トムとフラン   作:AC新作はよ

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というわけでケッカちゃんとあの子の回やで。
日本編でブロー〇〇ピール出したいけどええ方法無いやろか……。
アプリで本当にモンジュー出てきてうれしいんやで。
勝負服もしっかりテイバーの青と橙縞になっててかっけえ!あとでっか。


その二 たとえ、燃え尽きたとしても

『セントニコラスアビー!抜け出したまま勝利!!レーシングポストトロフィーを圧勝です!!!来年のクラシックは彼女の独壇場となるでしょう!!おっと、彼女とコンビを組むジョータロウ・ムラタトレーナーが近付いて抱き上げて……吹き飛ばされました!!これはいけません!!』

 

英国サウス・ヨークシャー州、ドンカスターレース場。

競バの故郷英国においても歴史の長いレース場であり、広大な西洋梨のような形のコースは一周約15.5ハロンで直線は5ハロン。

世界最古の競走であるドンカスターカップ、そして世界最古のクラシック競走であるセントレジャーステークスの開催地として有名である。

そしてこの地では現在英国平地シーズンの締めくくり、ジュニアグレードの若きウマ娘達にとって最も重要なレースとされるG1レーシングポストトロフィーが開催され、決着がついたところだった。

勝者である、赤い十字架の装飾されたテンプル騎士風の白いタバードの勝負服を着込んだウマ娘が、相棒である日系アイルランド人のトレーナーからの祝福に手荒い返礼を見舞う。

それを見つめ、項垂れる一人のウマ娘。

 

(勝てなかった……トレーナー、ごめんなさい……)

 

手応えはあった。自信もあった。しかし届かず、三着に終わった。強敵だった。

ポニースクールを卒業して学院に入学、世界に名だたるチーム・ゴドルフィンに所属し、世界でも屈指、いや直に世界一となるトレーナーを担当に迎える幸運にも恵まれた。

エリート競走バとして栄光が待っているはずだった。だが圧倒的な才能と実力差の前に、彼女の努力、トレーナーの献身は吹き飛ばされた。

不甲斐なさが、才能という理不尽への絶望が、彼女の心に去来する。

 

「──アル、お疲れ様」

「トレー……ナー………」

 

アルと呼ばれたウマ娘が、虚ろな目で自らのトレーナーを見つめる。

艷やかな赤毛を首までで切り揃え、レディススーツに身を包み、知的で怜悧な視線とその腕に巻かれたゴドルフィン・ブルーの腕章が特徴的な、世界にもその名を轟かせる天才トレーナー、フランチェスカ・ディ・トーリ。

ジョエル・ガスデンの最高傑作とも言われる彼女が、自らの担当に感情の籠もっていない声で語りかける。

 

「三着、良いレースだった。私のプラン通りに走ってもくれた。俯くことは何もない」

「でも、でも、私……負けて……」

「ライブの準備をしなさい。負けてもライブでは笑顔。競走バとして当たり前の事」

 

そう言うと、ケッカはライブ会場の方向を指差す。

まるで事務的なねぎらいに、有無を言わさぬ物言い。

アルは曇った表情で、ケッカに背を向けた。

その手腕は疑う部分は何一つ無い。言っていることも間違っていない。

それでも今のアルには、酷くその正論が刺さった。

どこまでも冷たい人、それがアルの自らのトレーナーへの印象だった。

 

「そう、ですよね……行ってきます」

「待ちなさい。一つ、忘れていた」

「大丈夫です……ちゃんと、笑え……トレーナー!?」

 

ケッカの声に振り向いた瞬間、アルは抱き締められていた。

 

「と、トレーナー!!何してるんですか!!?」

「よくやったわ。あなたは何も気を落とす事はないのよ」

「わ、私レース終わったばかりで汗かいて……スーツが汚れます!!」

「何も、汚れているものなんてない。真剣に、夢を追ったあなたは美しい」

「ふえ……」

 

耳元でケッカに囁かれ、アルの頬が真っ赤に染まる。

こんなトレーナーの姿は知らない。初めて見る姿に混乱していた。

そして、ケッカが最後にもう一度囁く。

 

Sei il mio orgoglio(あなたは私の誇り)

 

最後の一言は、彼女の母国語だった。

アルはイタリア語をよく知らない。それでも、トレーナーの気持ちが籠もった言葉だった。

ケッカが離れ、アルの頬を軽く撫でる。

 

「……大丈夫ね?行ってきなさい」

「は、はい………」

 

踵を返し、ケッカが去っていく。

その背中を、アルは頬に手をやりただ眺めていた。

一言、口から言葉が溢れる。

 

「………お姉様………」

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

ケッカが、レース場の関係者用通路を一人で歩く。

彼女は、幼少期の経験によりあまり表情筋が働かない。

感情を表に出すのは苦手分野である。だから本当に伝えたい思いがある時はボディランゲージを使うことにしている。

 

(上手く慰められてよかった。アルは私を怖がっていたから、これで打ち解けてほしい)

 

ふんすと鼻息を一つ吹いて、小さくガッツポーズを決める。

やりすぎである。アルの女性観は破壊された。

 

(……課題は見つかった。次はアルを勝たせてあげたい。それと、観客席のあの子)

 

冷血なクールビューティと思われがちなケッカだが、その実トレーナーとしてレースへの情熱、ウマ娘への献身の思いは強い。

育ての親であり、愛する人の教えを彼女は守り続けている。

そのオヤジには唐突に放り出されたが。今も怒っている出来事である。

 

(あの目、まるで自分が走っているようだった。危うい子)

 

今日のレース、観客席にいた一人のウマ娘の少女がケッカには気がかりだった。

思い詰めたようにレースを観戦する、サイドテールの少女。

まるで、そのまま燃え尽きてしまいそうなレースへの情熱、そして破滅願望のような何かを孕んだ目。

声をかけたかったが、アルのメンタルケアを優先した間にいなくなっていた。

ケッカは一目でその才能も看破した。間違いなく、競走バの道へ進めばG1も穫れるほどの天性の持ち主だった。

どう探し出すか悩むケッカの前に、通路の角から一人の男が現れる。

 

「姉弟子、ようやりますなあ」

「……ウィルか」

 

糸目の銀髪の青年、弟弟子であるチーム・クレアヘイブン所属トレーナーであるウィル・ベックが、にこにこと笑いながらケッカに近づく。

このレースに彼の担当は出走していない。それでも、この姉弟子のレースはなるべく現地で見るようにしているのだ。何か少しでも彼女から得るために。

 

「あれあかんでしょ。アル君きっと壊れてもうたで?」

「……何?」

 

ケッカの眉がぴくりと動く。聞き捨てならない言葉だった。

自分の見立てではどこも故障していないはずだった。

勘違いである。

 

「どこも故障はしていないはず。私の見立ては間違いない」

「いや、わかってへんのかい!!あれあかんて姉弟子!!普段そんなんな姉弟子にいきなりハグされて優しくされたら壊れてまうから!!!」

「だからどこも壊れていない。お前は何を言っている?」

「だからちゃいますって!!壊れたのは心!!!」

「……………心、だと?」

 

ケッカがよろめき、珍しく打ちのめされたような表情を浮かべた。

自分は師の教えを守り、トレーナーとしても優秀だという自負がある。

しかし、体の故障は見通せても心まではわからない。

どうすればいい、と衝撃を受けていた。

原因は自分である。アルは粉々に壊れている。

 

「心まではわからない………アルにはもっと優しくしよう」

「いや、逆効果………もうええわ。好きにしたってや、姉弟子」

 

ツッコミに疲れたウィルが、辟易としながら匙を投げた。

天才トレーナーであるケッカであるが、その反面その生い立ちからか世間知らずで浮世離れした一面があった。

クレアヘイブン時代から、この漫才のような弟弟子との関係は変わっていない。

ふと、ケッカが思い出したように口を開く。

 

「そうだウィル、早くゴドルフィンに行け」

「会う度それやな姉弟子!!だから僕まだクレアヘイブン出る気ないっちゅうねん!!!!」

「私はジョエルの傍に居たい。ウィルはゴドルフィンのトレーナーになれる。ハリードは私が言い包める。何が不満?」

「いやそれはほんまに、ほんまにセンセが悪いと思うけど!僕まだ姉弟子みたくやるんは無理ですわ、いつかはやりたいと思っとるけど。あとハリードはんハゲてまうであんまり追い込むのやめたって」

 

チーム・ゴドルフィンのチーフトレーナーであるハリード・ビン・スラールは、このジョエル・ガスデンの最高傑作の加入に当初は手放しで喜んだ。実際に彼女の手腕で幾度も大レースで結果を出している。

しかし喜んだのは最初だけであった。彼女は顔を合わせる度に辞めてクレアヘイブンに戻ると言うのだ。

いつもそれをなだめすかし、管理してる子放り出すの?とまで言って引き止めるのは彼の役目である。要するに頭痛の種だった。

 

ケッカが、いつも首を縦に振らない弟弟子に痺れを切らし、その額に人差し指を当てた。

彼女はそのトレーナーとしての才能も去ることながら、その身体能力も驚異の一言である。

短距離ならウマ娘との併走まで可能である。人間の限界に近い数値を叩き出す、超人に片足を突っ込んだ存在なのだ。

指をそのまま、ウィルの額に捻り込む。

 

「お前の事情より、私の事情」

「あいだだだだーーーー!!?姉弟子なにすんねん!!絶対行かんからな!!あっでもホンマ痛い!!やめてや!!」

 

ウィルが抵抗するもびくともしないケッカが、ふと思い付いた事を口にする。

どうせこの弟弟子が首を縦に振ることはないだろう。だがその代わりに使い道を思い付いたのだ。

 

 

 

「……行かないなら、代わりに頼みたいことがある」

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

二ヶ月後。エプソムポニースクール、Bクラスの教室。

 

「このように、女神エクリプスはアメリカでの主教と呼ばれる程に規模を広げましたが、その出自は英国と言われており……」

 

ぎゅちっ、と教室に何かを握りしめる音が響く。

 

「エクリプス教の以前はヘロド教が広く信仰されていましたが、今はその規模を………」

 

ぎゅちっ、ともう一度教室に音が響く。

 

「ヘロド教は現在はフランスの一地方までその規模を……ファーちゃん!!!!やめなさい!!!」

 

痺れを切らせた教師が、音の発生源に怒声を投げる。

発生源──ファーと呼ばれたウマ娘は、その手に握ったハンドグリップをぎゅちっ、ともう一度握り締めた。

鹿毛のサイドテールに右耳に青いサファイアの耳飾り。そして強い意志が籠もり、爛々と輝く火が灯ったかのような目。

エプソムBクラスのエースを務める彼女は、悪びれもせずに教師の怒声に応える。

 

「先生、すまない、トレーニング中だ」

「今は!!!授業中でしょ!!やめなさい!!!」

「しかし、今日は1000回握る予定なんだ。脚が万全でないから、他の部分を鍛えておきたい」

「後に!!!!しなさい!!!没収します!!!……あっ空気椅子もしてるわね!?座りなさい!!!」

「すまない、今日はずっと空気椅子の予定だ、すまない」

「座れ!!!っての!!!あっ力強い!!びくともしないわね!!!!」

「先生、そのまま頼む。良い負荷だ」

「あああああ!!!!もおおおおおおお!!!!!」

 

ハンドグリップを没収しようと近付いた教師が、問題児が空気椅子を敢行していることにも気付いて座らせようとするも、微動だにしないファーに発狂した。いつものやりとりである。授業中にトレーニングを始める常習犯だった。

 

「せんせーあきらめなよー、ファーはやめないって」

「トレーニングのおばけだもんね、ファーちゃん。最初はドン引きしたけど……」

「すまないみんな、うるさくしてすまない。先生はそのまま頼む」

「もうやだああああ!!!校長来てええええ!!!!」

 

この問題児と先生との攻防は、隣のAクラスにも届いていた。

 

「おっ?またファーがやってんなー!!」

「……ファー、やりすぎ」

 

Aクラスの二大エースであるフランの従兄弟のナサと、その友人のゾフ。

ファーは、二人から見ても際立った才能と弛まぬ努力と根性を兼ね備えたウマ娘である。

ライバルとして認めているし、万全ならばこのエプソムでも一番速いかもしれない、と考えている程のウマ娘だった。

しかし、彼女にはどうしようもない欠点があった。

 

「また怪我が長引くわよ!!お願いだから言う通りにして!!」

「………ッ!わかった。すまない、先生」

「焦る気持ちはわかるわ、ファーちゃん。でも、自分のことをもっと労ってほしいの」

 

その競走能力に反して、彼女の脚は極端に脆い。

ガラスの脚だった。常に怪我が付き纏い、万全に走れる事はほぼない。

それでも強い競走へのこだわり、そして折れる事がない鋼の如きメンタルで彼女はここにいる。

競走バの夢のためなら、いつか脚が無くなってもいい。

この歳にして強い決意と覚悟を持っている、まるで燃え尽きるまで天を駆ける流れ星のようなウマ娘。

それが、ファーという少女だった。

そんなファーを、エプソムポニースクールの敷地外から双眼鏡で眺める一人の人物がいた。

彼女を弟弟子に少ない特徴から捜索させ、ここに辿り着いた一人のトレーナーである。

 

「見つけた」

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

授業が終わり、下校時間である。

ファーは今日は競走の授業を見学で過ごした。

走りたくて堪らないファーだったが、教師が参加を頑として認めなかったのだ。

友人達は既に帰宅し、先程ライバル二人にも励ましの言葉をかけられた。

ファーはポニースクールの近所に住んでおり、徒歩で通学する身である。

しかし、今日は何故かまだ帰りたくなかった。

怪我で練習できない事はよくある。それで焦ることや辛い気持ちはあったが、それはもう慣れていた。

何故かはわからない。だが帰るべきではないと思ったのだ。虫の知らせのような物を感じていた。

 

(……何故かはわからない、でも、胸の奥が強くざわめく)

 

教室で、一人で下校時間を過ごす。

胸に手を当て、そこから感じる何かを探る。

そんな時である。

何物かが、開いた窓から音を立てずにファーの前に飛びこんだ。

 

「失礼。忍び込むのに苦労した」

「……ッ!?あなたは……」

 

ファーが何者かを見やり、目を見開く。

競走バに憧れるファーは、レースをよく観戦している。先日は現地でレーシングポストトロフィーも観戦した。

万全な脚で思うがままに走る先輩達を羨ましく思い、食い入るようにレースを眺めた。

その地で見た、英国でも屈指の天才トレーナーが自分の目の前にいた。

 

「フランチェスカ・ディ・トーリだ……!!サインください」

「後で書こう。それよりも君、ドンカスターにいたわね?」

「二ヶ月前なら、レース見てました。それより、ここ二階ですが」

「飛んだ」

「すごい」

 

二人共天然気質な面があるため、ツッコミ不在のゆるい会話となっていた。

ファーと会うためにポニースクールへ侵入したケッカだったが、これは統括機構のトレーナーとして当然やってはいけない事である。

警察案件であると共に、アスコットの事件以来ポニースクール側はトレーナーと生徒の接触に神経質になっている。

もし発覚すれば大問題になるのは間違いない。理事長がまた辞めたくなる状況である。

そして、ケッカは更にやらかしていた。

胸元から、先程仕入れた書類を取り出す。

 

「君の事は調べさせてもらった。脚の怪我の具合は?」

 

Bクラスの教師が記したファーの生徒所感だった。忍び込んだついでにちょろまかしたのだ。

幼少期はアウトロー育ちで更には超人に片脚を突っ込んでいる彼女にとっては、潜入からの教師の机を漁るなど造作もないことだった。書類は後で戻すつもりでいる。

 

「あまり、良くないです……何故、私に?」

「燃え尽きるような目、思い詰めた覚悟」

「ッ!!」

「心当たりが、あるようね?」

 

ファーが、拳を握り締める。

目の前の天才トレーナーの目的はまだわからない。

しかし、訴えたくて仕方なかった。目の前の天才に、自分の覚悟と想いを。

 

「思い詰めては、いません」

「……そうは見えない。このまま続ければオーバーワークで君は壊れる」

「壊れても、いい」

「……続けなさい」

 

「それでも、私は走りたい。脚が無くなってもいい」

 

ファーが、ケッカを強く意思を込めて見つめる。

その目に、火が灯った。

 

(破滅願望……?いや、これは)

 

 

「私は、私であることを示したい。たとえ、燃え尽きたとしても──」

 

 

(強い憧れ………そう、そこまで走りたい……のか)

 

この強い意志、そして溢れる才能。

ケッカは逸材に出会ったと確信した。

しかし壊れさえしなければ、の注釈付きだった。

どれほどの覚悟があろうと、ファーの脚がガラスで出来ているのは変わらない。

それを克服する必要があった。

そして、ポニースクールの生徒への過度な干渉は現在は許されない行為である。

 

(……危ない橋を、渡る価値はある)

 

たった今、見出した才能をケッカは見捨てる気は毛頭なかった。

ならばやる事は一つである。

その優れた知能を、師より受け継いだ知識を、記憶を、全力で稼働させる。

 

(……恐らく、この子の脚は先天的な疾患。確かこの分野の専門家がいたはず。名は確か……アグネス……)

 

天才は、すぐに彼女を救う道を見出した。

行くべき場所を、思い付いたのだ。

 

「………走りたい?」

「走ります」

「そう……なら、やる事は一つ。短期免許の準備をするから、それまでは私の言う通りにするように」

「走れるなら、何でもやります」

 

 

 

「──日本へ、一緒に来なさい」

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

同時刻、フランス。

片田舎の小さな教会に、一人のウマ娘の少女がいた。

ここはかつては隆盛を極め、世界中で信仰されていたヘロド教の教会である。

現在はその厳しい戒律故に信仰をエクリプス教に取って代わられ、各地に寂れた教会と少ない信徒を残すのみだった。

今年12歳になる少女は、ヘロド教のシスター見習である。

遠目では金髪にも見える薄い鹿毛に、前髪の一房だけが黒いメッシュのロングヘアをヘロド教のヴェールで包んでいる。

そしてその目は閉ざされていた。もう、開くことはない。

かつては競走バを志し、フランスで野良レースに励み、将来有望なトレーナーに見出された才能に恵まれた少女だった。

しかし、その夢は破れた。彼女の受けた残酷な運命のいたずらによって。

一人でヘロド教の女神像に祈りを捧げる中、教会の扉が開いた。

 

「やあ、マイガール。元気にしてたか?」

「あら……シメオンさん」

 

陽気で飄々とした雰囲気の、黒髪をオールバックに固めた男が少女に声をかける。

彼はベルギー人だが、ここフランスでトレーナーリーディングに名を連ねる有名人である。

そして、少女を見出したトレーナーでもあった。

少女が来訪者に嬉しそうに近寄る。

 

「こんな遠くまで毎週来てくださらなくてもいいのに……ありがとう」

「マイガール、俺こっち、こっちだから」

 

しかし彼女が近寄った先は教会の柱であった。

眼鏡でも矯正できない、原因不明の極度の近視である彼女はよくこうやって目的地を間違える事があった。

そして、この目が原因で夢を諦め、静かに祈りを捧げる日々を送っている。

 

「マイガール、毎日こんな辛気臭いとこいちゃいけねぇよ?おいらと食事でもどうだい?」

「シメオンさん、神様にそんな事言っちゃいけません!」

「あー怒んなって。折角のかわいい顔が台無しだ。ほら、行こうぜ?」

「あ!もう……」

 

男が、少女の肩に手を回しながら、横目で女神像を見やる。

その目には、怒りが込められていた。

 

(原因不明の視力低下……神さんよぉ、ほんとにいるんならこんな良い子にご利益の一つでもよこせよ。聞こえてるんなら、な……)

 

男と少女が去り、教会に静寂が広がる。

男の心の中での悪態、それが届いた故か、女神像が涙を流した。

この世界には、ウマ娘には、まるで奇跡のような現象が起きることがあった。

 

 

それは、つまり神が──

 

 

 

 

 

 

 

 

『聞こえてる!ずっと!!ずっと見てたの!!私の……私の大切な愛し子』

『待っていて……私が必ず助けに行くわ』

『どんな手を、使ってでも──』




バタフライエフェクト:ファーが早い段階でケッカと出会う。ファーの能力アップ。

冒頭の子、最初ここで名前出していいか悩んだけど……休養期間伸ばせばええやんけ!!ということでよろしくやで。
ちょっと書き方変えて次回予告的な引きにしてみたやで。最後のベルギー人で二人が誰かわかっちゃうかもだけど……。
というわけで次回は神様回やで。
ここからタグ増やしますやで。
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