でそう叫ぶキリトに対して、耳を塞ぐ三人。

 

「……キリト、うるさい」

 

「……声がデケェ!! ……はぁ、俺と白は別に構わんが……アスナはどうする?」

 

「私は別に美味しいものを食べにこの町に来た訳じゃない……」

 

「……キリトが、奢るなら……食べる……って」

 

「どうしても俺達に食べて貰いたいんだもんなぁ? ……もちろんアスナの分だけじゃなくて、俺と白の分も奢りだよな?」

 

「な、なんだとッ!?」

 

 渋り気味のアスナを無理矢理にでも連れていこうと、声を被せる空白。

 

「ちょ、ちょっと! 私そんなこと言ってな……」

 

「……くっ! ……やむを得ない、か」

 

「……キリト、マジか」

 

「……どんだけ食べて欲しいんだよお前」

 

 高級店で大量のコルを消費するというデメリットよりも、全員に食べて貰いたい気持ちの方が勝ってしまった様子のキリトは、そのまま店内へと足を進めた。

 

「んじゃ、早く入ろうぜ」

 

「……ステーキ、丼!」

 

 キリトの後を追って店内に入って行った空白の二人。店の前にポツン……と独り残されたアスナは大きく深呼吸をする。そして、

 

「……別に、話をするならお店でゆっくりでもって思っただけよ!」

 

 周りには誰も居ないにも関わらず、そう言い訳を零しながら扉に手を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

「……ゲームのくせに」

 

 バターステーキ丼などという俗なものは、あまり食べた事の無いアスナだが……しっかりと自身の脳は、この食べ物を美味しいと感じてしまっていた。

 

「ハハッ、いやぁ〜こりゃ美味すぎて笑えてくるな!」

 

「……ちょー……おいし♡……」

 

「だろッ!? 良かった〜! ついにこの気持ちを共感して貰える日を迎えることが出来たッ!」

 

「……ごめんな、キリト。まだ寝てないから頭がおかしいままなんだよな」

 

「……リアル、での……ボッチ度が、透けてる……フッ」

 

「うるさいぞ」

 

 そう騒いでいる三人を他所に、少しだけ微妙な顔をしているアスナ。

 

「……ない」

 

「……アス、ナ?」

 

「ん?」

 

 ボソボソと何かを言っている様子の彼女に気付いた三人は、訝しげな表情を浮かべる。

 

「……ない」

 

「ん、どうした? 美味く無かったのか?」

 

「キリトが無理やり食べさせたから怒ってるのかもな」

 

「流石に強引過ぎたか……あ」

 

 三人は、そう言えば……と、入店前に彼女が『私は別に美味しいものを食べにこの町に来た訳じゃない』と言っていた事を思い出した。白の記憶によると……はじまりの街では空と白を追いかけていたらしく、更には空白の名前を知っている様子だ。

 

「……さて、何から聞くべきか」

 

 空はテーブルに肘を付きながら彼女が迷宮区にソロで潜っていた事や、空白を知っていた事等について聞こうかと考えた──その時。

 

「……足りない」

 

「ん、足りないって、何がだ?」

 

 

 

 

 

「──醤油が足りないわッ!」

 

「……え?」

 

「……は?」

 

「……へ?」

 

 目を見開きながら、勢い良くそんな事を(のたま)うアスナに思わず思考を停止した三人は──

 

「「「???」」」

 

 ──揃って首を傾げた。

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