───アルフィア視点───
目の前の少年はまだ現状を受け入れきれていないみたいだ。
無理もない。私自身、さっきは未知のことで少し戸惑ってしまった。だが、今はそうでもない。すぐに既知にしたからだ。
冒険者ならば未知をすぐに既知に変えなければならない。
それが出来なければあっさり死ぬからだ。
冒険者をしていた頃の習慣はまだ身に付いているようだ。
少しすると、少年も何とか会話出来るようになった。
「どんな呼び方をしたら良いか分からないので名前を教えてくれませんか?。僕の名前はベル、ベル・クラネルです」
「…………アルフィアだ」
何故か目の前の少年を「お前」と呼ぶことは憚られていたからちょうど良い。
未来の人間ということは私の名前を知っているかもしれないが、その時はその時だ。
「ベルがいた時代、つまり私から考えて7年後の時代のオラリオはどうなっている?」
自己紹介も済ませた所で、私が一番気になっていることを聞く。
私とザルドの洗礼を受け、オラリオがどのようになっているのかを知りたいからだ。
こちらは洗礼に命を賭けているのだから、それがどのように未来へと繋がったのか、知りたくなって当然だ。
しかし、ベル……か。実際に呼んでみると何か不思議な感覚だ。
本当に何故だ。
何故彼と一緒に居るとこんなにも暖かい気持ちになるのだ?
そんな疑問を抱きつつ、私はベルの話を聞いた。
「ひっ!?」
ベルが怯えている。
どうやら私はイライラして、無意識にまた『魔力』を立ち昇らせていたようだ。
だが、しょうがないだろう?
色ボケの所の猪と道化の所の勇者ども、あいつら私達の洗礼を受けて以降、7年もあるのに一度もランクアップしてない。
これでどうやって『黒き終末』を乗り越えられる?
こうなることが分かっていたならば、私は妹の子と余生を暮らしていたのに。
「あ、あの!どうかしたんですか?」
どうやらベルを差し置いて一人で考え事をしていたようだ。悪いことをしたな。
「ああ、オラリオの冒険者に『失望』していただけだ」
「『失望』……ですか?」
ベルに思っていたことを言うが、彼はあまり分かっていないようだ。
「つまり……」
ベルに分かるようにさっき考えていたことを話す。
「Lv.8や9が居たのに、勝てなかったんですか?」
「ああ、完敗だ。アレには何も通用しなかった。だからこそ、彼等を越える『英雄』が必要なんだ。にもかかわらず、Lv.6,7程度で留まっているなんて何を考えているんだ、あいつらは」
ベルの疑問に答え、私の考えを言う。
「Lv.6やLv.7も十分凄いと思うんですけど……。じゃあ、【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】でも『黒竜』を倒せないんですか?」
「ああ、今のままでは確実にな」
「……」
ベルは猪や勇者達でさえ『黒竜』を倒せないという事実にショックを受けているようだ。
ここでふと思う。
目の前にいるベルもかなりの実力者だ。少なくとも第一級冒険者の実力はあるとみて良いだろう。
しかも年はまだ15にも満たないくらいだ。
だから興味本意でベルに尋ねてみる。
「ベル、お前は今、レベルは幾つだ?」
「えっと、Lv.5です」
「年は?」
「14です」
「ランクアップの速度は?」
「速度?」
「言い方が悪かったな。今までランクアップするまでにどれくらいの時間を擁した?」
「えっと、恩恵授かってLv.2になるまでに1ヶ月半」
「んっ?」
「次にLv.3になるまでに1ヶ月」
「んんんっ?」
「Lv.4になるまでに2ヶ月」
「……」
「Lv.5になるまでに2ヶ月です」
「……」
アルフィアは普段閉じている瞼を開けて驚く。
ランクアップの速度が異常だ。
目の前の少年が嘘を言っているようには思えないから、本当のことなのだろう。
16歳の頃にはLv.7に至っていた自分よりも圧倒的に速い速度でランクアップしている。
この異常さはなんだ。
このような人材、ゼウスとヘラの眷族にも……………待て、まさか!妹の持っていた白髪。あの憎い男の紅い瞳。そして年齢が14、つまりこの時代の妹の子と同年齢。そしてゼウスやヘラの眷族達を越える素質の持ち主。…………まさかこの少年は…………。
アルフィアは意を決してある質問をする。
「……ベル、お前の親はどんなヤツなんだ?」
「……両親は居ません。でも祖父が居ました。そうですねー、お爺ちゃんは愉快な人でした。例えば……」
語られるのは、思い出したくもないあの好々爺と悉く一致する特徴。
「へっ?」
アルフィアは気付いた時には目の前の少年を抱き締めていた。
ベルは突然のことに変な声を出して戸惑う。
しかしここで、アルフィアが涙も嗚咽も漏らしていないのに泣いているように、ベルは感じた。
だから自分の腕を彼女の背中に回し、抱擁を返す。
すると、
「ベル、私はお前の母親の姉だ」
「えっ?」
「私にはお前と会う資格は無かった。だがこうして立派になっているお前と出会えて、心の底から嬉しい」
そう言って彼女はベルをさらに強く抱き締めた。
突然の告白に驚いていたベルは彼女から懐かしい香りを感じた。
そしてベルは、いつの間にか自分が泣いていることに気付く。
何故泣いているのかも理解出来ていないまま、ベルは彼女を抱き締め返した。
こうして、本来出会う筈が無かった2人が本当の意味で邂逅を果たした。
本当の意味で邂逅っていうのは、お互い自分たちの関係を知った上で出会ったという意味です。1話と2話はまだお互いの関係を知らないので、まだ真の邂逅とは言えませんよね?ってことです。