閑話入れて10話目でまだ走ってないとか…この作品クソっスね
忌憚のない意見ってやつっス
G1フランちゃん歓迎会後の、久居留邸のリビング──
「あしこしに、がたがきて、つらいわ」
「おっさんみたいな事言うなよ…」
「フランちゃん、あたしが止めるまでずっともみくちゃにされてたからね…」
姉との蟠りを解消した後、ウマ娘竜巻に振り回されるフランの救出作戦、天井に引っかかったまま気絶していたジェームス氏をモップでつついて落とす等のハプニングもあったが、歓迎会自体はつつがなく和やかな雰囲気で終わった。
「つらいわ」
──フランという尊い犠牲を残して。
もみくちゃにされすぎたフランは、ふらふらになって「つらいわ」と言い続ける機械になってしまったのだ。
この悲劇の際に、フランを一番振り回していたウマ娘メイドが「誰だ!!!お嬢様をこんなお姿にしたのは!!!??誰だ!!!?」と主人を胸に抱き号泣していたので、智哉は声が聞こえた瞬間に全力でその場を離れた。絶対に関わってはいけない。
そして現在、フランはリビングのソファーの上で磔にされた聖人のような体勢で、うつぶせになって顔をソファーに正面からくっつけて寝ていた。横に座った姉が優しくフランを撫でている。これが一番楽らしい。
「なあ…フラン」
「つらいわ。なにかしら、トム。つらいわ」
「そのつらいわ絶対言わなきゃなんねえの?その体勢で呼吸できてんの?」
「フランちゃん流石にそれはあたしもツッコミたい」
今日の歓迎会で、智哉と姉はずっと気掛かりな事があった。
「クラブの子に囲まれてさ、脚、大丈夫だったか?」
現在治療中の、同年代のウマ娘に近付かれると脚がすくむイップスが起きないか心配していたのである。
フランへカウンセリングによる治療を行っていた母曰く、競走等のトラウマの根源に近い行為でなければ大丈夫な段階に来ているという太鼓判があった。なので歓迎会を行う流れになったが、やはり確認しておきたい事だった。
「つらいわ」
「それ多分俺が聞きたい事と違う」
「あんた達二人でいる時いつもこんな感じなの?面白すぎない?」
姉が思わずツッコミを入れる。姉と遊ぶ時はフランはいつも、おしとやかで優しい女の子だった。
「あのねフランちゃん、心がつらくなったりとかは無かった?みんな年の近い子だったし」
姉が優しい声色で、聞き方を変えて確認する。
「ミディおねえさま、だいじょうぶよ。わたし、おともだちにこわくなんてならないわ」
「なんで姉貴には普通に答えてんの?俺なんかした?」
「そう…よかったね、ほんとに…」
フランの答えを聞き若干涙目で安堵する姉。今までフランの為にしてきた事が報われる思いだった。智哉の訴えはスルーされた。
「…おともだちもできて、やさしいおじさまにもかわいがってもらって、たのしかったわ。でもつらいわ」
歓迎会の参加者で、フランにおじさまと認識される人物は一人しかいない。ジェームス氏の事だろう。
「おやっさんフランに挨拶できてたのかよ。なんで天井にひっかかってたんだよ」
「あたし達が戻った時にはもうひっかかってたわよね…」
歓迎会に大きな謎が残った。たぶん解明されない。
「トム、ミディおねえさま…わたし、きょうのこと、ぜったいにわすれないわ…ぜったいに…でも…つ…」
フランはそう言うと、疲労が限界に達したのかそのままの体勢で眠りについた。フランにとっても今日は本当に色々あった日だ。彼女にとって転機と言っていい日になっただろう。このまま、辛い日々が過去になり、今日のこの思い出を糧にすればきっと、この少女は前を向いて生きていける。
しかし絵面がひどすぎた。彼女はずっと前述の体勢でこの会話を繰り広げていたのだ。
「その体勢で言われると逆の意味にしか聞こえねえんだけど、てか最後までつらいわ言おうとしただろ」
「流石に絵面がひどすぎてあたしも感動できない」
*****
「寝かせてきたわよ」
「おう、お疲れさん」
姉がフランを客間のベッドに寝かせた後、リビングに戻ってきたところに智哉が労いの声をかける。
「フランちゃんのリハビリ、うちの練習場使うからあんたも参加すんのよ」
「当たり前だろ。今更放り出したりしねえよ」
「へえー?多少は男らしい事言うようになったじゃん」
たまに男を見せるようになった弟を、姉がにやにやと笑いながらからかう。
「それよりさ、あんた明日クラブ休みでしょ?予定ある?」
「んー…フランと遊ぶつもりだったんだけどな」
「明日はクラブの子に譲ってやりな。休みだけど来ていいかってママに聞いてたから」
「そっか…じゃあそうするわ」
フランに友達ができたのだ。同年代同士初めて遊ぶというのに、そこに混ざるような野暮な真似はしない。
「というわけで、フリーのあんたに話があります」
姉が、右手をすっと挙げながら智哉に問いかける。
「あたしと、レース観に行かない?」
「おっ、行くか。最近行ってねえしなあ。でもこないだダービーフェスティバルやって、ロイヤルアスコットはまだ先だよな…メイドンか?それともクラブマッチ?」
智哉は、英国ウマ娘統括機構トレーナーの資格取得を目指すトレーナーの卵である。平地競走のトレーナーになるのは以前語ったとおり抵抗があるが、それはそれとして花形の平地競走観戦と、その後のライブ観覧は趣味の一つと言っていい程に好んでいる。競走の世界に魅せられているし、美しいウマ娘自体も遠くで観るのは好きだ。実情を知っているため近くで観るのは苦手だが。大体姉のせいだ。
メイドンとは、統括機構トレセン学院主催の新バ、未勝利バ達のレースである。彼女達の今後の競走バ人生を決める大事な一戦で、重賞のない時期に条件戦と併せて各レース場で行われている。
そしてクラブマッチとは、年齢層別にグレードを分けて行われるアマチュアレースである。英国全体で地方別に分けられてリーグが存在し、クラブチーム所有のレーストラックで対戦が行われている。クイル・レースクラブも学院コース生がジュニアグレードで参加している。このリーグの対戦結果次第で、ポニースクール、クラブ選抜戦─通称ポニーステークスの参加権も得られるのである。
「うーんクラブにしよっか?ジュニアグレードやるならそれで」
「そうすっか。一応他所の子がどんなもんか見ときたいしな。おやっさんに報告するわ」
「って言ってもエスティちゃんに勝てる子いないとは思うけどね。あの子は抜けてる」
エスティは歓迎会にも参加していたクイル・レースクラブのエースである。8歳で既に命名を受けている程の才能を持つウマ娘で、気性も大人しく優等生のため、統括機構所属のトレーナーからも注目されている期待株である。
「でもなー、あの子は本格化遅いかもって話だから、無理させたくねえんだよ。あの子の場合それでポニースクール落ちてるしな。他の面子で取れるとこは取りたい」
「そうねー、ってか最近嫌になる事ばっかで久しぶりにレースの話したわね…」
「ああ…ほんとにな」
ようやく、日常に戻れたのを実感して姉弟はため息をつく。
「んじゃ、決まりね。あ、あともう一人ついてくるから」
「ん?誰だ?」
「えー…何て言ったらいいんだろ。昔からの知り合いというか、腐れ縁というか…あんたに紹介するってワケでもないんだけど、あんたも会っといた方がいいかなって言うか…あいつはもう大丈夫って言うし…」
筋を通す女で、気風のいい姉が言い淀む人物。智哉は嫌な空気を感じた。
そういえば最近よく聞く名前がある。歓迎会に得体のしれない何かがいた。
「一応聞くぞ、姉貴。もしそうなら明日俺は行かねえ」
「…言ってみな」
「あのメイドか?」
「あのメイド」
「絶対行かねえ」
断固拒否である。あれとは関わらないと決めてあるのである。
「いや悪いけどもう確定なのよ…ほんとごめん…」
「ちょ、マジで謝るのやめてくれよ姉貴!!俺どうなんの!?」
姉のマジトーンでの謝罪に心底恐怖する。姉がそこまでする相手なのだ。怖い以外の何物でもない。
「先に言っとくけど、あたしくらいで気性難と思ってるなら、ちょっと考え直した方がいいわよ。あいつは洒落になってないから。あ、あとあたしがあいつと喧嘩始めたら止めて欲しいのよ」
「できるわけねえだろ!!!!!なんでそんな奴と関係続いてんだよ!!!!!!」
魂の叫びを放つ智哉。気性難同士の喧嘩など小型の怪獣の殺し合いも同然である。本当に勘弁してほしい。
「だからもー大丈夫だって!あいつの主人にも手出さないって約束してもらってるから!」
「してなかったらされてたのかよ!マジで行かねえ!!」
「いやもーほんとに、明日だけはどうっしてもレース観に行って欲しいのよ!ホントお願い!」
そう言うと姉は頭を下げる。姉がここまでしているのだ。本当に大事な何かがあるのだろう。
「ああーもう…わかったよ。でもマジで危ないと思ったら助けてくれよ」
肩を落としながら、姉のお願いに応える智哉。昔から姉のここぞと言う時のお願いには弱い。
「ほんとに!いやあ助かるわ流石あたしの弟!!じゃあ朝にあたしの車の前集合ねーおやすみ!」
早口でそういうと、そそくさとフランと寝る為に二階に行く姉。言質をとったので智哉が心変わりする前に逃げたのだ。
(あーもう…まあでも死にそうな目に遭ったりとかは流石に無いと思うし…我慢するしかねえか)
──翌日の朝、智哉はこの判断を死ぬ程後悔した
久居留家の元ネタはアイルランドですが、この世界ではロンドン郊外の片田舎のどこかと思ってクレメンス(一話に追記しときます)。じゃないと移動が矛盾するじゃねえかえーっ!
アッネとアッネの腐れ縁に関しては設定決める時最後まで悩みました。
まあウマ時空やしええやろの精神。