なでなで。
「……」
なでなで。
「……」
今、僕はまたアルフィアさんに膝枕をされている。
どうしてこうなったのかというと、それはお互いに抱き締め合った後に
「ベル、膝枕をさせろ」
とアルフィアさんが言ったからだ。
やんわりと断りたかったが、僕の中では既に『アルフィアさんの言うことに逆らってはいけない』という暗黙のルールが出来ていたので、何も言わずにアルフィアさんの腿の上に自分の頭を乗せた。
アルフィアさんは僕のお母さんの姉らしい。つまりヘルメス様が言っていた、七年前にオラリオで大量虐殺をした一人でもあり、僕の唯一の肉親だ。
話したいことは沢山ある。なのでまず最初にアルフィアさんの呼び方について尋ねることにした。
「えっと……僕のお母さんのお姉さんなので……おばさ」
ドゴッッ!!
と言葉を言い切る前にベルの頭からヤバイ音がなった。
「殴るぞ?」
「……もう殴ってますよ!!」
僕は目尻に涙を溜めて悶絶しながら言い返す。
そんな抗議を無視して、アルフィアさんは未だ膝枕した体勢のまま僕を見下ろして言う。
「私を呼ぶ時は『お義母さん』だ。分かったな?」
「はい。……お義母さん」
「それで良い」
気恥ずかしく思いながらも僕は『お義母さん』と言う。
アルフィアお義母さんも満足そうだ。気分が良くなったのか、また僕の頭を撫で始めた。
(良かった……機嫌が良くなったみたいで)
と安堵しているのも束の間、お義母さんは何かに気付いたのか、僕に尋ねてきた。
「ベル、お前、膝枕されるのがやけに様になっている気がするのだが、もしかしてよく誰かにしてもらっているのか?」
「うえっ!?」
お義母さんの唐突な、そして鋭い問いかけに僕は目に見えて動揺する。
「そ、そそそそんなことないですよ!!」
「その反応は肯定と判断して良さそうだな」
「うっ、……はい」
僕は否定するが、逆にその反応で確信させてしまったらしい。僕はあきらめて白状する。
「何処の女だ?」
「へ?」
「相手は誰だと聞いている!」
「いや、それは!……どうしてそんなことを?」
お義母さんが不機嫌な様子で、僕に膝枕をしてくれる相手を聞いてくる。なので僕はその理由を聞いてみた。
「簡単だ。お前にふさわしいかどうかを私が判断する」
「なんで!?」
「変な女じゃないか確認しないとな。お前は優しすぎるが故に女に騙されたこともあるだろう?」
「うっ!?」
図星を突かれて僕は言葉を詰まらせる。リリのことだ。確かに最初はナイフを盗んだり、十階層でオークの群れに僕を襲わせたりしたけど、今はちゃんとした仲間だし。
「その反応はやはり心当たりがあるんだな。私の魔法の餌食にしてくれる!」
「ちょっ、それは止めて!?今はちゃんとした仲間だから!!」
お義母さんの恐ろしい発言に流石に僕は反対する。
じゃないとリリが死んじゃう。
「まぁ良い。膝枕の相手といい、聞きたいことは沢山ある。ベルも私に聞きたいことがあるんだろう?」
「はい」
「それなら、ベルがオラリオに来て冒険者になってから今に至るまでの話を聞かせろ」
「分かりました」
お義母さんの提案を受け入れ、僕は冒険者になってからこれまで自分がやってきたことを話した。
僕は話した。
アイズさんに一目惚れして、彼女の横に立てるように強くなろうと決めたこと。
アイズさんとの訓練の中で彼女に膝枕されるようになったこと。
レベル1の時にミノタウロスを倒してレベル2になったこと。
レベル2の時は【アポロン・ファミリア】と戦争遊戯をして、最後にはレベル3のヒュアキンスさんを一対一で戦って倒し、レベル3になったこと。
レベル3の時は異端児のことで色々悩んだりしたけど、最後には偽善者になる覚悟を決めたこと。
レベル1の時に倒したミノタウロスが生まれ変わってきて僕に再戦を求めてきたので戦ったけど、最後には負けてしまったこと。
レベル4の時は遠征の中でイレギュラーの中のイレギュラーのモンスターである『ジャガーノート』と戦ったこと。
深層で4日間、装備などがほとんど無い状態で生き延び、最後には『ジャガーノート』も倒すことが出来たこと。
【フレイヤ・ファミリア】の第一級冒険者達による、これまでにない洗礼を受けたこと。
他にも色々と話した。
お義母さんは最後まで何も言わずに僕の話を聞いてくれた。
「……そうか、ベルがオラリオに来て、
「ハハハ、僕オラリオに来て何度もボコボコにされてますからね」
「【アポロン・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】は今すぐにでも潰しに行くか」
「この時代の彼らには何も罪は無いですからね!本当に潰しに行かないでくださいよ!」
やはりというか、お義母さんは【アポロン・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】に対して怒っているようだ。
「分かっている。私が七年後の時代に行けたらすぐにでもやるが、この時代の奴等は関係無いからな」
「よ、良かった~」
お義母さんも分かってくれているようで僕は安心する。
「ベルの話を聞いて色々言いたいことはある。だが、ここで言った所で何も変わらんからな。今はお前がどんな『冒険』をしてきたのかを知れただけでも十分だ。ベルは私に何か聞きたいことがあるんだろう?今度は私が話す番だ。何でも聞いてみろ?」
「えっと、お義母さん達がオラリオで沢山の人達を殺したとヘルメス様が言ってました。本当にそんなことをするんですか?」
僕は単刀直入にお義母さんに尋ねる。
「ああ、するぞ。」
「どうしてですか!?オラリオの冒険者達に『洗礼』を与える為だと聞きました。でも、何故そんな『手段』を取るんですか!?」
「時間が無いからだ」
「えっ?」
「私達『最強の眷族』と呼ばれた者達は私とザルドを除いて皆死んだ。その上、『約束の刻』は結ばれた誓約を待たずして訪れる」
「『約束の刻』?ど、どういうことですか?」
「もうダンジョンは
「……」
お義母さんの言葉に僕は何も言えなくなった。
ダンジョンが限界だという意味はなんとなく理解出来た。僕のいた時代でも「最近ダンジョンは異常な点が多い」と神様達が言っていたからだ。恐らく何かが起こる前兆なのかもしれない。そしてそれを回避するためにダンジョンの攻略が必要だということだろう。
「ベル、お前はこの話を聞いてどうしたいと思った?」
「えっ?」
「ダンジョンの攻略、そして黒竜の討伐。この二つは時間の問題だ。勇者や猪達のように長い時間をかけてランクアップしているようでは遅い。その間に下界は滅ぶぞ」
「僕は……」
「私は七年後の未来の話を聞いて失望した。猪達が私達の洗礼の後にランクアップを一度もしていなかったからだ。私達が命を賭けてあいつらの壁になったとしても、結局下界は滅ぶのだろうと思った。しかし、同時に希望も得た」
「希望?」
「お前だ、ベル。」
「僕?」
「そうだ、お前は短期間に何度も壁にぶつかり、その度に己を賭して『冒険』をし、強くなった。『
「僕が下界を?」
「ああ、黒竜を倒し、そしてダンジョンの最下層の攻略もやれるだろう」
僕が下界を救う?黒竜を倒す?
「無理ですよ!アイズさん達ならともかく僕なんて!」
そんなの想像出来ない。だから僕は無理だと言った。
「………………………そうか、ベルの考えはそうなんだな。ならば仕方がない」
「えっ?どうしたんですか、いきなり」
僕の返答を聞いてお義母さんの纏う雰囲気が一気に剣呑なものに変わる。
「表に出ろ、ベル」
「え?」
「早くしろ!」
「は、はいぃぃ!」
こうして僕とお義母さんは教会を出た。
良い感じで終わらせたいんですけどね。ベルにアルフィアとザルドの洗礼を浴びせることがこの作品の目的なので、ご了承してください。